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第十一話 隔離世界

観測できないものは、排除される。


理解できないものは、隔離される。


それが、“外側のルール”。

 空間が、崩れた。


 音もなく。


 逃げ場もなく。


 “世界そのもの”が、切り替わる。


 ――落ちる。


 感覚だけが残る。


 次の瞬間。


 トシノリは、地面に立っていた。


 「……は?」


 息を整える。


 見渡す。


 そこは――


 “日常”だった。


 見慣れた街。




 見慣れた空。


 何も変わらない。


 だが。


 「……静かすぎる」


 人がいない。


 音もない。


 風さえ、止まっている。


 完全な“停止”。


 「ルル!」


 振り向く。


 いる。


 すぐ後ろに。


 だが。


 その表情は、険しかった。


 「やられたわね」


 小さく、言う。


 「ここは?」


 トシノリが問う。


 ルルは、ゆっくりと周囲を見る。


 そして。


 答えた。


 「隔離空間よ」


 沈黙。


 「……さっきのやつか」


 ルルは頷く。


 「ええ」


 一拍。


 「観測できないものを、切り離した」


 トシノリは、舌打ちする。


 「都合いいことしやがって」


 だが。


 すぐに違和感に気づく。


 「……なあ」


 空を見る。


 「これ、俺の世界だよな」


 ルルは、少しだけ考えてから答えた。


 「正確には、“再現された世界”」


 「再現?」


 「ええ」


 一歩、前に出る。


 道を見つめる。


 「あなたの記憶から作られている」


 トシノリの背筋が、冷える。


 「……気持ち悪いな」


 ルルは、静かに続ける。


 「ここでは、すべてが予測可能」


 一拍。


 「だから、観測できる」


 その言葉の意味が、ゆっくりと理解される。


 「……なるほどな」


 トシノリは、小さく笑った。


 「俺を“普通”に戻したいわけか」


 ルルは、わずかに目を見開く。


 「そう」


 その通りだった。


 “ズレ”を消す。


 予測できる存在にする。


 それが、この空間の目的。


 その時。


 遠くで、音がした。


 足音。


 ゆっくりと近づいてくる。


 トシノリは、目を細める。


 「……来たか」


 現れたのは――


 “自分”だった。


 トシノリが、二人。


 同じ顔。




 同じ姿。


 だが。


 何かが違う。


 「……なんだよこれ」


 もう一人のトシノリが、口を開く。


 「選べ」


 無機質な声。


 感情がない。


 ルルが、小さく呟く。


 「……予測モデル」


 トシノリが振り向く。


 「は?」


 「観測された“あなた”よ」


 一拍。


 「完全に予測できる、もう一人のあなた」


 その言葉が、突き刺さる。


 もう一人のトシノリが、続ける。


 「ここに残れば、すべてが保証される」


 「安全」




 「安定」




 「予測可能な未来」


 淡々と、言葉が並ぶ。


 「だが」


 一歩、近づく。


 「外に出れば、不確定」


 「危険」




 「排除対象」


 トシノリは、黙って聞いていた。


 そして。


 ゆっくりと口を開く。


 「……つまりさ」


 一拍。


 「普通に生きろってことか」


 もう一人の自分は、頷く。


 「それが最適解だ」


 沈黙。


 静かな世界。


 すべてが止まった空間。


 安全な未来。


 保証された人生。


 トシノリは、目を閉じた。


 考える。


 もしここに残れば――


 楽だ。


 怖くない。


 失敗もない。


 だが。


 「……つまんねえな」


 目を開く。


 その瞳は、はっきりしていた。


 「は?」


 もう一人の自分が、わずかに反応する。


 「そんなの、俺じゃねえ」


 一歩、前に出る。


 「全部決まってるとか、冗談じゃねえよ」


 ルルが、静かに微笑む。


 トシノリは、拳を握る。


 「俺はな」


 一拍。


 「間違えるから、俺なんだよ」


 その瞬間。


 世界に、ヒビが入る。


 ピシッ――


 空間が、割れる。


 もう一人のトシノリが、歪む。


 「……予測不能」


 その声が、崩れる。


 「……修正不可」


 完全に、崩壊する。


 トシノリは、ルルを見る。


 「行けるか?」


 ルルは、しっかりと頷いた。


 「ええ」


 その目に、確信が宿る。


 「出口が見えた」


 空間の裂け目が、広がる。


 外側へ。


 観測の外へ。


 トシノリは、迷わなかった。


 「行こうぜ」


 ルルが、手を差し出す。


 あの日と同じように。


 トシノリは、その手を取った。


 そして――


 踏み出す。

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