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第十話 観測者の意志

観測は、ただの記録ではない。


そこには、必ず“意志”がある。

 光が、点滅していた。


 規則的に。


 まるで、信号のように。


 「……これ」


 研究員の一人が、震える声で言う。


 「外部とリンクしている……?」


 誰も、否定できなかった。


 今までとは違う。


 これは――


 “反応”じゃない。


 “応答”だ。


 トシノリは、ゆっくりと天井を見上げた。


 「……来たな」


 小さく、呟く。


 ルルが、すぐに隣に立つ。


 「ええ」


 その目は、鋭かった。


 「気づかれた」


 空気が、張り詰める。


 その時。


 円盤が――


 音もなく、光を変えた。


 今までのような線ではない。


 もっと単純で。


 もっと明確な。


 “パターン”。


 「……なんだこれ」


 トシノリが呟く。


 ルルは、すぐに理解した。


 「通信よ」


 「通信?」


 「ええ」


 一拍。


 「向こうからの」


 沈黙。


 その言葉の意味が、ゆっくりと浸透する。


 “向こう”。


 それは。


 「……観測してるやつ、か」


 ルルは、静かに頷いた。


 「ええ」


 トシノリは、円盤を見る。


 逃げずに。


 まっすぐに。


 「……上等だ」


 一歩、前に出る。


 ルルが、わずかに目を見開く。


 「トシノリ?」


 「どうせ見てんだろ」


 手を伸ばす。


 「だったら、直接やろうぜ」


 そのまま――


 触れる。


 瞬間。


 世界が、歪んだ。


 光が、広がる。


 音が消える。


 感覚が、消えていく。


 そして。


 “空間が変わる”。


 「……ここは」


 トシノリが、ゆっくりと目を開ける。


 白でも、黒でもない。


 “何もない場所”。


 だが。


 確実に、“何かがいる”。


 ルルも、すぐに周囲を見渡した。


 「……接続された」


 小さく、呟く。


 その時。


 “それ”は現れた。


 形はない。


 だが、認識できる。


 “存在”。


 トシノリは、自然と理解した。


 「あんたか」


 沈黙。


 だが。


 次の瞬間。


 “声”が響く。


 直接、頭に。


 ――観測対象、確認。


 無機質。


 感情のない声。


 だが。


 完全に、意志があった。


 「……人をモノみたいに言うなよ」


 トシノリが睨む。


 “それ”は、反応しない。


 ただ、続ける。


 ――予測不能因子、特定。


 ――解析、開始。


 その瞬間。


 トシノリの体に、違和感が走る。


 「……っ」


 何かに、触れられている。


 中を。


 “見られている”。


 ルルが、すぐに前に出る。


 「やめなさい」


 その声は、強かった。


 “それ”が、初めて反応する。


 ――補助個体、確認。


 ルルの表情が、わずかに変わる。


 だが、引かない。


 「これは観測じゃない」


 一歩、踏み出す。


 「干渉よ」


 一瞬。


 沈黙。


 そして。


 “それ”が答える。


 ――必要な処理である。


 トシノリが、歯を食いしばる。


 「ふざけんな……!」


 拳を握る。


 「勝手に決めるなよ!」


 その瞬間。


 空間が、わずかに揺れる。


 “それ”が、止まる。


 初めて。


 完全に。


 ――反応不能。


 その言葉が、響く。


 ルルの目が、大きく見開かれる。


 「……今の」


 トシノリも、理解していなかった。


 だが。


 確かに。


 “通じなかった”。


 観測に。


 「……効かねえんだな」


 小さく、呟く。


 “それ”が、再び動く。


 だが、わずかに遅れている。


 ――再評価。


 ――危険因子、認定。


 空気が、変わる。


 ルルが、静かに言った。


 「まずいわね」


 トシノリが、横を見る。


 「何がだよ」


 ルルは、はっきりと言った。


 「敵になった」


 沈黙。


 その言葉が、重く落ちる。


 “それ”が、最後に告げる。


 ――観測対象、隔離対象へ変更。


 その瞬間。


 空間が、大きく歪む。


 トシノリは、直感した。


 「……来るぞ」

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