第148話・神様からの依頼(青椒肉絲丼と搾菜、あいがけの麻婆豆腐)
とある日の昼。
俺はランチタイムの時間にやって来た聖光教会の使いの方から、ランチタイムが終わってからで構わないので食事を届けて欲しいという言付けを受け取った。
幸いなことに本日のランチは手軽に麻婆豆腐丼と青椒肉絲丼の二種類。
どちらも大量に作り置きしてあったので、それほど手間は掛かっていない。
麻婆豆腐の仕込みについては以前も説明してある為割愛。
という事で、青椒肉絲の作り方を、マリアンにも簡単にレクチャーする。
「まず、使う材料はピーマンと牛肉、タケノコの三種類。それぞれを細切りにして炒めたものが青椒肉絲という。ちなみに青椒はピーマンなどの緑色の野菜で、基本的には辛くないものを指している。そして肉絲の部分は肉の切り方を意味していてね、肉を糸のように細く切るから肉絲。これを薄く削ぎ切りにすると肉片っていうんだ」
そう真横でじっと話を聞いているマリアンに説明。
しっかりと真剣にメモを取っているので、今後の成長が楽しみである。
ちなみにシャットはクーラーボックスに飲み物を入れている真っ最中。
さて、まずはピーマンとタケノコと牛肉の細切りを準備。
ピーマンは縦二つに割った後、真ん中の種を取り除いて縦に細切り。
タケノコは今回は水煮を使用、最近は業務用のタケノコ水煮缶をもっぱら使用しているが、春ぐらいにタケノコが出回る時期には、ちょいと八百屋に無理をいって生のタケノコを手に入れて貰っている。
タケノコもピーマンと同じように細切りにするのだが、この時、大きさを合わせるように切っておく。
長さや太さにばらつきがあると、食べた時の食感がおかしく感じるのでね。
「ふむふむ。長さはすべて均一に……」
「そ。青椒肉絲は最初の下ごしらえが大切で、それさえしっかりしていれば、あとは高火力で一気に炒めて合わせるだけだからな。という事で、肉の切り方だが」
使うのは牛肩肉、これは好みでロースでもバラでもいい。
俺は食感が少し残る程度の肉を使いたいので牛肩ロースを使用、これも厚さ、長さをピーマンに合わせて切り付けておく。
「そして、牛肉には下味をつける。ボウルの中に細切りにした牛肉と酒、しょうゆ・卵白を少々加え、丁寧に揉み込んでおくといい」
この時の揉み加減はさっと、全体になじむ程度で。
これを専門用語では漿と言ってね、素材に下味をつけつつ旨味を逃がさないっていうこと。俺は専門学校でこれを学んでいたので、やや自己流ではあるものの基礎としてしっかりと身に付けている。
「ここまでが下準備で、ここからは本番のためにたれを合わせておく」
「たれ、ですか?」
「ああ」
酒と砂糖、醤油を大体1:1:0.7ぐらいで小さいボウルに合わせておく。
さらにオイスターソース3を入れて軽くかき混ぜたのち、ほんの少量だけ鶏ガラスープを加えておく。
これで合わせ調味料の完成、これも碗献と言ってね、中華料理の基礎の一つ。
ちなみに俺は鶏ガラスープではなくかつおだし、それも二番だしを少しだけ加えている。
中華料理だけれど、ほんの少しだけ和食風にしたいというただのわがままなんだがね。
「さて、それじゃあここからが本番だ。まずは牛肉の入っているボウルに片栗粉を加えて……」
牛肉の入っているボウルに片栗粉を入れて軽く混ぜ、肉をほぐしておく。
これを炒める量より少し油を多めにいれた中華鍋を熱したのち、ほぐしながら加えていく。
――ジャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
肉を手早く炒め火が通って来たらすぐにピーマンとタケノコを加えて、一緒に火を通しておく。
そしてザーレンという穴あきの中華鍋のような道具に肉とタケノコ、ピーマンを入れて油を切ったのち、中華鍋に油を引き直しおろしニンニクとおろしショウガを加えてさっと鍋を振ったのち、ザーレンに入れてある具材をまとめて中華鍋に戻す。
ここからは高火力、さっと混ぜ合わせたのち最後に合わせ調味料を一気に加えて鍋を振りよく混ぜたら完成。
火力が低いと調味料が程よく混ざらない事があるので注意、風味も出ないからな。
「ということで、これで完成。これを熱々ご飯の上に掛けるだけで出来上がり……と、そうそう、付け合わせにはこいつをつけるので忘れないようにな」
本日の付け合わせは搾菜。
あらかじめ塩漬け搾菜を塩抜きしておいたものを薄くスライスして添える。
ちなみにうちのは丸ごと塩ベースの調味料に漬けこまれているのを軽く水洗いしたのち、水に浸けて塩を抜いたものをスライス。この時、まだ塩っ辛かったら再度水に晒してちょうどいい塩梅に合わせておく。
「ということで、今日の賄いは青椒肉絲丼だな」
「ユウヤぁ、あたしの分は麻婆豆腐を半分掛けて欲しいにゃ」
「ほう、あいがけ丼か、なかなか通だな」
「つう?」
ああ、一つのどんぶりや器に二種類の料理を掛けるものをあいがけといってね。
たとえばカレーライスとハヤシライスを半々にご飯にかけてあったり、今日のように麻婆豆腐と青椒肉絲を半々に乗せることもあいがけっていう。
そう説明すると、マリアンもおずおずとどんぶりを差し出し、麻婆豆腐を掛けて欲しいときた。
ま、マリアンといえば麻婆豆腐だから、少し多めに掛けてやったよ。
という事で賄いを食べた後は、ユウヤの酒場の開店。
予め仕込んでおいた青椒肉絲と麻婆豆腐はそれぞれ金属製の深バットに入れて湯煎、注文に応じてご飯の上に掛けて差し出すっていう感じだな。
そして大方の予想通り、殆どの客があいがけ希望。
久しぶりに顔を出したアベルとミーシャに至っては、搾菜の大盛を頼んでくるという。
それにしても、二人と会うのもほんと久しぶりだな。
北方の地で色々とあったらしく、アードベック辺境伯が近日中に王都に来るとか。
ま、その時はまた越境庵でも開く事にするかと独りごちた後、俺は聖光教会へと向かう。
マリアンとシャットは店の掃除のあとで冒険者組合に顔を出すとかで、今日は俺一人で教会へ。
………
……
…
――第三城塞・聖光教会
「おお、これはユウヤ伯爵、ご足労頂きありがとうございます」
俺が聖光教会へと顔を出したとき、すぐにローモンド・スチル大司教が俺を出迎えてくれる。
まあ、今日の俺の仕事は『出前』であり、神様達が久しぶりに俺の料理を食べたいと神託を降ろしたらしく、昼に俺のところに連絡が来たっていう事。
特に料理の指定はなかったので、作り置きしてあったいくつかの料理と新メニューの青椒肉絲丼も用意してきたのだが、本当にこれでいいのかねぇ。
神様に捧げる供物となると、あらかじめそれ用に用意しておかないとならないような気がするのだが。作り置きで構わないって、どういう神託なのやら。
「いえ、神様方が食べたいというのでしたら、こちらとしても喜んで用意しますよ。それで、どこに置けばいいですか?」
「それなのだが。実は、聖域に持ってくるようにと伝えられてね。それも、ユウヤ店長一人で」
「え? 俺一人で持って来いと? まあ、それは問題ありませんが……聖域ですか」
「ああ、それでは向かうとしますか」
ということで、大司教に連れられて俺は教会奥にある部屋へと案内される。
そこから聖域へと繋がる扉をくぐると、以前も来た半円状の巨大なドーム状の大ホールへとたどり着いた。以前と同じく、ホール中央にある神殿へと近寄っていくと、既に神々がそこに集まっているじゃないか。
といっても、今日は4人の神様だけ。
「あら、随分と早かったのですね」
「もう少しゆっくりでも構わなかったのですよ? でも、お疲れさまでした」
ジ・マクアレン様とヘーゼル・ウッド様が、優しい声を掛けてくれる。
そしてその正面では、魔導女神ベルフィクションと、見たことのない女神が一人。
「おお、ユウヤどの、久しぶりではないか。妾の事は覚えているかや?」
「はい。魔導女神ベルフィクション様もお変わりなく」
「うむうむ。実は、たまにで構わぬから越境庵に行ってみたいのじゃが、よいか?」
「はは、それは構いませんよ。他の神様たちも変装して顔を出していますので」
「なぬ?」
おっと、このことはベルフィクション様は知らなかったのか。
ジ・マクアレン様とヘーゼル・ウッド様が慌てて顔を背けているという事は、そういうことなのだろう。
「ははは。ベルフィクション様の御柱を神棚に置いていただければ、いつでも大丈夫です。と、それでは、出前の品をどこに並べましょうか?」
「それは、こちらのテーブルにお願いします」
「かしこまりました……と、四人前でよろしいのですね?」
「ええ、出来れば3品ずつ。私は牛トロフレーク丼というものをお願いします」
なるほど、ジ・マクアレンは目の付け所がいい。
ということで、牛トロフレーク丼を始めとした料理を並べていくと、最後に残っていた女神がおずおずと料理の並べられているテーブルへと近寄っていく。
「あ、あの……ジ・マクアレン様、これは私でも食べられるのでしょうか?」
「そうね。今は食べられるわ。ここは聖域であり、この料理にも私たちの祝福が与えられています。今は、何も気にせず食べる事。そうしなければ、あなたは衰弱して死んでしまいますから」
「はい、ありがとうございます」
そうジ・マクアレン様と小さな女神様が話をしたのち、ようやく食事会が始まった。
もっとも、食事会というよりもちっちゃな女神さまが色々と食べているのを眺めているだけっていう感じでね。
この女神さま、何かの功績をあげたのでその報酬として俺の料理を食べさせてもらっているっていう感じだよなぁ。
「グスッ……美味しいです。食べ物の味をすっかり忘れていました、とっても美味しいです」
「そうね。今日はしっかりと食べなさい。そして今は体力を取り戻すこと。貴方の体については、私達も調査を続けていますから」
「だから、今はしっかりと食べること、そして希望を捨てないこと。いいわね、リトルミル」
「そうじゃ。今はしっかりと食べるのじゃ。肉体に魂が戻ると、また食べ物を受け付けなくなるからな。じゃから、少しでも魂に元気を与えるのじゃ」
「はいっ……」
うん、このリトルミルというちっちゃな女神さま、何か事情があるようだな。
それじゃあ、せっかくなので食後のデザートでも用意しておきますかねぇ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




