天衣偶像
「【天衣偶像】」
カッッッ!!!と雷果の身体が眩い光に包まれる。直後私服は粒子となって宙へ溶け、代わりに黄色を基調としたドレスが身体を包み込んでいく。
「何…いきなりフリフリのドレスなんか着ちゃって。ダンスでもするのかな」
澪は冗談っぽく言うが自分の声が震えていることに気づく。
目の前の雷果のオーラが人ではない何かと紛う程に異質かつ圧迫感を感じさせたからだ。
エリノアも額に汗を滲ませながら雷果から目線を外さない。
「天衣偶像…アイドルの『先』の領域ですわね」
「エリノアはあれを知ってるの?」
「……えぇ、母から聞いたことがあります。天衣偶像を会得したアイドルは通常のスキルとは比べ物にならぬ力を有すると」
「その通りだよ」
「「!?」」
トン、とエリノアと澪の肩を後ろから叩くものがいた。
勢いよく振り向いた2人。
そこには今まさに相対していた雷果が立っていた。
「この状態は周りが遅く見えすぎてイライラするんだよね」
「嘘でしょう…」
エリノアが絶句する。
澪も口には出さないが同じ気持ちだろう。
今までの雷果の動きはかろうじてではあるが澪の目にも見えてきていた。
だからこそエリノアとのタッグであれば雷果相手にも十分勝算があると踏んだのだ。
だが【天衣偶像】を発動させた雷果は先程とは別次元の「怪物」に成り代わっていた。
「(おいおいおい。マジで全く見えなかったよ!?点と点の移動としか思えない速度じゃん!!)」
「【ヴォルテックス・ディバイン】!!!」
エリノアは圧倒的差があるこの状況でも動いた。
雷龍の尾を雷果に向けて振るったのだ。
「潰れなさい!!!」
だが、尾が雷果に接触するまで1cmという距離で空振りをした。
「!?」
「遅すぎるよ」
また雷果の声が二人の後ろから響く。
二人に一切悟られることなく元にいた場所に立っていたのだ。
雷果は2人を見ることもなく空を見上げている。
澪は雷果に一気に距離を詰めると得意の右ストレートを放った。
「〜〜ッッッ!?」
攻撃していたはずの澪が、ガクガクと体を震わせながら地面に尻もちをつく。
「(脳を揺らされた。カウンターか!!けど打撃が見えなかった……!)」
入れ替わるようにエリノアが雷龍を雷果に突進させる。
雷果はそれを真正面から迎え撃つ。
「そのまま食べてしまいなさい!!」
「はぁっっ!!!」
雷果は雷龍の下に潜り込み、その腹を上空に蹴り飛ばした。
宙を舞う雷龍。
ダッ!!!
雷果はいつの間にか校舎の屋上のフェンスに立っていた。
そのまま雷龍へとジャンプして近づくと、拳に黒い稲妻を帯電させてぶん殴った。
雷龍はピンボールのように吹っ飛び校舎に激突後、霧散した。
「そ、んな……」
必殺の技がこうもあっけなく倒されたことに絶望し立ち尽くすエリノア。
「たった2人でこの学園を攻めてくるのは歴史上初じゃないかな」
地面に華麗に着地した雷果は二人に称賛を送る。
「けど、二人合わせても私一人に勝てない。アイドル協会でも東條学園を敵に回したくない理由が分かったかな」
「東條学園が最近威勢が良いのはS級アイドルを何人も抱えているからという訳ですか」
「それだけじゃない。墨染っていう性格の悪い先輩がいるんだけどフィーリアの他にも2人S級クラスの化け物を飼ってる」
「……!?」
雷果からの不意の情報に驚愕するエリノア。
フィーリアが東條学園にいることを知らなかった協会だ。
今の情報も入っていない可能性が高い。
「(撤退するべきですわね。今の情報も含めて協会に報告するべきです)」
ジリ…とエリノアが後ずさるのを見て雷果は笑う。
「あはは!このスピードから逃げられると思う?」
「だよねぇ。私が時間稼ぐからエリノアだけでも撤退できる?」
「澪さん!?」
「S級一人だけでもぶちのめせたら良かったけど考えが甘かったみたいだね」
「しかしこの学園には結界が張られてて出れませんわよ」
「さっき暴れ回ったときに一カ所ぶち壊したからそこから出て。丁度私達の真後ろ100m先にある」
「そんな……」
しかし会話している暇は無い。
澪の体が突然宙に浮いたからだ。
エリノアがそれに気づいた時には空から血飛沫が舞っていた。
「〜〜がっっ!!」
雷果が目にも見えぬ速さで澪を蹴り上げたからだ。
澪は地面に落ちることなく空中を舞いながら何度も雷果の打撃を喰らっている。
「澪さんッッッ!!!」
バチィッ!!!!!
意識が朦朧とする澪。
上空15mのところで雷果が先ほど雷龍を葬った黒い雷を右手に宿していた。
「トドメ」
雷果は冷酷に呟き、澪に向かってストレートを放とうとした。
「ッ!!?」
だがその拳は澪に届くことはなかった。
雷果が急に拳を引っ込めて回避行動を取ったからだ。
「な、何が……」
困惑するエリノア。
直後轟音とともに雷果が先ほどまでいた位置に斬撃が襲いかかる。
ガゴォォォォォォォン!!!!!!!!
その一撃は凄まじく校舎までも半壊させてしまった。
風圧で澪が舞い、エリノアの近くまで吹き飛ばされる。
「っっ!!」
エリノアはなんとか澪をキャッチした。
「う…」
「澪さん、無事ですか!?」
「無事じゃないけど話すくらいならできるよ。それより何が…」
「嫌な奴が来た」
雷果は斬撃の飛んできた方向を睨む。
エリノアと澪もそちらを見る。
その女は右手に日本刀を握り和服を着ていた。身長は170センチ程だろうか。
動きやすくするためか和風のスカートを履いており、歩くたびに下駄がカツカツと音を鳴らす。
澪はその人物を知っていた。
「あんた協会の……!」
「おや、あの時のお子様ですか」
「澪さんお知り合いですか?」
「前協会で会ったことがある。血の匂いのした女…」
バチバチバチ!!
雷果は両手に黒い雷を纏わせながら質問した。
「確か紫月とかって名前の女だよね。何しに来たの?」
「近隣住民の通報ですよ。学校内で雷の音が鳴り響き続けているんだから当然ですね」
「……何しに来たかに答えられていない」
「注意がてらS級アイドルに喧嘩でも売ろうかと」
「っ!?」
エリノアは紫月の言動に信じられないといった様子だ。
協会の人間が喧嘩を売りに学園内まで侵入してきたとでもいうのか?
エリノアの知る「大人」の像からは紫月は逸脱していた。
瞬間、雷果の姿が消えていた。
その後、ガァァァァァン!!!!!と重機同士がぶつかったかのような音が校庭に響く。
雷果の右ストレートを紫月が日本刀の腹で受け止めていたからだ。
「……!!」
澪はその光景に目を見開く。
自分たちでは全く見えなかった雷果のスピードに、初見で反応できた事に。
「(流石に1thアイドルだ。私のスピードに反応はできるか)」
「あなた達」
「「!!」」
紫月は雷果の拳を受け止めながら二人に話しかける。
「動けるならさっさと学園から出てください。外に救護班もいますから」
「ふん!!!」
雷果は再びその場から移動して紫月の背後に回り込む。
そのまま高速のミドルキックを放った。
紫月は反射的に半身になり雷果から繰り出されるであろう攻撃に備えた…がガードが間に合わず脇腹に一撃を受ける。
「ッッッ!!!」
少し苦悶の表情を浮かべる
雷果は畳み掛けるように紫月に距離を詰めようとしたが…。
ザク!と雷果の肩に短刀が突き刺さっていた。
痛みで一瞬怯む雷果。
その隙を逃さず紫月は日本刀の袈裟斬りを振った。
「ちっ…」
雷果は舌打ちしながら後方へ下がるが、刀身の長い刀からは逃れられなかった。
雷果の左肩から腹にかけて斬撃が襲う。
「ッッッ!!!」
苦悶の表情を浮かべる雷果。
傷は浅いが、傷口からは血飛沫が舞った。
雷果は紫月から距離を取り、ファイティングポーズをとる。
「痛いなぁ…」
「次は内臓の一つでも潰しましょうか」
刀を構えながら笑顔で応える紫月。
雷果はステップを踏みながら次の動きを考えている。
「……」
澪はその戦闘を食い入るように見ていた。
だがエリノアが澪を担ぎ上げた事でその時間は終了した。
「エリノア……」
「お気持ちは分かりますが今のうちに引きますわよ。もっと強くなって…今度は負けないようにしましょう」
「……うん!」
エリノアは自らのスキル【プラズマ・ブリッツ】を使い高速で学園を去った。
直後に後方で轟音が鳴り響いたが二人は振り返らなかった。




