澪対雷果
「がはっ!!!」
澪の体が宙を舞う。
雷を纏い、音速を遥かに超えたスピードで打撃を繰り出す雷果になされるがままだった。
前回の様に油断しない雷果は澪との力の差を思い知らせようとしていた。
「ギブアップかな?澪ちゃぁぁぁぁん!!!!!」
雷果は楽しそうに澪をいたぶる。
依然、澪は雷果の姿を捉えることはできない。
「(今回は本気できてるね…。前戦った時は雷果の油断もあったけど今回はそれが無い。けど私の攻撃が効かないわけじゃ無い、当たれば戦況をひっくり返せるはず!)」
澪は全神経を集中させて雷果を視線で追おうとする。
もはや瞬間移動に近いスピードで動く彼女を目で捉えることは不可能だった。
「速すぎでしょ……!!」
分かっていたとはいえサファイアを思わせるスピードを披露され、珍しく一人で愚痴る。
そうこうしているうちにも雷果の攻撃が澪を襲う。
ドッ!!!と鈍い音が鳴り、雷を纏ったパンチが澪の腹に減り込んだ。
「がはっ!!」
数メートル体が浮く澪。
再び迫る雷果に相手を見ずに感覚だけでストレートパンチを放つ。
「おらっ!!!」
「っ!!」
勘で放ったパンチだが雷果の頬を掠めた。
ピッ!と頬に切り傷ができて流血していた。
一瞬で澪から距離を取る雷果。
「なんだ、一発掠っただけで距離取るなんて、そんなに私の拳が怖い?」
澪は口や鼻から血を垂れ流しつつ雷果を煽る。
「あなたの実力はA級相当。しかも私に傷つけた人間相手に油断する気はない」
「へぇ、随分と私を買ってくれてるん…だっ!!」
澪は地面を思い切り踏みつける。
一般人がやれば地団駄。彼女がすれば地響きになる。
一瞬だけ周囲が揺れた。
雷果が足がもつれる。
「らぁっ!!!」
全力で雷果にタックルで組み付いた。
雷果は澪に押し倒される。
しかし雷を纏う彼女には少し悪手だったようだ。
「【雷天】」
雷果の体から天空まで届きそうな雷の柱が放出された。
電圧にして一億ボルト。落雷の電圧とほぼ同等だ。
人間は42ボルト以上の電圧で死に至ると言われているが澪はアイドルかつ彼女自身の恵まれた肉体、それにスキルが合わさることによりギリギリ耐えることができた。
雷果に馬乗りになりながら右腕を大きく振りかぶる澪。
「らぁぁぁぁ!!!!」
「ちっ……!」
雷果は舌打ちをして両腕でガードする。
そのままゼロ距離で雷の矢を澪の腹に発射した。
「がはっ!!」
血を吐きながら上空に吹っ飛ばされる澪。
追撃のために校舎の壁を足場にして飛び上がり、拳に雷を纏わせて空中を浮遊する澪に向かっていく。
絶体絶命の状態。
しかし澪はそれを読んでいた。
「はっっ!!!!」
澪は雷果の事が見えていたわけではない。なんとなく右から気配を感じただけだ。
完全に勘。しかし澪は当て勘に優れていた。
痛みに耐えながらも全力で右へ拳を振る。
ボゴォォ!!!と嫌な音が響き澪の拳が雷果の顔面に直撃した。
ガァァァァン!!!
雷果が校舎に目にも見えぬ速度で吹き飛ばされた。
「っし…!!!」
地面に降りた澪が軽くガッツポーズを取る。
「少し…ほんの少しだけどあいつのスピードに慣れてきた気がする。相変わらず見えないけどね」
「【雷撃弓矢】」
「がはっ!!!!」
ビリビリビリ!!!と澪の体が感電する。
雷果が飛ばされた場所から雷の弓矢が飛んできて澪の腹に当たり10m以上飛ばされてしまった。
「(か、体に力が入らない……!確かアキバで水面さんに撃ったやつか!!)」
起き上がりファイティングポーズを取る澪だが体の痺れで動けない。
そこに追い打ちするように【雷撃弓矢】が心臓部に直撃した。
「かはッッッ!?」
再び宙を舞う澪。
なんとか立ち上がったが全身が痙攣しておりまともに戦闘できる状態ではなかった。
「が…くそ……!」
「ふぅ〜…詰みかな」
ザッザッ、と雷果は澪に近づいていく。
バチバチバチ!!!と彼女の手からは【雷撃弓矢】が出現した。とどめを刺す気だ。
「やっぱり私以下だったね。このまま葬ってあげる」
「ちっ…」
「さようなら」
バッ、と雷果の手から【雷撃弓矢】が放たれた。
だがその一撃はエリノアの【ヴォルテックス・ディバイン】に阻まれた。
「!?」
驚きで目を丸くする雷果。
エリノアは澪の横に着地して雷龍を盾にする。
「ご無事ですか澪さん」
「エリノア…助かったよ」
「津島エリノアか。昔行った名家のアイドルの集いに津島家の女の子が参加していたな」
雷果は雷龍を前にも臆することなく淡々と雑談を始める。
エリノアは素っ気なくそれに返した。
「あぁそうですか」
「あなたはあの時見た子より強くなさそうだけど」
「……雷果さんは他人を煽る癖があるようですわね」
「ふふふ。雷対雷…試してみる?」
雷果は両手で雷を起こした。
エリノアは澪に視線を移す。
「澪さん、まだ戦えますか?」
「お陰様で痺れは引いてきたよ」
「ではご提案が。私の【ヴォルテックス・ディバイン】は本日3度目の顕現です。今の子を倒されたら後がない」
「…趣味じゃないけど仕方ないよね」
ザッザッ、と澪が雷龍の前に歩みを進めた。
「2人でコイツを倒そう」
「はい、お供します」
パチパチパチ
雷果はわざとらしく拍手をする。
今にも吹き出しそうな表情で2人を煽る。
「うんうん、弱者には弱者なりの戦い方があるよね」
澪は雷果の煽りを無視し、ずっと聞きたかった疑問を口にした。
「私達の友達がフィーリアに殺されかけた」
「!!」
フィーリアという名前を聞くと雷果の表情が少し険しくなった。
澪は続ける。
「そして最近できた友達は多分、死んじゃった」
「澪さん…」
「その死に東條学園が関わってる。私は昔から考えるより行動派でね…友達がやられたんだからぶん殴りに行くしかないでしょう?」
「フィーリアがムカつくのは分かるけど私に怒りをぶつけられてもな」
「へー。仲間じゃないの?」
雷果は腕を組んで明らかに不機嫌そうな顔をした。
「殺せるならとっくに私が殺してる」
「ふーん?…だとしてもあなたは東條学園のS級アイドル。倒しておくことで理不尽な暴力に遭う犠牲者は減らせるよね」
「……」
雷果は先ほどとは違う真剣な目で澪を見ている。
無言で睨み合うこと5秒間。
雷果が口を開いた。
「なるほど、覚悟を持って挑んできてたわけだ。てっきり前の続きがしたいとばかり思ってたよ」
「いずれ続きはしようとは思ってたよ。こんなに早いとは思わなかったけどね」
「じゃあその想いを本気でひねり潰してあげるのが礼儀ってもんだ」
「!!?」
言葉と同時に雷果の「雰囲気」が一気に変わる。
その変化に一番早く気づいたのか澪だ。
理由は一度秋葉原で雷果と手合わせをしているから。
その体内からは先ほどとは比べ物にならないオーラが溢れ出していた。
二人は最大限の警戒を行う。
雷果は右手を前に出しながらひと言呟く。
「【天衣偶像】」




