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64話 女将さん、お家に帰る

 

 チャプチャプと水の音がする。

 濁流に呑まれて初めて私は自分が泳げないカナヅチだったことを思い出した。

 異世界に来てから水の中に入るという経験をしてこなかったので気付かなかったのだ。

 海にはいかないし、お風呂も浸かるだけで泳ぐなんてマナーの悪いことはしない。

 そんなことをするのは水泳が得意な■■■■だけ。

 カナヅチに気付いた川遊びの時も足を滑らせて水深の深いところで溺れていた私を■■■■は助けくれた。

 いつも近くにいた私にとって世界で一番大切な■■■■。

 ねぇ、いつになったらあなたに会えるの?

 私はいい子にしてるよ。ちゃんと我慢しながら待ってるよ。

 だから、私を一人にしないでよ……。


 ◆


「ミサキ!」


 名前を呼ばれて私は目を覚ました。

 夢を見ていた? いいや、どちらかといえば走馬灯の方が近い。


「けほっけほっ」


 自分が生きていることを自覚した途端に胸が苦しくなって口から水を吐き出した。

 かなりの量を飲んでいたらしくお腹がチャプチャプしている。


「とりあえずは大丈夫そうだな。良かった……」


 安堵のため息をほっと吐いたのは人間態に戻っているリュウさんだ。

 私と同じようで全身がずぶ濡れになっている。


「私達はどうなって……というかここは?」


 意識がはっきりしてくると色々なことを思い出して状況を把握したくなる。

 ダンジョンから脱出するためにリュウさんが開けた穴に飛び込んだが、途中で膨大な量の水が流れてきて気絶した。

 しかし、私の視界に映るのは見慣れた竜聖の宿ミサキの建物だ。

 住んでいる場所だからよくわかる。ここは裏庭の畑の端のあたりだ。


「ミサキさん! 無事かい!?」


 ずぶ濡れな姿でララさんと仲間達が駆け寄ってくる。

 宿からはシリウスとルーナちゃん、そしてマリオさんがタオルと救急箱を持って走ってくる姿が見えた。


「高そうな杖はこっちで回収しといたけど、まさかこんなことになるなんて予想外だよ」


 言われて初めて聖杖が手元にないことに気づいて焦る。

 しかし、拾ってもらえているなら怒られたり弁償しなくて済む。そう思うと安心した。


「アレ、どうしようかね」


 安心したついでにララさんが私の背後を見ていることに気づいた。

 ついでにリュウさんや集まったみんなもそちらに気を取られている。

 気を失っている時も聞こえた水の音が今だにしているのはおかしいと思い、私は振り返った。

 そこには美しい虹と、勢いよく地面から噴き出す水の柱があった。


『ミサキ様、風邪をひいてしまいますよ』


 真っ先にタオルを渡してくれたマリオさんに私はひと言口にした。


「多分、大丈夫です。だって湯気が出てるんですから」


 ◆


 開拓村付近の森で発生した異変はダンジョンの攻略と共に解決した。

 全てがすぐに元通りになるとは言えないけれど、ゆっくりと確実に土地に元気は戻ると思う。

 それまでの間は私とリュウさんが協力して魔力を与えることでドライアドさんとの契約に合意した。

 なんでも彼女、土の中で休んでいる間に裏庭の畑がすっかりお気に入りになったらしく住まわせてくれと頼み込んで来た。

 また襲われるかもしれないし断ろうとしたら土下座のまま足元に擦り寄ってきて靴を舐めますと言ってきたので怖くて私が折れました。


「ありがとうございますぅ!!」


 まぁ、畑の手入れや管理をしつつ村の様子も地下の根を通じて危険がないか監視してくれるとのことなので私以外にはお得しかない。

 でも、魔力を吸われる生贄が一人だと嫌だからリュウさんを巻き込みました。

 他にもドライアドさんは本体である木になる栄養満点な実を定期的にプレゼントしてくれることになり、リュウとフェイトさんの二人がかりで宿の裏庭に移植を済ませた。


「なぁ、魔王よ。この木……」

「荒廃した土地が百数十年で豊かな森になるわけだよね〜」


 汗だくになった二人が何やら内緒話をしていたけれど、精霊であるドライアドさんは気にする様子もなく契約書にサインして正式なうちの従業員になりました。


「ドライアド改めてましてイアと申しますぅ! よろしくお願いしますぅ!」

「よろしくね。イアさん」


 こうして新しい仲間が増えて賑やかになった竜聖の宿ミサキですが、大きな問題が一つ残っていました。

 それはダンジョンから脱出する時にリュウさんが開けた穴から湧き出る温泉の処理です。

 棚からぼた餅……と言いたいが、ダンジョン内ではお宝の一つも手に入らなかったので攻略した報酬として活用させてもらうことにした。

 うちの宿だけで使うのも勿体無いので村の方にも土管を通して流れるようにドワーフの職人達に依頼し、村の開拓最後となる大仕事は宿と村の両方に浴場を作ることになった。


「ほら、さっさと魔法で地面を固めろ! 我が運ぶ木材が置けぬではないか」

「なんだかボクに対する扱いが酷くないかい?」

「それは貴様が肝心な時にいなかったからだろう。ダンジョンへの侵入もリッチーとの戦闘も貴様がいればもっと楽だったはずだ」

「その件については外せない用事があったからごめんって謝ったよね。せめてもの償いに情報は提供してダンジョンを見つける手伝いはしたよ? 今だって忙しい中手伝いに来てるんだからさぁ」

「つべこべ言わずにさっさと働け! まったく、我はさっさと完成した温泉の湯船で一杯やりたいというのに……」

「それが一番の目的かぁ!」


 魔王と竜王コンビの大活躍もあって雪が積もる前に村の開拓は完了するのでした。


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