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59話 女将さん、諦めたくない

 

「今戻ったぞ!」


 バサバサと翼が羽ばたく音が聞こえたので私は宿の外に飛び出した。

 宿の裏庭には巨大な銀色のドラゴンが降り立っていた。


「お帰りなさい。どうでしたか?」


 銀色のドラゴンが光に包まれると、そこにはツノ生えたいつもより強面の大男がいた。


「ドライアドの情報より弱っている土地が広がっていた」


 森の奥の調査を単独で申し出たリュウさんだっだか、その現状は認めなくない悲惨な有様だった。


「今日は水場が汚れていてな、魚を食えずに餓死したモンスターが何頭もいた。もうじき冬が来るが、餌がなければ冬眠できずに死ぬ生き物は多くなるな」


 いつの間にかそんな大変な事態が進行していたなんて信じられない。


「ドライアドはどこにいる?」

「今は畑の中に埋まってますよ。私の魔力を渡したら消耗を抑えるために寝るって」

「そうか。そのままにしておけ」


 てっきり話を聞きたいから起こせ! って言うかと思ったのにリュウさんはドライアドさんについてそれ以上触れなかった。

 リュウさんはドライアドさんがやって来てから毎日のように一人で森の奥へと行っては情報を持ち帰るだけを繰り返した。

 秋の収穫が終わり、冬に向けての支度もいよいよラストスパートというタイミングでの森の異変。

 幸運だったのは薪も食糧も既に確保が済んでいて冬は越せそうだということ。

 不幸なのは春を迎える頃には村の周りは住めない土地になっているかもしれないことだ。


「おにぃちゃん。ここおしえて」

「前も教えなかったか? ここはなぁ」


 昼食の時間が終わり、皿洗いと片付けが終わってガランとした食堂ではシリウスがルーナちゃんに勉強を教えていた。

 ついこの前までは私が一から教えてあげていたのに、教会の勉強会ではシリウスの成績はトップだとアンデル神父から聞いた。


「つぎはきょうかいにいついくの?」

「それは……神父さんが忙しくなくなったらだよ」


 森の異変の後、村では冒険者達が忙しそうに動いていた。

 急ピッチで村の周りの調査や異変の解決方法を探すための手がかりを探している彼らのためにアンデル神父はポーションの調合を格安で請け負っている。

 だから勉強会が再開されるのは異変が解決してからだ。

 大人に囲まれて宿の手伝いをするのとは別に同年代の子供達と勉強したり、遊ぶようになってシリウスもルーナちゃんも前より笑顔が増えた。

 あの子達にはもっと幸せになって楽しい思い出を作ってほしい。


『勉強を頑張っている二人にご褒美を用意しましたよ』

「マリオさん、ありがとう!」

「オレもいいのか?」

『当然です。誰かにわかりやすいように教えるのも、伝える勉強ですので』


 マリオさん気が利くいいこと言うな〜と思って眺めていると、カチャリと私の前にスコーンとジャムが置かれた。


「私もですか?」

『ミサキ様もお疲れのようですからね。頑張った分はご褒美がないといけません』

「リュウさんや冒険者の皆さんに比べたら私なんてまだ全然頑張れていませんよ」

『そうですか。では、これはご褒美の前借り分にしましょう』

「前借りですか?」

『はい。何故ならミサキ様は今すぐにでも教会に行ってアンデル神父を手伝うんだという顔をしていますので』

「……じゃあ、せっかくなのでいただきます」


 考えていたことを見透かされていたようで顔が赤くなってしまう。

 私と魔力のパスが繋がっているせいでマリオさんに隠し事ができない気がするな。


「うん。美味しい」


 焼きたてのスコーンは外側がカリカリで中はフワフワで甘かった。

 そこにジャムをたっぷりかけるとより甘さが増して体にパワーが満ちていく。

 異変の原因がなんだ!

 街道工事がなんだ!

 糖分をチャージした今の私はやる気百パーセントだぞ!

 絶対に諦めてやるもんか! 頑張れ私!




 冒険者ギルドからの呼び出しがあったのはそれから三日後だった。


「ララさん!」

「待たせたね、ミサキさん」


 今日もアンデル神父の手伝いに行こうと準備していたらジュウドーさんが呼びに来た。

 私とリュウさんが来た時には村の関係者も集まっていてギルド内は熱気が渦巻いていた。


「注目しなさ〜い!」


 今日もバッチリとメイクを決めたキャサリンさんが大きな声を出すと全員の視線が彼女に向けられた。


「ララ達のパーティーが森で起きてる異変について有力な情報を手に入れてくれたわ」


 普段は依頼書を貼り付けている掲示板にキャサリンさんが大きな紙を貼り付けた。

 紙には線や記号が書かれていて、私はすぐにそれが何なのか理解した。


「村の開拓が始まった以降、冒険者ギルドでは古い地図を最新のものにするための測量と調査をしてきたわ。まぁ、遠い場所には手が回らなかったのだけどそこにいる竜王様のおかげで一気に進んだわ」


 キャサリンさんが名前を呼び、ギルド中からリュウさんへの感謝の言葉が飛び交う。

 褒められて気分が良くなったリュウさんは腕を組んでドヤ顔している。


「それで、過去の情報と今の情報で大きく違うところがあったわ。それは森に現れるモンスターの種類よ。そうよね、ララ」

「ギルマスの言う通りだ。アタシらは依頼を受けて肉になりそうなモンスターを探していたらちょいちょい邪魔が入ってね。普段なら気にもしないが、問題はその数だ」


 ララさんが掲示板に紙を次から次へと貼り付ける。

 先程の地図とは違い、今度は絵が描いてある。


「スケルトンやゾンビといったアンデッド系の目撃や戦闘回数が異常に多い。依頼に失敗した冒険者や盗賊が死んで化けて出るのは冒険者あるあるだが、最近はアンデッド系しか出ない」


 アンデッド。

 死者がこの世に強い恨みや未練があって、亡くなった遺体が祈りを捧げられずに埋葬された場合にモンスター化して動き出す存在。


「それでサンダース村長にイーストリアン王国の古い歴史について調べてもらった。そしたらここら一帯は大昔に魔族と人間が戦争してた最前線だったらしいのさ」

「アタシらの村には魔王様も来るわよね。だから魔族側とも情報は照らし合わせてあるわよ」


 それぞれが、みんながコツコツと集めて調べてきた情報がパズルみたいに組み上がっていく。


「結論から言うと、土地の魔力を奪って大昔に死んだ兵士達を蘇らせて操っている奴がいる。アタシらはあえてアンデッドを野放しにして追跡してみたら兵隊みたいに巡回したり見張りをしてる場所を見つけたのさ」


 ララさんが最後に地図のとある一点に大きな色付きのピンを刺した。


「ここにアンデッド系のモンスターが集まってる新しいダンジョンがある。アタシらはこれからこのダンジョンを攻略するよ!」

「「「ついて行きます! リーダー!!」」」


 パーティーの仲間達が拳を突き上げ、ララさんはニヤリと笑った。


「ダンジョンか。土の中なら我が探しても見つからぬわけだ」


 ギルド全体がダンジョン攻略に向けて騒がしくなる中、リュウさんが口を尖らせていた。


「もしかしてドライアドさんが弱っていたのもそのせいですかね」

「奴は森全体を管理するため広く根を張っていると言っていたな。ならば一番最初に被害を受けたのかもしれん」


 今もドライアドさんは宿の畑の中で蕾に包まれたまま寝ている。

 彼出会い方は衝撃的だったけれど、彼女が知らせてくれたおかげでリュウさんが調査に出たりこれまでの違和感や皆んなが持っていた情報が繋がった。

 ダンジョン攻略が終わったらお礼に私の魔法で魔力を分けてあげよう。


「ミサキさん、リュウの旦那。ちょっと集まってくれないか」


 冒険者達がパーティー同士で話したりキャサリンさんにアドバイスも貰っている中、私とリュウさんはララさんのパーティーが集まるテーブルに呼ばれた。


「さっきのダンジョン攻略なんだけどね、実は厄介な問題があってね」

「ダンジョンの外にアンデッドの軍勢でも待ち構えていたか?」


 リュウさんが予想を口にすると、ララさんは苦々しい顔で頷いた。


「普通のダンジョンは財宝を守るために侵入者を追い返したり、厄介なモンスターが巣穴を掘って獲物が侵入するのを待ってるんだがこの新しいダンジョンはどちらにも当て嵌まらないのさ」

「へへっ……まるで戦争前の砦みたいな陣形」


 ダンジョンの入り口を直接確かめたララさん達だからこそ悩んでいるのだ。


「俺らの作戦としては表に出てる兵隊を惹きつける班と、中に入ってダンジョンを攻略する班の二つに分かれて役割分担したいんだよな」


 アメロさんがテーブルの上に小さい地図を広げる。

 ダンジョンの入り口とその近くの様子が細かく記されていて見やすい。


「ただ、僕らのいるこのギルドにいる冒険者の人数だと戦力を分散させると共倒れになる確率が高いんだよね。それと万が一のために村に待機させる戦力も欲しい」


 ジュウドーさんは硬貨を駒に見立てて並べ作戦を説明してくれた。

 ララさんとその仲間達が全員知恵を出し合って村を救うための最善を考えている。

 最初に出会った冒険者のパーティーがまさかここまで村の仲間として頼もしくなるなんて私は思いもしなかった。


「なんだ貴様ら。我に何か用があるのではないのか?」


 そんな彼らと一緒に狩りをしたり、畑仕事に宴を開いたりと交流して人となりを知るリュウさんは何かを期待している。

 その証拠に惚けたふりをしてニヤニヤした笑み隠せていないのだ。


「単刀直入に言う。リュウの旦那、アタシらのパーティーと一緒にダンジョン攻略班に入ってくれ。最短で突破するには旦那の力が必要だ」


 ララさんが熱い眼差しで手を差し出した。

 仲間達の三人も頭を下げている。


「ガハハハハハッ! 貴様らは我を誰だと思っているのだ。世界最強の竜王だぞ? 我がいればダンジョン攻略なぞ朝飯前だ!」


 ツノを生やした力自慢の大男は得意げに笑って勢いよく手を握った。


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