58話 女将さん、謎の美女の話を聞く
「ふぅ、お待たせしました」
走ってきたのか息が荒いサンダース村長。
ポケットから取り出したハンカチで汗を拭きながら宿の食堂にある椅子に座った。
「えー、急な呼び出しにもかかわらずお集まりいただきありがとうございます」
私は声をかけた人が全員揃ったのを確認して話し始めた。
村を代表してサンダース村長。
冒険者ギルドの代表のキャサリンさん。
教会からはアンデル神父だ。
あとはマリオさん、シリウス、ルーナちゃんがいる。
村役場が完成してからは定期的な報告会や意見交換を向こうでやっていたのでこうして食堂に集まるのは久しぶりだったりする。
「集まっていただいたのは先ほどこの宿の畑で大きな音がした件についてです」
「ギルドにまで凄い音がしてたわ。ミサキちゃん大丈夫だった?」
「ワシは用があって宿に向かっていたら土煙が高く上がっておったのぅ。心配で駆け付けたわい」
「そうなんですね。私は村の畑にいたので連絡をもらうまで気づきませんでした。ただ、途中で会ったドワーフの職人達が不安がっていましたよ」
集まった代表達が何が起きたのか心配で知りたそうにしているので、私は簡単にリュウさん対謎の植物について話した。
「「「……よく生きてたね」」」」
「リュウさんがいなかったら本気で危なかったです」
話し終えると三人とも驚きながらも胸を撫で下ろしてくれた。
襲撃時に厨房にいたマリオさん達にも話した時は心配をかけて泣かれそうになった。
「それで、わざわざ集めたからにはまだ続きがあるのじゃろ?」
「そうなんです。こちらを見てください」
私が合図をすると、リュウさんが洗濯に使っている大きなタライを運んできた。
勿論、ただのタライではなく中には畑の土と例の緑色の蕾が突き刺さっている。
「大きな蕾ですね。私はこんなの見たことありません」
「ワシも初めて見る種類じゃ。突然変異した植物かのぅ?」
サンダース村長とアンデル神父は蕾が何なのか理解できずにそれぞれの考えを口にした。
そんな中、ギルドマスターのキャサリンさんだけは真剣な目で蕾を睨んでいた。
「中に何かいるわね。それもとびっきり強い存在感のあるヤバそうなのが」
流石は凄腕の元冒険者。
キャサリンさんの言葉に他二人も警戒を強めた。
「おい、出てこい」
リュウさんが蕾の表面を軽く叩くと、ゆっくりと花弁が広がって地面に落ち、中から長い緑髪のおっとりしたタレ目の美女が現れた。
蓮の葉をイメージしたようなドレスを身につけた美女は集まった村の代表達の顔を一人一人確認し、私とリュウを交互に見る。
そしてーー。
「この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ごさいませんでしたぁ!!」
美女は勢いよく手と頭を地面につけて土下座を繰り出した。
「「「えっ?」」」
まぁ、みんなそういう反応になるよね。
蕾の中から現れた神秘的な美女が開口一番謝罪だもん。
「本当に迷惑だったぞ」
「竜王様におかれましてはトドメをささずに手加減してくださりありがとうございますぅ。このようなことがないよう今後は注意深く行動いたしますのでお許しくださいぃ!」
膝を地面……タライの中にいるので土につけたまま女性はリュウさんにペコペコと頭を下げる。
「ミサキ様。これはどういうことでしょうか?」
「凄い別嬪さんが出てきたらこの低姿勢でワシは驚いたんじゃが」
三人が目を丸くしてこちらを見てくる。
「私も最初は驚きましたよ」
リュウさんが逆さまな状態で畑に刺さった蕾を力強くで開いたら中にはこの美女が目を回した姿で入っていたのだ。
「じゃあ、自己紹介お願いします」
「はぃ! わたしはこの周囲を管理している森の精霊ドライアドと申しますぅ!」
タレ目の美女はドライアドと名乗った。
「精霊ときたわねぇ……」
「こりゃ、また大物の登場だのぅ」
キャサリンさんとアンデル神父は精霊について聞いたことがあるのかドライアドさんに戸惑っているが、サンダース村長だけピンときていない様子で私に助けを求める。
安心してください。私もこれ以上先は何も知らないので。
「リュウさん。精霊って何なんですか?」
ここはひとつ、長生きをしている年長者に聞いてみよう。
「精霊というのはだな、本来魂を持ち合わせていない生物ではないものに長い年月をかけて魂が宿り自己の意識を持った存在だ」
リュウさんの解説を聞き、頭の中の漫画やゲームの知識を漁る。
多分、私の知ってる話だと妖怪の付喪神とかが近いのかな?
「それだけじゃないわよ。精霊は自然そのものが形になったものだから持っている魔力の量が桁外れなの。伝説になった英雄には精霊を従えて自在に操った人もいるわ」
「ワシが知っている情報では、聖剣や魔剣と呼ばれる希少な武具には精霊の力が宿っているらしいのじゃ」
キャサリンさんとアンデル神父が情報を捕捉してくれた。
つまり、このドライアドさんは普通ならお目にかかれない超レアキャラのようなものらしい。
「リュウさんとドライアドさんだったらどっちが凄いんですか?」
「そんなの比べるまでもなく竜王様に決まってますぅ! わたしなんて古いだけの木に宿ったザコですぅ!」
竜王や魔王と規格外の人が周りに集まっているのでいまいち精霊の凄さを掴めず、軽い気持ちで聞いてみると悩むそぶりもなく敗北を認めて自分は弱いと宣言するドライアドさん。
元の性格がネガティブ思考なのか、リュウさんに痛い目にあわされてこうなったのかわからない。
「森を管理されている精霊様だというのはわかりました。では、どうしてそのような方がミサキ様を襲ったのでしょうか」
精霊について談義をしている中、口を閉じて何かを考え込んでいたサンダース村長が手を上げた。
「その、それはですね……」
質問されたドライアドさんは私の方をチラチラと見ると、恥ずかしそうに頬に手を当て呟いた。
「美味しそうな魔力だなぁ〜って」
「マリオさん! 厨房から塩を持ってきてください!」
「違うんですぅ! 誤解だから塩だけは勘弁してくださいぃ!」
身の危険を感じて除草作戦を実行しようとした私だったが、ドライアドさんが土下座して泣きついてきたので少し距離を空けることにした。
「わたしはこの周囲の地中深くにも根を張って土地を管理していたんですぅ。百年以上ゆったり暮らしていたらある日にこの宿周辺の土地の栄養価が激変したんですぅ」
ドライアドさんは語り出した。
彼女が言ってるのは私が畑に魔法を使い始めた頃のことかな。
「一度だけ胃もたれするような魔力も注ぎ込まれたのですが、定期的に栄養たっぷり上質な魔力が土地を潤しているのが判明したんですぅ」
その一度の魔力はリュウさんの野菜モンスター事件の時のことだろう。
「草花や作物が魔力を与えられてすくすく成長しているのが羨ましくて実は少しだけ魔力を貰っていたんですぅ」
「そんなの全然気づきませんでした」
「地下深くでほんの少しだけですので、畑には影響ないんですぅ」
野菜に問題がないなら私も別に気にはしないとこにしよう。
あれ? でもここまでの話だと私を襲う理由が無くないか?
これまで通りに黙って魔力のお溢れを吸い取るだけなら畑に姿を現す必要がないもん。
「でも、最近になって森に異変が起きて大変なことになったんですぅ!」
「森の異変ですか?」
「はい。何かよくないものが森の力を徐々に奪って土地が痩せ細っているんですぅ」
「「「っ!?」」」
代表達が一斉に顔を合わせて新妙な面持ちになった。
「わたしの本体は森の奥にある大きな木なんですけど、土地の栄養が減って弱っているんです。そこで深く長い根を張ってこの宿の畑から栄養を吸い上げていました。でも、それでも足りなくて魔力をいっぱい持ってるミサキさんに声をかけて協力してもらおうと考えました」
捨てられた子犬のような目で私を見るドライアドさん。
まさか森の中でそんことが起こっているなんて知りもしなかった。
「まぁ、ミサキさんの魔力を直接見た瞬間に我慢できなくて抱きついちゃいました。理性が吹き飛んで襲いましたごめんなさい」
土下座したままチラチラと上目遣いで私の顔色を伺うドライアドさん。
うーん、途中までは気の毒だなって同情してたのに残念だ。
「ミサキ。我の咆哮で焼いておくか?」
「火炙りは嫌ですぅ!!」
私の心が伝わったのかリュウさんがナイスアイデアを出してくれた。
あー、でも下手にあの咆哮を使うと森そのものが消し飛んでしまいそうで困る。
「ミサキちゃん、ちょっといいかしら?」
「はい。どうしましたか」
リュウさんが拳を鳴らしながら威嚇すると頭を抱えて怯えるドライアドさんを横目に見ながら私はキャサリンの話を聞く。
「あの精霊、森の奥に本体があるって言ってたわよね」
「そうですね」
「精霊になるまで成長した木が宿の畑まで根を伸ばして栄養を摂取しないといけないってことは、村の周辺にある土地も次期に危険じゃないかって話をしてたのよ」
サンダース村長とアンデル神父も頷く。
「春に種を植えても作物が育たない可能性があると思います」
「ワシが気になるのは森の生態系じゃ。土地が死ねばモンスターすらいなくなって狩りが出来んくなるじゃろう」
村の代表達の話を聞いて私は気が遠くなった。
だってそれって……ここまで開拓した村に住むことすらできなくなるって意味だ。




