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57話 女将さん、縛りつけられる


「さぁさぁ、今日も張り切っていこう!」


 右手に鍬を持ち、麦わら帽子を被って作業着に身を包んだ私は宿の裏庭に立っていた。

 ここは宿をオープンする前から野菜を育てていた畑であり、避難民のキャンプを支えてきたこの村で一番ありがたい土地だ。

 そんな畑で私が何をしているのかというと、今日は久しぶりに土を耕しています。

 というものの、ここ最近はずっと農業用の畑の収穫やポーションの調合でこの畑に関われていなかった。

 草むしりはシリウスやルーナちゃんが手の空いた時にやったり、マリオさんが夜中に鎌を振り回してむしったりしていた。

 マリオさんを目撃したドワーフの一人が夜中に腰を抜かした事件なんてものもあった。

 村の畑の収穫もほぼ終わり、村人がテントからドワーフの職人達が建てた昔の長屋のような家に移り住むようになった今、少しだけ時間に余裕が生まれたので私はこの思い出の畑の土に触れている。


「冬支度用の野菜は在庫があるし、フルーツでも植えてみようかな? でも、冬に実るフルーツって何があったかな?」


 本格的な冬が到来すれば村の開拓はひとまず終了する。

 今年の冬を越せる用意は整ったけれど、未だにカルディアス辺境伯領側との協議は続いている。

 聖女やドラゴンがいる宿があって、未踏破のダンジョンがあって野生のモンスターが多く生息している土地。

 報酬額を上げたのとララさん達の呼びかけの効果で仕事を受けに来る冒険者の数は少し増えた。

 でも、やっぱり利便性が悪いせいで拠点を移す人はごく僅かだ。


「はー、よいしょ! はー、どっこいしょ!」


 じわじわと残り時間が減っていく感覚に我慢出来ず、悪い考えを振り払うように土を耕す。

 実利を得ながらストレス発散をするなら農作業が最適なのでは?  

 ああでもない、こうでもないと頭の片隅で脳内会議を開きつつ鍬を叩きつける。


「聖女の作った野菜の販売と手作りポーションという案も……いや、正式な聖女に戻ったから教会から許可貰って一部を寄付しなきゃいけないかな……」


 ブツブツとひとりごとを呟きながら土を耕すことに夢中になる私。


「でも、私がいなくなったり死んだら村に何も残らなくなっちゃうし……聖女の墓を観光名所? いやいや私なんてそんな有名じゃないから。あと死因がダサかったら恥ずかしいな……」


 自分の世界に入り込んでいたせいで周囲への警戒が薄れて視野が狭くなっていた。


「いっそサーカス団をーー」


 サーカス団を立ち上げてみる? という言葉の続きを言う前に私は何者かに口を塞がれた。


「っ!?」


 突然の出来事に頭が真っ白になる。

 くっ、サーカス団立ち上げて何をするつもりだったのかのアイデアが消えてしまった!


「んっ……」


 走り出してすぐに逃げようとした私だったが、残念なことに口を塞いできた相手に手足の自由を奪われてしまった。

 しゅるるるるーーっと何かが体に纏わりついて体を縛り上げられていく。

 目を塞がれる前に犯人の正体を暴こうとした時点で私は何に捕まっているのかを確認できた。

 うねうねうね。

 びったんびったん。

 もじゃもじゃもじゃ〜。


「…………」


 ……あの何か見覚えがあるんですけど。

 宿の裏の畑で私は植物の蔓に巻き付かれていた。

 既視感しかないピンチに冷静にーー冷静になれるわけがないでしょ。

 どうも今回の蔓は熱心に私に絡みついて来る。

 一番最初に口を塞がれたのが厄介でこれじゃ声を上げて助けを呼べない。


「んっー! んっー!」


 ダメだ。蔓はビクともしないし暴れて脱出しようにも非力な女性の私では力不足。

 聖女が死んだ場所を観光名所にするのはどうだろう? って変なことを考えていたのが死亡フラグになるなんて聞いてない。

 植物の蔓に巻き付かれて養分を吸い取られてカラカラに干からびた聖女なんて歴史の教科書に載せられて笑い者になるんだ……。

 抵抗も虚しく、私は自分の体から魔力が抜けていくのを感じた。

 このまま全ての魔力を奪われたら意識を失ってそのまま死ぬ。

 村の完成まであと一歩なのに。

 まだ解決してない大きな問題だってあるのに。

 こんな何もかも中途半端な状態で死にたくない。

 ーー助けて。私を助けてーーリュウさん!

 蔓によって視界が全て塞がれそうになった直後、雷と共に轟音が鳴り響いた。


「我が来たぞ!」


 勇ましい声と共に私は何かに引き寄せられた。


「リュウ……さん?」

「あぁ。お前の恐怖や怯えを感じて駆け付けてみたら、また草に捕まっていたのか」


 抱き締められる形の体勢で顔を上げると額からツノを生やした見慣れた人の顔があった。


「……ねぇ、あれってリュウさんの仕業ですか?」

「今はそれどころではないだろう!」


 助けに来てくれた安心感と嬉しさ四割。

 もしかして? という疑念が六割。

 口にしない方がいいことをうっかり言ってしまったのはリュウさんの日頃の行いのせいだと思うんですけど。


「助かりました。ありがとうございます」

「むむっ……」


 ちゃんと感謝の言葉を伝えるけれど、疑われたことに腹を立てたのかリュウさんがそっぽを向いた。

 そのせいで腕に少し強めに力が入り、私は彼の分厚い胸板と筋肉質な腕の筋肉に強く体を挟まれてしまった。


「リュウさん、苦しい……」

「我に不敬を働いた罰だ。これに懲りたら反省しろ」

「わかりましたから、離して……」


 最後にもう一度強く抱き締められてからようやく解放された。

 危ない危ない。下手したら蔓よりも味方に押し潰されるところだった。


「それでミサキ、アレはなんだ?」


 うねうねしながらこちらの出方を伺っている謎植物。


「リュウさんが知らないなら私に聞かれてもわかりませんよ」


 リュウさんが蔓を引きちぎって私を救出してくれたおかげで畑の様子がよく見える。


「前回の野菜の残党ですかね?」

「いいや。アレは根元から引き抜いて活動が停止するのを確認した」

「だったら何ですかこの植物……」


 前に私を襲った野菜モンスターはリュウさんの魔力をありったけ注ぎ込まれて誕生した。

 以降はリュウさんに水やりや収穫の手伝いこそお願いしたけれど、魔力は与えないよう注意した。

 なので、この畑で野菜を育てるために魔法を使い魔力を与えているのは私だけ……。


「ミサキのせいという可能性は?」

「ないないないない! だって最近まで普通に収穫してましたし、リュウさんだって美味しくいただいてましたよね!」


 ジト目でこちらに視線を向けるリュウさんの意見を完全に否定する。

 宿の畑や村の畑での経験を積んで私だって成長しているんだ。今更そんな初歩的な間違いをうっかりするほど甘くない。


「そうだ! こうして畑を見て気づきましたけど、あの時と違って今は野菜を植えてないんですよ。私はさっき土を耕していただけです」


 植物が暴走する理由がないのだ。

 雑草すら生えてない状態で、まだ魔法を使っていない。

 だというのにあの蔓は地面から生えて私に襲いかかった。


「ならば考えられる可能性は一つだ。アレは畑の外から来た植物だ」


 蔓の正体を探ろうと推理をしている中、引きちぎられた部分を再生させた蔓は再び私へと伸びてくる。


「我の側を離れるなよ」

「はい!」


 私を守ろうとしてくれるリュウさんの大きな背中に隠れる。


「ふん! ふん!」


 蔓は本数を増やして伸びてくるが、リュウさんはその一本一本を手で掴むと手刀で断ち切る。

 初めて出会った時に見せてくれた腕だけをドラゴン状態にする変身だ。


「再生も早く掴まれる寸前に逃げる辺り、知性を感じるな。オマケにミサキとは違う別の魔力の匂いがする」


 魔力に匂いってあるんですか?

 疑問に思ったけれどリュウさんが言うんだから間違いない。


「だが、畑から逃げ出さない様子を見るとここから動けない理由が何かあるな?」


 リュウさんは普段は乱暴で、食いしん坊な我儘ドラゴンだ。

 人の話を聞かないし、勝手になことはするし、酔っ払って嫌な絡み方もする。


「ミサキ。ちょっと畑を派手に耕すぞ」

「やっちゃえリュウさん!」


 でも、戦う時は魔王よりも遥かに強い最強のドラゴンなんだから。

 ズシーン!!

 大きな揺れが発生し、畑の土が全部宙に浮く。

 本気のドラゴンパンチが炸裂して畑の下にいた蔓の本体が現れた。

 緑色をした縦に細長い本体はまるで開く前の蕾のように見えた。


「ふん……おらぁ!」


 浮遊した土が地面に落ちるより先にリュウさんは駆け出すと、本体らしき蕾を強く掴んでそのまま上へと投げ飛ばした。

 アクション映画のワンシーンを彷彿とさせるような光景に私は開いた口が塞がらなかったが、畑の土はドサドサっと落ちて耕された状態になった。


「駆除完了だな」


 リュウさんが手についた土をパンパンと払うと、最後に緑の蕾が逆さまな状態で畑に突き刺さるのだった。


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