55話 女将さん、依頼を出す
「というわけで、皆さんにも是非ご協力をお願いします!」
開拓村の一大事が発覚した翌日。
私は宿のことをマリオさんに任せて村にある大きな建物に出向いていた。
村役場でも教会でもないその場所は冒険者ギルドだ。
「ミサキさん直々の頼みとはねぇ」
開拓村が一番お世話になっている冒険者のララさんとそのパーティーの前で私は頭を下げていた。
「どうしますかい? リーダー」
「へへっ……村のピンチだ」
小さな酒場も併設予定のギルド内はその広さに対して滞在している冒険者の数が少ないので私の声を聞いた冒険者が全員こちらに注目していた。
「僕らだってこの村には世話になった。どうにか助けてあげられませんかリーダー?」
ありがたいことにジュウドーさんがやる気満々な様子でララさんの決断を待っている。
「そうだね。命の恩人の頼みとあれば……って言いたいところだけど引き受けられないね」
「「「リーダー!?」」」
ララさんの返事が予想外だったみたいでやる気だったジュウドーさん以外のアメロさんとカミーヨさんも驚いている。
「理由は簡単さ。ミサキさんの頼みはアタシら冒険者への依頼ってことだろ? だったら正式な手続きで依頼として発注してくれ」
「「「リーダー!!」」」
ララさんが冒険者ギルドの受付を指差す。
まだ人員が揃っていないこの開拓村支部ではたった一人のギルド職員が切り盛りしていた。
「キャサリンさん」
スカートを履いた受付嬢スタイルの恵体でパワフルなギルドマスターが腕を組んで待ち構えていた。
さっきまでの話を聞いていたようで彼女は私が口を開く前にこう言った。
「ミサキちゃんから頼みなら引き受けるしかないわね〜。そうよね、お前達!」
「「「応っ!」」」
キャサリンさんが叫ぶとギルド内にいた全冒険者が頷きながら返事をした。
「キャサリンさん、みなさん……」
気持ちのいい返事をもらえて目頭が熱くなる。
「あらあら。泣いちゃダメよミサキちゃん。女の涙ってのは意中の人を落とすために見せるものよ」
「よく言うよ。涙じゃなくて腕力で旦那を絞め落としたくせに」
「あら? 何のことかしら?」
「ちょ、指をボキボキ鳴らすのやめな! こっち来るんじゃないよ!」
「悪い猫ちゃんは撫で撫でしてあげないといけないわよね〜?」
キャサリンさんの恋愛アドバイスにララさんが茶々を入れて追いかけっこが始まりとギルド内が笑いに包まれた。
また一つキャサリン伝説を聞いてしまった。
「さて、受ける依頼の内容だけどモンスターの討伐数を増やして欲しいのよね?」
「はい。備えての保存食用と増える村人の分のためにお肉が欲しいんです」
ララさんが仲間達に介抱されている間に私とキャサリンさんは依頼内容について話し合う。
これまではリュウさんにお願いしていたところが多いけど、ドワーフの職人達と工事したり薪用の木を伐採したりするのに専念して欲しいので冒険者ギルドにはお肉の調達を依頼する。
サンダース村長やフェイトさんとも相談して決めたことだ。
「うーん、そうね。増やすのは構わないけど、量はあまり期待しない方がいいわね」
「どうしてなんだいギルマス?」
唇を尖らせながら依頼書を作成するための紙と睨み合うキャサリンさん。
何か問題があったのかとララさんがキャサリンに質問した。
「実は今ある依頼でこのギルドはキャパオーバー気味なのよ。もう、全然冒険者が足りないわ」
そう言ってキャサリンの口から出てきたのは世知辛い現実だった。
まず、元から辺境だった冒険者ギルドの更に辺境にこのギルド支部ができたため、活動拠点を移すパーティーが少ないのだという。
「この村はまだ開拓途中で店が少ないわ。冒険者っていうのは命懸けで依頼を受けるの。自分の命を守るために入念な準備をしなくちゃいけないの。食糧や道具は勿論、武器の手入れや防具の新調もする」
静かに話を聞いている冒険者達を見ると、みんなそれぞれ武装をしていた。
騎士団のように陣形を組んで大勢の数の力で圧倒するのではなく、少数のパーティー単位で自腹で装備を整えて生身でモンスターに挑む。
「だから物資が不足がちなのよ。この辺りが改善されないとキツいわね」
うっ。ここでも街道工事計画が延期にされてしまった問題が出てきてしまった。
「あとはそうねぇ、依頼を急がせるなら報酬の額を上げるっていうのが常識なんだけど……」
「お金については何とかなります」
次にキャサリンさんが口にしたのはモンスター討伐を仕事にする冒険者が一番気にすることだ。
なるべく早い時期にお肉を集めないと保存食を調理する工程があるため、冬までに間に合わない可能性もある。
それとモンスターも生き物である以上、冬眠して姿を見せなくなる傾向があるので今のうちに狩っておきたい。
「サンダース村長とフェイトさんは赤字になってもいいから依頼をお願いしたいと言ってました」
私はポケットの中から開拓村として冒険者ギルドに支払える予算について書いてあるメモを手渡した。
この計算のために昨日の話し合い後、サンダース村長とフェイトさんは夜遅くまで対応してくれた。
だから今日は二人の代わりに私がこうして依頼のお願いをしに来た。
「へぇ〜。これはご立派な太っ腹だわ!」
もしも金額が足りないって断られでもしたらどうしようかと思っていたけど問題なかったようだ。
「キャサリンさん。それからこれは私とアンデル神父の案なんですけど、今回の依頼を受けてくれた冒険者の人には回復用のポーションをオマケで付けようって考えてまして……」
念のためにあと一手の保険をかけておいたけれど、これは必要無かったかもしれないと私がオマケの話をすると、キャサリンさんの目の色が変わった。
「ポーション!? それって既にアンデル神父が作ったもの? それともミサキちゃんの手作り?」
「お恥ずかしながら私が教わりながら作った試作品のポーションになります」
教会の本部にいた頃は聖女としての儀式や式典、治癒魔法での治療を中心にやっていたため、普通の神官が担当していたポーション作りは概要は知っているけど実際にはほとんど調合したことがない。
なのでアンデル神父と話した時に養父様の昔話と一緒に聖女としての仕事について勉強もして行こうと方針を決めた。
そんな聖女修行の一環で作るお試しポーションだ。
「いりますか?」
「何を言ってるのかしら! むしろそっちの方が冒険者としてはありがたいくらいだわミサキちゃん。聖女様特製の回復用ポーションなんて喉から手が出るくらいの品よ」
興奮気味に瞳をギラギラと輝かせるキャサリンさん。
本人のバッチリ濃いめの化粧と鍛えられた肉体のせいか物理的に発光しているかのように見える。
「ララ! 今から依頼書を作るからちょっと手分けして周辺のギルドに貼って来なさい!」
「ちょっと待ちなよギルマス。アタシらはが今やってる周辺環境の調査依頼はどうするんだい? アンデッドの目撃情報もあるし、モンスターの討伐をしようにも詳しい情報は必要だろ」
「そっちはアタシが引き受けるわ! 伝説の凄腕冒険者ギロチンプリンセスの期間限定復活よ!!」
「「「「えぇええええっ!?」」」」
キャサリンさんのまさかの発言にギルドに居合わせた冒険者全員と、私も一緒に驚きの声を上げる。
女子会トークにお出しされるには強烈なパンチの効いた濃厚武勇伝キャサリン伝説の新たな一ページがこれから刻まれるんですか!?
というか、その二つ名ってどんな戦い方したら呼ばれるようになるのか想像つかない。
「不満があるならまたアタシが抱き締めてあげるわよ」
「もう勘弁しておくれ。……わかったよ。ミサキさんの村のために超高速で宣伝するとしようかね」
「「「やってやろうぜリーダー!」」」
冒険者全員がやる気になり、ギルド内に活気が溢れる。
まさかこんなに盛り上がるなんて、ポーションを作る私の責任重大じゃないかな?
だけど頭脳面やパワーで役に立てない以上、専門分野で取り返すしかない!
頑張るぞー! おー!!




