48話 女将さん、使節団をお迎えする
ドワーフの職人達が合流し、森の伐採と村の土台作りがスタートして少し経った頃に鎧に身を包んだ騎士団と神官服を来た集団がやって来た。
物々しい雰囲気を感じて作業中だった人達の間に緊張が走る。
彼らからすればやってきた集団は自分達を散々追いかけ回して捕まえて無理矢理知らない場所に連れ去っていく恐怖の象徴だった。
避難して来た人の中には家族と離れ離れになって心に傷を負った人もいる。
「ようこそおいでくださいました。使節団の皆様」
住民達が警戒をする中で真っ先に武装した人間達に駆け寄ったのはサンダース村長だった。
「貴殿が村の代表か?」
「はい。村長の任せていただいておりますサンダースと申します」
装飾のされた目立つ鎧を着た騎士団の代表っぽい厳つい顔の騎士にも物怖じせずに美しい礼儀作法で挨拶する村長。
「魔族が村長……」
騎士が険しい顔つきになったところで更にピリッとした空気が生まれた。
もしもまた騎士団達が暴れようものなら急いで銀色のドラゴンと魔王を呼んでこなくてはと村の誰もが思った時だった。
「まさかお前が村長になるなんてな! 吾輩はビックリしたぞサンダース!」
「こちらこそ使節団に貴方が加わっているなんて聞いてませんよ旦那様!」
二足歩行する巨体のクマと派手な鎧を着た厳つい顔の男が肩を抱き合って笑い出した。
「というわけで、こちらは私が以前お世話になっていたベイネット・カルディアス辺境伯です」
「聖女様に竜王殿に魔王殿だな。よろしく頼む」
サンダース村長の案内で宿へと連れて来られたのはフランクな態度のヒゲのおじさんだった。
というか、驚いたのはサンダース村長の知り合いだったことだ。
村長が避難民達をまとめたりフェイトさんと詳しい開拓計画について話をしていたりと慣れた感じはしたけれど貴族のところで働いていたんだ。
一緒にいた兵士達は外で待機させ、代表者だけで私達は宿の食堂で話し合うことにした。
「サンダースは仕事のできる役人でしたが、こちらでの様子は如何ですかな?」
「村長にはボクらも大いに助けられていますよ。彼がいるのといないのでは村人の意思をまとめるのにもっと時間がかかっていたでしょうから」
「それはそれは。お役に立ったようで何よりですな!」
豪快に笑うカルディアス辺境伯。
頭からツノの生えたリュウさんや人間離れした雰囲気のあるフェイトさんを前にしても一切気にする様子はない。
「おや、何やら不思議そうな顔をされていますな聖女様」
ジロジロと見てみたのがバレたのか辺境伯が声をかけてきた。
「その、カルディアス辺境伯は魔族についてどう思っていますか?」
なんて質問をするか少し悩んだけれど私は直球で知っておきたいことを質問することにした。
「そうですな。……見た目は人からかけ離れいますし、素の力も強く、魔法に長けたものもいます。魔族を化け物扱いする者が多いのも納得だ」
人間と魔族は容姿に大きな差がある。
種族の個の強さでも敵わないと思う。
現時点で、サンダース村長と私が戦ったらパンチ一発で負ける自信がある。
「ですがまぁ、仕事ができるなら関係そんなの関係ありませんな」
「えっ?」
随分と単純な理由に私は呆気に取られた。
「旦那様……カルディアス辺境伯は合理主義の塊のような方でして、有能な人材であれば誰かれ関係なく招き入れるのです」
「人を節操なしみたいに言うなサンダース。吾輩はただ都会に出ていく若者が多いせいで人手不足だからなんとか領地の未来のために幅広い雇用をしているだけだぞ」
カルディアス辺境伯の言葉は切実なものだった。
というか、この世界でも日本みたいな過疎化問題とかあるんだ! 世知辛いんだね異世界も。
「魔族も人間も役立つなら何としても採用する。役立たないなら……なんとか役立つ場所を探して当て嵌めるのが吾輩のやり方。そういう意味ではサンダースに戻ってきて気持ちはあるのだか……」
「有難い申し出ですが、残念ながら私はこの村の村長です。同族を置いて自分だけ幸せなろうとは思いません」
「まぁ、お前はそう言うやつだな」
サンダース村長を引き抜こうとするカルディアス辺境伯だったが、村長は断り辺境伯も最初から返事はわかっていた様子だった。
「私の考え方は理解していただけましたかな?」
「はい。ありがとうございました」
カルディアス辺境伯の考え方は上に立つ統治者や経営者のものだった。
それもかなり余裕がない追い詰められてる人の。
とはいえ、ある意味で公平なものだ。
頑張って役に立つことを証明できれば普通の暮らしが送れるのだから。
「なるほどね。カルディアス辺境伯が使節団の代表に選ばれたのも納得かな」
「ロイド陛下も苦労されているようでしてな。こちら側から逆に志願しました」
イーストリアン王国の新しい王様の名前が出て来た。
あの日、王城で一触即発だった私達と王国側の睨み合いを止めたのがロイド陛下だ。
王位継承権第一位で、海外に留学中だったところ父親である先代陛下が亡くなったのだが、その連絡が故意に止められていたり王位継承権第二位だった兄が遺言書を改竄して王に名乗りを上げたりしていた。
王を自称する兄と神聖教会を乗っ取ったゴグワールのせいで国中が大混乱をし、その後始末に追われている苦労人でもある。
私より少し年上のお兄さんだけど、ちゃっかり気楽な立場に収まった私と違って今が人生で一番苦しい状況にある人かもしれない。
「吾輩の領地はここからそう遠くはありませんし、教会側とも適切な距離はとっていたので準備に時間がかからなかったのです。そういうわけで陛下からも使節団としての役目を任されました」
「流石だねロイド陛下は。あんまり時間がかかるようならこっちからお邪魔しようかと思っていたよ」
そう言ってフェイトさんが暇そうにクッキーを摘んで食べているリュウさんを横目で見た。
ちょっと、それってまたリュウさんの背中に乗って突撃訪問するつもりだったんですか!?
城に乗り込んだ時と帰る時の兵士の人達のこの世の終わりみたいな顔を思い出して気の毒な気持ちになる。
「それは急いだ甲斐がありましたな。ははは……」
どっしりと構えていたカルディアス辺境伯もドラゴンが飛来する光景を想像して乾いた笑いを口にする。
「ボクらとしては王国側に村の開拓計画を確認してもらうのも大事だけど、それより先に引き取ってもらいたいものがあるしね」
「魔族狩りをしていた連中ですな」
今回の使節団が物々しい様子だった一番の理由。
それが避難民のキャンプまでやって来て無理矢理に魔族の血を引く人達を連行しようとした魔族狩りをしていた騎士達の回収だ。
「カルディアス辺境伯。村を代表して私が保証します。拘束している騎士や教会関係者にはキチンとした扱いと対応をしております。怪我人こそいても死者は一人もおりません」
「それが聞けて安心した。ならばこちらも不安を煽らずに済む」
カルディアス辺境伯は安堵した様子で肩の力を抜いた。
暴れないよう武装解除して身柄を拘束した人達についての扱いはフェイトさんとララさん達冒険者パーティーに任せてある。
まぁ、一番最初にリュウさんの強さと暴れっぷりに驚いて抵抗する気力は折れてしまったようだけどそれでも反抗的な人はいた。
ただ、そういう人達はフェイトさんと個別にお話をすると驚くくらい大人しくなって戻ってきた。
「……全員大丈夫なんですよね?」
「ボクを疑うのはやめてよね。今回は精神支配系の魔法は使ってないよ」
一応フェイトさんにこっそりと耳打ちして確認を取る。
今回は、というところに闇を感じたけれど無事なら問題はないとする。
「特に怪我人についてはミサキ様が手当をしてくださったので全員歩いて帰れますよ」
「聖女様に治癒魔法をかけてもらえるなんて運がいいのか悪いのか……」
王都の中にある神聖教会の本部でほとんどの時間を過ごしていた私が騎士団と関わることは少なかったので、今回の一件で怪我人を手当てしたのが一番長い接触だった。
その中で思うこともあった。
「あの、連れて帰る人達って今後はどういう扱いになるんですか?」
だから気になっていたので聞いておきたいこともあった。
悪いことをしていたのは事実とはいえ、参加していた人の大半は上からの命令で作戦に参加してドラゴンに襲われたのである意味で被害者でもある。
「指揮官達にはそれ相応の責任を取ってもらう。命令とはいえ参加した者については……減給や奉仕活動ですな」
「そうなんですか。それはよかっ……たんですっけ?」
処分についていまいちよくわからないのでフェイトさんに聞いてみる。
「自国民を魔族狩りとはいえ、追いかけ回してドラゴンの縄張りをいたずらに刺激して王都壊滅の危機を招いたからね。何かしらの形で罰を受けないとみんな納得できないからね」
「聖女様がご心配いただく必要はありません。これは王国側の面子の問題ですからな」
心配無用だと言われたのでとりあえず胸を撫で下ろす。
これで不当な扱いは受けないはずだ。
怪我の治療をしている時に友人や恋人の名前を呼ぶ人もがいた。
これはリュウさんがドラゴンの姿を見せて怯えさせたせいもあるけど、もしかしたら自分はもう故郷に戻れないかもしれないと不安な人もいたのだ。
中には私に泣きながら謝罪する人もいて、彼らが無事に元の生活に戻れるかが気がかりだった。
「さて、連れ帰る者達の話が済んだら次は村の開拓計画について打ち合わせをしましょう。サンダースがいるなら心配はありませんが、イーストリアン王国の使者として国益を持ち帰らなくてはなりませんかなら」
「望むところだよカルディアス辺境伯。ボクも魔王として魔族のために欲しいものが沢山あるからね」
大人達がギラギラとした目つきで交渉するターンに入ったので私もなんとか置いてけぼりにならないようしっかり話を聞く。
案の定、難しい政治や権利の話で頭がいっぱいいっぱいになったけれど最後まで耐え切ることに成功した。
隣にいたドラゴン?
彼なら鼻提灯を作って居眠りをしていたので使節団に振る舞う魔族の名酒はあげませんでした。
恨めしそうに私を見つめていたけど一人だけズル休みしたの許さないんだからね!
「竜王殿の好物は美味い食事と酒か。しめた!」
「やめた方がよろしいですよ旦那様。ワインセラーの秘蔵達が根こそぎ消えますから」
「……じゃあ、仕方ないな」




