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47話 女将さん、現場を見学する


「また今日から世話になるからよろしくな!」

「「「よろしく!!」」」


 村の開拓会議から数日後、もじゃもじゃアフロの男勝りなドワーフの女親方とその部下のドワーフ達が宿を訪ねて来た。

 まだ村人達は仮設テント生活でまともな建物はうちしかないため親方達には宿で寝泊まりしてもらう。

 久しぶり再会をゆっくり祝いたいところだったけれど本格的な冬が来る前に村人の居住区域を完成させないといけない急ぎの仕事なので軽い挨拶程度で済ませる。


「マリオさん。親方達の昼食は栄養たっぷりの山盛りメニューでお願いしますね」

『かしこまりましたミサキ様』


 屋敷をリフォームしてくれたお礼はサービスで返すことに決め、腕前を上げたマリオさんに注文をしておく。

 前回はまだ修行中だったけれど、成長した私達の凄さを親方達に見せてあげなくちゃ。


「ミサキ姉ちゃん、荷物は各部屋に運んだけど他にやることある?」

「ご苦労さまシリウス。とりあえず今はマリオさんの手伝いで厨房に入ってもらっていいかな? 日が沈んで職人さん達が戻ってきたら汗をかいてると思うからお風呂の準備もお願いしていい?」

「わかったよ」

「ルーナもてつだう!」


 オープン時にはいなかったシリウス達兄妹も加わって心地いい宿になったと思ってもらえると嬉しいな〜と考える。


「さて、私も準備しなきゃ」


 従業員に指示を出し終え、日除けのために帽子を被って私が向かうのは宿の裏にある畑だ。


「大きくなーれ! 【ヒール】」


 畑の作物が早く成長するように魔法をかける。

 ついでに雑草が伸びていたら片手用の鎌で刈り取っておく。

 村の開拓が進めば村人達用の畑も作られるけど、今はまだこの宿の畑に頑張ってもらわないといけない。

 とはいえ、無茶な王命が取り下げられてイーストリアン王国と神聖教会からの支援として保存食の提供などもある予定なので前のような切迫した状況ではない。


「こんなもんでいいよね」


 水やりもして大雑把に畑の手入れを終えたら次は出かけるようの準備をして仮設テントの並ぶ難民キャンプを訪れる。


「こんにちはサンダース村長。今日は病人や怪我人はいませんか?」


 私はその中でも一際大きなテントに入るとここの主人に声をかけた。


「こんにちはミサキ様。毎日ご苦労さまです」


 テントの中ではクマの魔族のサンダース村長が書類の山に囲まれていた。


「ミサキ様のおかげで皆元気ですよ。我々を受け入れてくださった慈悲深い聖女様の手を煩わせてならんと体調管理に注意したりや安全確認を怠らず働いております」

「いやいや、そこまで気を遣なくても……」

「いいえ。故郷を追い出され、遥か遠くの恐ろしい地だと言い伝えられていた魔族領を目指すしかなかった我々を避難民として温かく受け入れ、それだけではなく新しい家を作る権利まで与えていただいたのです。感謝してもしきれません」

「それは、リュウさんやフェイトさんの力があったからで私なんて大したことはしてませんよ」


 騎士団を止め、争いを諦めさせたのはリュウさんで王国側と話し合いをして手厚い援助をしているのはフェイトさんだ。


「だとしても、お二人とこの場を結んでいるのはミサキ様です。あなたがいなければ我々は旅のどこかで力尽きていたのです」


 真っ直ぐな視線を私に向けるサンダース村長。

 ここまで言われるとなんだか自分が凄いことをしたかのように思えてくる。


「改めて村人を代表し感謝申し上げます」


 頭を深く下げるサンダース村長。

 私よりもずっと年上で大人として立派な人が言葉だけでなく姿勢でも感謝を伝えてくれたことに私は胸がいっぱいになる。


「こちらこそ、皆さんのお力になれて光栄です。これからもよろしくお願いします」


 私が養父様に助けられたように誰かを助けることができたという喜びが湧き上がってきた。


 ◆


 サンダース村長のテントで雑談を少し挟み、私は開発中の村のあちこちを見学することになった。

 案内をしてくれるサンダース村長の後について歩くといきなり大きな音が聞こえた。


「な、なんの音ですか!?」

「始まったようですね」


 ドーン、ドーンと連続して響く音に驚いている私とは対照的にサンダース村長は落ち着いていた。


「グォオオオオオオ!」


 咆哮を上げながら銀色のドラゴンが鋭い爪を振るう。

 すると木がメキメキと折れて次から次へと地面に倒れていく。


「グガァアアアアアア!」


 目に見える範囲の木の伐採が終わるとお次は尻尾をぶんぶんと振り回して残っていた切り株や草むらを巻き込んで地面をぐちゃぐちゃに掻き回していく。

 見ていて清々しいくらいの暴れっぷりはまるで怪獣映画の蹂躙シーンを思い出させる。


「フハハハハ! 我の力を思い知るがいい!!」

「はーい、そこまで。一旦資材回収して邪魔な岩を撤去するよー」


 顔に泥をつけてリュウさんのテンションが上がってきたところでフェイトさんが停止指示を出した。


「おい、まだ暴れ足りないぞ!」

「今は暴れる時間じゃなくて地ならしの作業中だからね。キミの気が済むまでやらせていたら荒野になっちゃうよ」


 不服そうな顔をしながらリュウさんが木を咥えて運び始める。

 ドワーフの職人や村の男衆も集まって岩や切り株を邪魔にならないところへと運ぶ中、設計図らしき紙を見ていたフェイトさんがこちらに気づいて近づいて来た。


「おや、ミサキちゃんと村長じゃないか」

「こんにちはフェイトさん。あの〜、ところでその格好は……」


 白い長髪に赤い瞳の蠱惑的な美男子という容姿で普段はマント付きの存在感のある魔王スタイルの服を着ているフェイトさんなのだが、どうしてか今の彼は黄色のヘルメットにつなぎ服の作業員スタイルだった。


「今日のボクは現場監督だからね。久しぶりに魔王城の倉庫から一張羅を引っ張り出してきたんだ。どうだい似合うだろう?」


 服をつまんで見せびらかしてくるフェイトさん。

 会議の場でみんなをまとめたり、イーストリアン王国と神聖教会の代表達との交渉を堂々としたりとカッコいいところもあるけど、基本的にはお茶目な人なんだよね。


「おや、何か言いたいことがあるみたいだけど形から入るのってかなり大事なんだよ?」

「えー、そうなんですか?」


 こちらの心を読んでチッチッと指を振る現場監督系魔王様。


「いつものボクの魔王衣装も威厳をアピールするためのデザインだし、高価な品を普段使いにしているのもお金持ちアピールさ」


 そういえば普段のフェイトさんの私物は装飾の凝った品や珍しい物が多かった。

 ハンカチ一枚だって金の刺繍が施されているくらいに。


「人はね、まず見た目を見るんだ。第一印象ってのはかなり大事でボクは魔族達の王様だから派手なくらいの方がわかりやすくてお金に困っていない方が頼り甲斐があるでしょ?」


 私に見た目の大切さを教えるフェイトさんの姿はこれまで魔王としての人生経験を積み重ねてきた自信による説得力があった。


「確かにそうですね。初対面で怪しい雰囲気のフェイトさんに誘拐されて魔法を使って尋問された時は生きた心地がしなかったですもん」


「ちょ、ミサキちゃん!?」


 隣にいたサンダース村長が目を丸くしてフェイトさんと私の顔を交互に見る。

 私が女将でフェイトさんがオーナーをしているのは知っていてもこの話は聞いたことがなかったようだ。


「ま、魔王様……」

「待ってくれ違うんだ。いや、事実ではあるんだけどこちらも事情があってね」

「体のあちこちをジロジロ調べられて興味があるって言われました」

「ロ、ロリコン……」

「違うよ!? ミサキちゃんもうやめて!」


 サンダース村長がドン引きした様子で私を自分の背後に隠そうとしたところでフェイトさんが膝から崩れ落ちて懇願してきた。


「冗談ですよ。第一印象の話で初めてフェイトさんと出会った時におチビさんって言われたのを思い出しただけです」


 年齢の割に背が低いのがコンプレックスの私にとってあの発言は許してはおけない。

 なのでちょっとだけいじわるしてしまった。


「ミサキ様は根に持つタイプのようですよ魔王様」

「ごめんよ〜」


 ウルウルと涙目で謝るフェイトさん。

 私はただ自分が体験したことを忘れたくないだけで、ちゃんと受けた恩もいつまでも覚えている女だ。


「おい。我ばかり働かせて魔王は雑談に夢中か?」


 急に日陰ができたと思ったら高い所から声が聞こえてきた。

 見上げると空と同じ色をした瞳がこちらを見下ろしていた。


「リュウさんお疲れ様です」

「うむ。我の働きぶりは見ていたな? ちゃんと真面目にやっているぞ」

「はいはい。マリオさんにリュウさんの夕飯を少しオマケしてあげるよう伝えておきますね」

「酒も追加しておけ! どうせドワーフ達用に多めに仕入れているのだろう?」

「ちょっとだけ。ちょっとだけですからね?」

「よし!」


 上機嫌そうに尻尾の先をペチペチと地面に叩きつけて作業に戻っていくリュウさん。

 まぁ、凄いスピードで村づくりが進んでいるのは確認できたしこれくらいのご褒美で早くみんなの家が完成するなら良しとしておこう。


「さて、ボクもそろそろ凄いところを見せないとね」


 巨体を活かして活躍するリュウさんに対抗心が出て来たのか、腕捲りをした現場監督スタイルのフェイトさんは再び設計図らしき紙を確認するとみんなに少し離れるように指示を出した。


「見た目の印象も大事だって言ったけどね、それだけでも駄目なんだ。だからたまには魔王の凄さってものをお見せしようーー【グラビティープレス】」


 柏手を打つように魔力を集中させた両手を合わせて呪文を唱えるフェイトさん。

 そのまま両手を地面に叩きつけると可視化された濃密な魔力が大地に浸透して変化が訪れる。

 ズンッ!!

 小さな地震が起きたかのような揺れ感じたかと思いきや、それまで掘り起こされてデコボコになっていた地面が手入れされたグラウンドのように整地されていた。


「まぁ、こんなものかな」


 たった一度の魔法でサッカーコートくらいの広さの地面が綺麗で平らな地面に早変わりして驚いた。


「こ、これほどの範囲の魔法を一人で……」

「相変わらずの化け物だねウチらの魔王様も」


 フェイトさんの魔法を生で初めて見たサンダース村長は言葉を震えさせ、以前にも見た経験があるのかドワーフ達は感嘆するだけだった。


「本来は対巨大生物や建造物用の攻撃用の魔法だけど威力を控えめにする代わりに範囲を広くしたんだ。圧迫するのは膝下までの高さだし、高い魔力さえあれば魔法使いなら似たようなことはできるよ」


 まるで簡単なことのように言って次の整地場所を確認するため紙を広げるフェイトさん。


「誰が真似できるって? そんなもん無理に決まってるよ」


 ドワーフの親方はしゃがみ込むと整地された地面に触れた。


「同じ高さでこの範囲を均一に押し潰すなんて曲芸じみた魔法のコントロールができる魔族なんてアタシは知らないよ」


 前にリュウさんを止めるべくイーストリアン王都に一緒に乗り込んだ時に巨大な氷の壁を出すのを見て凄い魔法使いだと思ったけれど、どうやら魔族の中でも別格の実力のようだ。

 それでもそんなフェイトさんですら勝てないというリュウさんはどれだけ強いんだろう。


「冬までに村を完成させるなんて無茶苦茶な依頼を受けちまったと思ったけど、意外とどうにかなりそうだね」


 ドカバキドガバキ。

 ズンッズンッ。

 凄まじい音と激しい揺れを繰り返しながら草木が生い茂っていた森がどんどん開拓されていく。

 重機がない異世界であの二人が揃うと規格外のパワープレイでゲームみたいに整地されていくんだなと改めて竜王と魔王という肩書きの大きさを実感したのだった。


「あの二人を雇えれば今後のアタシらの仕事はずっと楽になりそうだね」

「引き抜きですか? 別に私は構わないですけどリュウさんの食費とお酒の消費量はこれくらいですよ」


 ニヤニヤと私の方を見てきた親方に先月分のリュウさんにかかった費用を伝えておく。


「そ、そんなの破産しちまうよ!」


 うちが自給自足で肉と野菜が手に入りやすい環境で良かったと思う。

 経営者としてもお金の計算をするドワーフの女親方は爆速森林伐採ドラゴンを未練たらたらで諦めるしかなかったのでした。


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