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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
間章3 愛と迷いと決意の時
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1.そもそもの始まり

本日、人物紹介とプロローグ、第1話、の合計3つを更新しています。

このページから開かれた方は、ひとつ戻ってプロローグからお読みください。

 応接室には関係者全員が揃っている。


 アルマンド叔父、アンティフォナ叔母、父レチタティーヴォ、母蘭々、パストラーレ、その父セリオーソ、アリア、マドリガーレ、そして俺、だ。


 出されたお茶を飲みながら、大人達は「どこから話すか」とか「誰が説明するか」など確認しあっている。しばらく話して、まずは父親が話すことになったらしいと分かり、若者四人は父レチタティーヴォに注目した。


「そもそも今回、なぜ君達に過去の話をしようと思ったのかというところから説明しよう。我々は、ソラを元老院に囲い込まれることを恐れている。なぜなら……実は、ソラの出生には秘密があるのだ。それを調べられて、知られる訳にはいかない。だからソラにはできるだけ元老院に近づいて欲しくないし、ソラの周囲にいる者もそれをきちんと理解して、元老院に付け入る(すき)を与えないよう気をつけて欲しい……そう思って、話そうということになったという訳だ」


「ソラの出生に秘密が……」


 パストラーレが驚いて声を上げたが、一番驚いているのは俺だ。

 隣でマドリガーレがギュッと俺の手を握ってくれる。それにホッとして少しだけ笑顔を向けると、彼女は口元に笑みを浮かべてひとつうなずいてくれた。


「聞かせてくれ、父さん。俺の生まれにはどんな秘密があるんだ?」


 俺がそう言うと、父レチタティーヴォは大きく息を吐いて目を伏せた。


「それを話すには、もっと昔から話し始めないとならない……そこにたどり着くまで、長い、長い話になる。それでも構わないだろうか」


「うん」


「では始めよう。そもそもの始まりは、わたしが日本へ行く三年前――」




** ** **




 そもそもの始まりは、わたしが日本へ行く三年前。


 わたしが十九歳にもうすぐなろうかという冬の終わり、弟のアルマンドが十五歳時魔力検査で素晴らしい結果を出したので、これはもう次の魔法長官に決定だろうと周囲は沸き立った。アルマンドに祝いの言葉をかけたその夜、わたしは家族の前で「後継ぎから外して欲しい」と頼んだ。


 驚く家族の前で頭を下げて、自分の病気の告白をしたのだ。女性の前で、大声で言えるような話では無いが、勃起障害、しかも一次性……生まれつきの病気だったのだ。十八歳時点で既に三年間治療をしていた。セリオーソが良い治療師を紹介してくれたからだ。第一家は医療と薬学に通じる家系。セリオーソ自身もわたしの病気に対しての有効な薬を、ずっと研究してくれていた。


 しかし当時はまったく改善が見られなかった。このままあと一年とひとつ分の季節が経てばわたしは成人となり、魔力的に優秀なわたしは、本家の後継ぎと決定してしまう。けれども残念なことにわたしは子供を設けることができない。だから後継ぎから外して欲しい、と。しかも、そのような病気を持っていたからだろうか、自分が男性としての自信を持てなかったせいかもしれないけれど、女性に対して魅力を感じることはそれまで一度もなかったのだ。


 両親も弟達も驚いて……それでも最後には納得してくれた。わたしの進む道は、アルマンドが魔法長官になったその時に、副長官として支える。ただそれだけとなった。


 そうして無事成人し、わたしは魔法副長官見習いとして働き始めた……が、正直、あの職場はきつかった。何が、と言うと、当時の魔法長官はテンペストーゾ様だったからだ。あの方はご自分にも厳しいが、他者にもそれは厳しい。アルマンドがそばにいればふたりで慰め合い、励まし合うこともできただろうが、当時その職場の若者は、わたしひとりであった。


 日々疲れ、体力的にも精神的にもすり減るような生活をしていたある日。

 突然、この国は、日本と時空が繋がった。

 何が原因か、どんな要因があったのかは未だ解明されていないが、とにかく繋がってしまったのは事実だ。


 大ニュースとなって国中が騒ぎ、時空の穴の前は連日人であふれ、もちろんわたしも興味を持って見に行った。コンクリートのビルが立ち並ぶ穴の向こう側で、大騒ぎしながら興味津々(きょうみしんしん)で(のぞ)き込んでいる日本人達が見えた時、突然わたしは「あちらに行ってみたい」と強く思ったのだ。そして時空の穴へ通う日々が始まった。


 その後、時空の穴付近が閉鎖され、関係者以外近寄ることができず、中を(うかが)い見ることができなくなってからも、わたしは何度も近くまで様子を見に行った。なんとか穴の向こう側が見えないか、あの時に騒いでいた人達の声がもう一度聞けないか……ずっと()い願っていた。


 研究が進められ、穴の中を人が通れると分かってから、セリオーソの叔父上殿が日本との外交責任者になったと聞き、彼に頼み込んで日本の様子や、あちらに住む人々の話をたくさん聞かせてもらった。あまりに熱心にセリオーソの叔父上殿の所へ何度も通うので、二年後の冬の終わり頃、本格的に日本との交流と交易をするためにゲートを設置しようということになった時、彼から「設置メンバーに入るかい?」と声をかけてもらえた。


 躍り上がって喜んだが、ただひとり、テンペストーゾ様だけが反対した。一年後にはアルマンドが入庁してくる。それまでにやらねばならないことがあるはずだ、異国に浮かれている場合ではない、と。


 それでもあきらめきれなかったわたしは、その反対を押し切って、アルマンドが入庁するまでの一年という約束で、ゲート設置初期メンバーに入れてもらった。


 そしてそこで、蘭々と出会ったのだ。


 蘭々は当時、大学三年生。次の春には就職活動をしなければならないけれど、教授に気に入られて「このままわたしの秘書にならないか」と誘われていたらしい。

 蘭々の母親は長い間、入退院を繰り返していて、働きながら介護する父親はかなり手一杯の生活をしていたらしい。蘭々としては卒業後に一般企業へ就職することによって、母の介護をしたり家事をしたりする時間が減るのは困ると正直考えていたとのことで、週三日勤務の教授秘書は魅力的だったと言っていた。


 その教授は地質学を専門としていて、時空の穴ができた時に真っ先に地面を研究しようと連日穴の前で()い、穴の中の安全が確認される前から、うっかりすると穴の中に入り込んでしまうほどだったと言う。わたしが毎日のように穴の前に通っていた時、その向こう側で騒いでいたのは主に彼だったと、その時に分かった。そして授業を休講ばかりしてサボりがちな教授を、大学に連れ戻すために何度も来ていたのが蘭々だったと。戻りたくないと渋り駄々をこねる老教授を笑顔と優しい声でなだめすかし、立ち上がらせることに成功する技を持つ彼女の姿を、はっきりと思い出した。


 そこでようやく気付く。わたしがなぜこんなにも日本に来たかったのか。

 それは蘭々に会いたかったからだ。


 日本の様子を知りたくて、セリオーソの叔父上殿の所へ何度も通った理由は。

 蘭々に繋がる何もかもが知りたかったからだ。


 そう気付いたわたしは、突如(とつじょ)、蘭々に対して猛烈に求愛を始めた。その頃には治療も少しずつ効果が出てき始めていて、きちんとした性行為こそできそうもなかったけれど、ほんの少し男性としての自信を取り戻しつつある時期だったのも幸いした。

 何より女性に対して興味を持ったのが初めてで、これを逃したらもう二度目はないと思い、押して、押して、押しまくったのだ。


 ところが彼女は病身の母親を置いて、あるいは介護しながら働き続ける父親を置いて、異国に嫁ぐわけにはいかないと、悲しそうに、そして少し笑顔で首を横に振った。


 それでもあきらめられなかった。

 何を捨てても彼女だけは手放せない、そう思った。

 そして王都に戻り、アルマンドとアンティフォナの前で頭を下げた。

 「許して欲しい、結婚して日本へ移住したい」と。




** ** **




 夫の話を聞いていて、私――蘭々は、当時のことを思い出していた。


~~~~~~~~


『きみが好きなんだ。どうか俺を選んで欲しい』


 薄茶色の瞳が強い意志を表している。

 それにうっかり負けてしまわないよう、思わず視線を外した。


『無理よ……私は両親を捨ててコントラルト国へなんて行けやしないわ』


『……俺が日本へ来るならどうか? そうしたら俺を選んでくれるか?』


 夢を見たことがある。

 そんなあり得ない夢を。

 そう、私だって本当はあなたと一緒にいたい。

 でも……それは叶わないと知っている。

 夢は、夢でしかない。


『できないことは言わないで。あなたは貴族だわ。環境も常識も違う日本で働いて生活していくなんてできるわけないし、働かないあなたを養っていく経済力は、うちにはないの』


『できないと決めつけないでくれ。どうやったら解決できるのか、考えて方法を探っていくことはできないのか。初めから無理だと言っていたら何も解決できない』


『それはそうかも知れないけど……』


 お願い。

 振り回さないで。

 私……あなたを、あきらめられなくなってしまう……。


『考えろ……何か方法はあるはずだ……あきらめないで探せば、きっと何か……俺は第三家の本家の者だ、発想の第三家なら絶対に良い案が見つかるはずだ……』


 彼が独り言をつぶやき始めた。

 彼の手に掴まれた私の両肩が、強い痛みを感じる。

 まるで命の際にいる者が、たった一本のロープにしがみつくような、絶対離すものかという執着を感じて。

 私まで希望に(すが)ってしまいそうになる。


 陽の光が当たってあなたの髪が金色に光る。

 ギラギラと押しつけがましい(まぶ)しさはなく。

 暗い所では落ち着いた茶色に見える、穏やかな琥珀(こはく)色。

 それが風にふわふわと揺れ、陽の光に透けてそよいでいる。

 一度で良いから、その柔らかそうな髪に触れてみたい。


『待っていてくれ。必ず、必ず何か良い方法を探してくる。きみのいない人生はもう考えられない。弟や、その婚約者や、親友、それから父……色々な人に相談して、きっと解決策を見つけてくる。だから、それまで待っていて欲しい。お願いだ』


『レチタティーヴォさん……』


 両方の手を握りこまれた。

 強い力。

 あなたの決意が伝わってくるような。


 私、信じても良い?

 あなたと一緒にいられる未来があると。

 そんな夢のような未来を、迎えられるかも知れないと。


『好きなんだ。ララさん、お願いだ、俺のものになって。俺を選んで欲しい』


『もしも……もしも叶うなら……私も、あなたと一緒にいたい……』


『ララさん!』


『待ってる、私、待ってるから……』


『必ず、必ず解決して迎えに来るから! 絶対に待っていてくれよ!』


『うん……! ごめんなさい、あなたに全部背負わせてしまうわね……あなたばかりに負担をかけて、私は自分の環境を何ひとつ変えたくないだなんて……我がままだと分かってる……でも、許して……ごめんなさい……』


『良いんだ、良いんだよ。大丈夫、安心して。絶対になんとかするから。だから泣かないで笑って?』


『レチタティーヴォさん……』


 その日、私は初めて彼の琥珀色の髪に触れた。

 思った通り柔らかな手触りで、ずっと触っていたかった。

 彼の首の後ろに腕を回したまま、私は彼の厚い胸に(すが)りついた。


 その日から二か月……文字にするとたったそれだけの短い時間だけれど。

 彼からの連絡を待ち続けた私にとっては、それはとても、とても長い時間だった。

 いつ来るのか分からない連絡を待つのは、終わりの見えない戦いをするような気持ちで。


 彼の言葉だけを信じて、信じ続けて、待っていた。

 あの時の、彼の髪の手触りと、熱く厚い胸と、私を抱きしめた力強い腕だけが心の()り所だった。

 息が苦しいくらいに抱きしめられた、あの時の感触だけを心の支えとして、私は待ち続けたのだった。

今日から間章3の始まりです。

お待ちくださっていた方、ありがとうございます。


今回のお話は、親世代の愛と青春の物語です。

皆で手を取り合い協力しあって、様々な困難に立ち向かい、それらを乗り越えようとした末の過ちで、ソラが特殊な環境にて産まれた、という内容になっております。

お付き合いいただけたら嬉しいです。


次回更新は10月10日(水)です。

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