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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第三章 ソラと自然の綺麗な魔流
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13.終わりの儀式

 その後は特に問題もなく、想定時間内の十時半前には拠点に到着した。昨日の岩場アタックが自信につながったのか、マドリガーレも危なげない足取りで山道を登っていった。時折ぐらつくことはあったが、彼女の普段の足元の危うさを考えれば致し方ないことだろう。


 途中の休憩時に「そう言えば、昨日の午後から祓いを一度もしていない」と気づいたことを言ってみたら、フリオーゾが口元をほころばせて教えてくれた。曰く、今回の視察は祓いを体験すること以上に、自然の雄大さと厳しさを感じることが重要なのだと。そして自然を敬うことを教えるのが一番の目的、と言われ、なるほどと納得した。


 途中、周囲を高い岩場に囲まれて低い樹々しか生えていない場所で、突然何かが頭上を飛び、反対側の岩へと移って(うな)り声を上げたことがあった。ユキピョウだと教えてもらった。ユキピョウは全身白い体の猫科肉食獣らしく、豹のような模様が薄っすらと身体を覆っていた。それが、人間を警戒して唸っている。フリオーゾが「子供が近くにいるのやも知れぬ」と言い、皆で足早に歩みを進めた。ユキピョウはこちらをじっと見つめたまま、俺達が通り過ぎるのを待ち続け、見えなくなるほど遠くに去るまでずっと警戒を続けていたようだった。


 そんな風に、動物だって親は必死で子供を守る。命の営みを、この旅で学ぶことができた。

 今回、視察に付き添い、体験ができて本当に良かった。それもこれも、五月の連休の時に、偶然出会った元老院の議長が「視察についてくるように」と言ったからだ。あの時は「こっちの都合も聞かず勝手に決めやがって」と思ったけど、結局は彼の言うとおりにして良かった、ということになる。結果オーライといったところか。


 ロッジ風の山小屋に入ると、お昼ご飯までは自由時間とのことだったが、終わりの儀式に参加するなら、体力的に余裕があれば、歌をもう一度さらい直した方が良いと言われ、願ったり叶ったりだと喜んで教えてもらった。初日の夕方に習ったきりだったので、あの時には歌えるようになったと思ったけれど、けっこう怪しくなってしまっていることが分かって慌てた。あと一時間半程度で覚えなければと頑張って覚える。


 それから三十分ほど経った頃、ソファで俺の練習風景を見ていたマドリガーレの首がかくんと倒れたので、うたた寝をしたのだと思い、毛布を借りてそっとかけてやった。


 そして気づく。

なんとなく、彼女の顔が赤いような気がする。

 そっとマドリガーレの頬を触ると、少し熱い。


「パストさん、マーレ、熱がある」


「そうなのかい?」


 パストラーレが慌てて近寄ってきて「マーレ、ちょっと触るよ、ごめんね」と言って首筋にそっと触れた。


「うん、確かに熱があるね。なんとなく三十八度くらいはありそうな気がするよ」


「そんな……!」


 フリオーゾが世話人達に食事時間を前倒しにするよう伝え、それからこちらへやって来た。


「無理もない……五家の本家のお嬢様が、普段歩くことすら碌々(ろくろく)しないのに、このように三日間も長時間歩きどおしだったのだから。いくら物質軽量化魔術を使用して身を軽くしていたとは言え、彼女にはきつい旅であったのだろう」


 その時、自分の周囲が騒がしいことに気づいたのか、マドリガーレがゆっくりとまぶたを持ち上げた。


「マーレ、大丈夫!?」


「ソラ……私……」


「疲れで熱が出ちゃったみたい。大丈夫? お水、飲む?」


「うん、欲しいわ……」


 水を作ってコップに注いでやり、彼女の口元にそっと当ててやると、マドリガーレはこくんと少しずつ飲み進めていった。


「マドリガーレ殿。熱が出てつらいところを申し訳ないが、昼食の後に終わりの儀式を行うことになっておる。ここまで登ってきたイントラーダが、食事もせず碌々休憩も取らずに儀式の踊りを行えば、今度はイントラーダが倒れてしまうであろう。それを防ぐためにも、昼食をとってから終わりの儀式を行うという決まりがあるのだ。食事時間を早めるよう世話人には伝えたから、どうか勘弁してくだされ」


 フリオーゾがそう言うと、マドリガーレは口元に微笑みを浮かべ「気にしないでください。こちらこそご迷惑をおかけしてすみません」と言った。無理をしているのが分かる。


 パストラーレが俺に「土魔法を使って、彼女の身体に元気を与えるようにしてごらん」と言った。


「くれぐれも生命力を使うことの無いよう、でも彼女の病が早く治るよう、願いを込めて免疫力活性化のための成長促進魔術と、体をリラックスさせるよう安眠の魔術を使うんだ。僕がここで見守っているから、ソラ、試してごらん」


「はい……マーレ、成長促進魔術、と安眠の魔術、かけるよ?」


「待って……安眠の魔術は、家に帰るまでしないで。終わりの儀式、私も参加したいの……お願い、ソラ……」


「こんな状態で終わりの儀式に参加するつもりなの? 良くないよ、ここで休んでた方が良いと思うよ」


「お願い、ソラ。この旅を、最後まで続けたいの。途中であきらめるのは嫌。ここまで来たのだもの。最後までさせて」


「でも……」


 俺は周囲に助けを求める。

 パストラーレ、フリオーゾが困ったような顔をしていると、イントラーダが「分かるわ」と言い出した。


「分かるわ。私も、もしこんなことになったら、最後まで踊らせて欲しいと言ったと思う。自分の役目を途中で放り出したくない。ましてや長官候補のソラが参加するのなら、副長官候補の自分が投げ出すわけにはいかない、そう思ったのでしょう?」


「ええ、そうよ……イントラーダさんの言う通り……私、ソラと一緒に歩くのだから……私だけ経験していないということに、なりたくないの……」


 イントラーダの言葉にマドリガーレがうなずく。

 こうやって話しているだけでつらそうなのに、儀式で歌うのなんて無理ではないだろうか。

 ましてや魔法陣に魔力を送るだなんて。


「ねえ、だから提案。彼女の言い分とみんなの心配の間を取って、彼女には屋上で毛布にくるまって長椅子で横になってもらい、歌だけ参加してもらったらどうかしら。魔法陣に手を置いて魔力を送らなくても、歌は祈りとなって天に届くわ。ねぇ、どう? 私、あなたの分も祈りを込めて一生懸命踊るわ。それで我慢してくれない?」


 イントラーダの提案に、俺は飛びついて大声を出した。


「賛成! 俺、マーレの分も頑張って歌う! 一生懸命祈りを込めて、世界の平穏と平和を願って歌うから!」


 そう言ったら、パストラーレが「世界の平和まで願うのかい? ソラは凄いな」と笑った。

 そして皆で笑った後、マドリガーレが了承してくれたので、前倒しで食べた昼食後、お茶を飲む時間を削って早めに終わりの儀式を行ったのだった。




** ** **




 世話人の三人が快く長椅子を屋上まで上げてくれた。礼を言い、マドリガーレを屋上へ連れて行く。物質軽量化魔術は他者にかけてはいけないことになっているが、毛布にくるまったマドリガーレが自分自身に魔術をかけたので、羽のように軽くなった彼女を抱いて階段を上るのは俺でもできた。パストラーレが「良いなあ、ソラ、僕もアリィをそうやって姫抱きして歩いてみたいよ……結婚式までお預けかなぁ、ずるいよぉ、ソラ」とうざかったので、まるっと無視した。


 屋上へ着くと階段のそばに設置してもらった長椅子にそっと彼女を降ろし、寝かせる。「一生懸命歌うから、マーレも一緒に歌ってね」と言うと、彼女はふわっと笑ってこくんとうなずいた。


 イントラーダが靴を脱いで裸足になる。フリオーゾと共にパストラーレと俺も裸足になると、借り物の杖を手に取って、習った呪文を唱えながら床にコンと当てて伸ばした。細い金属製の飾りがシャラシャラと鳴り、大きな飾りが陽の光に反射してキラキラ光る。


「それでは始める。全員、配置について」


 フリオーゾの言葉に、俺とパストラーレはイントラーダを頂点に正三角形となるよう魔法陣の端で(ひざまず)き、手のひらを魔法陣に当てて魔力を流し始めた。フリオーゾが抑揚をつけて祈りの言葉を唱えながら、魔法陣の中央で杖の底を床にドン、ドン、と何度も打ち付ける。


 やがて三角形に位置した三人の魔力がそれぞれ魔法陣の反対側の端までたどり着くと、魔法陣は輝きを増す。ここでフリオーゾとイントラーダは場所を交代した。イントラーダが胸の前で指を組んで目を閉じ、瞑想をした後、立ち上がった瞬間からフリオーゾが歌い始めた。それに合わせてパストラーレと俺も一緒に歌いだし、イントラーダは舞い始めた。


 大自然に感謝をしよう。

 大いなる存在に生かされていることを忘れないように。

 恵みの雨や穏やかな陽の光に祈りを捧げる。

 あらゆる生物と共に生きていくと心に留めよ。

 吹く風に身をさらし、自然の息吹に心を開き、あらゆる生命に想いを馳せよ。


 三角形を成す三人で、歌いながら杖をドンと突き鳴らす。もう片方の腕は円を描くように回し、伸ばし、上から下に降ろす。杖を鳴らすたびに飾りがシャンと鳴り、杖の底から魔法陣が光り輝き、波紋のように広がっていく。


 教室より少し広いくらいの大きさの魔法陣の中央で、踊るイントラーダが跳ねて着地をすると、そこから光が波紋のように広がり、三方から来た光の波と交差して綺麗な模様を描いた。


 魔法陣の端まで届いた光が、更に外側にこぼれるように弾けてキラキラと消えていく。空中で舞い散る光は、イントラーダのマントがひらりふわりと回り揺れるのに合わせて流れてゆく。


 なんて綺麗な光景なんだろう。

 本当に神秘的だ。


 三人の男が力強く朗々と歌い上げるのに合わせ、長椅子からマドリガーレの高い声が響く。熱があるのにもかかわらず、綺麗な歌声を懸命に出していると感じた。


 俺はマドリガーレに、やめろだなんて言わない。

 無理だからやめておけなんて言わない。

 彼女は俺と共に往くことを決めたんだ。

 それならば、どうやれば一緒に往けるか、考えれば良い。


 マドリガーレ、一緒に往こう。

 共に歩もう。

 そう、手を繋いで、同じ速度で、同じ道を、横に並んで。


 イントラーダが最後の跳躍と共に立て膝でしゃがみ込み、両手を床に付いた。

 四人は歌を終え、男三人が杖をゆっくりとドン、ドン、ドンと三回鳴らす。装飾がシャララ……と揺れ音を鳴らし、それがやむ頃、床の魔法陣の最後の波紋も徐々に消えて――。


 俺は祈った。

 世界の平穏を。


 俺は願った。

 世界の平和を。


 俺は祈った。

 人々の幸せを。


 俺は願った。

 この世の全てが、その生を全うできるようにと。


 すると。


 身体が熱くなり、手のひらから力が魔法陣の方へどんどん吸い取られていくような、そんな不思議な現象が起きて――。

マーレは熱を出してしまいました。

でも疲れているだけなので心配しないでくださいね。

隣を歩いていくことを心に決めたソラとマーレ。

そしてソラは祈りを捧げ……

次話を楽しみにしていただけたら嬉しいです。


次で第3章の最終話となります。

最終話とエピローグの2話、同時更新予定です。


次回更新日は9月26日(水)です。

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