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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第三章 ソラと自然の綺麗な魔流
92/130

12.もう迷わない

 昨日と同じ、朝四時四十分集合だったが、目が覚めたら四時半だった。あと十分しかないと慌てて支度をする。少し体がだるい気がしたが、朝のストレッチは超短縮バージョンにして食堂へ行った。今朝はもうあきらめて、最初からリボンタイは結ばずに行く。黒と銀のタイを差し出し、ねだるように「てへ」と笑うと、マドリガーレは快く俺の首元に結んでくれた。

 メッチャ役得。


 パストラーレが「ズルイ! 僕は結婚したら、舞踏会の時、アリィにタイを結んでもらうのが夢だったのに、ソラはもうマーレから結んでもらってる!」と騒ぎ立てたので「うらやましいでしょう?」と得意げに笑って見せたらメチャクチャ騒いでうるさかったので、全てスルーして放置した。

 イントラーダが楽しそうに笑っていたので、良かったと思う。


 朝の儀式を始めるために屋上に行くと、フリオーゾが「ちょうど良い時間だ」と言った。

 西の稜線辺りはまだ夜の色だが、頭上はもうずいぶん明るくなり、お互いの顔がはっきり見えるくらいになってきている。東の空にすごく綺麗な(だいだい)色の線が一本走っている。

 フリオーゾとパストラーレとマドリガーレが歌い、イントラーダが魔方陣の中央で踊る。昨日の朝と同じはずだが、明けつつある夜空の下で行われる儀式で散る魔素は、いっそう光り輝いて美しかった。


 たった二分か三分程度の儀式を終えて、皆が立ち上がった時。


「東の空を見よ」


 フリオーゾが宣言するように言った。


 もう間もなく朝陽が昇る。

 きっとそうだ、見たことないけど、それが分かる。

 儀式を始める前よりも、もっと東の空のオレンジ色が増している。


 マドリガーレと手を繋ぎ、固唾(かたず)をのんで見つめていると。

 雲海の向こうにあるオレンジ色の中央に、黄金の点がポツッと見えた。

 見る見るうちにそれが大きさを増し、あっと言う間に丸い太陽が姿を現す。


「わぁー!」


 全員から思わずといったように感嘆の声がこぼれた。

 俺達五人だけでなく、世話人の三人も一緒になって御来光を眺めている。


 太陽の周囲はほんの少しだけ黄色、その周りがオレンジ色、そして(あか)く広がる空。

 暗かった夜空はどんどん姿を消し、薄い水色となり、やがて朱色に染まっていく。


「朝陽が昇るところなんて、初めて見たわ……」


 マドリガーレがつぶやくと、横でパストラーレが「アリィにも見せてあげたかったなぁ」とちょっと悔しそうに言う。「もっと早くアリィを補佐官補佐に就かせることができたら、今回も連れて来れたのに……」と俺をちょっとだけ見やった。


「ソラ殿は、まだ魔法長官の職に就くことをお迷いか?」


 フリオーゾの言葉に、俺は「いいえ」と答えた。


「俺、魔法長官になります」


 そうはっきりと宣言すると、周囲の人達がわっと沸いた。


「良かった! 私、なんでソラがそんなに悩むのか、ちっとも分からなかったの。だってソラは誰よりも魔法長官に相応しい資質を持っていると思っていたもの!」


 そう言ってイントラーダがはしゃぐ。


「ソラ殿は己を取り巻く全てに感謝し、敬う気持ちを知っておられる。自然も人も何もかもを、愛しみ育める魔法長官となれるであろう。決意されたこと、お慶びを申し上げる」


 フリオーゾがそう言った。


「フリオーゾさん、ありがとうございます。今回の旅で、俺はたくさんのことを経験しました。そのどれもが、自然の調和がとれなければ人も生きられはしないと、身に沁みるできごとでした。人はちっぽけで、自分ひとりの力だけではできないことばかりです。でも一緒に力を合わせることができる人がいれば、困難も乗り越えられるし、サポートしてくれる周囲の人達がいれば、目の前の出来事だけに集中できるから大丈夫、そう思えるようになったんです。この視察に来られて良かった。フリオーゾさんが導いてくださって本当に良かったです。ありがとうございます」


 心から感謝して頭を下げると、フリオーゾが「なんの」と笑った。「こちらこそ、ソラ殿に大切なことを教わった。感謝する」と言ってくれた。

 その時、パストラーレが肩をぐいっと組んできた。


「ようやく決心したんだね」


「はい。今まで心配おかけしました。俺、自信なかったんです。魔法長官なんて地位を務められる気が全然しなかった。そんな責任負えない、俺の実力でできっこないって、そう思ってたんです。でもそうじゃないんですね。パストさん、俺が分からないことあったら教えてくれるでしょう? 間違ったことしたら違うよって言ってくれるでしょう? 叱ってくれるでしょう? それに……マーレが隣で一緒に歩いてくれるって思ったから。俺がひとりで頑張らなくても、マーレが一緒に頑張ってくれて、お互いに励まし合いながら進むことができるんだって、分かったから」


「ソラ……」


 繋いだ手に力を込めて、マドリガーレが輝く笑顔を見せてくれた。


「私がいる、いつでも隣にいるから。あなたにこちらの知識が足りなくても補うし、二年先に就職して見習いになるから、絶対に役立てるようになっておくわ。あなたがやりたいことをできるように、必ず場を整えてみせる。だからあなたは進めば良いわ、自分の行きたい方向へ。私は隣で、一緒に進むから」


「ありがとう、マーレ……」


 なんか涙が出そう。

 「そんなふたりを僕が必ず補佐し、導いてみせるからね」と笑うパストラーレと一緒に肩を組む。マドリガーレが俺の腕を取って身を寄せ、しっかりと腕を組んできた。


 三人で共に笑う。

 周囲に朝焼けが広がり、俺たちの顔も(あか)く染まっている。

 マドリガーレの(まなじり)に、キラリと光るものがあった。

 俺もそうかな。

 なんとか零れ落ちないようにしているけど。


 その時。


「見て!」


 イントラーダがふいに大声を出した。世話人の人達に抱えられて起き上がった彼女は西の空を指さし、驚きの表情を浮かべている。


 辺りはもうずいぶんと明るくなってきていたが、西の空の向こう側だけがほんの少し夜の気配を残していた。この山の西側には(もや)が下から上がってきていて、西側の山々を覆い隠し、空中に薄っすらと白い幕を張っている。


 その中央に。

 丸く薄い虹が綺麗に見えて、その中に三人の影が映っていた。

 中央の頭の影に寄り添うふたつの頭が見える。

 驚き離れると、その影もみっつに分離し、脇のふたつの端がぼやけて消えた。


「ブロッケン現象ですな。そなたらは本当に運が良い。天候を読んでこの日程を決めたものの、山の天気は変わりやすい、にもかかわらず、今まで雨に降られずに済んでおる。夕べは流星群を観察することができ、今朝は御来光とブロッケン現象。これはもう、大いなる何かが、そなたらの船出を祝福してくださっていると、思わずにはいられない。どうか迷わず進まれよ。そなたらの未来を儂も寿(ことほ)ぎ、祈りを捧げよう」


 パストラーレが俺の頭をくしゃくしゃとかき回し、マドリガーレが腕に飛びついて来た。

 先ほど離れたみっつの影は、再びひとつに寄り添う。


 フリオーゾとイントラーダが祈りの歌を捧げている間、彼らに見つからないように、俺はこっそりと目元を拭った。




** ** **




 昨日と同じ、六時には出発した。

 世話人の人達に丁寧にお礼を言い、彼らの祈りの歌を聞きながら歩き始める。今日は稜線を少し下り、その後は初日に出発した拠点、転移装置を備えた山荘に向かうのだ。標高三千五百メートルまで約三時間半のコースだそうだ。マドリガーレがどんなに遅くてもプラスで一時間から一時間半ほど見れば到着するだろうとのことで、お昼前には着くと言われた。


 稜線を下り始める。とは言っても、この辺りは昨日のような狭い場所ではなく、少し広めの草原のような感じだ。そう、草がたくさん生えていることからも分かるように、この辺りの地面はなんとなく土もたくさんあるようだ。ずっと岩場ばかり歩いていたような気がしていたが、昨日は気持ち的にいっぱいいっぱいだったし、途中で白い(もや)に包まれてしまったため、まったく気づかなかったのだろう。地面を這うように生えている草には花が咲いていて、色とりどりの鮮やかさが心を浮き立たせてくれる。いわゆる高山植物のお花畑というやつだろう。


 先頭を歩くイントラーダが「あっ」と言って歩みを止めた。


「見て! トッモーマがいるわ!」


 イントラーダが指し示す方向を見ると、地面から何やら動物が顔を出している。巣穴から短い前足を出して地面にかけ、鼻をひくひくさせている。可愛いな、なんとなく大きめのネズミかリスのようだと思いながら見ていると、穴の中からもう一頭出てきた。するりと全身滑り出ると、後からどんどんと小さな体が転がり出てきた。


「トッモーマの子供だわ! 初めて見た……!」


 大きな体の二頭は両親なのだろう。一頭が巣穴のそばで仁王立ち、周囲を警戒しているように見える。もう一頭は四匹の子供を連れて朝ご飯のようだ。青々した草をくわえ、もっしゃもっしゃと口を動かして食べる様子がなんとも可愛い。子供たちと違って親は前足を手のように上手に使って掴んで食べている。

 なんとものどかな風景だ。


 草を食べながらも、子供たちは互いにちょっかいを出し合い、草地を転げまわったり、岩の上に跳び乗っては転がり落ちたりしている。


「ソラ殿……人だけでなく、このような愛らしい生き物、すべての命を育む場を整えてくだされ……命の営みは、人だけではないのだ」


「はい、肝に銘じます」


 魔法長官になること。

 それは生き物すべての、命の営みを支えること。

 生活の場を整えること。


 マドリガーレと視線を合わせ、笑顔でしっかりとうなずき合う。


 俺はもう、迷わない。

富士山頂上で見た御来光が忘れられません。

生まれて初めてあんなに素晴らしい光景を見たと、涙が出るほど感動しました。


ソラの、魔法長官になる決意表明を朝陽の中でさせたくて、山に登らせました。

ソラの心に響いたであろう山の風景が、皆様に少しでも伝わっていれば嬉しいのですが。


次回更新日は9月24日(月)です。

皆様、良い週末をお過ごしください。

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