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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第三章 ソラと自然の綺麗な魔流
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8.全力で逃げる

 歩き始めてしばらくすると、すっかり霧が晴れて澄んだ青空が見えてきた。絶好のハイキング日和でわくわくする。


 なんだか全然機能的でないように感じたひらひら服装も、汗による不快感はなく手足の伸び縮みにも対応していて快適だ。靴も「編み上げショートブーツなんて、こんなので山歩きできんのかよ」と思ったけど、足先から足首までしっかり締められて固定されるし、ブーツの中はクッション性があるし、底は固くて凹凸(おうとつ)があり、ちょっとしたトレッキングシューズだということに気付いた。外見のおしゃれ感が強くて分からなかっただけだったらしい。お貴族様はこういう部分でもおしゃれに気を遣うんだな。


 これまたおしゃれな羽飾り付きの帽子を被って歩く。始めの一時間ほどはあまり登らず山を横へ移動しながら祓いをするらしい。それから一気に標高を稼ぐとのこと。今日は千八百メートルほど登るので頑張れと言われ、わくわくしながら足を進めた。


 二箇所ほど祓いをした後、そろそろ平坦な山道を終えて登りになると言われた時。

 突然、先頭のフリオーゾが足を止めた。


「……クゥーマがいる」


「えっ」


「静かに。まだ遠い。しばらく様子を見よう」


 周囲は高い樹々に囲まれた陽の光があまり届かぬ場所。横道に逸れていたため、本道のようにきちんとした道らしい道でもなく、陰の中でこげ茶色の塊がもぞもぞと動いているのが見えた。熊だ。日本の熊にとてもよく似ている。

 五人で固まり、クゥーマの方を見つめ続ける。


「この辺にはいないはずなのに……」


「先月まで繁殖期であった。相手を求めてさまよい、遠征してしまったのやも知れぬな」


 不安そうなイントラーダの声にフリオーゾが答える。可哀想に、マドリガーレは震えて足ががくがくしている。


「む、こちらに気づいたな」


「そ、そうね……でも、大人数だから逃げてくれるかも知れないわ……」


「そうさな。このまま去ってくれたらこちらも道を進めるのだが……」


 俺たちの願いもむなしく、クゥーマは少しずつこちらに近付いてくる。


「背中を見せず、そっと下がるぞ」


 フリオーゾに言われ、パストラーレと俺でマドリガーレの手を握り、静かに少しずつ後ろへ下がっていく。それでも近付いてくるクゥーマ。


 突然マドリガーレの手を離したパストラーレが後ろへ走り出し、二畳くらいの大きさの結界を地面付近に作って「早く乗って!」と言い出した。


「あのクゥーマ、黒い魔素が見える!」


 一瞬でフリオーゾが反応し、イントラーダを引っ掴んで結界の上に飛び乗る。俺も一瞬遅れてマドリガーレの手を引っ張り走った。俺達が飛び乗ってパストラーレの背中にドンと当たった瞬間、結界はもう少しだけ浮き上がり、全力でその場から逃げ出した。


「フリオーゾさん、重いです! 何キロあるんですか!」


 今や全力疾走して追いかけてくるクゥーマを、一瞬だけ振り返りながらパストラーレが叫んだ。


「これ以上スピード出せないし、浮き上がることもできない、くそっ!」


 フリオーゾがクゥーマの黒い魔素を焼き祓おうとして炎を出すけれど、少し距離があるせいかなかなか当たらない。それもそのはず、樹々の間を抜けるようにパストラーレが精いっぱいスピードを出して右へ左へと舵を取っているのだから。


 ようやくフリオーゾの炎が当たって浄化の炎が黒い魔素を焼き尽くしていったが、それでもクゥーマの勢いは止まらない。そのまま(うな)り声を上げながら俺達をガンガン追いかけてくる。


「興奮状態が取れないんだわ! もう黒い魔素はないのに!」


 イントラーダが叫ぶと、フリオーゾが今度はクゥーマの前に土の壁をドンと築いた。そこにそのまま突進するクゥーマ。何度も追突する間に少し距離を稼げた。このまま逃げ切れるかと思いきや、クゥーマは咆哮(ほうこう)を上げて土壁を壊し、そのまま口から泡を吹いて駆けてくる。


「なんでー!?」


 イントラーダはもはやパニック状態だ。

 マドリガーレは結界の上で真っ青になって今にも気を失いそうになっている。


「くそっ、このままじゃ、こっちの魔力が切れちまう!」


 パストラーレがこめかみから汗をひとつたらした。

 俺は訳も分からずおろおろするばかりで、何をどうして良いのかさっぱり分からないまま結界の上でマドリガーレを抱えていた。


「やった、水の上に出たぞ!」


 パストラーレが喜びの声を上げた。

 先ほど、祓いをしたのはこの上流だ。膝下ほどもない深さの川で、ごろごろした石が澄んだ川底にあるのが見え、そこに水の流れが当たって水しぶきを上げるのを見て楽しみながら歩いた場所だ。


「パストラーレ殿、水の上なら何か策があるのか!?」


 フリオーゾの問いに、しばし悩んだパストラーレは「無かった!」と叫んだ。


「今、逃げるのに精いっぱいで、水魔法を操るなんてできなかったよ! くそう!」


 パストラーレが川の一メートルほど上空を滑るように飛ばして逃げる結界の上で、俺は必死に考えた。


 水。

 水で有効な魔法は。


 クゥーマが川の中をがむしゃらに走って追って来る。


「なんでスピードが落ちないんだよ、あのクゥーマ! 川の流れを(さかのぼ)ってるのに! しかも足元は大きな石がごろごろしてるし、こっちはずっと時速五十キロメートルくらい出してるのに!」


 パストラーレが叫ぶその横で、フリオーゾが土魔法で川底の石を動かして飛ばし、クゥーマに何度も当てているが相変わらずクゥーマのスピードが落ちない。かえって目のギラつきが酷くなり、咆哮を何度も上げながら狂ったように走り続けるのだ。


 水。

 水の中で有効な方法とは……


 そうだ、水の中なら電気を流したら気絶してくれるんじゃないか!?


 とりあえず何でも試してみようと思い、瞬間的に電気を手のひらの上で作ろうとした。理論はよく分からない。でも多分電気って、雷みたいな感じだろう。雷……雲の中で細かい氷粒が高速でぶつかり合い、どんどん帯電していく……みたいな感じだったか、と想像した時、手のひらが熱くなったのでそのままクゥーマの足元に向かってバッと手を開いて腕を伸ばすと、練り出された魔力がバチッと一直線に放出された。


 時間にして一秒もなかっただろう。

 ほんの一瞬。


 それだけの短い時間で目標に向かって飛んだ電流は、狙い(たが)わずクゥーマの足元の水面に当たり、四肢から脳天に向けてショックを受けたようにクゥーマはバチンと身体を跳ねさせた。

 そしてドウと倒れ込む。


 浅い川の中央で仰向けに倒れたクゥーマをしばらく眺めた後、フリオーゾが停まった結界の上からそっと降りて近くまで様子を見に行った。そしてしばらく観察した後、こちらを向いて「完全に気絶しておる」とホッとした表情で告げた。




** ** **




「すごい! ソラ、あなた、勇者だったんだね!」


 先ほどからイントラーダは大興奮だ。

 軽く口調が変化している、本人は気付いていないかも知れないが。

 道に戻って先を急ぐが、この辺はまだ川沿いを歩く軽い下り道で登り口までもう少しある。そのため歩きながらおしゃべりが容易だということも合わさって、イントラーダのおしゃべりは止まらなかった。


「私は日本にとても興味があって、できるだけ毎週末、時間を作ってゲートの側にある日本館に行くんだよ。色々な資料や展示品があってどれもみんな興味深く見てるんだけど、なかでも子供にも人気のコーナーがあってそこはいっつも人があふれているんだ。そこで何度も見たのがゲームというもの! モニターでデモプレイが流されていて、すっごく楽しいんだよ! ソラはゲームやったことある? 私が見たのは主人公である勇者の男性だけが雷系の魔法を使ってモンスターをやっつけながら仲間と一緒に旅をしていくって物語のものと、それから愛らしい黄色いネズミのモンスターが主人の命令通りに雷魔法を出して対戦相手のモンスターと戦って成長していくっていうゲーム! 両方とも主人公が雷を使うってのが共通してるでしょう? 日本では魔法は使われていないって言うけど、本当は勇者がどこかにいたからこうして伝説になって子供に物語として見せているんじゃないのかな? ねぇ、そうなんじゃない? ソラ、どうなの? ソラが雷魔法を使えるんだから、きっとそうだよね!」


「あはははは……」


 完全にゲームの世界と日本の現実世界を混同しているイントラーダに乾いた笑いが漏れる。先ほどから何度も「それは現実ではなくゲームの中の話だ」と言っても聞いてもらえない。自分だってどうして習ってもいない雷魔法を使えたのか分からないけど、とにかくそんな魔法は日本にはないし、ましてや自分は勇者なんかではないと言っても信じてもらえないのだ。


 それというのも。

 こちらで雷魔法を使えるのは“大魔導士”と呼ばれるような人だけだということらしいからだ、と。


 こちらの魔法は基本魔法が四種類、水、土、風、炎、だ。

 この基本魔法を使う方法は二種類ある。


 ひとつは自然の中に四種類の魔素があふれているので、そこから魔素を取り込んで自分の力に変えて魔術を行う、というもの。

 いわゆる魔術の訓練とはこちらを指すことが多い。自分自身の持てる魔力などたかがしれているからだ。


 もうひとつは、自分の身の中にあるその属性の魔力を使って魔術を行使するというもの。

 こちらは自身が身体の中に元々備えている魔力のみを使って魔法を行うのだ。


 五家の中では持てる力に特徴があって、第一家なら水、第三家なら風、というように元々多く持つ魔力属性がある。その属性魔力ではほとんど訓練しなくても魔術が簡単に行えるらしい。俺も風魔法の練習はとても楽ですぐに成功した。


 だが他の四つの属性は持てる魔力が少ないため、外から魔素を集めてきて自分の元々持っているその属性の魔力と合わせてから魔術使用となるため、とてもたくさんの魔法訓練が必要になる。


 ただし無限に魔素を取り込む方法の魔術はできないとのこと。元々持っている自分の身の中にある魔力と合わせて魔法を行うという方式のため、自身の内包魔力を使い尽くしてしまえば、いくら外から取り込んでも練り合わせることはできないからだ。結局、自分の持てる力が大きい人が大きな魔法を使えるということになる。なので、幼い頃からの魔力訓練が必要なのだ。なかなか大変だ。


 だがしかし、この基本魔法などは序の口だ。

 世の中には複合魔法というものがあるとのこと。いわゆる上位魔法だ。


 そのひとつが氷魔法だ。

 結界を立方体か球体で作る。その中に水を入れ、それから風魔法で結界の中の空気を抜く……と、中が真空状態になって水が沸騰する……らしい。するとなぜかその後、水は急激に凍る……というのだが、何度説明を聞いてもどうしてそうなるのか、よく分からなかった。

 まぁ、結局、原理はさっぱりだけど、氷魔法は風魔法が主体の、水と結界との複合魔法ということらしい。


 雷魔法は、その氷を使用して発生させるとのこと。結界の中で小さな氷粒を、風魔法を使って超高速で何度も激しくぶつからせ帯電させた後、雷を落としたい対象の前に土魔法で伝導率の良い鉱石を作ってそこに向かって狙いを定めて発射するというのだ。


 ということで、俺は氷魔法を使用してから雷魔法を行ったらしいのだが、どちらも練習したことも、ましてや知識として聞き及んだこともなかった。だから今回、なぜできたのか、俺にもさっぱり分からなくてとても混乱している。


 氷魔法を操れる人は少なく、五家の本家に近い血筋でなければなかなか難しいということらしいし、それをなんとか帯電させることまではできても狙いを外さずきちんと当てることができる人はそうそういない、とのこと。つまり、帯電させた電気を発射しようと結界を外した途端、四方八方どこに電気が散ってしまうのか分からないというのがこちらの多くの人の悩みらしい。命中率を上げるために霧で通り道を作る工夫もあるらしいが、そこまでしてもなかなか目的物に当たらないのが現状らしかった。


 だから俺が電気を発生させ、狙ったとおりクゥーマの足元に当てた、ということが凄い、と皆は言うのだ。でも俺は霧の通り道なんて作った覚えはないし、ましてや結界の中で氷を作ろうとした覚えもないから、結界をはずす時の工夫もしていないのだ。当たったのは偶然じゃないだろうか。


 ちなみに、イントラーダだけじゃなくてパストラーレもマドリガーレも、この件に関しては興奮度が物凄い。マドリガーレは俺を褒め称えるし、パストラーレは今度研究室でやって見せてくれとうるさい。


 ただひとり、フリオーゾだけが静かに俺を放っておいてくれると思っていたら、急にイントラーダに話しかけた。


「イントラーダ、日本館へは、王都にあるものしか行ったことがないであろう?」


「そうなんです! 他のゲートの側にある日本館にも行ってみたいのに、ゲート前に行く転移装置への移動許可が出ないんですよ! 悔しいです」


 いつも人の移動にくっついて転移装置に乗っているから知らなかったけど、個人カードには行かれる場所の許可証が魔法で印字されているらしく、許可がない場所には移動できないのだとか。それはそうか、今回の山の頂上とかに勝手に来られても困るしな。

 それでこの国にある四箇所のゲートのうち、王都近くのゲートの前にある日本館にしか行かれないと、イントラーダは訴えているのだ。


「うむ。正攻法で行こうと思うからいかんのだ。ゲート前の転移装置に申請するのではなく、観光申請でゲートに一番近い街へ申請を出し、そこから自分の足でゲートまで移動すれば良いのだ。我ら第四家の者達にとって、移動など苦労のうちに入らぬであろう」


「ま、まさか、従叔父(おじ)さまは他の日本館にも行ったことが……?」


「うむ。全て訪れておる。どの土地の日本館も素晴らしい。特にゲームとアニメは素晴らしい日本の文化だと思うておる。ゲートによって公開されている映像が違うから、そなたが良ければ今度連れて行ってやろう」


「嬉しいです、従叔父さま! ぜひご一緒させてください!」


 キラキラした瞳でイントラーダが祈りの歌と踊りを捧げ始めた。

 あっけに取られて見つめていると、フリオーゾがこちらをくるりと振り返った。


「ソラ殿。そなたはやはり魔法長官に相応しい。その勇者としての資質、しかと見せていただきましたぞ!」


 熱い炎が彼の瞳の中に見える気がして、背中をひとすじ汗が伝った。


 後ろでパストラーレが「良いことを聞いた。今度アリィを誘って日本館へ行ってみよう」とにんまり笑っていて、マドリガーレは俺の腕を何度も引っ張り「ねぇ、日本館へ今度行きましょう! 雷魔法を自在に操る勇者の映像、見てみたいわ!」とキラキラお目々で笑っていた。


「あはははは……そうだね……」


 俺は、乾いた声で笑うことしかできなかった。

熊に追いかけられてしまいました。

熊は時速50kmくらいで走ることができるそうですが、作中ほど長時間は難しいでしょう。

あくまで創作物です、しかも異世界だし。

それから蛇足ですが、ソラの翻訳装置が勝手に「時速50km」としているだけで、速度単位も長さも違うと思います。


氷魔法の原理は、こちらを参考にさせていただきました。

http://mjdsk.jp/389

動画もあるので良かったら見てみてくださいね。


ドラ◯エは私の大好きな作品です。

勇者と言えばあの作品しか思いつかないくらいです。

ソラはちょっとまだ頼りないですが、今後成長して立派な勇者に育って欲しいですね。(笑)


次回更新は9月14日(金)です。

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