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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第三章 ソラと自然の綺麗な魔流
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7.一日目の宿泊所にて

 昼食後はそれほど変わったことは起きなかった。本道を歩いては時々横道に逸れ、浄化を行う。時折リスや鳥や山ネズミなどを見かけ、笑顔になった。一度だけ(いのしし)の群れが前方からドドドと走ってきたので、慌ててパストラーレが俺とマドリガーレを引っ掴み、足元に結界魔法を張って一気に十メートルほど飛び上がったのが特筆するくらいなものか。マドリガーレが淑女らしくなく「ぃぎゃああぁぁぁ!」と叫んだのには誰も突っ込まなかった。本人はそれどころではなく、突進してくる猪への恐怖と急激な飛び上がりに目を回しそうになっていて、悪くなった気分を落ち着かせるのが大変だったようだ。


 そうこうしているうちに、だんだん周囲が霧に包まれてきた。周囲の樹々も遠くまでは見通せなくなる。


 「マントを長くしますか?」というイントラーダの言葉にフリオーゾが「もう間もなく到着する。このままで良かろう」と答え「はぐれずに付いてくるのだぞ」と俺達に声をかけて先を急いだ。

 マントを長くする、とはどういうことだろう。そう言えばイントラーダのマントは腰丈の長さだが、始まりの儀式の時は足首まで覆うような長いものだった。着け替えたのかと思っていたが、これは魔法で伸ばすことができるのかも知れない。だとすると、自分が今着けているマントも伸びるのだろうか。


 そんなことを考えているうちに本日の宿泊場所へと到着した。標高千五百メートルほどだと言う。歩き始めてから五百メートルほどの高さを登った計算だ。しかし全然疲れていない。物質軽量化魔術のなんと便利なことか。

 洗浄魔術を軽くかけてから、それぞれの部屋に荷物が入っていることを確認する。驚いたことに狭いながらも個室だった。やっぱり貴族のお坊ちゃまやお嬢様は雑魚寝(ざこね)なんてできないのだろう。俺は個室なのに驚いたが、後で聞いたらパストラーレとマドリガーレは部屋が狭いことに対して驚いていたらしい。


 「夜着に着替えるのを自身でやらなければならない」と真剣な顔でパストラーレが、ぽつりとこぼしていたのが衝撃だった。覚悟を決めてこの視察に臨んだのだという決意が見られ、着替えくらいひとりでしたことがなかったのかと聞くと「高等部の頃、二泊三日で修学旅行へ行ったことがあるから、その時、事前にたくさん練習した」と言われた。マドリガーレは昨年だったらしく、ひとりでの着替えになんの不安もなかったようだが、パストラーレはもう何年も前のことで、すっかり忘れ果ててしまっていたらしい。今回慌てて使用人に習って、タイの結び方やらベルトの締め方を練習し、できるようになったと得意そうだったので、こっそり心の中であきれてしまった。


 そして先ほど疑問に思ったマントのことを聞くと、やはり魔法庁のマントは長さを変えられるらしい。普段は邪魔にならないよう小さく短くしておいて背中だけを覆う形にし、体を守る時は幅広で胸の前まで覆うようにし、長さは足首までぐんと伸ばせるのだという。

 マントには、汚れ防止、損傷防止、防寒防熱、衝撃軽減、水除け日除け砂塵(さじん)除け……と色々な魔術がかかっているらしい。これ一枚あればどこにでも行かれる便利品だとのこと。


 ちなみに魔法庁の制服も、一般人が着る服よりも華美でありながら機能的だとのことで、マントほどではないがこれも全て色々な軽減魔術がかかっているらしい。視察で山登りだというのに大人が皆、魔法庁の制服を着て来た訳が分かった。


 さて、宿泊所に到着したのはまだ午後の三時前である。夕飯は五時半頃とのことで、それまで二時間以上あるから疲れを取るためにゆっくりするようにと言われたが、俺は特に疲れを感じていなかったので、フリオーゾに頼んで終わりの儀式の歌を教わることにした。


 快く引き受けてくれたフリオーゾが歌い始めると、横でイントラーダが軽く踊る。それを真似してマドリガーレも踊り始めた。


 俺はというと、しばらく教わりながら口ずさんでいたが、古語なので意味がよく分からず言い回しも難しい。思い切ってイヤーカフ型の翻訳装置を外すと、まったく知らない意味の分からない言葉が聞こえたが、それでも節回しは変わらなかったので、外国語の歌を覚えるようにそのまま耳で聞きながら覚えることにした。

 決して物覚えの良い俺ではないのに、フリオーゾは根気よく付き合ってくれた。そして二時間みっちり指導を受け、なんとなく少し歌えるようになってきたところで夕飯の時間となった。


 夕飯の前にまたもやフリオーゾとイントラーダが歌う。食物の恵みに感謝する歌だ。なんだか敬虔な気持ちになって、それを黙って聞いた後「いただきます」と心から口にしていただいた。

 夕食はこの拠点でお世話をしてくれている三人が作ってくれた。王都生活と比べると格段に品数が落ちるが、山で食べるにはじゅうぶん以上に贅沢で心尽くしの料理だった。

 とても美味しかった。


 夕飯の後、七時過ぎに夜の儀式をする。一日無事に過ごせたことに感謝する歌と踊りを捧げる儀式だ。

 マドリガーレは学校で既に朝の儀式と夜の儀式を習って踊れるとのことで、このふたつは彼女が踊りを捧げることになった。パストラーレも朝と夜の儀式に参加するとのこと。マドリガーレは夕飯前に少しさらっていたので、明るい顔で、それでも少しだけ緊張した様子で屋上に上がった。「頑張って」と声を掛けると笑顔を見せてくれた。


 屋上に出ると周囲が霧に覆われていた。全員がマントを長くしている。俺は霧の水分を除けるため、他の四人は儀式に参加するためだ。第四家のふたりは自前の杖を持ち、借り物の杖を持つパストラーレと共に、魔法陣を三方で囲むように三角形になった。彼らが中に向かい膝をつき、中央でマドリガーレが素足で踊る。飛び跳ね着地をすると魔力が波紋のように光りながら広がり、他の三人が杖をドンと突くと同じように波紋が進む。三方から来る紋と中央からの織り成す紋が交差をし、美しい模様を作り上げていく。


 綺麗だ。

 神秘的な儀式も、霧が漂う様も、魔法陣の中心で踊る彼女も。


 魔力を視ると四人からそれぞれ魔素が光りながら立ち上り、センターで踊るマドリガーレの頭上で交じり合って渦を巻き、魔流となって上昇した後、上空で四方にふわりと広がって溶けていっている。


 ――こうやって、感謝の祈りを自然に捧げているのだな。


 なんて美しいんだろう。

 そう思い、感謝の気持ちを胸に部屋に戻った。洗浄魔術を行い、夜着に着替える。

 まだ八時前だったが、翌日の朝が早いのでベッドで横になった。

 こんなに早い時間だから眠れるかどうか分からないな、でもとりあえず目だけはつむって体を休めておこう。

 ……そんな風に思って掛布団を掛けたのだが、気が付いたら朝だった。




** ** **




 パチッと目が覚めた。

 時計を見ると朝の四時。八時間もばっちり寝ていた計算だ。布団から起き上がって伸びをし、体を少し動かしてみる。


 うん、疲れはない。


 四十分後に集合なので、とりあえずストレッチと柔軟体操を軽くして、夜着ごと洗浄魔術をかけた後、着替えて夜着をリュックに突っ込んだ。リボンタイを結ぶのだけは何度やっても上手くできない。縦結びになって曲がってしまうのだ。鏡を見ながらなんとか形になったと妥協したところで皆が集まる食堂に行き「おはようございます」と声を掛けた。

 皆からも「おはよう」と返事があり、振り向いた顔が皆、なぜか一様に怪訝(けげん)そうだった。


「ソラ、タイが昨日の赤のままよ?」


「え、これじゃダメなの?」


 見ると、マドリガーレが首に紫のリボン、その他三人は紫のスカーフを首に巻いている。


「あれ? 紫?」


「そうか、ソラは知らなかったんだね。こちらでは曜日によってタイやリボンの色を替えるんだ。昨日は炎の曜日だったから赤、今日は空の曜日だから紫」


「へぇ、そうだったんですか……いつも用意された服を大人しく着ていて疑問にも思わなかったけど、そう言えばタイの色は毎日違ってたな。あ、確かスーゾの初等部制服も毎日違う色のリボンタイ着けてたっけ。そっか、そっか。ああ、でもパストさん、普段はスカーフしてませんよね?」


「うん。魔法庁の制服はタイを必要としない形だからね。曜日の色味はハンケチーフや腕輪やブローチなどの装飾品で補っているんだ。でも今回は視察に装飾品が邪魔だし、ハンケチーフは落としたら代えがない。聞いてみたら自然部の人達は視察時にスカーフを使用していると教えてもらったから」


「へぇ、だから父さんも母さんも、タイをしてないんだな……あ、でも、空の曜日がなんで紫なんですか? 炎の曜日が赤なのは分かるけど」


 俺が疑問を口にすると、途端にパストラーレが身を乗り出すようにしてしゃべり出した。


「そうなんだよ。ソラ、曜日は七つあって、水、土、風、炎、空、星、陽、だ。それぞれ青、黄、緑、赤、紫、黒と銀、白と金、と対応している。水が青、土が黄、などは五家の色そのものだよね。そして五番目の空で紫が第五家の色なんだ。第五家の人達が発する魔力は紫だから、あの家の特殊魔法は空に関係するものなのかも知れないね……秘匿(ひとく)されていて知らされないんだけど。空を飛べるのかな? それとも天候を変えられるのかな? 天気を予測するとか……ね、ソラも知りたいよね? 僕はずっと知りたいと思ってるんだけど、第五家の人達はみんな口が固くて教えてくれないんだ。今度アンティフォナさんに一緒に聞いてみない?」


「いや……少しは知りたいと思うけど、内緒にしてるんだから聞いてもダメだと思うけど……」


「ふぅん、つまんないな」


「それより、星の曜日が黒と銀、陽の曜日が白と金なのはどうしてですか?」


「うーん、それもよく分かってないんだよねぇ。長い歴史の中で忘れられてしまったのかも。でもとりあえず、魔法長官の制服は黒と銀が基本だし、王家の服装は白と金だから、関係があるのかもね」


「なるほど、分かりました」


「ソラ、とりあえずタイを替えてきたら? もうすぐ朝の儀式が始まるわよ?」


 マドリガーレに言われて「そうだね」と部屋に戻り、荷物の中から紫のタイを慌てて着けて食堂へ戻った。(ゆが)んでいたタイを見てマドリガーレが笑い、白くて綺麗な手で結び直してくれた。


 朝からラッキー。




** ** **




 朝靄(あさもや)たち込める樹々に囲まれた宿泊所の屋上で、夜と同じように朝の儀式を行う。本日の日の出時刻は四時五十分頃で、そのほんの少し前から儀式を開始した。

 相変わらず参加できないのは俺だけだ。それがちょっと悔しい。朝起きてストレッチしながら昨日習った終わりの儀式の歌を口ずさんでみたが、曖昧(あいまい)な所だらけで落ち込んでしまった。まぁ、意味も分からず知らない言語を丸覚えしようとしているんだから、当然と言えば当然かも知れないが。


 四人の歌と舞で綺麗な魔流が空に昇っていくと、それが消える時に少しずつ霧が晴れていくような気がした。陽が昇り、辺りが明るくなってきている。霧が無かったらもっと明るいだろうし景色も見えるのだろうけれど、まだなんとなく薄暗くて寂しい感じの朝だ。

 そんな情景の中で、朝の儀式をする四人だけがとても綺麗だった。




** ** **




「お世話になりました!」


 宿泊所の三人に元気にお礼を言い、出発する。世話人の皆さんが俺達の無事を願うように祈りの歌を歌いながら送り出してくれた。時折振り返って彼らに手を振る。樹木に遮られて姿が見えなくなっても、まだ彼らの歌は小さく聞こえてきていた。無事を祈ってもらっているということが胸に温かく感じた。


 朝ご飯を食べているうちに霧はだいぶ晴れてきていて、今はもう陽が射すようになってきた。鳥の声もうるさいくらいに聞こえてくる。


 時刻は朝の六時。

 さぁ、二日目、今日が山登り本番だ。

 頑張るぞ!

ソラが視察生活を楽しんでいる様子を書いています。

皆さんも一緒に楽しんでいただけていたら嬉しいです。


次回更新は9月12日(水)です。

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