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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第三章 ソラと自然の綺麗な魔流
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6.初めての魔素祓い

 物質軽量化魔術は素晴らしい、体の疲れ方が全然違う。

 パストラーレによると、俺の魔術のかけ方は効率が悪いらしく、無駄に魔力を消費しているらしい。もっと少ない魔力で魔術発動できるはずなのだが、なかなか調整が上達しないので仕方ない。それでも元々の魔力の量が多いので困ることはないだろうと言われたのでホッとした。まぁ、足りなくなったら足りなくなったで、自力で登れば良いだけだ。せっかく足腰鍛えて体力戻す努力を毎日したのだから、少しくらい自分の足で登ってみても良いんだけどな、などと思いながら道をたどる。


 登る順番は、先頭がフリオーゾ、続いて俺、真ん中がマドリガーレ、その次がパストラーレ、最後がイントラーダとなっている。

 フリオーゾは本当にしょっちゅう後ろを振り返って、俺やマドリガーレの様子を気にかけてくれている。そして五分おきに足を止め、物質軽量化魔術をいったん解いて息を整え、再びかけなおすという作業をした。


 三十分ほど歩いたところで、フリオーゾが横道にそれた。とは言っても、まだ道は続いている。そのまま進むと大きな木がそびえ立つ場所に出た。根元が大きく割れ、中が広い空洞になっているようだが、枝の上の方は葉が青々と繁り、まだじゅうぶんこの木が生きていることを知らせていた。


「この木の空洞に溜まった魔素を(はら)う」


 フリオーゾがそう言うので慌てて瞳に力を籠めると、(うろ)から微かに黒い魔素が零れ落ちていた。


「ここはあまり風が通らぬ場所なのだ。そこにこの穴の開いた木があるので、中に魔素が溜まってしまう現象を起こしている。上部にも小さな洞があるので、そこから少しずつ漏れているため大事には至らぬが、定期的に祓っていかねば凶悪な魔流と化してしまうであろう。ゆえに、今回はここで黒い魔素を祓う様子を見せようと思う。心して見学するように」


「はい」


 フリオーゾとイントラーダが木を挟んで反対側同士で膝をついて座る。フリオーゾは荷物から外した腕の長さの杖をまたもや身長よりも長く変化させ、地面をドン、ドン、ドン、と突いた。そしてふたりで声を揃えて歌う。しばらく同じメロディを奏でていたが、途中からフリオーゾが副旋律を歌い始めた。綺麗なハーモニー。出発の儀式のように派手な動きはしていないが、ふたりとも腕の動きが舞っているような感じだ。


 ほんの二分ほどの歌であったが、美しい歌を聞き感動している俺達の前でふたりはすっと立ち上がった。フリオーゾが慎重に木に近づいて洞に手を当てる。


「魔流を視ているように」


 そう言ってから手のひらの中で炎の魔力を練り、それをゆっくりと洞の中に入れ込んでいく。大きな木の空洞の中でチリチリと音が聞こえ、それが下の方まで届くと中に溜まっていた魔素が炎に焼かれてオレンジ色に光っているのが見えた。


 フリオーゾが魔力を送り、炎で魔力を焼いていくと空洞から燃えた魔素が外にあふれ出て、上昇気流に乗ってゆらゆらと上っていく。先ほどまで黒かった魔素は今やすっかり色を失い、透明な輝きとなって小さくなり、やがて虚空に消えていった。


「これはまさしく“浄化”ですね……」


 パストラーレの言葉にフリオーゾは重々しくうなずいた。


「左様。(しか)るに我らは黒き魔素や魔流を“祓う”と表する。周囲の者たちは“追い払う”と思っているようだが、魔素も魔流も元は自然の一部であり、それそのものが悪ではない。溜まり(よど)んでしまったからこそ黒く変化してしまうだけの現象で、それもまた自然の摂理である。(いにしえ)の昔は誰も黒き魔流を祓うなどせなんだ。さすれば災害が起こるだけ。しかしその災害も自然の流れ。災害が起きればそこには魔流が溜まりにくい地形が生まれるだけなのだ。だが地上に人が住むようになり、鉱物や木材を得るために自然の中に立ち入るようになった。災害が起きれば人が困る。ゆえに黒の魔流を放置するわけにいかなくなったというだけなのだ。本来は自然のままにすべきところを、人が勝手に魔素祓いするようになった。全ては人の身勝手な行い。然るに、我ら第四家の者は自然を敬い、自然に感謝し、人が勝手をすることに(ゆる)しを請う。人が後々困るであろう魔素を見つけると、祈りの歌を歌い自然に捧げ、その後、魔素を祓わせていただくのだ」


 大いなる自然に、不躾(ぶしつけ)にもどんどん踏み込んでいったのは人間の方。

 自然に敬意を表し、祈りの歌を捧げ、赦しを請うてから、人間に不都合である魔素を祓わせていただく……。

 その考え方がすごく()に落ちた。


 力技で魔素を()ぎ払うのではなく、浄化の炎で祓う。


 今まで炎の魔力訓練は一番難しく、魔術遮断室でしか練習できないし、一番気難しくて扱うのが大変な魔法だと思っていたけれど。

 炎魔法のイメージがガラッと変わった瞬間だった。




** ** **




 本筋の道に戻って山道を登り続けると、しばらくして再び枝分かれした脇道があった。その分かれた方をフリオーゾが行き、もう少し進んでいくと、小さな滝がある開けた場所に出た。


「わぁ、綺麗!」


 マドリガーレが嬉しそうな声を上げる。

 五メートルほどの高さから落ちてくる水は滝つぼを経て、そのまま小川となって下流へと流れていくようだ。せせらぎの涼やかな音に耳を澄ませていると、フリオーゾが「ここで祓いを行う」と言った。


 慌てて瞳に力を籠めると、滝つぼの奥からなんとなく黒っぽい魔素が湧き出ている感じがする。だが魔流を視るのをやめると、そこには何も悪い気配が感じられない。


「ここは我らが祈りを捧げた後、おふたりに祓いをしてもらおうと思う。ソラ殿、マドリガーレ嬢、こちらへ」


「はい」


 いよいよ祓いをするのだと思い、ごくりとひとつ息を飲み込んだ後、フリオーゾの元へふたりで進んだ。フリオーゾは水際に立ち、静かに俺達を待っている。


「先ほどの(わし)の祓いを見ておったな? 自然との調和を感じながら手のひらの上で炎の魔力を練り、黒い魔素に向けて炎を送り出す。祓わせていただくと赦しを請う心を忘れるな。『俺がこの場を綺麗にしてやるぞ』などという傲慢(ごうまん)な気持ちを、ゆめゆめ持つではないぞ」


「はい」


「それでは祈りを捧げさせていただく。ふたりとも、魔流を視よ」


 イントラーダが躊躇(ちゅうちょ)なく小川の中へ入って反対側の岸辺へ渡っていく。先ほどと同じようにフリオーゾとイントラーダが滝壺付近で二方向から膝をついて座り、祈りの歌を捧げ始めた。


 フリオーゾの力強い歌声。

イントラーダの澄んだ歌声。

ふたりとも大声を張り上げている訳でもなく、朗々と歌い上げている訳でもないのに、なぜか周囲に沁み渡る。

心を穏やかにさせる旋律が、滝の落ちる音と川の流水音と調和してゆく。


 この滝は五メートルほどの小さなものとは言え、ほぼ垂直に切り立った断崖の落ち口から、真っ直ぐ直線的に落ちる直瀑(ちょくばく)で、とても美しい景観だ。下まで水が落ちると霧のような飛沫(ひまつ)が散り、周囲を漂ってやがて消えていく。小川の流れは川底の石に当たって涼やかに音を奏で、下流へ向かい(よど)みなく流れていく。


 なぜここに黒い魔素が溜まるのか分からないほど、綺麗な景色だ。瞳に力を込めて魔流を視てみると、飛沫(しぶき)は水色に輝き、小川も滝そのものも、少し濃い目の水色の魔素がわずかに揺れながら立ち上っているだけだ。とても美しいのに、滝壺の一部だけが薄く黒に(よど)んでいる。


 ふたりの祈りの歌が終わった。

 フリオーゾが黒い魔素へと腕で指し示すので、マドリガーレと視線を合わせてしっかりうなずき合った後、胸の前で手のひらを上に向けて炎の魔力を練り始める。やはりマドリガーレの方が早く練りあがり、俺はまだ慣れていないせいか少し時間がかかったけれど、彼女が待っていてくれたので一緒に魔素の方向へ腕を伸ばした。


 ふたりで気持ちを合わせて、炎の魔術を送り出す。

 自然を敬い、感謝し、調和を感じながら。


 黒い魔素を祓わせていただきます。

 人の都合で勝手を押し付けてすみません。

 どうぞ赦してください。


 炎の赤い光が黒い魔素を舐めるように覆い、そのまま滝壺の水底へ潜り込んでいく。想像していたよりも深く入り込み、底までたどり着くと一箇所だけ小さなくぼみがあって、その更に奥はえぐれるような広がりがあり、その隅には落瀑(らくばく)の流れが届かず水が(よど)んでいる場所があった。そこが黒い魔素の発生場所だと気づく。


 思わずマドリガーレと目を合わせた。彼女も気づいたようだ。ひとつうなずき合って魔力を更に奥まで伸ばす。魔力は自分の手足の延長とパストラーレが言っていた意味がよく分かった。魔力で探り、黒い魔素を浄化の炎で焼く。薄く、薄く魔力を広げて伸ばし、隅から隅まで澱み部分をさぐって黒い魔素を探す。

 決して広くはないその場所をマドリガーレとふたりでさぐるのだから、彼女の魔力と混じり合うのが分かった。手を繋ぐイメージで一緒に探す。そして最後と思われる魔素をチリリと焼くと、フッと魔術が焼失した。


「え?」


 消そうと思って魔術を消したわけでもないのに勝手に消えた。

 マドリガーレも訳が分からないようできょときょとと首をめぐらし、視線をさまよわせている。


「終えたようだ。こちらにおいで。昼飯にしよう」


 フリオーゾに言われて滝の際を離れると、イントラーダが敷布を広げて場所を作っていた。パストラーレが「お尻痛いと嫌だから」と笑って敷布の下に厚みのある結界を作っていた。触ると少しだけ弾力がある。固いだけじゃない結界も作れるのかと驚いていると、誰も靴を脱がずに上がるので更に驚く。


「ソラ、靴に洗浄魔術をかけてから上がって」


「は、はい」


 なるほど、そういうことか、確かにブーツの紐をいちいち外すのは面倒だと納得し、敷布の上に胡坐(あぐら)をかいて座ってリュックの中からお弁当とコップを取り出した。コップは蛇腹(じゃばら)の折り畳み式。薄く折りたたまれた両端をもって引っ張ると縦長のコップになる。それに自分で水魔法を使ってちょっとだけ冷えた水を作り、一気にあおるととても美味しかった。喉の奥、食道を冷たさが通っていくのが分かる。


 手にも洗浄魔術をかけて綺麗にした後、手を合わせて「いただきます」と言い、それからサンドイッチをほおばった。


「うまいっ!」


 満面の笑み、というのを浮かべていると思う。

 自然の中、歩いてそして浄化というひと仕事をした後、綺麗な滝のマイナスイオンを浴びながら、というこんな好条件でご飯が食べられるのだから。ただでさえ、コン・センティメント家の専属料理人が“マドリガーレお嬢様とソラ坊ちゃま”のために心血注いでメニューを考え、一生懸命作ってくれたのだから美味しくない訳がない。美味しさと栄養と手軽さと持ち運んでも重くないようにと考え抜かれた心尽くしのお弁当を、俺は満喫して食べ終えた。

 心から感謝。

 手を合わせて「ごちそうさまでした」をする。

 なんだか凄く幸せだ。


 同じように食べ終わったイントラーダが「ソラは本当に美味しそうに食べるのね」とくすくす笑う。「はい、だって本当に美味しかったから」と答えると、フリオーゾが「良きことだ」とうなずいた。


「良きことだ。食事とは命をいただくこと。食物は全て命の営み。それを己の身体に取り入れるのに感謝をし、味わって栄養を摂りこむのだ。食事に感謝をし、楽しく美味しくいただけるというのは素晴らしいことだ。人もまた自然の一部なのだから」


 フリオーゾとイントラーダは共に歌を歌って食事を終えた。食事の前にも歌っていたので、第四家の人は本当に何をするにも自然に対して感謝をしているのだなと思った。

 そのまますぐに出発するかと思ったけれど、フリオーゾが少し話をしようと言い出した。


「ソラ殿、マドリガーレ嬢、先ほどの浄化は見事であった。正直、初回でここまできちんと浄化できるとは思わなんだから驚いた。第四家の者達を魔法庁入庁前に連れてくると、幼き頃から自然への敬虔(けいけん)な気持ちを育てられているにもかかわらず、これほど上手く浄化ができることはないのだ。必ずと言っていいほど、我が仕上げの浄化をせねばならぬ、その程度しかできぬのが普通なのだ。先ほど浄化を終えたら急に魔術が消失したであろう? あれは浄化の炎。祓うものがなくなれば(おの)ずと消える、そういったものなのだ。初回でそこまできちんとできる者は、そうはいない。いやはや、お見事であった」


 フリオーゾの言葉に驚く。

 マドリガーレと目を合わせてみると、彼女も驚いた様子であった。


「そなたらは今年の春まで、長く仲違(なかたが)いをしていたと聞く。更には、ソラ殿はまだ魔法長官になる決心すらついていないと。それを聞いた時、視察に連れて行くのは時期尚早(じきしょうそう)ではないかと言ったのだが、我が伯父にして第四家の長老、そして元老院の議長でもあるテンペストーゾが『今年が最適なのだ』と言ったのだ。それで半信半疑でそなたらを連れて来たのだが、それで良かった。そなたらは互いに協力し合うことを知り、自然に対して敬虔な気持ちを持ち合わせておる。ソラ殿はまだ魔術に関して未熟な部分もあるが、ここ数か月で学んだとは思えぬほどの成長度である。これからも精進してゆけば、必ずや良き魔法長官になれるであろう」


「……はい」


 俺の迷いを見透かされたような気がした。

 でもその上で、励まして、背中を押してくれていると感じる。


「マドリガーレ嬢も魔法副長官として精進されよ。副長官の職は単なる添え物ではない。長官と同じ目標を見据(みす)え、同じ努力をし、長官の足りない部分を補い、ある意味長官よりも仕事量が多い職である。ソラ殿が未熟な分、そなたが心して彼を支えねばならぬ」


「はい」


「パストラーレ殿。そなたは彼らの補佐官となるのであろう。唯一の成人としてふたりを導いて欲しい。今までそなたが経験した様々なことが、きっと役に立つ。これからソラ殿が成人するまでの間、たゆまぬ努力を続ければ必ずや良き補佐官となれるであろう。我が国の繁栄と人々の穏やかな生活を護る、指標となってくだされ」


「はい、肝に銘じます」


 フリオーゾが俺達三人を励ましてくれている間、イントラーダはずっと小さな声で祈りの歌を捧げていた。フリオーゾが話し終わると、彼もまたイントラーダに合わせて祈りを歌い上げる。

 俺達は静かにそれを見守り、穏やかな気持ちで歌に耳を傾けていた。

炎の魔術や祓いについて、ソラの認識が変わりました。

大いなる自然に対して敬意を持って接していきたいです。


次回更新は9月10日(月)です。

皆様、良い週末をお過ごしください。

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