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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第三章 ソラと自然の綺麗な魔流
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5.視察出発

「それでは外に出てみよう」


 一時間ほどイントラーダの休憩時間を取り、同時に俺達も気圧と酸素の変化に身を慣らした。フリオーゾの言葉にリュックを背負い、建物の扉をくぐる。

 先ほど屋上で出発の儀式をした時にも思ったけれど、三百六十度、大自然の景色で壮観だ。ここは、この辺りではかなり高い山の部類だろう。その頂上にこのロッジ風の建物は建っている。


「スゴイな……」


 ポロッと出た言葉にイントラーダが微笑んだ。


「そうでしょう。ここは高山がいくつも連なる連峰なの。あなた方、この前、レッジェロに街案内してもらったでしょう? 第二家が高等部にいる子に治安部の仕事を体験させるのと同じように、第四家でも高等部の子を視察体験させるのだけど、必ずここに連れてこられるのよ。私も三年前に来たわ。その時、私も『凄い』しか言えなかったもの……こんな風景、王都に住んでいたらそうそう見られないわよね」


 この山もそうだが、周囲の高い山々の中腹から上は緑がほとんど見えず、灰色の岩がごろごろしているようだ。切り立った断崖、薄っすらとたなびくガスのような雲、隣の山まで続く稜線……全てが雄大で、感動する。

 これからこの地を、自分の足で歩くのだ。

 少し緊張して身を引き締めていると、フリオーゾが「こちらへ」と俺達を呼んだ。近付いて彼が腕を伸ばし指差しした方面へ視線を向ける。


 何やら、向こうの山の下の方で黒い魔流がじんわりと立ち上っているのが見えた。


「あそこに魔力溜まりがあるんですか?」


左様(さよう)。さほど時間を置かずに、あの場所は黒い魔流が噴き上がることとなるであろう」


「それは大変ですね。今回はあそこに行くんですか?」


「いいや、行かぬ」


「へ?」


「あのような危険そうな場所に体験の者を連れて行く訳がなかろう。今回はもっと気軽に手軽に視察を経験できる所しか行かぬよ。その分、事故も起こりづらいので安心されると良い」


「そうなんですか。ちなみに、あそこへは何人チームで行くんでしょうか?」


「ふむ。熟練者ばかりで四人かの。もっと悪化してくると十人もの大所帯で臨むこともある。まぁ、そんな事態になる前に方々へ視察団が赴いて逐一状況を報告するので、自然部では把握し早めに対処しておるがな」


「なるほど……」


 災害が起きる前に、早め早めに処置していくんだ。

 こうして考えると、治安部も自然部も、人々の暮らしを守るために事前の努力が凄いんだな。


 なんだか胸が熱くなってその心地よさに浸っていると、フリオーゾから「自然の魔流を視てみよ」と言われた。素直に瞳に力を()めると。


「うわぁ……!」


 岩肌から少しだけ色のついた白っぽい魔素がチラチラと立ち上り、下方に視線を向けると緑の樹々から深緑の魔素がざわざわと風に揺れて流れ出ている。滝の流れがある場所は底から水色の魔素が飛沫(しぶき)を上げるように散っていき、土が見える山肌では黄色い魔素がゆっくりと地表付近を漂っている。

吹く風は薄っすら輝く緑色で、崖や稜線に沿って吹き上がったり吹き降ろしたりする時に、そこにあった魔素を巻き込んで散らし、また地表に戻して攪拌(かくはん)している。


 白、深緑、水色、黄色が混ざり合い、空中で溶けて消えていく様は言葉で言い表せないほど美しい。

 これが、自然。


「綺麗……」


 マドリガーレが小さくつぶやいた。


左様(さよう)。誰もがそう言う。自然とは正に美しいものなのだ。ただ、その美しさも時には牙を()く。美しい魔流は時に激しさを増し、黒く変色してしまうのだ。我ら人の生活を護るためには、注視していかねばならぬのだ」


「はい」


 フリオーゾの言葉を心に留めて、彼に続いて歩き始めた。




** ** **




 始めは隣の山までの稜線を緩やかに下っていった。稜線と言ってもすぐそばが切り立った崖という訳ではなく、緩やかな斜面の頂点を進んでいる感じで、しかも十五メートルほどの幅の道が続いているので不安なく歩ける。マドリガーレがついうっかり転んでも下に転がり落ちる心配はないというだけでとても安心だ。ちなみに、まだ身体に物質軽量化魔術はかけていない。

 ごろごろと(こぶし)大の石や頭の大きさほどの石、それから一抱え以上もある大きな岩が並ぶ稜線の道をマドリガーレと手を繋ぎ歩いていると、そろそろ次の山の頂上との中間地点という辺りでフリオーゾが進む歩みを止め、道の端に寄って崖下を(のぞ)き込んだ。


「ここから下に降りる」


「は?」


 ここは何もない、ただの切り立った崖だ。

 他の場所と唯一違う点は、遥か彼方の崖の下に、平らな大岩があるというくらいか。


「ここから降りるって、どうやって?」


 するとフリオーゾは荷物の中から二畳くらいの大きさの布を出して広げ「乗りなさい」と言った。言っている意味が分からない、と思っているとイントラーダが「これで下まで降りるから、この上に乗って座って。できるだけ中央に寄った方が良いわ」と笑顔で教えてくれた。なんだかよく分からなかったが、とりあえずおずおずと土足のまま布の上に乗り、真ん中付近で座る。マドリガーレも俺の横でちょこんと座った。五人全員が座ると、フリオーゾが布の大きさ、そして俺達の頭上の高さで結界魔術を使用した。


 「え?」と言う間もなく布結界が横に滑り、崖の下に降下を始める。


「うわああぁぁぁぁぁ!」


 超高速エレベーターに乗っている気分。結界のおかげで風を感じることはないが、布の端から下を覗き込むと滅茶苦茶高くて正直びびる。

 そして長い。

 いつまで降りているんだ。


「そうね、約五分ってところかしら」


 イントラーダがケロリと答えた。


「五分!?」


「ええ。先ほどまでいた場所が標高三千五百メートルくらいで、今から標高千メートルほどの所へ降りるのだから、ざっと二千五百メートルを一気に降りている訳ね」


「め、目を回しそうです……」


 マドリガーレが緩く目を閉じぎみでそう言ったので、肩に手を回して支えてやる。もう片方の手で彼女の手をぎゅっと握ってやると、弱ったようにへにゃりと笑った。


 途中、崖の中腹で何かいたような気がして、通り過ぎた後に上を向いてみた。なんとなくヤギのような気がする。でも何もない広い崖で、道もないのにヤギがへばりついているなんて……と思って目をこすってみたが、その時は既にずいぶん下降してしまっていたのでもう一度確かめることはできなかった。


 そして下りに下って、ようやく五分間が過ぎ。

 とうとう降下速度がゆっくりになって、下の地面に到着した。そのまま布は地面から少し浮いた状態ですーっと動き、大きな木の木陰で停まり、そっと地面に降りた。

 ホッと息をつく一行。


「き、気持ち悪いです……」


 マドリガーレがそう言い、俺も確かに胸のむかつきを覚えた。パストラーレも微かに青い顔色をしている。イントラーダが俺達にそっと触れ、体調を整えるよう癒し効果の魔術を使ってくれた。途端に息が楽になる。耳抜きもしてしばらく布の上で息を整えていると、吹く風が心地よく頬を撫でていくのに気づいた。


「気持ち良いですね」


「そうね。このくらいの標高が、山登りには最適なのではないかしら。ほら、樹々の緑が綺麗だし、あちこち花も咲いているわ。鳥もたくさんいるし、蝶や蜂もいる。もっと高くなると木はだんだん低く這うようになり、花もなければ美しい緑もない、時折鳥を見かけるけれど、基本的に周囲は岩ばかりで面白くない風景になってしまうから」


「そうなんですか。あ、そう言えば、さっき降りてる時、崖の途中でヤギの姿を見た気がするんですけど……」


「ああ、アプルスアイベッフスね。確かにいたわよ」


「や、やっぱり見間違いじゃなかったんですか……! あんな切り立った崖で、何してるんですか? 足の置き場もないような所なのに、落ちないんですか? どうやってあれ、降りるんですかね?」


「ふふふ、初めて見た人はびっくりするみたいね。あれは足の裏が特殊な作りになっていて、ほんの小さな突起でも掴んでキュッとくっつけるようになっているのよ。凄いわよね。何をしているかって言うと、岩のミネラル成分を()めていると言われているわ。植物を食べるだけでは足りない栄養素を補っているらしいの」


「そうなんですか……すげえ」


 そんな風に話しながらしばらく休んで落ち着いてきた頃、フリオーゾがこれからの予定を教えてくれた。


「さて、ここを出発してのち、山道を登りながらいくつか魔素が溜まっている場所へ寄り、それを(はら)っていく。そして標高千五百メートル付近の拠点へ到達すると、今日はそこで宿泊となる。途中、景色の良き場所で弁当を食べることにしよう」


「はい」


 先ほど一気に降りて来た二千五百メートル分を、二泊三日で登るらしい。下山の方が楽そうなのに、なんで登りながら溜まっている魔素探しをするのかと質問してみたら。


 初心者は下山するのに膝を痛めるし、下を覗き込んで恐怖を感じ、動けなくなることがあるらしい。その点、登りは自分の足元と山の頂上方面と空が視界に入るだけで、自分で気を付けて下を見ないようにすればあまり恐怖を感じずに済むということだ。


 そして中級者になると、溜まった魔素がないかきょろきょろしながら歩いてしまい、つい足元がおろそかになって事故が起こりやすくなるらしい。更に足元ばかりに注意して降りていると、気が付くとかなりの距離を降りてしまっていて、結局溜まった魔素に気づかず通り過ぎてしまっていた、なんてことも起こりがちだとか。


 その点、登りならばどうしたって足が時折止まるので、その時に息を整えがてら周囲を見回すことができ、結果的に事故も溜まった魔素の見逃しも減るとのこと。

 登りの方が、体がきついことは確かだが、その部分は物質軽量化魔術と風魔法で補っていくと言われた。


 俺は魔力調整が大変だが、マドリガーレは体力的にきついだろうと思う。

 できるだけ気にかけていこうと思い、フリオーゾが歩き出したのに続いて足を踏み出した。

私の頭の中にある自然の魔流のイメージを、カラー漫画で描けたらどんなに良いか……と思いましたが、無理なのであきらめました。残念です。

作中に出てきたヤギは、アルプスアイベックスをモデルに書きました。

ダムの壁に張り付く映像とか見ると驚愕ですよ。

興味があるようでしたら一度見てみてください。


次回更新は9月7日(金)です。

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