3.突然、のその後
情報量が多くてすみません。
また後書きでまとめを書いています。
カクッと転げるふりをするレッジェロに、王子が「そなた、面白いな」と笑った。
王女もクスクスと笑みをこぼしている。
「それを説明せねばならなかったのぅ……つまり、吾は国を出たくないのじゃ。遠いところの目標として、元老院の無力化、とまではいかなくても力を落とさせ、王族は有事に備えて訓練を重ねる以外では、象徴となり民との触れ合いや諸外国の王族との付き合いのみとして存在させる……そういった改革への取り組みをするのに、魔法長官や副長官に全てを任せ、座して待てば良い訳ではないと考える。王族もしっかり動いていかねば、と。その場合、兄上だけでは大変じゃ。そこで吾もそれを手伝っていきたいと考えておる。そのために第一家、もしくは第二家にお相手が欲しいと思ったのじゃ。第二家の本家のレッジェロと婚約をしてしまえば、吾は降嫁後、第二家の所属となる。兄を支えて国内に残ることができ、王位も継がずに済む。そして兄の廃嫡騒動の裏で糸を引いているのが王妃様だった場合、嫁ぎ先が決まってしまえば吾は攻撃対象から外れるはず。それでこういった形を提案しようと思った訳じゃ。今回のレッジェロの婚約破棄話は、そなたには申し訳ないけれど、こちらにとっては渡りに船。ぜひ第二家の力、貸してたもれ。このとおりじゃ」
そう言ってブリランテ王女が頭を下げる。
慌てて「お顔を上げてください」と言い募るレッジェロ。
そして彼はパストラーレに向かって「聞かせてくれ」と問うた。
「聞かせてくれ、パストラーレ。先ほどアルマンド長官は、きみの父上も長官の同志だと言った。ということは、もしかしてきみも、その仲間に入っているのかい?」
問われたパストラーレは、チラリと私の父に視線を向け、うなずき合った後、答えた。
「……そのとおりだ。魔法庁に入ってくる若者や、現在魔法庁で活躍している若い世代の魔力を底上げし、まもなく元老院へと移っていくであろう世代に見せつけ、若者への劣等感を植え付けさせようと目論んでいる。そのために長官はアクアパークを含む四つの遊園地を作り、若い世代の職員にできるだけ利用するよう促した。高等部、中等部の学生にも楽しめるよう中身を工夫し、来場を促すキャンペーンも度々行っている。僕は二週に一度ずつ施設を回り、自分の能力の向上具合とこれからの改善点を見つけるようにしている。そしてそのデータを魔法庁へ持ち帰り、魔力研究部で活用しているんだ」
パストラーレの言葉に心底驚く。
遊園地に通い続けるのは、魔力研究に没頭するあまりのオタク行動ではなかったのか。
この人は、いったいどれだけのことを私に隠していたのか。
彼の話は続く。
「元老院の最長老共が全員引退していなくなるには、あと十数年はかかる。そしてそこに現在魔法庁でも老害と言われているお歴々が加わることになるが、それまでにその老害どもが若者にコンプレックスを持ってくれるよう頑張っている。そうやって少しずつ元老院が魔法庁への発言権を減らせれば、長期的展望ではあるが、自然に元老院自体の影響力も存在感も減るだろう。全てアルマンド魔法長官と父が計画したことだ。それを若者世代として、僕とふたりの兄が先導している。魔力底上げ推奨活動をしているのだ」
「パストラーレは本当に役立ってくれているよ。施設に通い、変更を加えた方が良い設備や制度の改良点をどんどん挙げて来てくれる。魔道具開発部と協力し合って、魅力的なお土産も次々と生み出してくれているから、初等部及び入学前の子供達の魔力も上げられる。ここ二年、初等部入学の生徒たちの平均魔力が上がっているらしい。それだけでなく、高等部や中等部の学生達の魔力の伸びや、魔術の応用力も向上しているとのこと。レッジェロ……きみも協力してくれたら嬉しい」
パストラーレの説明に、父が補足をしていった。
更に父は続けて話していく。
「実は、きみのお父上にはまだこの話をしたことがないんだ。できれば第二家も仲間に引き入れたいところではあるが、きみのところには元老院に祖父殿がいらっしゃるだろう。私の父は既に亡く、叔父たちは本家の者ではないためにそこまで元老院にて影響力を持っていない。第一家は……第一家出身の者達こそが元老院の大本だ。パストラーレの父、セリオーソは、元老院にて身内の影響力が強すぎることを懸念している。しかも現役世代を超えた力だ。これが国にとって正しい姿であるとは言えないと、私と共に身内の力を削ぎ落す決意をしてくれた。だが、第二家はそういう訳にもいかない。第一家があれだけ蔓延っていて、議長と副議長が第四家出身で強大な力を揮っているのに、更に今持っている力を削減しろと、きみのお父上には言えずにいるのだ……レッジェロ、第二家はどういう状況だろうか。そしてできれば、家の意向とは別に、きみは若者世代としてこちら側に付いて、できたら協力をして欲しい」
レッジェロは片手を軽く握って人差し指の第二関節を唇に当て、その肘をもう片方の手のひらで支え、しばらくうんうんとうなっていた。
「なかなか難しい問題です……今すぐにここで返答できるような問題ではありません。持ち帰って父と相談しなければならないと考えます。ただ、こうして王女殿下から直接縁談を申し込まれ、王子殿下からの頼まれごとを引き受けてしまったという事実がある限り、第二家全体はともかく、ぼくはもうこの件についてどっぷり首まで浸かってしまっています。家に持ち帰り、できるだけ双方に差し障りがないラインを決められたらと考えます。今は、その程度のお返事でご容赦願います」
「私はそれで良い。カデンツァ殿下、ブリランテ殿下、それでよろしいでしょうか」
「ああ、それで良い」
「構いません」
レッジェロの言葉に、父、王子、王女の三人が諾と答えた。
「数日中にはご返答に上がります。それまでお待ちいただけるよう、よろしくお願いいたします」
レッジェロが頭を下げると、ブリランテ王女が笑った。
「良い返事を待っておる。治安部に明るい第二家の力がこちらの陣営につけば百人力ゆえ」
「そうだな。しかも、魔法長官、副長官のみならず、裏工作の第一家まで手に入ったのだから予想外の収穫だ。今日、皆を集めて本当に良かった」
「誠にの、兄上。パストラーレ、先週のアクアパークでの裏工作、見事であった。今後の活躍に期待しておるぞ」
「ご期待に応えられるよう誠心誠意努めてまいります」
王族には王族の諜報機関があり、第一家の動きは知られていたということなのか。
大人の世界は恐ろしい。あと三年で自分がそこに加わって活躍していかないとならないのかと思うと、少し足がすくむ思いがした。
そうしてようやく王宮を後にした。
王子と王女が退席した後、レッジェロが「先週の大記録、裏工作だったんだ……」とつぶやいた様子が憐れであったが。
「僕の入る部屋にたくさん魚を放ってもらい、レッジェロさんの部屋の魚出現率を下げてもらっただけですよ。すみませんでした」
パストラーレはそう言ってにっこりと笑顔をレッジェロに向ける。
彼からそんな笑みを向けられたことがないレッジェロは慌てて「何か悪い物でも食べたの?」と懐疑的な顔をする。するとパストラーレはそのまま笑顔を崩さずに答えた。
「いえね、もうここまで来たら、レッジェロさんは王家との繋がりを切れないでしょう?
ということはいずれブリランテ殿下と結婚することになります。もう決してアリアに関しての脅威ではなくなるので、これからは同志として手を取り合っていく必要があると考えました。どうぞこれからよろしくお願いしますね、レッジェロさん?」
そう言って満面の笑みを浮かべるパストラーレ。
困惑して引きつった表情を顔に貼り付けたレッジェロ。
――私はとんでもない人を婚約者にしてしまったのだな、としみじみ思った。
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そしてその後、レッジェロは実家で話し合い、第二家としては国王の意思を確かめてから立場を決めたいと返答があったらしい。後日、第一家、第二家、第三家の当主と、国王、第一王子、第一王女の合計六人で話し合いの場が持たれたのだ。第一王女から直接の婚約申し込みがあったにもかかわらず、第二家が即時に色よい返事をしなかったことに対して、私は「それで良いのか」と思ったが、父は「よく情勢を見極めようとしている。安易に同調されて後で『こんなはずではなかった』と言われたり、こちらに協力する振りをして裏で元老院を牛耳っている第一家や第四家の長老達と通じていたりするよりは良い」と言っていた。真剣に検討している証拠なのだ、と。
国王のスケジュール的に日程が整えられ次第、会談の場が持たれたのだが、ここでは国王から慎重な意見しか聞けなかったらしい。
元老院がなぜ第一王子の王位継承権を剥奪しようとしているのか分からないまま、色々な改革は納得できないと言ったとのこと。そして現状、王は第一王子をこのまま次代の王とするよう考えていることは変わらないと。
ただ、どんな要求を元老院から突きつけられ、万が一第一王子を王太子の座から外さねばならない事態になったとしても、廃嫡はせずに成人後は公爵位にして王位継承権は残すと約束はしたらしい。
更に第一王女の婚約話はしばらく検討したいとのこと。検討後、一応元老院にも相談してからでないと確実な答えは出せないと言ったそうだ。
こうして聞くと、王家と元老院の力関係は本当に分からない。
失意のまま帰宅した父達であったが、後日、第一王女とレッジェロの婚約だけはすぐに整い、三か月後に無事、婚約式を執り行った。けれども後に第一家の調べで分かったことだが、王はふたりの婚約を許可して良いか、やはり元老院に伺いを立てて、認めてもらった上で許可を出したのだという。
第一王子の王位継承権を剥奪すると言い出したのは、案の定、元老院議長であるテンペストーゾ・コン・スピリトゥオだったとパストラーレの父親から情報が来た。またもや父やパストラーレはそれに対して怒りを表していたが、第一家の影達の働きでも、なぜ議長がそれを言い出したのかという理由は判明しなかった。よほど厳重に隠されているのか、そもそも理由なんか無いのか分からないが、とにかく不穏であることだけは確かだ。
それでも第一王女が高等部に進学した後、妹のマドリガーレと仲良くなったというのは朗報だった。どうも周囲からは変わり者扱いされる感じがふたりともあるらしいので、そういう部分で気が合ったのではないかと思ったが、それは私の心の中だけに収めている。妹はひとつのことにのめり込むタイプだし、淑女らしさが足りなくて鈍くさい粗忽者だし、他者の噂話にも乗らず、常にマイペースで、外見ではなく魔力的な意味で己を磨くことに邁進している。仲の良い友人はそれなりにいるが、常に行動を共にするというような友人関係をそもそも妹は望んでいないので、適度な距離を開けて誰とでも付き合っているようなのだ。それが王族である第一王女と不思議に性格が合致したのではないかと想像している。
第一王女は望みどおり、学校生活で人脈を作れているようで安心した。たとえそれが、マドリガーレが介した貴族的にお付き合いする程度の友人達だとしても。
――あれから二年。
第一王子はあと半年と少しで成人される。
今のところ、まだ王位継承権を剥奪するという話は表面化しておらず、このまま半年過ぎればきちんと立太子式を執り行えるのではないかと望みを抱いている。
ブリランテ王女とレッジェロとの関係も、意外なようだが良好だという。
妹は王女と仲が良くなってきた頃、王女の方から「吾のことは、これから“ブリンちゃん”と呼ぶがよいぞ」と言われたらしい。なんでも婚約者であるレッジェロから「親しい者は愛称で呼び合う」と教えられ、自分の愛称を決め兼ねていた王女に、レッジェロが「じゃあ“ブリンちゃん”にしようよ、可愛いから」と提案されて了承したとのことだった。
口を開けて呆然とする妹に、王女は「どうしても憚られると言うならば、他者がいない時のみで良いから呼んでたもれ」と懇願され、了承したとのことだった。
そんな訳で妹とブリランテ王女は「マーレ」「ブリンちゃん」と呼び合う仲だし、レッジェロとブリランテ王女も「レッジュ」「ブリンちゃん」と互いに呼んでいると……。
なんだか頭が痛くなってくるような関係だが、当人達が幸せなら、それで良いかと思っている。
★王家おさらい(2年半前時点)★
・様々な改革をするのに、兄王子だけでなく己も手をかけたいため、第一王女は国内に残りたいと考えている。元老院から外国へ厄介払いのために嫁がされる前に、第二家本家長男のレッジェロと婚約したいと思い、今回申し込みをした。
・これに対し、アルとフォーナは協力を約束した。更にパストの父(第一家本家当主)も協力してくれるだろうと言った。
・彼らは魔法庁と元老院の関係の改革に取り掛かっていてパストもその協力者。レッジェロにも仲間にならないかと誘う。
・レッジェロの返答は、第二家に持ち帰り検討する、というもの。ただしできるだけ双方益になるよう進めたいとのこと。
・後日、国王、第一王子、第一王女、第一家・第二家・第三家の当主の6人で話し合いの場が持たれたが、王からの返答は「改革は認められない」であった。ただし第一王子を廃嫡するつもりはなく、王太子候補から外すことに万一なったとしても王位継承権は残すと約束した。
・後日、第一王女とレッジェロの婚約が整った。元老院が許可を出したため国王が踏み切ったとのこと。
・更にその後、第一王子廃嫡の動きの発端は元老院議長だったと判明。
・2年半後の現在。第一王子19歳。半年後には成人となる。廃嫡の話は表面化していない。
・このまま何事もなければ成人の儀の後に立太子するだろう。
・第一王女とマーレは親友となった。
・第一王女とレッジェロの関係も順調。
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次回更新は8月17日(金)です。




