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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
間章2 王子と王女と婚約話
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2.突然知らされた事実

 ブリランテ王女の言葉に緊張感が走る。


「では、お伺いいたします」


 母が言うと、ブリランテ王女は母と視線を合わせて一度うなずき、話し始めた。

 王女が視線を下げ、次に上げた時には、もう先ほどの威圧感は消えている。


「事の起こりは、兄が元老院会議へ行くようになってからじゃ。幼き頃は勉強をサボって逃げ出していた兄じゃが、長じてそういったことはなくなった。王族としての自覚を持っておると感じていたのじゃが、ここ最近、何度となく元老院会議を部下に任せて欠席いたす。何があったか聞いてみると、一部の元老院の中で、兄を廃嫡(はいちゃく)せよとする動きがあるようなのじゃ」


「「廃嫡!?」」


 両親が身を乗り出して大声を上げる。

 それに対して返答したのは第一王子カデンツァであった。


「そうです。わたくしの存在が気に入らないお歴々がいるようで、会議が始まる前や終わった後……王である父が退席した後で、廊下にて説得し回る声があるのです。王族の前では大っぴらに話せないようですが、囁きは届きます。それを耳にしたくなくて欠席を続けてしまいました。本来ならば無理にでも出席して己の存在を主張せねばなりませんが、元老院会議では他者の悪口や魔法庁のやり方への文句が主な議題なので、そこで存在を主張する意見を言うのも気が引けます。どうせひと言も発言しないので『いつもへらへら笑っているだけ、ぼんくらで役立たずな王子など、王太子として相応しくない。王位継承権を剥奪(はくだつ)してしまえば良い』と更に言われるだけなので……つい、欠席を続けてしまっています」


 カデンツァ王子は重い息を吐き、伏し目がちに説明を続ける。


「ご存知のとおり、我が国は王子達の中で一番魔法の実力が高い者がなります。現在、父王の三人の王子の中でわたくしが一番実力あると見なされているのに、なぜ王位継承権を剥奪されなければならないのか全く理解できないのです。もしや王妃様の手が裏から回っていて、ふたりの我が子のうちどちらかを王位につけたいと目論んでいるのかとも思い、探りを入れたのですが、それもよく分からない状態です。義弟達はまだ幼くて実力も不確かなのに……でももしもそうなのだとしたら、廃嫡されたら、その後のわたくしの先行きは暗いと考えています」


「兄が王族を離れるということは、義弟達の実力次第では吾が中継ぎの王太女となる。万が一、父王に何かあれば中継ぎの女王になるやも知れぬ。しかし吾も先妻の子じゃ。王妃様の策略であるならば、吾も今後どうなるか分からぬ。義妹(いもうと)……先日十一歳になった王妃様の一番目のお子、第二王女ヴィヴァーチェは十歳の魔力測定で、吾に準ずる実力という結果が出たからの。けれどもそもそも吾は国王になりたい訳ではないし、兄が廃嫡されるのを良しともせぬ。その下が八歳の第二王子アリオーゾとなるが、彼は五歳時測定であまり捗々(はかばか)しくない結果であった。兄の五歳時測定結果に対し、遥かに及ばなかったのじゃ。その下の第三王子はまだ四歳じゃから未知数であるが……隣国グリオ出身の魔力量の少ない王妃様がご母堂では、ふたりの王子の今後の魔力の伸びもあまり期待はできぬと考えておる」


「父王はわたくし達の母とは政略結婚であったと聞いております。元老院による指示だったと。母は、わたくし達子供のことはとても愛してくださったという記憶がおぼろげにあるのですが、夫婦関係としては、亡くなるまでの短い婚姻生活は砂のように乾いたものであったと聞き及んでおります……そこへお互いに心を許し合える愛を見つけられた、父王と王妃様の出会いは奇跡だと考えております。父にとって素晴らしい出会いであったと。それを否定するつもりはありません。ですが王位を継ぐことは話が別です。義妹か義弟達が王となれば、王家の一番のお役目を有事に果たせなくなってしまうのです……それでは困ります」


「じゃから、やはりぜひとも兄か吾が王となり、この国を守らねばならぬ。しかし吾は兄を排したくはないのじゃ。そのために兄と相談して、この方法ならどうであろう、という案を検討した結果、そなたらに協力をあおぐことにしたのじゃ。元老院から吾に、諸外国から王族の婿養子を取って王太女となれ、という話が出る前に、あるいは、厄介払いで国外に嫁に出される前に、国内で婚約者を決めてしまえば良いと」


 カデンツァ王子に続きブリランテ王女が必死に言葉を繋ぐ様子は、本当に切羽詰まっていた。


「そのようなことがあったのですか……」


「わたくしも初耳です……」


 父と母が続けて言う。

 思わず口から言葉が出た、という感じだった。


「王妃様が動かれていらっしゃると疑われるような、何か具体的な行動はあるのでしょうか? そもそもどうして王妃様をお疑いになられたのでしょうか?」


「ただ一度だけですが……半年前の夏、王妃様が暑さにより体調を崩されがちになり、夏の避暑地へご静養に行かれることになりました。その出発直前、なぜか元老院の議長が、父王の留守中に王妃様をお訪ねになったという情報を得ました。そのようなことは今まで一度たりとてなかったというのに。そしてその後、王妃様は静養地から、そして王都に戻られてからも、何度もご実家であるグリオ国に向けて連絡を取っています。これまではそのように頻繁(ひんぱん)にやり取りなどしておられなかったのに……。そしてちょうどその折、わたくしが準成人となり、元老院の会議に出席するようになったのですが、そのすぐ後から、わたくしの王位継承権剥奪の動きが始まった……全てが偶然とは思えないのです」


「なるほど怪しいと言えば怪しいですね……けれども、それだけでは証拠として不十分と言えるでしょう」


「もちろんそうです。けれども王妃様が裏にいらっしゃるかどうかはともかく、元老院がわたくしを廃そうという動きをしているのは確かです。それは変わらない事実なのです」


「そうですか……理解いたしました」


 両親が難しい顔をして悩んでいる。パストラーレは何か考え込んでいるようだし、レッジェロは皆の顔を興味深そうに見ている。目が合うと微笑まれて困ってしまった。

 ブリランテ王女とカデンツァ王子の話は続く。


「……兄は国民から広く愛されておる。穏やかな笑顔、様々な領地へ国の視察団と共に赴けば、必ず民と触れ合う様子が国民から支持を受けておるのじゃ。兄が廃嫡されれば国民からは多くの不満が出るであろう。それも避けねばならぬと思うておる」


「もうひとつ、わたくしは考えていることがあります。半年前、初めて元老院会議に出席し、疑問に思ったことです。我が国の、王族と元老院との関係を」


 カデンツァ王子の言葉に、父の瞳が光った気がした。

 母も身を乗り出して聞いている。


「元老院の在り方を……変えたいとおっしゃる?」


「ありていに言えばその通りですが、王族の在り方も同時に変えていけたらと思っています」


「お聞きしましょう」


「その辺りは妹からの方が良いでしょう……ブリランテが考えたことです」


「では、話させていただく。吾は今の元老院の在り方にずっと疑問を持っていた。特に、元老院の会議で王族を廃嫡できる制度があるということに。もうひとつ、王家と元老院の関わり方にも。王家はかつて魔法庁の上位にあり、年若い頃は魔法庁と共に国を発展させ、五十歳頃から元老院へと移行していったという歴史がある。次第に王族が象徴的存在へと移行していき、魔法庁との関りが希薄になっても、王家の者は準成人になれば元老院会議に出席しなければならぬのじゃ。けれどもそこでの発言は、自分の意見ではない。王である父の発言は、兄の部下から聞いたところ『では、その通りに』ばかりであったそうじゃ。どこが『王の承認を得た事案』なのじゃ。『それはもう少し検討してみた方が良いのではないか』と父が発言した時、やんわりと父を会話の中心から外していくように見えたと兄が言っておった。これが元老院の実態……王家の恥辱(ちじょく)である……! 吾は……これをどうにかしたいのじゃ……!」


 王女の身からは怒りの波動が伝わった。

 誇り高き王族の威光を傷つけられ、王女は膝の上に置いた両の握りこぶしを震わせている。ほっそりとした身体からは、考えられないほどの覇気があふれている。

 カデンツァ王子は妹の肩をポンポンと優しく叩いてなだめた後、両親に向かって言った。


「わたくしとしては、王家は有事の際に備える以外は、象徴であって良いと考えています。父からもそのようなつぶやきを耳にしたことがあります。現在……魔法庁はもちろんのこと、各局もきちんとそれぞれで機能しています。魔法長官や各局長を頂点に組織が成り立っているのです。その上位に元老院が君臨し、口だけ出して牛耳ろうとするなど迷惑の極みです。そんな場所に王家も縛り付けられるなど耐えられない」


 カデンツァ王子は肩を震わせそう言うと、自らを落ち着かせるように大きく息を吐いた。


「わたくしは未だ成人とならぬ身。ですが準成人として王族の責任は心得ております。そうして国を見渡した時、気づいたのです。この国の在り方は、歪んでいると」


 真剣な顔でカデンツァ王子は続ける。


「ですからわたくしは考えたのです。ひとつは王家の在り方を、そして国の組織との関わり方を変えたいと。もうひとつは元老院の君臨を排除したい――王家が元老院との関りを魔法庁と同程度にし、政治的視察とは別に祭りや行事などの視察に出かけて国民と触れ合い、政治に関わらずに国民の気持ちを導く……そうした方向に王家の在り方を変えていきたい。更に、時がかかるかも知れないけれど、元老院の各組織への影響力を減らしていく……そういった方向に、今後この国を変えていきたいと考えているのです。魔法長官と副長官は、かつてわたくしの師でした。おふたりの人となりを知っていますし、ここ数年、魔法庁が改革をしているという情報を得て、おふたりになら協力してもらえるのではないかと考えて、今日、こちらに来てもらいました」


 両親は互いに視線を交わして、ひとつうなずいてから王子と王女に向かって答えた。


「元老院の在り方については、わたしどもも(せん)から変えていきたいと考えておりました。医療局を始め、様々な部局にもそれぞれの長がいます。魔法庁に対してもそうですが、元老院はそれぞれ各局に口を出し過ぎです。そこを何とかしていこうと考えております。そして、それについて同志は何名もおります。ここにいるパストラーレの父親、第一家当主のセリオーソもそうです。話せばきっと協力してくれるでしょう。王家の在り方については陛下のご意向をきちんとお聞きしてからでなければお返事できかねますが、セリオーソにはわたしから話しておきますので、近く話し合いの場を設けていただきたく存じます」


「それで良い。助かる、アルマンド。実はそなたらしか頼る当てがなくて……正直、今、とても安堵している」


「吾もじゃ。感謝するぞ、魔法長官殿、副長官殿。王家に生まれた者は学校へは通わぬため、学友がおらぬ。魔法庁から師が何人も派遣されてくるが、王太子には地位の高い年長者がその務めを果たすので、父には今、頼れる者が誰一人としておらぬ。だからこそ、吾は高等部への進学を希望した。ここで信頼し合える友人を作り、魔法庁、あるいは元老院で相談できる先を準備しておきたいと考えたのじゃ。アリア、春から吾は高等部へまいるが、そなたの妹御も一緒のはず。どうか先輩として、妹御の同級として、吾と親しみ、導いてたもれ」


「父と同じように、わたくしにも学友がおりません。ですから、今後、第一家のパストラーレや第二家のレッジェロが集まる社交場へ連れて行ってもらえないかと考えています。お願いできませんでしょうか」


 年少組は顔を見合わせ、うなずいた。

 パストラーレは既に覚悟を決めているような笑顔だ。

 彼がそう決めたのなら、私に否やはない。

 レッジェロはなんだかひとりだけ楽しげだ。今も彼が率先して返答をしたのだ。


「お安い御用でございます、カデンツァ王子。自慢ではありませんが、二十代後半から十代中頃までの友人がたくさんおります。これからの集まりには必ずやお声をおかけしましょう」


「助かる、レッジェロ」


「わたくしはレッジェロほど社交的ではないので少数しか友人がおりません。しかし、一族の年若い者達の集まりにならお連れすることはできます。それでよろしければ」


「ああ、パストラーレ、頼む」


「それともう一点。数名と知己を得ましたら、高等部へ足を運ばれることをお勧めします。実技実習や共同作業の時のみでも授業に参加されれば、同じ年代の友人ができます。協力して課題を仕上げたり苦労を乗り越えたりすると、仲間意識が高まり、より良い友人関係を結べることでしょう。いかがでしょうか」


「すごいぞ、パストラーレ、素晴らしい案だ!」


 カデンツァが手を叩かんばかりに喜んでいる。瞳が輝き、なんだか浮き浮きした様子だ。

 母がそれを見て、私に話しかけてきた。


「アリア、あなたも良いわね。ブリランテ殿下と仲良くしてあげるのよ」


「はい、お母さま」


 ブリランテ王女の方に視線を向けると、にっこりと笑まれた。

 あの威圧感は既にない。これを自由自在に操れるのだから王族は凄い存在だと思う。


「よろしく頼むぞよ、アリア」


「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」


 頑張って微笑んではみたけれど、そのうち頑張らないでも笑顔が作れるように……いや、意識しなくても王女相手に笑顔で対応できるようになれるのか、少し心配だ。妹と力を合わせて頑張ってみよう。

 妹は人付き合いにおいて割合垣根を作らない方だ。妹と王女は同年なのだし、妹の力量に期待したい。いや、もちろん自分も頑張るけれど。


 そうしていると、レッジェロが「ところで」と話を割ってきた。


「ところで。初めの話に戻りますけれど。婚約話はどうすれば良いのでしょうか」


「そうじゃった、それをすっかり忘れておった」


 レッジェロの言葉に、王女はケロッとして言い放った。

★王家おさらい(2年半前時点)★

・準成人になると月1回の元老院会議に出席する義務がある。

・元老院で王族の目を盗み第一王子を廃嫡しようとする動きがある。

・王位を継ぐのは男子のみ。王子の中で1番魔力及び魔法力の高い者が成人時に王太子となる。

・今代は、第一王子17歳(魔力多・魔法力高)、第二王子8歳(魔力少・魔法力未知数)、第三王子4歳(魔力・魔法力共に未知数)

・第一王女15歳(魔力多・魔法力高)、第二王女11歳(魔力高・魔法力未知数)

・第一王子が廃嫡されれば第一王女が中継ぎの女王になる可能性高し。(子供が父親側の魔力性質を受け継ぐため王家の血を残せないから中継ぎしかできない)

・第二王女と第二王子、第三王子は後妻の子供。現王妃は隣国グリオの出身。

・第一王子と第一王女は、今回の廃嫡騒動を、王妃と元老院議長のたくらみと疑っている。

・第一王子は国内で支持率が高い上に実力があるので、廃嫡されれば国内が荒れるとふたりは考えている。

・ふたりは王位継承に対して元老院が口出しできる制度を変えたいと考えている。同時に元老院と王族の関係、更に王族の在り方も変えていきたいと思っている。

・そのため、今回、アルとフォーナに協力を仰いだ。

・第一王女は頼れる友人作りのために来春から高等部に通う予定。


……説明がいっぱいですね。

難しいですか?(汗)

分からない部分があったら感想欄で質問してください。


次回更新は8月15日(水)です。

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