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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第二章 ソラとマーレの綺麗な魔力
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21.目が覚めて

 目が覚めるとベッドだった。

 コン・センティメント家で俺に与えられている部屋の寝室。


 日本での俺の家であるマンションの、リビングと部屋ふたつを合わせたより大きな寝室だ。しかも俺に与えられた部屋はこの寝室だけではない。親しい友人や家族を迎え入れるための居間と、本を読んだり何かを書いたりできる書斎まで合わせて一セットだ。文字も読めないのに書斎とは笑ってしまう。意味分かんない。


 巨大なベッドの天井……部屋の天井ではない、もう一度言うがベッドの天井だ……からカーテンが下がっている。いわゆる“天蓋(てんがい)”ってやつだ。このカーテン、いちいち開けたり閉めたりが面倒で開けっ放しで寝てると「我らが開け閉めいたしますから安心してお閉じくださいませ」とか使用人さんから言われた。

 でも俺はいっつも疲れてバタンキューと寝るタイプだから、ベッド周りのカーテン閉めて、ひとりだけの空間とか作らなくたって安眠できるので、やっぱり「このままで良いよ」と閉めて寝たことはない。


 その天蓋のカーテンが閉じていた。


 何があったかと首をひねって思い出す。

 そしてようやく気付いた。

 『はしゃぐ小栗鼠亭』で魔術使って、気を失っちゃったってことか。


 思い出してスッキリした、とばかりにベッドから降りようと思ったけど、身体が重くてなかなか持ち上がらない。苦し紛れにカーテンを開けようとなんとか腕を伸ばしたけど、その途切れ目が分からない。苦労してバサバサと揺らしていたら「お気づきになられましたか!」と声がかけられて、外からメイドさんが紐を引っ張ってカーテンを上げてくれた。


「そのままベッドで寝てお待ちください。お医者様がまた明日の昼過ぎにいらっしゃいますから、気が付かれても明日まで寝ているようにと言われております」


 それを聞いて驚く。

 そんなに俺、重症だったのか?


 メイドさんは俺が目覚めたことを伝えてくると言って部屋を出て行った。

 そしてしばらくすると、バタバタと音がしてバーンと寝室の扉が開く。


「ソラ!」

「奏楽!」


 先頭切って駆け込んできたのはマドリガーレだ。

 その後を父レチタティーヴォ、母蘭々、麗美、アルマンド叔父、アンティフォナ叔母、アリア、スピリトーソまで走って、心配そうに俺を覗き込んできた。


「ソラの馬鹿! 心配したんだから!」


 マドリガーレが俺の手を両手で握って額に当てる。

 肩が震えて、泣いているのが分かった。


「ごめん……」


 俺が謝るとマドリガーレが俺の首にガバッと抱きついてきて驚く。


「もう二度としないで! あんなの絶対ダメ!」


 彼女の言葉に父親が潤んだ声で同意した。


「そうだぞ、奏楽。お前は本当に知らない魔法まで使ってしまうから困るよ。危険も分からず魔術を使ってしまうなんて……奏楽、他人の怪我や病気を治す魔法は、禁じられているんだ」


「えっ?」


「本来、魔術の中に治癒魔法は無い。あるのは魔力を生命力に変えて相手に分け与えるというだけのもの。それも効率の悪いやり方だ。つまり、自分の魔力のうち五を使って一から二程度、生命力へと変換し、それを分け与えて怪我人や病人を癒やす、ということだな。しかも相手に元気を与えるのが主流で、本当に怪我や病気を治すのだとしたら、自分の魔力を九から十も使って相手を一治す程度にしかならない。だが、魔力が尽きれば人は自動的に己の生命力で補填し始めるのだ。生命力がゼロになったら人は死ぬ。お前は今回、怪我人をふたりも同時に治したんだ。いくら元々の魔力が多いとは言え、こんな風に起き上がれないほど生命力を使ってしまっている……死んでもおかしくなかったんだぞ」


 驚いた。

 そんなに危険なことだったなんて。


「知らなかった……だって、チェレスタのお婆ちゃんが、大勢のお客さん達に踏まれて、体中怪我だらけだったんだ。真っ青な顔して、なんか足が変な方向に曲がってて……俺、俺、どうしてもなんとかしたかったんだ……」


「その後、魔力暴走をした男性の怪我も治したんだって? それは治療院に行けば良かっただけだろう?」


「そうかも知んないけど……頭からいっぱい血が出てて、目からも血が流れてて……ガラスで目を傷つけたかも知れないって思って……それで……」


「分かるわ。分かるけど、ソラ、お願い、もうしないで……」


 俺の首に(すが)り付いたまま、マドリガーレが泣きじゃくっている。

 ああ、本当に心配かけちゃったんだな。


「みんな、ごめん。ほんとにごめん。俺、軽率だった。知らないことばっかりなのに、勝手に色々魔法使ってごめん。なんか前もそうだったけど、分かんないうちに体の中で、なんかが爆発したような感じがして、気がついたら魔術使ってんだよ。でも今度から気をつけるから」


「本当に? 約束できる? 私、前回だって今回だって止めたわよ! 逃げようって言ってるのに一歩も動かないで、どんなに押したってびくともしないで、もうそんな時はソラってば、魔術使うって決まってるもの! これでソラに何かあったら、私、絶対に後悔するわ! 止められなかった自分を憎むに違いない! もう、ソラなんか嫌いよ! 酷いわ、酷いわ、ソラ……!」 


「ごめんね、マーレ。ホントごめん……」


 わぁわぁ泣き続けるマドリガーレに、俺はほとほと困ってしまった。

 起き上がることもできず、彼女の背中にやっとのことで腕を回し、もうひとつの手で頭を撫でてやることしかできなかったんだ。




** ** **




 その後、夜、寝る時間になるまでマドリガーレは俺のそばを離れなかった。

 本当は目覚める前も付き添っていたかったらしいが、家族は付き添い厳禁を医師から言われたらしい。こちらでは意識のない病人や怪我人のそばに、家族は付き添ってはいけない決まりがあるという。なぜなら、ベッドで愛する家族が苦しんでいる姿を見ると、ついつい自分の魔力を与えてしまいがちになるからだとか。


 意識が戻って、後はいっぱい食べていっぱい寝れば俺は回復すると分かった途端、マドリガーレはそばに付いている許可をもぎ取ったそうだ。それでずっとここにいた。つい先ほど、寝る時間ギリギリまで。食事もここで取った。そして俺が眠くなると「寝るまで手を握っていてあげるわ」と言ってくれたし、お礼を言うと嬉しそうな顔を見せてくれた。


 起きている時間、俺はマドリガーレとたくさん話した。

 魔法庁での見学した内容、自然部の視察についてマドリガーレが知っていること、魔道具開発部のバングル代替ペンダント試作品を作ってくれたラルゴのこと、それからパストラーレとレッジェロの不思議な友人関係のこと。


 あの後、レッジェロは遅れたパストラーレに対して盛大に文句を言っていたらしい。


「怖かったんだからね! あそこにいる住民、全員をぼくひとりで守らなきゃならないって覚悟して、ものすっごく怖かったんだからね!」


 そう言ってパストラーレの胸を「バカ! バカ!」とぽかすか叩いていたらしい。パストラーレも始めは「はいはい、悪かったよ」と相手にしていたのだが、レッジェロがすっかり甘えモードに入ったため「ウザい」とひと言のもとに切り捨てて、相手にしなくなったのだと。


 そのパストラーレが総務部で何をしていたのかと言うと、『眠る穴熊屋』家族三人、『はしゃぐ小栗鼠亭』家族三人、それからケーナとチェレスタの祖母と孫、合計八人の魔力データを引き出して持ってきたとのこと。


 カンジーラもケーナも、外見上では何の異常も見られなかったが、一応医療院でしっかり検査してもらおうと言って、皆でぞろぞろ医療院に行ったらしい。そこで検査を受けている間、パストラーレの持ってきた八人のデータを見て、レッジェロは色々決めたらしい。


 まず『眠る穴熊屋』の夫婦は、バングル代替小ペンダントをモニター使用し、五日ごとに報告書を書くことで、ひとり当たり日本円に換算すると約五千円の報酬を得られることになった。それが三十日間なので、夫婦で合計六万円の収入になる。


 『はしゃぐ小栗鼠亭』の壊れてしまった店内の修理代と、修理期間営業できない分の損失は、レッジェロが半分補填(ほてん)すると言い出したそうだ。

 彼曰く。


「だって、コルネットから『くれぐれもよろしく』と頼まれたのに、カンジーラを暴走させちゃった挙句、店の中までメチャクチャにしちゃったんだから当然でしょ?」


 だそうだ。

 それに対して「じゃあ、なんで全額じゃないんだ?」とパストラーレが聞くと、レッジェロは「やだなあ、もう半分はパストが出すに決まってるでしょう?」と答えたらしい。「はっ!? なんでだよ!」とパストラーレが叫ぶと、レッジェロはにっこり笑って答えたそうだ。


「そりゃあ、もちろん、登場が遅れたから! ぼく、本当に怖かったんだよね。ひとりで責任取れるのか、みんなの命を守れるのか。パストがいれば百人力、ぼくがコケてもパストがなんとかしてくれるでしょ? ぼくができない非情な判断だってパストがしてくれて、ぼくが躊躇(ためら)う行動だってパストならやってくれるって思えるから、だからこそぼくは安心して、落ち着いて行動できたはずだったのに。でもパストが遅れた。ぼくは不安だった。だから色々後手に回った。ほら、全部パストが遅れたせいでしょ? だから半額出してよね」


 見事な責任のなすりつけである。


 パストラーレは色々文句を言ったらしいが、『はしゃぐ小栗鼠亭』家族が「うちで修理代は出すからふたりともケンカしないでください」と止めたので、一転して「いいえ、修理代、ぜひとも出させてください!」と宣言したそうだ。

 今回はレッジェロの完全勝利のようだ。


 さて、カンジーラはと言うと。

 翌日の朝まで一応入院したが、魔力的にも怪我的にもどこにも異常がなく、何事もなく退院していった。

 レッジェロに貴族用バングルを返却し、恐る恐る貸し出し料金を尋ねたところ、たった一晩だけのことだし、バングル代替の大ペンダントのモニターを五日間務めることでチャラにする、とレッジェロから言われたらしい。しかも両親と同じように三十日まで継続すれば、残りの二十五日間は報酬を出すとのこと。更に両親と違って形が大きいので、報酬も倍だと言い、五日間で約一万円受け取れるとレッジェロは言った。

 カンジーラが「モニターは引き受けるが謝礼は要らない」と固辞すると「貴族の命令が聞けないの?」と腕を組んで冷たく言ったというレッジェロのことを、なんだかとても好きになった。


 そしてこの三人家族のモニター報酬も、レッジェロはパストラーレに半額持つよう交渉したらしい。理由は「ラルゴが材料費を受け持って作った。ぼくは言い値で買った。それで本来は終わりのことだけど、パストは効果や金属製と木製の違いなど知りたいでしょう? 知らなくて良いなら報告書はぼくが受け取って、これからラルゴとふたりで開発していくけど、知りたいなら出資してもらわなくちゃね」と言ったらしい。

 ぐうの音も出なかったパストラーレはしばらく考えた後、レッジェロに「モニター料金は僕が全額出そう」と言い、しかも『眠る穴熊屋』を訪ねて夫婦の日記の一日目を読んだ途端「レッジェロから提示された料金の二倍出そう。だからもう少し、気持ちの流れや気分の上昇した時のことなど、詳しく書くように」と迫ったそうだ。研究オタクの本領発揮だ。


 退院したカンジーラを待っていて出迎えたのはコルネットだ。

 コルネットはカンジーラに向かって「あんな性悪女、やめとけ!」と怒鳴ったそうだ。「妹なのに、しかもあんなに可愛い天使のような優しい彼女を侮辱するな!」と叫んだカンジーラは、そのままコルネットと殴り合いの喧嘩になってしまったそうだ。「可愛い妹だろうがなんだろうが、お前の魅力に気づかないようじゃ、(ろく)な女じゃねーや!」とコルネットも後には引かなかったらしい。ひととおり殴り合いが済んだ後、ふたりして道路に寝転んだまま「お互いこれから頑張って可愛い彼女を見つけよう!」と約束し、笑いあったという。


 そして最後にチェレスタとケーナだが。

 ケーナはまったく怪我なし、しかも以前から痛めていた足や腰までも痛みが取れてしまったらしい。医者によると目や耳や内蔵まで元気を取り戻したようだとのことで「これから若い頃みたいに家のことをバリバリやれるわい」と言ってカッカッカッと笑っていたと。


 チェレスタは。

 レッジェロが彼の手を握って、肩を落とし「色々あって疲れちゃったよ……カンジーラが暴走で死ななくて良かったけど、もうあんな思いはこりごりだよ……」とうなだれると、チェレスタはレッジェロの手を両手で挟み込んで優しい瞳で「レッジェロ様のおかげで全て丸く収まりました。ありがとうございます。今夜はゆっくり休んでください」と笑ったそうだ。

 それを聞いて「やっぱりそうだ!」と突然立ち上がったレッジェロは、頭に疑問符を浮かべたままのチェレスタをそのまま福祉局へ引っ張って行ったらしい。

 パストラーレが総務部から持ち出したチェレスタのデータには、土の魔力と炎の魔力が一般人よりも少しだけ多くあり、誰から学んだわけでも無いのに、成長促進と温めの魔術ができていて、無意識に使っていたらしい。つまり相手を思いやって相手の身体をじんわり温め、成長促進魔術で体の中の元気の元を活性化させることができるという訳だ。


「チェレスタは元々心の優しい青年で、すぐ他人に同情し、心を寄り添わせ、幸せを祈るタイプの人間だ。だから治療院を必要としなくなった患者が、まだもう少し心の拠り所が欲しいと思った時に、訪ねていかれる場所に就職すると良い」


 そう言ってチェレスタに「この仕事、してみない?」と持ちかけた。チェレスタは「酒屋をどうするのかも含めて少し考えさせてください」と答えたそうだが、医療局でも盛大に歓迎され、ぜひ前向きに検討して欲しいと懇願された上に、報酬の高さは酒屋とは比べ物にならないほどだと言う。よく考えて結論を出して欲しいと思った。


 そんな訳で、今回関わった人達は全員、収まる所に収まった感じで終わったとのこと。

 レッジェロが面白おかしく聞かせてくれたことをマドリガーレが教えてくれて、俺は大いに満足した。


 もうそろそろ眠くなってきた。

 気を失って翌日の昼過ぎまで寝てしまい、その後も三時間ほど昼寝をしたにもかかわらず、夜になるとまたもやなんだか眠いんだ。

 多分、まだ夜の八時か九時頃だろう。


 マドリガーレと話し足りない。

 もっともっと話していたい。

 ずっとそばにいて欲しい。


 でも……眠いんだ。


 そう言うと、彼女は俺が眠るまでそばにいると言ってくれた。

 嬉しかった。


 でも、俺が寝たらすぐに部屋に戻ってくれよ。

 マドリガーレだって疲れてるだろうから。

 ベッドでゆっくり休んで欲しい。


 そして明日の朝、また輝く笑顔を見せてくれよ。


 ――俺の意識は遠のいていった。

レッジェロが負う責任、あるいはパストラーレが躊躇(ためら)わない非情な判断と行動、とは、魔力暴走者が周囲に被害を出さないうちに原因を排除する……すなわち魔力暴走者の命を奪う行動をするということです。治安部の仕事の一番重要な任務がこれになります。そのために治安部は魔術訓練をし、一瞬で片が付くよう魔力を高める努力をするのです。そしてそんなことをせずに済むために、治安部の人はせっせと見回りをしているのです。


次回更新は8月3日(金)です。

第二章最終話とエピローグの2話、同時更新いたします。

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