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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第二章 ソラとマーレの綺麗な魔力
64/130

16.魔法長官部見学

 今日も魔法庁の入り口でマドリガーレを待つ。

 なんだかそわそわして落ち着かない。

 思いを自覚した途端、この始末だ。


 どうしよう。

 マドリガーレと平気な顔して普通にしゃべれる気がしない。

 この前みたいにあっさりと手を繋げるとは思えない。


 ガラスのドアの端っこで立ちながら脇の植木に視線を向ける。

 しまった、一か月前に庭でボール蹴ってた時に、転んで植え込みに突っ込みそうになっていた彼女を思い出してしまった。


 今、自分がどんな顔をしているのか気になって、ガラスに自分の顔を映してみる。

 しまった、服のどこにソースがはね飛んだか確かめるために、鏡に向かって口をとがらせじっと見つめている彼女を思い出してしまった。


 ……重症だ。


 ため息をついて顔を上げると、ロータリーに魔導車が入ってきた。

 マドリガーレだ!


 息を詰めたまま見守っていると、運転手が後部座席の扉を開けた。中からマドリガーレがスッと降りてきて、そのまま俺の方へと小走りに向かって来る。

 そして、案の定。


 危ないっ。


 慌てて一歩前に出て両腕を広げると、その中に彼女が倒れ込むように飛び込んできた。

 そのままガッシリと支える。

 時が止まったようだ。


「ありがとう、ソラ」


 視線を下げると、俺の腕の中にマドリガーレの喜びに満ち溢れた笑顔が。


「うわっ! ご、ごめん!」


 思わずガッと体を離し、くるりと背を向ける。

 顔から火を噴きそうだ。


「いいえ、ソラ。転びそうになった私を受け止めてくれたのでしょう? 嬉しかったわ。だから大丈夫」


 俺の正面に回り込み、微笑んでそう言ってくれる。


 ……超可愛い。


 上目遣いではにかんだように笑わないでくれ。

 そんな近くで、良い匂いをさせないでくれ。


 どうしよう、俺。


「さぁ、中に入りましょう。パストとレッジェロさんが待っているのでしょう?」


 そう言うとマドリガーレは、自然に俺の手を取って歩き出した。そのまま導かれるように、俺も足を動かし歩く。


 さっきまで、恥ずかしくて手を繋ぐなんて考えられなかったけど、こうして繋いでしまうと、ぬくもりが、すべすべした感触が、そして俺に対する信頼が嬉しくて、離すなんて考えられなかった。

 だからキュッと力を込めたんだ。




** ** **




 中に入ると、先日と同じ場所でパストラーレとレッジェロが立ってこちらを見ていた。

 なんだかふたりとも、妙に笑顔だ。

 なんとなく怪しいなと思ったけど、マドリガーレが気にせずどんどん歩いていくのでつられて一緒に近づくと。


「やあやあ、お熱いですね、おふたりさん。数日ぶりの逢瀬に感動してしまったんだね! でもいくら感極まったとしても、あんな公衆の面前で、しかもそれが魔法庁の入口前で、しっかりガッシリ抱きしめ合うなんイテッ!」


「こんな愚か者の戯言(たわごと)なんて聞かなくて良いよ、耳が腐るからね。さあ、行こう。今日は食事を終えたら三人で魔法長官のフロアー見学だ」


「痛いよ、パスト! 今、本気で殴ったでしょ! 見て、頭にこんな大きなコブが!」


「さぁ、今日は何が食べたい? お義兄(にい)さんが、可愛い義妹(いもうと)義弟(おとうと)のために、なんでも(おご)ってあげるからね?」


「聞いてる、パスト? しかもなんか今日の見学、ぼく除け者になってない? 一緒に行くよ、もちろんね!」


「今日はなんと特別に、普段は立入禁止区域の、大魔術を行う部屋へも案内してくれるって、アルマンドさんが言ってたよ。僕も入れてもらうの初めてだから楽しみなんだ。普通は魔法長官と副長官と補佐官の、三人しか入れない場所なんだよ、良かったね」


「ねえぇ、ぼくの声、聞こえてるー? ね、ちょっと待ってよー、置いてかないでー!」




** ** **




 そして今、まさに魔導昇降機を降りて中央棟五階の魔法長官フロアーにやってきた。パストラーレが受付にいる秘書のような人に取り次ぎをお願いすると、しばらくして階段からアンティフォナ叔母が降りてきた。


 自宅にいる時とは違って、魔法副長官の制服だ。

 黒一色の、士官服のような形のパンツスタイル。上着の上から赤いベルト。立て襟と袖にある折り返し、それからパンツの裾の部分に赤い糸で刺繍がしてある。なんとなく魔法陣のような不思議な図柄だ。肩から腰丈のマントを着けている。肩の留め金も赤。そしてマントは表も裏も黒一色だが、表地には濃い緑色の糸で魔法陣がびっしりと刺繍されていた。


 格好いいな。

 これをいつかマドリガーレが着るのか。

 でも彼女にはあんまり赤は似合わない気がする。アンティフォナ叔母は瞳が茶色だから良いけど、マドリガーレはアメジスト色だ。


 うーむ、と悩んでいると、アンティフォナ叔母に笑われた。


「ソラ、何を考え込んでいるの? 挨拶を返してはくれないのかしら?」


「あ、ごめんなさい、フォーナ叔母さん! こんにちは、今日はよろしくお願いします!」


「ふふっ、あなた達が見学に来てくれるからって、男ふたりが妙に張り切っているのよ。兄弟ふたりで何を説明しようか、どっちが話すのかと言い争っていたわ。まるで子供みたいにはしゃいじゃって、ふふふ、楽しませてもらったわ。ありがとう」


 そう言ってアンティフォナ叔母は、まずこの五階のフロアーを案内してくれた。

 ここには以前も来たことがある。一か月前、三年ぶりにこの国を訪れた時、初日に昼食を取ったのがこの階の一室だった。応接室、サンルーム、小応接室などいくつか対外者用の部屋がこのフロアーには集まっていた。


 続いて六階へ上がる。

 そこは魔法長官付きの職員が働く場所とのこと。魔法長官部署は、魔法庁内部署の統括と、各部局との連携のために行う元老院とのすり合わせ、それから王族関連官僚との連携もしているらしい。外国との国境門において必要な魔力や魔石、魔法陣の用意を、どちらの国がどの割合で受け持つのかなど、魔力関連の外交もここが担っている。


 各部局との連携のために行う元老院とのすり合わせ、とは何かと聞いたら。

 医療局や商工局など、各部局が何か問題を抱えた時に、五家の各家内で解決できない場合、元老院と魔法庁、双方にお伺いをたててくるという。その場合、元老院は勝手なことを言ってくるので、それをどう(さば)くのかが結構大変な仕事になるらしい。


 そして初めて聞いた“王族関連官僚”の話。

 この国の王族は、王子の中で一番魔法力が強い者が次の王になり、その他の王子や王女は他国に王配として婿養子か嫁に行く者もいるし、国内で婚姻を結ぶ者もいるという。そして王女が国内で嫁げばそれは大体において嫁ぎ先は五家の本家なので、そのまま五家の一員になるらしいが、国内で結婚した男子は王位継承権を残して公爵になるらしい。そして王位継承権が残るのは新公爵となった王子本人と、その息子までなので、それ以降の血筋は王族のお世話をする官僚となっていく、と。


 つまり王族関連官僚とは、元は全員王族だということだ。

 だから行事や何やらのことで先方から要望があった場合、魔法庁はその要求を全て聞き届け、なおかつ相手の希望の上をいくほど精一杯務めていかなければならないらしい。

 まぁ、今代(こんだい)の王の御代(みよ)になってからは、そうそう無理難題を言われることはなくなったらしいが。


 そういった感じで六階と七階を案内してもらった。


 なんだか魔法長官の仕事って、思っていたのと違った。

 なんかもっとこう、魔法をバンバン使って、色々なことを魔法ぶっ放して解決していくような感じかと思っていたんだ。

 そうこぼしたら、アンティフォナ叔母は笑った。


「なんだか、若い頃は皆そう思うらしいわね。わたくしも実際に説明されるまでは、そんな感じに思っていたから。でも実際に行われているのは政治よね。長になると堅苦しいことこの上ないわ。でも、大概(たいがい)のことは魔法長官部の職員が(さば)いてくれるから、長官は書類を読んで、もっともらしい顔してうなずいて、サインをすれば良いだけなのよ。だって魔法長官の一番大切な役目は年末の大魔術で、そのために魔力が一番大きな者が任命されるのだから。だからぶっちゃけた話、魔法長官部の職員達は、長官に政治的役割や事務能力を求めてはいないのね。アルがふらふらしていても気にも留めないし、視察に行くと言えば喜んで準備万端整えて送り出してくれるし、たまに根を詰めて書類仕事をしていると『お疲れでしょうから、そろそろご帰宅されては?』なんて言われちゃったりするのよ」


 そんな話を聞いて驚くと同時に、なんだか少し安心した。政治の世界に入らないとならないなんて思ったら、とてもじゃないけど魔法長官を引き受けることなんて了承できやしないから。


 そんな説明を受けているうちに、またひとつ階を上がる。

 そこは八階。

 最上階で、長官・副長官・補佐官の三人のためだけのフロアーだった。




** ** **




 八階に上がると、そこには待ちかねたように、アルマンド叔父と父レチタティーヴォがそわそわしながら立っていた。目を期待に輝かせ、ふたりとも今にもこちらに駆け寄ってきそうな雰囲気だ。

 アンティフォナ叔母が「子供みたいにはしゃいで」と言っていたのを理解した。


「やあ、ソラ、マーレ。魔法庁見学はどうだい? 色々知らないことも多かっただろう。興味を持てたかい?」


「はい、アル叔父さん。どこの部署もたくさん説明してもらえて楽しかったです。それに、総務部があるなんて知らなかったから、びっくりしました」


「そうだね。総務部は完全に魔法庁内だけの部署だから、一般に周知している訳じゃないからね」


「レーヴォ伯父様、魔法長官部という部署の仕事内容を聞いて、ソラが驚いていました。何もお話されていなかったのですね」


「ああ、マーレ。すまない。ソラが魔法に拒否感があったうちは、長官の仕事について話すなんてことは避けていたし……よりいっそう頑なになっても困るからね。それに真剣に考えると言い出してからは、いずれここを見学させて、その時に話そうと思ったんだ。何か変な先入観を持たれても困るから」


 そう言われて、なるほど、と思った。


「色々説明したいことはあるけれど、とりあえず先に、一年に一度行う大魔術について話をしようと思う。この上の階だ。パストとレッジェロも一緒に行きたいだろう? 本当なら部外者は立入禁止なのだが、この際だから大目に見ようと思う」


「ありがとうございます! ぜひご一緒させてください!」


 パストラーレは興味津々の研究者の瞳をしていて、レッジェロは子犬が尻尾を振って全身で期待をしているような感じで、顔が輝いている。

 このふたりは、なんだかんだ言っても気の合う仲間なんだろうなと思った。

ソラは初恋にあわあわしています。

そして青年コンビがとっても好きです、書いていて楽しいから。

さて、魔法長官部の見学です。

次話はいよいよ大魔術を行う部屋へ行きます。


次回更新は7月23日(月)です。

皆様、良い週末をお過ごしください。

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