表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第二章 ソラとマーレの綺麗な魔力
60/130

12.『はしゃぐ小栗鼠亭』にて

 予定した時間より、ほんの少しだけ遅れてしまった。夕方の四時を少し過ぎてしまったので、恐らく跡取り息子のコルネット以外にも人がいるだろう。


 そう思って『はしゃぐ小栗鼠亭』を訪ねてみたら、店内には客がひとりだけいた。


「いらっしゃい、レッジェロ様。今日もお客様を連れてきてくれてありがとうございます。お茶とお茶菓子はどうでしょうか」


 にこやかに接客してくれるコルネットに今日のおススメの茶菓子を質問して注文していると、窓際に座った客がこちらを振り向きもせず、イライラしたように窓の外を睨んでいた。なんだろうと思っていると、レッジェロが目配せしながらこっそり「あれが噂の、宿屋の息子、カンジーラだよ」と小声で教えてくれた。


 昨日の話を思い出して振り返る。


 確か、この店の看板娘のリラに惚れてる男……窓際で外を睨んでいるのがそうだ、名をカンジーラという……がいて婚約を迫っているようなんだけど、リラには他に好きな人がいるようで、それでカンジーラの様子がおかしいと兄のコルネットが心配している、という話だった。


 昨日もそうだったけど店内にリラはいない。昨日は家事をしに自宅に戻っている時間だったと聞いたが、今日もそうなのだろうか。そしてリラがいないことに、このカンジーラという男はイライラしているということなのか。


 店に客(しかも本人)がいる以上、コルネットは雑談も事情説明もできるはずがない。今日は運が悪かったとレッジェロが言い、また後日聞きに来るよと小さく言って笑った。

 それでお茶を飲みながら四人でおしゃべりをする。純粋にこの店のお茶は美味しいし香りも良い。そしてお菓子も味がとても好みだ。魔法庁を一巡りして少し疲れてしまったので、喉を潤し甘い物を食べるとホッと人心地ついた気分だった。


 しばらくそうして身体を休めていると、ふいに店の奥の勝手口が開いて、外から人が入って来る様子がうかがえた。高い声が聞こえたから、看板娘のリラだろう。

 そう思って見ていると、奥から顔を覗かせたのはやはりリラだった。窓際の男が椅子から半分腰を上げ、期待に目を輝かしている。けれども店の中に姿を現した彼女は、ひとりではなかった。


「チェレスタ、そのお酒はこっちに置いてちょうだい」


「分かったよ、リラ」


 酒屋の納品だろうか。

 俺はそう思っただけだったが、レッジェロがバッと振り向いた先は窓際の男。彼、カンジーラは椅子から半分腰を上げた状態のまま、全身から怒りの波動が見えるような気配を発していた。

 俺は慌てて瞳に力を入れて気配を探ったが、カンジーラから黒い魔力が流れ出している様子はなく、ホッと安堵(あんど)した。レッジェロも安心したように深く息を吐いていた。まだ大丈夫……今のところは。

 そう思って成り行きを見ていると、リラは客がいることにも気づかない様子で、酒屋の男にあれこれ指示を出している。見かねてコルネットがリラに声をかけた。


「リラ、今はお客様がいるんだ。裏であまり大きな声を出さないでくれ」


「え、珍しい!」


 兄に注意をされて思わず出てしまった言葉のようだったが、ハッと気づいたリラは慌てて店の方を覗き込んできて、カンジーラと俺達がいることが分かって「失礼しました、お客様」と頭を下げた。そしてレッジェロに気づくと「レッジェロ様! 来てくれて嬉しいです! いつもありがとうございます!」と笑顔で挨拶をする。その後、再び店の奥に引っ込もうとした時、カンジーラが「リラ!」と声をかけてきた。


「いらっしゃい、カンジーラ……ねぇ、他のお客様もいるんだから大声を出さないでよ」


 小さな声で軽く注意しながら、リラはカンジーラの元へと歩いて行く。カンジーラはそんな彼女の様子を気にも留めず、近寄ってきたリラの腕を掴んで彼女を引き寄せ、小声でやり取りを始めた。


「リラ、俺には挨拶なしかよ。つれねーじゃねぇか」


「……カンジーラ、あたしはいつもお客様ひとりひとりに挨拶はしてないわよ。レッジェロ様はお貴族様だし、治安部の方でいつもお世話になっているから、ご挨拶したまでのことなの。あんたのとこの宿もそうでしょ?」


「……ふん、まあ、良い。ちょっとそこに座れよ。少し俺の相手をしていけ」


「カンジーラ、今は仕事の最中なの。お願い、無茶言わないで。用があるなら明日にでも休憩時間中に来てちょうだい。ね?」


「少しくらいいーじゃねーか。酌のひとつでもしていけよ」


「酌って、別にお酒飲んでる訳でもないのにする必要ないでしょ? それにあたし、ドリンクは作るしフロアーの仕事もするけど、接待はしないの。当然、誰かお客様のひとりについてお酌なんてしたりしないわ。ねぇ、あんまり困らせないでよ。まだ仕事がたくさんあるの。これから夜に向けて色々準備しないといけないのよ。チェレスタだって待たせてるし」


「ふん、あんな奴、ほっとけよ。だいたいなんで、あんな奴の相手ばっかしてんだよ。おめぇ、最近変だぞ。奴に色目でも使われてんのか?」


「色目って何よ。そんなんじゃないわ。それに“あんな奴”呼ばわりはやめて。あんたにチェレスタをそんな風に呼ぶ権利はないわ」


「ちっ、おめぇ、なんか奴にほだされてんじゃねーだろーな? やめとけよ、あんなの。気ィ弱くて男気のひとつもありゃあしねぇ。あんな頼りになんねーのに優しくすると、つきまとわれて大変だぞ」


「失礼ね! そんなんじゃないわよ! もう良いわ、あんたの相手をしている暇はないの。それじゃ」


 くるりと背を向けて離れようとしたリラの腕を再びギュッと掴んで「待てよ!」と声を上げるカンジーラに、リラは「離して」と冷たく言う。それを睨むようにして動かないカンジーラ。

 ハラハラして見守っていた俺の横からレッジェロがのん気に立ち上がり、ふたりの方へ近づいていった。


「まぁまぁ、ちょっとは落ち着きなよ。えっと、カンジーラ、だっけ? 女性の腕を許可なく掴むなんて失礼なことはやめなよ。女性は優しく愛でるものだからね。嫌がる女性に無理強いは良くないよ」


「……レッジェロ様。これはオレとこいつの問題っす。いくらお貴族様でも、男女の仲のことにゃ口を挟まないでもらいてぇ」


「うーん、そうは言ってもリラは嫌がっているし、まだ仕事中だからと断っているじゃないか。仕事中、と言うからには、客であるぼくにも口を出す権利があると思うんだよね」


 そこで店主であろう年配の男が「リラ、こっちを手伝ってくれ」と声をかけ、奥から出てきた。リラが「父さん」と口にする。そして彼はカンジーラの前まで来て「悪ぃな、カンジーラ。今日の夜は予約がいっぱいなんだ。これから仕込みが大変でね。そっちもそろそろ夕方の仕事が忙しくなる時間だろう? また今度ゆっくり来いや。今日はこれで終わりにしてくれ」


 そう言って娘の腕を掴んでいるカンジーラの手をゆっくり外すと、リラを背に隠すように後ろに下がらせ、カンジーラをじっと見つめた。カンジーラは「ちっ」とひとつ舌打ちをすると、テーブルの上に代金をチャリンと置き、機嫌が悪そうに店を出ていった。


「レッジェロ様、娘を助けてくださって感謝しやす。迷惑をおかけしちまって……」


「いいや、女性の嫌がることをしている奴が気に入らないだけだから、大丈夫だよ、ガタム」


「レッジェロ様、昨日も来たと聞いていやす。もしや……コルネットが相談に行ったんでは……」


「うーん、ま、そうなんだけど……ガタムにはまだ内緒だって言われてたから、こんな時間にこっそり来ちゃったよ。ごめんね、ガタム」


「いや、わしのせいです。気にするほどのことじゃあない、大丈夫と思ってたもんですから。だけど、今日のカンジーラの娘を見るあの目……コルネットが相談に行っててくれて良かったと思いやした。カンジーラは、危ない」


 苦い顔をする店主ガタムの言葉に、息子のコルネットは腕を組んで鼻をふくらませた。


「だから言ったじゃん、親父は楽観視し過ぎるって。リラが危なくなってからじゃ遅いし、カンジーラだって魔力暴走したら困るんだよ?」


「そりゃそうだが……リラ、本当にカンジーラじゃあ駄目なんだな? お前の気持ちがカンジーラに向いてないと気づき始めた頃から、あいつの態度が変わってきた気がする。前はもっと人の良い、きちんとした青年だった。わしはカンジーラなら、きっとお前を幸せにしてくれると思ってたんだがな……お前があいつの求婚を受けたら、きっとあいつはまた、元通りの真面目な良い青年に戻ってくれるんじゃねぇかと思ってんだが……」


「父さん……あたし……」


「親父、リラに無理強いすんなよ。親父がカンジーラを買ってることは知ってる。おいらだってあいつは幼馴染だ、良いところはいくらでも思いつくし、凄く良い奴だって分かってる。でも選ぶのはリラだ」


 父親の言葉に答えられず、うつむく妹をかばって兄が助け舟を出す。そしてチラッと奥を見ると、そこには先ほどリラが伴って店の勝手口から入ってきた青年……チェレスタが所在なさげに立ちすくんでいた。

なんだか少し心配な感じです。

人の想いばかりは他人が口を出せる領分じゃないだけに困りますね。


次回更新は7月13日(金)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ