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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第二章 ソラとマーレの綺麗な魔力
50/130

2.ひと月ぶりの異世界

「ソラ!」


 ゲートを潜り抜けると、向こうでマドリガーレが大きく手を振っていて。


「マーレ!」


 駆け寄ると、マドリガーレは俺の手を両手でぎゅっと握ってくれた。

 彼女いない歴イコール年齢の純情男子高校生には、いきなりの出来事に対応するのが難しい。目を見開いて固まってしまった俺に対して、彼女は花が咲きほころぶように笑う。


「ソラ、来てくれて嬉しい!」


 今日から二日間、俺は叔父のアルマンド邸に泊まって魔力調整訓練をする。そして一度日本に戻り、三日間学校へ行ったら再びこちらに来て訓練をする予定だ。

 そう、日本は今、黄金週間が始まったところだ。こちらにはゴールデンウィークが無いため、両親ともコントラルト国に出勤しなければならない。それで再び家族全員でやってきたのだ。


 両親が出勤する時間に合わせて俺も一緒に来たところ、登校前にわざわざ従姉のマドリガーレが制服姿で迎えに来てくれていて驚いた。肩にケープの付いた薄茶色のお嬢様スタイルの上着。胸元にはふわふわとした青色のリボン。そしてスカートは膝下丈で、ふんわりと広がっている。可愛らしいピンク色が、袖の縁取りやスカート下のレースアクセントとして使用されていてとっても愛らしい。マドリガーレによく似合っていた。


「マーレお姉ちゃん、こんにちは!」


「まぁ、レミ、また会えて嬉しいわ。スーゾとたくさん遊んでいってね」


「はいっ!」


 ふたりのやり取りを見て、ようやく俺もハッと気づいて自分も挨拶をする。


「マーレ、久しぶり。来てくれてありがとう。今日は学校だろう? こっちに寄って間に合うのか?」


「ええ、大丈夫よ。でももう行かなけりゃ。帰りにも寄るから、私の車で一緒に帰りましょう。ソラ、頑張ってね」


 そうしてマドリガーレは嬉しそうに笑顔で手を振って、十六歳から二十歳の魔力が高い者が通う高等部へと向かって行く。送ってもらう車に乗り込む際に、入り口におでこをぶつけ、手で押さえて痛がっていたので思わず笑ってしまった。


 ちなみに彼女の弟のスピリトーゾは、ついさっきまでここにいたが、俺とろくろく挨拶もせずに麗美を連れてさっさと初等部へと行ってしまった。麗美は今回、初等部で初めての訓練をするのだ。麗美はこちらでは四年生になる年齢なのだが、特別に一年生の教室で魔力を感じる基礎を習うらしい。初等部最終学年である五年生のスピリトーゾは、先輩風を吹かせて麗美の世話を焼きながら車に乗って行ったのだ。


 そして俺はこれから両親と共に魔法庁へと向かう。父親のレチタティーヴォは魔法庁で叔父のアルマンドの補佐官を務めているし、母親の蘭々(らら)は週に三日、魔法庁でパートタイマーとして働いている。魔力もないのに魔法庁で働くなんて大変じゃないのか、と母親に聞いてみたことがあるが「どんな職種も働くのに大変じゃないなんてことはないのよ」と笑っていた。母は強い人だなと思った。


 そういった訳で両親と共に魔法庁まで転移装置で移動をし、魔力調整訓練をしてくれるパストラーレの元へと向かったのだった。




** ** **




「やあ、ソラ。思ったよりずいぶん早く来てくれて嬉しいよ」


「パストさん、こんにちは。今日からまたしばらくの間、よろしくお願いします」


 父親に連れて行ってもらったのは、パストラーレがいる魔力研究部だった。大きな部屋には机がたくさん並んでいて、雑多な物や本や資料がそれぞれの机の上に乱雑に置かれているが、肝心の人はほとんどいなくてガランとした印象を受けた。


「え? 人が少ないのが気になるって? ここに所属する人間は例外なく研究肌の者達ばかりだから、滅多なことじゃここに集うことなんてないよ。みーんな自分の研究室から出てこないからね。ちょっと狂人っぽい人が多い感じかな」


「そうなんですか……俺には縁のない仕事だな、こういうの」


 俺が頭を掻くとパストラーレが笑った。


「まぁ、ソラは魔道具開発や工芸の適性を備えているだろうから、ここに来る必要はないよ」


「え、それってどういうこと?」


 質問をすると、パストラーレは少し目を見開いてから微笑んで教えてくれた。

 恐らくこちらでは常識の話なのだろう。


「魔力や特性は、父方の血筋から受け継がれる。母親の血が関係するのは魔力量くらいなものかな。ソラのお父上がレチタティーヴォさんだから、ソラは第三家の魔力や特性を引き継いでいるんだね。たとえば僕のアリィやきみのマーレのお母上であるアンティフォナさんは第五家のご出身だけど、あの三姉弟の魔力や特性は第三家のみを受け継いでいるという感じかな」


「へぇ、そうなんだ。だからか。俺の母さんは日本人なのに、父さんの魔力を受け継いだから、俺は強い魔力を持って生まれてきちゃったんだな。そっか、常々ハーフなのになんでこんなに魔力持ってるんだろうって気になってたんだ」


 パストラーレの言葉の中に一箇所、聞き流してはいけない部分があったような気がした。


 “きみのマーレ”という部分。


 “僕のアリィ”は、アリアと婚約しているパストラーレなら言って当然の台詞だろうが、俺とマドリガーレは従姉弟という以外の関係は無い……今のところは。

 けれども長年気になっていたこと――ハーフであるのに、魔力が現地の人より多いと言われることの疑問に答えをもらえたと思い、つい“きみのマーレ”を流してしまったのだ。


 返事をしてからそれに気づき、ついでに言葉を繋げようかとしたが、すぐにまたパストラーレが言葉を返してきてうやむやになってしまう。


「そうだね。レチタティーヴォさんは、国で一番の魔力を誇るアルマンドさんの補佐として、副長官を務めるはずだった人だからね。その遺伝子を引き継げば、優秀な魔法使いになるのは始めから決まっていたようなものだよ。――でもそれにしても、ソラの魔力や特性は、レチタティーヴォさんやアルマンドさんよりも更に凄いよね。凄すぎるから、何かしらの要因があったのかも知れないね。地球人とのハーフというだけならレミちゃんもそうだけど、彼女はアリィよりは才能ありそうだけど、マーレにはちょっと届かないようだし、何が作用したんだろう……色々調べてみたいな……ソラはここにいる間に実験に付き合ってもらうとして、レミちゃんは僕の研究室に来てもらえるかな? ああ、スーゾが邪魔しそうだな。どうやって言いくるめようか……」


 何やらパストラーレがぶつぶつ言いながらその辺を歩き回り、映画に出てくる変な研究者のような言動を始めたので、俺は慌てて声をかけて引き留めた。


「あ、あの、パストさん! 訓練! 俺の訓練してください! 今回は来られる日が少ないんですから!」


 慌てて大声を出すと、はた、と足を止めたパストラーレがこちらへくるりと振り返り、にっこり笑ってうなずいた。


「そうだね、ソラ。では早速、魔術遮断室へ行こう」


 そう言ってすたすたと廊下を歩き始めたので、俺はホッとして後をついて行った。

 麗美を、マッドサイエンティストによる人体実験の餌食(えじき)なんかにしてたまるものか。




** ** **




「じゃあ手始めに、ソラがあちらでどんな訓練を日常的にしていたのか教えてもらおうか」


 パストラーレが浮かれた様子で、魔術遮断室の扉を開けるとすぐさまそう言った。彼に続いて扉をくぐると、そこはマドリガーレの家の魔術遮断室よりずいぶん小さい部屋であった。恐らく六畳くらいの大きさだ。


「なんか小さいですね、この部屋……」


 部屋を見回しながら思わず口から出てしまった言葉に、パストラーレは笑った。


「魔法庁には、研究して気づいたことや、魔道具で新しく開発した物など、試してみたい人がいくらでもいるからね。たくさんの魔術遮断室が用意されているんだよ。大人数で試す用の部屋は広いけど少ないかな。その代わり個人で使用する部屋はたくさんある。この一角、全部そうだ」


 そう言えばこの部屋の周辺は、割合近い間隔で均等に扉がずらりと並んでいたのだった。


「初心者用の、魔力及び魔術訓練魔術具は魔法庁にはそんなになくてね、この部屋が一番取り揃えてあると思って予約入れておいたんだ。期間中の昼間はずっとこの部屋を貸し切りにしてるよ。思う存分魔法を使用してくれて良いからね」


 なんだか先ほどからパストラーレが興奮しているように見受けられる。心なしか頬は赤く染まり、瞳もキラキラしているような気がする。

 パストラーレと付き合っているうちに、俺の中の初対面の印象から彼が少しずつ離れていくような気がして、少し戸惑っていた。


『アリィさんと、上手くやってるようだから心配は要らないと思うけど……なんかアリィさん、大丈夫かなぁ?』


 男女のことなどよく分からない俺は、勝手にそんな心配をしていた。


「さあさ、家でどんな訓練をしていたか、教えてもらおうか」


「は、はい……父さんと相談して、炎以外の魔力訓練をしていました」


「ふむ。では、ひとつずつ言ってみて」


「はい。まず、朝起きたら家じゅうの窓を開けて、部屋の物を何ひとつ飛ばしたり落としたりしないように気をつけながら、風魔法で空気の入れ替えをするようにしました。父さんには魔術によって起こされた風の居場所が分かるらしく、この部屋は風が真ん中を通り過ぎただけで綺麗に空気が入れ替わってないとか教えてもらえるので、すごく助かってます」


「そっか。それで、どの程度できるようになったんだい?」


「えーと、最初の数日は一部屋から始めたんだけど、物を飛ばして落として大変でした。学校から帰ってくると、まずその片付けから始めないとならなかったんで嫌でたまらなくて、頑張ったから割とすぐにできるようになりました。それで一部屋ずつ増やしていって、今では玄関から風を通して家じゅうを回らせ、最終的にベランダに(ほこり)をまとめて置けるようになったんです。母さんが『お掃除が楽になってとっても助かるわ』って言ってました」


「へえ、さすが風魔法の一族だね。たった一ヶ月程度でそんなに扱えるようになるなんて。で、他には?」


「あとはそんなに上達していません。学校から帰ってきたらベランダで土魔法の練習をしてるんですけど、青いビニールシートの上で土を作り出して、それを丸や三角や四角にするってのをやってます。少しだけ水分を含ませた土にすると固めやすいけど、水を入れすぎるとドロッて崩れ落ちちゃうから、その調整もまだ難しいです。だからこっちはまだ全然上達してないかなぁ。後は、寝る前に風呂入った時に水の球を作る練習してます。洗面器に同じ大きさの水を一定のリズムで作って入れていく、みたいな。作るスピードを揃えようとすると大きさが不揃いになっちゃうから、今、頑張ってるところです」


「そうなんだ。やっぱり風の魔法は抜群でも、その他はまだまだ初心者だね。でも初心者でもこれから継続していけばもっと上達するから、とりあえず今回は炎魔法と風魔法の訓練を重点的にやろうと思う」


「えっ、炎は分かるけど、風もやるんですか? 一番得意なのに?」


「そう。得意だからこそやるんだよ。得意な魔法からどんどん先へ先へと魔術を習って上達し、魔力の扱い方が上手になると、練習していなくても他の魔法もコツが分かってきて勝手に上達するってことがよくあるんだ。全体的に満遍(まんべん)なく練習するよりも早いって研究結果が出ているんだよ。だからソラにはこちらでしか練習できない炎魔法と、得意な風魔法を今回は訓練してもらう。水と土は次回、三ヶ月後に来る時までに自宅で練習しておいて」


「はい」


 俺が素直にうなずくと、パストラーレもひとつうなずいて「では、まずは」と言った。


「では、まずは炎魔法からいきますか。このガラス瓶の中には炎の魔力に反応する水が入っている。これに炎の魔力を加えていき、言われたとおりの温度調整ができるように訓練したいと思う。今、この水は青色をしているよね。これは冷たい水が入っているからこの色なんだ。詳しく言うと十度以下の水だ。二十度付近になると水色になり、三十度で緑、四十度で黄緑、五十度で黄色、六十度で黄橙色、七十度で橙色、八十度で桃色、九十度で桃赤色、百度を超えると赤色に変化する。きみはこの中の水を、言われたとおりの色にするために、温度調節をしなくてはならないんだ」


「なんか……いきなり難しそうですね……」


 俺が少し(ひる)んでしまうと、パストラーレは相好を崩して朗らかに笑った。


「そりゃあそうさ。これを完璧にできたら魔力訓練なんて必要ないからね。良いんだよ、最初は言われたことをやろうとしてみる、という程度で。これをしてみると、炎の調節をするとはどういうことかということが、なんとなく肌で理解できるようになるんだよ。それが分かってから実際に火を(おこ)す。炎の魔法は本当に危険だから。何か事故を起こしてからじゃ遅いからね」


「はい」


 パストラーレの説明に身が引き締まる思いがし、真摯(しんし)にうなずいて彼の言うとおり炎の魔力訓練を始めた。


 やはり炎の魔力調整は難しい。それでもなんとか食らいつくように頑張り、少しずつ上達していく中、一時間ほど集中して練習した。「疲れただろう、いったん休憩しよう」と言われ、途端に疲労を感じた俺は思い切り大きな息を吐く。それを見てパストラーレが笑いながら「頑張ったね」と言い、俺を食堂へ連れて行ってくれた。




** ** **




一方、その頃のマドリガーレ。


「なにやら今日は機嫌が良いな、マーレ」


「え、そうかしら?」


「朝から浮かれておるように見える」


「そ、そうかしら……ふふっ、そうかも……」


「気味が悪いのぅ……」

いよいよ本格的な魔力調整訓練が始まりました。

この章はソラがコントラルト国を知っていくお話になります。

ソラと一緒に楽しんでいただけると嬉しいです。


次回更新は6月20日(水)です。

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