1.俺、決めたんだ
本日、人物紹介とプロローグ、第1話、の合計3つを更新しています。
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春休みが終わった。
とうとう今日は高校の入学式。今日から俺は高校生だ。
中学の卒業式を済ませ、妹の小学校の終業式の翌日から、家族と共に父親の実家に十二日間行っていた。そこへ行くのは三年ぶりで、俺は行きたくなくて仕方なかったが、父親から「どうしても」と説得されたのだ。しかも高校から出た宿題を、それまでに全部終わらせろと母親に言われ、数日間、ひぃひぃ言いながら頑張らざるを得なかったのがまた悔しかった。卒業記念で友達とあちこち出かける予定があったから、宿題受け取った日から必死にこなしていったのだ。
そんな目に合うのも、友達と出かけるのを、妹の小学校の終業式までという一週間のみにさせられてしまったのも、全てが父親の実家に行くためで。俺はそれをとても恨んでいたのだ。
ところが。
行ってみて驚いた。
たった一日で認識が変わったのだ。
両親も、叔父や叔母も、大人達がみんな俺を心配してくれていたことが分かったからだ。
俺には生まれつき魔力がある。
父親が異世界出身で、日本人の母親と異世界間結婚したからだ。
父親の故郷はコントラルト国といって、誰でも魔力を持って生まれてくる。そしてその中でも父親の実家は五家という屈指の魔力の高さを誇るお貴族様で、しかも第三家という名門中の名門だったわけだ。そのため、父親の魔力は国中でも上から数えて数人目というくらいらしく、俺はその血を受け継いだために、大きな魔力を持って生まれてしまったのだ。
魔力を持つ者は、何かのきっかけで魔力暴走を起こすことがあると言う。魔力暴走を起こしたが最後、その人は生きてはいられないそうだ。更には暴走に周囲の人や建物を巻き込むこともあって、ひとりの暴走が他者の暴走を呼び、運が悪ければ暴走の連鎖となって災害レベルにまで発展してしまうかも知れない……と、これは後から知った知識だ。
父親は折に触れてこのことを俺に説明し、コントラルト国に行って魔力調整訓練を受けるよう促そうとしたが、魔法なんて大嫌いだった俺は聞く耳を持たず、三年もの間、一度もあちらへ足を運ばなかったのだ。両親や叔父夫婦はどれだけ心配したことだろう。
俺には二歳上の従姉がいる。彼女が言うには、俺が魔力暴走を起こしたら俺ひとりだけでも大災害レベル、周囲を巻き込んだ場合の被害は計り知れないと言っていた。
そのような訳で心を入れ替えた俺は、もうひとりの従姉の婚約者から魔力調整のやり方を教えてもらって練習し、その際、いくつもの魔術を使えるようになっていった。
魔法は、水、土、風、炎、と大体四つの系統に分かれる。その他にも氷や雷といった複合魔法や、結界という独立魔法も存在するらしい。
それらの魔法の系統の中から魔術を使用していくのだが、そのひとつひとつを全て習うのは難しい。何しろコントラルト国に住む者が十五年かけて学校で教わっていくのに、たった十二日間の訓練で俺にできる範囲は限られていたからだ。
それでも一生懸命頑張った結果。
二歳年上の、大嫌いだった従姉が俺を認めてくれて、仲良くなった。
話してみると彼女は優しく、面倒見がよく、根気よく訓練に付き合ってくれ、的確なアドバイスをくれて、とても信頼できる人だと分かった。人柄をよく知りもしないであんなに嫌っていて、本当に悪いことをしたと思う。
従姉のマドリガーレ。
愛称を、マーレという。
周囲の大人達は将来、俺にこの国の魔法庁のトップである魔法長官になって欲しいと思っているが、マドリガーレは一年間のうちにどうするか決めてくれれば良いと言っていた。
俺が魔法長官を断れば、彼女が代わりに長官になってくれる。
そして俺が長官になる決心をしたら、彼女が副長官になると言ってくれた。
マドリガーレはもう十七歳。
日本では考えられないが、あちらでは通常十五歳の魔力測定後に進路を決定するとのこと。十六歳になる春に入学する学校は、全て職業に直結するものだからだ。
それなのに彼女は十七歳……あと数ヶ月で十八歳だ……になっても、進路が決まっていないのだ。
全て、俺のせいで。
だから俺は真剣に考えなければならないのだ。
将来、日本で生きていくのか、コントラルト国に行くのか。
現在、魔法長官を務めている叔父は、まずは魔法について知って欲しいと言っていた。
魔法について、そして魔法長官の仕事について。
魔法庁が何をしているのか、どんな風に人の役に立っているのか。
それを知った上で、興味がなかったら日本で暮らせば良い、と。
そう言われて日本に戻ってきた。
入学式の前日……昨日だ。
次にあの国に行くのは夏休みだろう。サッカー部に仮入部したらゴールデンウィークは部活三昧になることは目に見えているから。しかも夏休みだってお盆の一週間くらいしか休みがないに違いない。冬休みだって大晦日と正月三が日くらい休めるのがせいぜいだろう。
……それで良いのか。
人ひとりの将来がかかっていて、俺は自分の趣味にのめり込んでいて良いのだろうか。
一年間で考えて決めると約束したけれど、その一年の間、あちらに行かれるのが合計十日そこそこで、何ができるというのだ。
マドリガーレの顔を思い浮かべる。
銀色の流れるような長い髪に、アメジストの瞳。
明るく優しく笑う彼女の表情が曇るのを想像して、俺は思わず首を横に振った。
皆が一斉に立ち上がり、また一斉に座るのになんとなく合わせてこなしていたら、いつの間にか入学式は終わっていた。
教室で担任教師から色々説明を受けて解散となる。
席に座ったまま周囲を眺めてぼんやりしていたら、朝、声をかけてきた友達が俺を迎えに来た。
「奏楽! サッカー部、見学に行こうぜ!」
「……悪ィ、俺、部活入るの、やめるわ」
「え、なんだよ、どっかクラブチームでも考えてんのかよ?」
「違うよ。俺、高校ではサッカーはしない。趣味でちょっとボール蹴るくらいはするかもしんねーけど……サッカー、やめることにしたんだ」
俺がそう言うと、青天の霹靂のような顔をして友人が「なんで……」とつぶやく。
小、中の九年間、隣を走り続けた友達に俺は真剣な顔をして答える。
「やらなきゃなんねーことができたんだ。サッカーは俺にとって何より大切な趣味だ。でも、趣味より大事なものがあるんだ。俺はそれに、全力投球しなきゃなんないんだ」
「奏楽……やだよ! 一緒にサッカーやるって言って、同じ高校受験したんじゃんか! オレ、これからもお前と一緒にサッカーしたいよ!」
「ごめん、ほんとごめんな。できれば俺もお前と一緒にボール蹴りたかった。一緒に泣いて笑って、喜んで、悔しがって……そうして高校サッカーに打ち込みたかった。でも……悪い。ホントに悪ィと思ってるけど……もう決めたんだ」
「なんだよ……奏楽……何がなんだか全然分かんねーよ……でも、お前、決めちまったんだな……」
「……うん、ごめんな」
「まったく、お前はいつだって、真っすぐで、直情バカで……頑固だから。一度決めたら誰が何を言ったって覆せないんだもんな、お前ってヤツは……分かったよ。なんだか分かんねーけど、ガンバレ。お前が決めたんなら、もう何も言わん。だから、ぜってーやり遂げろ。オレとの約束破ってまで、やるって決めたんだからな! 良いな、奏楽!」
「うん、サンキュー……精一杯頑張るよ」
「……にしても、いつも思うけど、全力投球って気に食わん。一蹴入魂じゃダメなんかよ?」
目を赤くしている友達に、俺も目元をぐいっと拭って答えた。
「そうだよな。分かった、これから起こること、ひとつひとつに対して、全部、一蹴入魂の気持ちで挑むよ」
「その意気だ、奏楽! ガンバレ!」
「サンキュー! お前も頑張れよ! 応援してる!」
「おう! 見てろよ、ぜってぇレギュラーになってやる!」
今日、顔を合わせたばかりのクラスメイト達が呆気に取られて見守る中、小学校時代から九年間、共に走り続けた友人と俺は、教室の真ん中で満面の笑みを浮かべ、声を出して笑いながら、滔々(とうとう)と涙を流し続けていた。
今日から第二章の始まりです。
お待ちくださっていた方、ありがとうございます。
次話からコントラルト国へ移動します。
次回更新は6月18日(月)です。




