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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
間章1 薔薇とスミレとマーガレット
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14.婚約者は青色を作る ~土魔法対決~

 さて、翌週の休日。


 今日は対決第二回目だ。

 フラワーガーデンの入り口でレッジェロと待ち合わせをして『Pyramid of flowers』へ向かった。先週と違ってこちらはとても混んでいて、二時間待ちとなっている。その間、レッジェロとパストラーレに全く会話はなく、私は気まずいを通り越してお腹が痛いような気がしてしまった。


 ああ、ようやく気詰まりでつらい時間が終わる。

 建物の中に入る時がやってきたのだ。


 係員の人に三人で入室する旨、伝える。

 対戦型にすると言うと、扉の前にある操作パネルをピピピと押して設定をしてくれる。


「初めにご説明させていただきます。入室時間制限は三十分です。魔術を使用できるのはスタートボタンを押してからで、終了ブザーが鳴るまでの二十五分間のみです。その時間内でも、この部屋の中では当アトラクションに必要な魔術以外の魔法、全てが使用不可となっています。また、土魔術でピラミッドを作成するだけか、中に花の種を植えて水魔術と併用して花を咲かせるか、選ぶことができますが、対戦型の場合、おふたりとも同じ方を選んでいただくことになります。どちらになさいますか?」


 花を咲かせる方をふたりが選ぶと、係員の説明は更に続く。

 にこやかな笑顔で説明してくれるのに、男達ふたりは気のない様子だ。


「中にお入りいただくと、ピラミッドを作る枠の近くの床に、円が描かれています。そこから魔術をお使いください。円に隣接して花の種を収納した箱がありますので、ご使用の際にはその中から取り出してください。また、ご見学の方は、この円よりも前方に出てピラミッドに近づきますとエラー表示が出て記録無効となってしまいますのでご注意ください」


「はい。折りたたみ椅子を持って来ているので、種の収納箱の後ろに置いて座って見学するつもりです」


 係員の人好きする笑顔にも、男達は何の反応もしないので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 私がひとりで一生懸命説明を聞いている。


「それならば大丈夫でしょう。それではこの後、入室となりますが、中に入ってから三十分間しかありませんし、対戦時間は二十五分です。準備を整える、終わった後の記念撮影、などは残りの五分間ですべて終えるようお願いします……さて、いよいよ前の方がご退室されました。扉が開きましたらご入場ください。扉が開いた瞬間から、三十分間のカウントダウンが始まります。それでは、どうぞ!」


 開いた扉から普通に歩いて入る男達。

 盛り上がりも何もなく、淡々と入場した。

 後ろから係員の人が「どうぞお楽しみください!」と元気に手を振りながら扉をしめてくれたので会釈を返した。

 こんなに愛想のない客相手でも、しっかりお仕事をする人、偉い。

 これからもめげずに頑張って欲しい。


 さて。

 並んで待っている時にレッジェロが左側、私達が右側にいたので、ピラミッドを作る場所もそのように分かれた。私は右側のマス目の近くにある花の種入りの箱の脇に椅子を置き「ここなら平気かな?」と聞く。パストラーレが「そうだね」と言うので腰を下ろし、マス目の方に身体を向けた。


 この場所から作られるピラミッドを見守るのだ。

 今回、私が唯一手伝えることはここでしかできない。


 レッジェロが「用意は良いかな?」と聞くとパストラーレが「ああ」と短く答え、スタートボタンが押された。


 いよいよこれから二十五分間、パストラーレが苦手なピラミッド作りが始まるのだ。




** ** **




 さすがにレッジェロは、土魔法が得意だと本人が言っていたとおり、素晴らしい出来具合だ。どこも欠けたり歪んだりしないきちんとした立方形の土塊を手早く作り、端からどんどん並べていく。


 パストラーレも真剣な顔で土の塊を作っている。

 外周になる土塊ひとつに付き三本の指で一掴みの花の種を仕込んでいくが、角になる土塊には二回掴んで入れ込んでいた。

 通常、花の種の箱にはひとつの土塊にひとつの花の種を入れるようになっている。つまり親指と人差し指で種をひとつつまめる大きさの種なのだ。それなのに、今目の前にある箱には無数の小さな種が埋め尽くされている。


 恐らくパストラーレが何かの目的のために、下準備としてこの種を用意したのだ。いったい何をするつもりなのだろうか。


 黙ったまま作成されていくピラミッドを見守り続ける。

 時折、パストラーレの顔を見つめると、彼も見返してきてくれてにっこりと笑顔をくれた。


 レッジェロのピラミッドは十五段で、天井に迫るほど高い。

 対してパストラーレの方は最初から十二段にするよう土台を作っていた。相手よりも三段低いだけなのだが、土台が一段増えるごとに作らなければならない土塊はとても多くなる。そのため、たった三段違いだが、レッジェロとパストラーレでは二倍近くも作る量が違った。

 しかもレッジェロは土魔法が得意なので、土塊のひとつひとつが綺麗な立方体で、角の欠けや表面のでこぼこもない。まるで綺麗に(みが)かれた土色の岩が積まれているように見える。魔力錬成スピード、魔術発動の時間、正確性が、土魔法に関しては完璧であった。


 残り三分のアナウンスが流れた。

 パストラーレは土塊の最後のひとつを作ろうとして、種の箱に手を伸ばした。

 互いに見つめ合い、うなずき合うと、彼は土の魔力を練りながら種を五回つまんで入れ込んだ。

 そして一気に土塊を錬成し、ピラミッドの頂上にふわりと着地させる。

 ところどころポロポロと崩れそうな土塊だが、ともかく頂上まで積み上げられた。

 これで私の手伝いは全て終わりだ。


 パストラーレからの、今回の手伝いの依頼はひとつだけ。

 「外周になる土塊を作る時には、種を入れるよう合図をして欲しい。更に、角に置く土塊を作る時になったら、忘れずに種をふた掴みいれるようにしっかり合図をして欲しい」ということ。


 パストラーレは種をつかむ時に必ず私の顔を一瞬見るので、その時に目が合えば種を入れる、そしてその時に私が手で頬を触っていたら、ふた掴みする、と決めたのだ。私はピラミッドに注目していて、次に作る土塊が外周だとか角の物だと思った時に、パストラーレの顔をジッと見つめて合図をするのだ。ピラミッドの方を向き続けいている私と目が合うと、彼は微笑んでから種を埋め込んだのだ。

 彼のうっかり対策だったが、今のところ失敗はないようだ。


 最後に行うのは水魔法との併用。

 種に水を適量与え、土魔法で種の発芽と成長を促し、花を咲かせるのだ。


 水魔法が得意な彼には、ここはお手の物のはず。


 そう思って見ていたが、パストラーレは全体的に一気に発芽させるのではなく、一番下段から順番に魔術をかけていき、花が咲いたら二段目に、それが咲いたら三段目に……と上げていく。


 通常、花の種は魔術で発芽及び開花しやすいように、このフラワーガーデンで開発された特殊なものだ。全て同じ種に見えるのに、咲かせてみたら違う花で違う色、というのが普通だ。それが証拠に、私が持っている記念写真のピラミッドは毎回、色とりどりの花の山だったし、今回レッジェロが咲かせているピラミッドの花も様々な形の花が混ざり合ったカラフルな花の山だ。


 けれども。

 パストラーレが咲かせている花は、やわらかな色合いの青。

 小さい花がひとつの土塊から何本も出て咲いていて、しかも小さな葉が土を覆うように茂り、(あら)があった地面を隠してしまっていた。


 青色が、少しずつ上へ上へと昇って行く。

 一面の、美しい青。

 優しい青。


 これは。

 この花は。


「スミレ……」


 とうとう頂上まできた。

 五方向一挙に発芽、成長をさせ、小さな花々の(つぼみ)が一斉にほころび、咲いていく。


 完成した。

 一面の(すみれ)色をしたピラミッド。

 派手さはなく、控えめな花でありながら、とても気品があって美しい。

 野に咲く小さな花でありながら、こうして手塩にかけて咲かせると、こんなに透けるような輝かしさがあるとは思いもしなかった。


 見とれて声も出せずにいると、終了のアナウンスが流れ、勝負が終わったことが分かった。


 レッジェロの作品は、十五段の大型ピラミッドだった。

 色とりどりの華やかな花々が咲き乱れ、堂々として見事な出来である。

 これなら誰も文句を言う者はないだろう。

 これより素晴らしい作品を作り上げることは、誰にもできないのではなかろうか。

 数値が印字されて間もなく紙が排出されるだろうが、全ての数値で他者がこれを上回ることはないと予想する。


 けれどもパストラーレのピラミッドは。


「凛とした美しい(たたず)まいで、まるでアリアのようだろう?」


「えっ?」


「今回の対戦では、僕の負けは最初から確定していた。それでも対戦する意味を見出すとしたら、きみに向けての愛のメッセージを込めるしかないと考えたんだ」


 パストラーレの言葉に目を見張る。


「スミレの花言葉は、謙虚、誠実、小さな幸せ。ほら、きみにぴったりの言葉だろう? 小さくても控えめでも、きみはいつもしっかりと根付いて立っている。そして大きく主張したり派手に見せびらかしたりはしないけれど、美しく綺麗で小さな花をきちんと咲かせる……そんなきみを、僕は心から愛しいと思っているんだ」


 言葉が出ない。

 溢れそうになる涙をこらえるので精いっぱいだ。


「そしてもうひとつ。スミレにはいくつか色があり、花言葉もそれぞれなのだが、この青色……いわゆる(すみれ)色の花には、他のスミレにはない特別な花言葉がある。それは『愛情』だ。僕の愛情全てを込めて、今回このピラミッドを作ったよ。これを、きみに捧げたい」


 広げてくれた両腕の中に、私は駆け込んで行って背中に腕を回した。

 顔を埋めた彼の肩を濡らしてしまう。

 これ以上ないくらいしっかりと抱きしめられて、私はかつてないほどの幸せを感じていた。




** ** **




「さて、おふたりさん。もう退出時間だよ。愛を確かめ合いたいことは重々承知してるけど、出てからやってもらわないと係員が困るからね」


 レッジェロが少し慌てた様子で退出を促してきた。


「記録用紙はそっちのも取り出しておいたし、その類まれな美しいピラミッドの写真も記念に撮影しておいたから、欲しかったら後で画像をあげるよ。だからもう、急いで出よう」


 見ると彼は、私達ふたり分の荷物まで、それどころか私が座っていた携帯用折りたたみ椅子まで持ってくれている。出口の扉前で「すぐに出なきゃ」とソワソワしている彼に、パストラーレは笑った。


「大丈夫。この部屋、次の回は人が並ばないよう、一回跳ばすようにあらかじめ手配してあるから。あと三十分は誰も入ってこないし、退出も促されたりしない」


 パストラーレがニヤリと笑うと、レッジェロは持っていた折りたたみ椅子をガシャンと落とした。

今回パストラーレが咲かせたスミレは、イソスミレという花をモデルにしています。良かったら画像検索でもしてみてください。


次回更新は6月4日(月)です。

皆様、良い週末をお過ごしください。

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