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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
間章1 薔薇とスミレとマーガレット
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9.婚約者は執着する ~自室にて1~

「そうだね……何から話そうか」


 パストラーレは小さく笑いながら語り、そして私に教えてくれた。

 本当の彼のことを。

 彼の、真の胸の内を。




** ** **




 そうだね……何から話そうか。

 まずはうちのことかな。


 コン・エスプレッシオーネ家は皆、明るい笑顔で周囲の人々と交わり、冗談を多用し、他者に笑いをもたらし、他者と信頼を繋ぐ……そのような一族に思われているが、実際にはそんなものではない。国の第一家がそれで務まるはずがない。

 裏では情報を集め、その情報を用い、知略を巡らせ、一族に有利になるよう策を弄してきた。

 裏でどのように振舞おうとも、表では人畜無害の顔をして笑う……それがコン・エスプレッシオーネの一族だ。


 僕にもその血が確実に流れている。


 僕がきみとの婚約関係で必要だと思って行動した全ての、裏での動きは家族も承知している。母は分家から嫁いできたため、今、本家である僕の家ではその裏の動きを何ひとつ隠す必要がない。それで裏の使用人が家の中で隠れず生活をし、仕事をしている。


 上の兄上が結婚した相手は、これもまた分家出身だ。うちの事情をよく知り、生まれた子供をコン・エスプレッシオーネ家らしく仕込むために、まだあまり外に出したり一族以外の者に会わせたりしないようにしていて、今後もそうして育てていくそうだ。上の兄上の独占欲の強さもそこに加味し、義姉上(あねうえ)と子供を囲っているのだが、これもまたコン・エスプレッシオーネ家の家風と言えると思う。


 下の兄上は……十五歳の春、同じ教室に通う一般学生の女子に一目惚れをして、そこから猛烈にアタックをして婚約までこぎ着けた。その裏で色々画策をして婚約に不利になりそうな事案はどんどん排除し、また不利になる恐れがある事柄に対してはあらかじめ手を打って懸念(けねん)の芽を摘んでいった。そんな下の兄上の行動を、義姉上(あねうえ)は気づきもしない。彼女の実家も、うちの暗躍部隊の存在に気づけるほど財力も人力も魔力も桁外れに足りないであろう。それでも一般人とは言え、五家には届かないが魔力が高い一族の出身だ。五家のみで婚姻を繰り返せば血が濃くなり過ぎていく恐れもあるので、身分違いの問題など持ち出されもせず、下の兄上の婚約は一族内ですんなりと決まった。まあ執着が過ぎる家系ゆえ、反対しても止められないと一族の誰もが分かっていたから、ということもあったけどね。


 そうして婚約が無事整った時、下の兄上は家を出ることを決めたのだ。義姉上をコン・エスプレッシオーネ家の家風に染めたくないゆえに。義姉上には、結婚後に我が家の家風を知らせたが、我が家よりも義姉上の実家と懇意(こんい)にすることで、義姉上の我が家に対する嫌悪感を抱かせないようにしていると、兄は言う。


 下の兄上のやり方を見た僕は、きみとの婚約と結婚もこの方法しかないと思った。三男だから家を出られる。おまけにきみのお父上は僕の父上と仲が良く、我が家のことをご存知だ。恐らくきみのお母上もそうだろう。おふたりは僕の育ってきた環境も、学んできた知略も、(はか)ってきた策略も、僕の両親と共にすべて見守ってくださってきた。


 ――そもそも、きみとの婚約の話だけれど。


 あれは、元々きみとの婚約を結びたい僕が、父や元老院にいる祖父に頼んで整えてもらったものだ。王家やレッジェロの弟なんかに取られる前に、手を打っておこうと思って。まだきみが十一歳という幼い時分に先手必勝を目論んだんだ。


 きみのお父上は、僕の父上と懇意だから……僕の、きみへの執着心もよく承知してくださっている。僕が未熟ゆえ智謀を巡らそうとしてもどこかに抜けがある場合、父上と共にそれとなく注意を促し、あるいは見守ってきてくださった。きみと婚姻することで義父となるというだけでなく、僕にとっては正しくもうひとりの父上という存在であることは間違いないだろう。


 そして、今回の件でもそうだ。


 レッジェロの婚約破棄からきみへの婚約打診への流れを止めるべく、僕は情報を操り、人心を自分の都合の良いように導くよう陰で動いてきた。それに対してきみのお父上は全面的に協力してくださり、なおかつ僕の我がままも聞いてくださって「きみへ何も知らせない」という約束もしてくださった。


 十五歳の時には暗躍に腐心(ふしん)するあまり、きみへの対応を決定的に間違えた。

 あの時……婚約を知らされたきみは、ショックを受けて泣いてしまったよね。

 うろたえて後で色々言い訳をしたけれど、きみはしばらく僕への態度が硬化してしまった。

 本当に失敗した。

 きみのご両親にも注意され、自分の両親からはこってり絞られたっけ。


 それでもきみのご両親は婚約を取り消さず、僕の想いを尊重してくださり、応援してくださってきた。

 ずっとずっと、きみの家族は僕の心が休める場所だったんだよ。




** ** **




「そうだったの……全然知らなかったわ」


「うん、ごめんね」


「でも、どうしてそんなに、私にこだわるの? 私のどこにそんな執着するようなところがあるのか、分からないわ」


 そう尋ねると、彼はフッと笑って言葉を続けた。




** ** **




 そうだね。

 なぜこんなにきみに執着するのか、僕にも分からない。

 強いて言うなら、それがコン・エスプレッシオーネ家の者に共通する性質、なのかも知れないとも思う。


 僕の一族は息をするように智謀計略を張り巡らせる。暗躍部隊を駆使し、一族の手を借りて物事を思い通りに動かすんだ。

 けれどもそれは常に心身ともに負担がかかることで……考えすぎる頭を休憩させたり、心の緊張を解いたり、身体のこわばりを緩めたり……そういう場所がないとまともに生きていくことができないんだ。


 だから僕の一族は皆、自分の心を休められる場所を必要としている。

 それが、伴侶となる者、だ。

 そう僕は推察しているし、そしてそれは間違っているとは思わない。

 もしもそうでなかったとしても、少なくとも僕にとって安んじられる場所というのはきみの隣でしか有り得ないんだ。


 何度も話したから覚えているだろうけど。

 子供の頃、一年に一度きみの誕生日にお宅へお邪魔すると、きみはいつも泣いていたよね。


 ……あれね、本当は僕、当時は毎年毎年、あきれかえっていたんだよ。

 よくもまぁ、こんなにくだらないことで泣き叫べるな、って。


 カエルが出てきたくらいで、なんで泣くんだ?

 階段から落ちたから泣くのなら分かるけど、最初は泣かなかったくせに、お母上に抱き上げられてから泣き出すなんて、どこか鈍いんじゃないか?

 蝶を追いかけて植え込みに突っ込むなんて、間抜け過ぎる。

 ご馳走を食べ過ぎてお腹が痛くなるなんて、神経が脳みそに繋がっていないんじゃないか?

 そう思ったんだよね。


 ――あの頃の僕は、小生意気なガキだった。

 自分が第一家に生まれた優秀な種だと思い込んでいたし、その地位と頭脳を駆使して立場をしっかり確立させている父を尊敬していた。将来は僕もそうなりたいと願い、憧れ、そうなるべく努力をしていた。常に優秀であることを自分に課し、己を律していた。時折は一族の会に出席し、智謀を習得するべく年長者から教えを請うこともしていた。

 僕は、自分の望む存在になろうと必死だった。

 兄達は自分と年があまり違わず、次兄がひとつ上、長兄だってふたつしか違わないのに、既に手の届かないくらい高みに在った。

 ひとりだけ格下であることに、悔しさと劣等感を感じていたよ。


 だからこそ、きみに会うとあきれるしかなかった。

 なんて能天気な存在なのだろう、と。


 こんなに何も考えず、屈託(くったく)なく笑い、ちょっとしたことですぐに泣く。

 全身を使って心の全てを表現しているきみを見て、こんな存在がいるのかと驚いた。


 頭のネジが(ゆる)いのか、神経が脳にいきわたっていないのかと、本気で疑った。


 でも。

 一年に一度、そんなきみを観察しているうちにね、目が離せなくなっていることに気づいたんだ。


 はじめは、小さく幼いことが原因かと思った。でも僕は幼少時もこんなじゃなかったなと思い返した。

 次に、性が違うからこうなのかと考えた。僕には身近に女の子がいなかったからね。でもきみが長じて自分の母と同じようになるとはとても思えなかった。


 どうしてきみはこんなアホな行動をするのか、なぜこんな間抜けにも程がある行為ばかりしているのか、なんでその後、もうすっかり忘れ果てたようにヘラヘラと笑えるのか。


 なぜ、なぜ、なぜ、と、いつも考えて見ていたら。


 僕は、自然に笑顔になっていることに気づいたんだ。

 一族の集まりで張り詰める神経を、きみのいる場所では緩めることができると気づいたんだよ。


 目から鱗が落ちた、という表現は、こういうことかと思った。

 衝撃的だったよ、僕にとってはあまりにも。


 ――それからの僕はできるだけきみとの接触を図り、きみと行動を共にするようにしたんだ。


 面白かったよ、きみといるよ。

 なぜ思いもよらぬ反応が返ってくるのか、なぜ急に機嫌を損ねるのか、どうしてそんな些細(ささい)なことで笑えるのか、なんで嫌なことがあっても許せるのか。


 きみの隣にいると、いつもワクワクして、ドキドキして、そしてホッとした。

 きみのそばにいるだけで、僕は癒されると感じて……そこでようやく気づいたんだ。


 これが、コン・エスプレッシオーネ家一族の執着だ、と。


 ただひとりの人を求め、伴侶にすることで自身の精神を保つことができると、本能的に理解している対象が、ここにいる、と。


 僕にとって、それがきみだ、と。

パストのひとり語りでした。

第一家、コン・エスプレッシオーネ家の男共はみんなこんな感じです。

次話は「自室にて2」です。


次回更新は5月23日(水)です。

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