21.公園に行こう!
翌朝。
起きてベランダに出た時はまだ少し肌寒かったのに、穏やかな陽の光に温められて庭はとても過ごしやすくなってきた。
マドリガーレと連れ立って庭のはずれの植え込みまで行くと、茂みの向こうから「ソラ兄ちゃん、マドリガーレお姉ちゃん?」と問いかける声が聞こえてきた。この庭で待ち合せていたのに生垣を潜って越えて来ていないので理由を問うと。
「父ちゃんに怒られちゃったよ……」
「うん。ソラ兄ちゃんが作ってくれたボールを持ち帰ったら理由を聞かれて、偉い方のお屋敷の庭に勝手に入り込んで! って、思いっきり叱られちゃったんだ」
「そうだったの」
子供達の説明にマドリガーレが苦笑し残念そうな声を出すので、俺は明るい声で提案をした。
「それならさ、外で遊ぼうよ! みんな、この家の正門の場所、知ってる? そこで待ち合わせして、外に遊びに行こう! 俺、この街、全然探索してないんだよ。みんなが楽しいと思ってる場所を案内してくれないか?」
「うん、良いよ!」
「楽しそう!」
皆の同意を得て、俺達は歩いてきた道を戻り、子供達四人は塀の外を回って正門へと向かい、そこで合流した六人は街探検へと繰り出したのだった。
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「ほら、あっちがぼく達のよく遊ぶ川」
「春は小魚捕るし、夏は泳ぐんだ」
「あれが、いっつも吠えてくる犬」
「でもソーセージを一本あげるとすぐに大人しくなるよ」
「あそこのパン屋さんのパン、すっごくふっくらしてて美味しいんだよ!」
「パン屋のおじさんのお腹もまんまるだしね」
「あっちに見えるのがぼくらの学校。優しい先生とこわーい先生がいてね」
「うん、優しい先生の授業は楽しいよね」
「でも怖い先生の時は、宿題やってないとめちゃめちゃ怒られちゃうんだ」
子供達は好き勝手に、目についた先から説明していく。ひとつひとつにあいづちを打っていくのもひと苦労なくらいだ。ソプラとアルトから両腕を引っ張られ、俺は案内されるままに進み続ける。一方マドリガーレはテナーとバリトと手をつないで歩いている。彼女の柔らかい笑顔にふたりも嬉しそうに色々説明をしていた。
「……っと、そろそろ見えてくると思うんだけど……あ、あれ! あそこが広場なの! 自由に遊んで良い場所だから、魔法のボールも使って良いと思う!」
彼らが案内してくれたそこは、大きな公園だった。幼児用の遊具がある一角や、噴水や花壇がある場所もあり、その奥には芝生の広い空間があった。
この三日間、子供達はずいぶんボールを蹴る練習をしたらしく、今日はパスもスムーズにできるようになっていた。俺は子供達四人とマドリガーレを輪にして自分が中心に入り、皆がボールをパスし合うのを邪魔してカットする、という遊びを始めた。
「ほら、俺に取られないように仲間にパスしなくちゃ!」
俺は円の中心で素早く動き、皆が頑張って他の子にパスを出してもすぐにカットをしてしまう。子供達が悔しがるのを笑って「今度はお前達だけでやってごらん」とボールを渡し、カットしたら、された人と中心のポジションを交代して続けるよう伝え、自分はひとり外れて樹の下に座り込んでいるマドリガーレの隣に行った。彼女は先ほどすっ転んでしまい、泥や草の汁がついた膝部分の布を確認しながら頑張ってあちこち洗浄魔術をかけていた。
「子供達、楽しそうね」
「そうだな」
「これが、サッカーっていうものなのね」
「いや、これはまだまだ練習のひとつだよ。本当は十一対十一の人数でさ、広いコートで試合をするんだ」
「そうなの。すごいわね」
「ねぇ、マーレ達は日本に来られないの? もし来られるなら一度来てよ。一緒にサッカーの試合、見に行こうよ」
「うーん、どうかしら……日本に行くにはきちんと申請して、あちらで魔法を使わない訓練したり、色々な許可を取ったりしないとならないはずなのよね。遊びに行くという理由で申請が通るのかちょっと分からないわ……」
「そっかぁ……残念」
マドリガーレが日本に来てくれたら、一緒に行きたい場所がたくさんあることに気がついた。動物園も水族館も遊園地も行きたいし、映画館、カラオケ、ボーリング――日本は楽しいところだらけだ。もちろんプロサッカーの試合も見に行きたいし、自分が部活でサッカーをしている時に見学してくれたらやる気も倍増するのになぁ……と色々想像して、そしてそれが無理なのだと思い直し、ひとり落ち込んでいた。
後で冷静に考えたら、ふたりきりで出かけたいなどと思うのはいわゆるデートに行きたいということなのだが、この時の俺はまだそんなことは気づいてもいなかった。とにかく今は、マドリガーレと一緒にいる時間が楽しくて、他のことを考えるだけの余裕はなかったのだ。
「ソラ兄ちゃーん」
「おう、少し休憩すっか」
「うん!」
「疲れたー!」
「でも面白かった!」
「ぼくも! ああ、のどかわいたー!」
「ぼくも、ぼくも!」
子供達が樹の下まで走り寄ってくるので、俺はにんまりと笑って荷物の中から昨日成功した魔法の用意一式を取り出した。ペットボトルとクエン酸と重曹、それに煮詰めたしょうがのシロップだ。
「お前ら、ちょっと待ってろよ。今、兄ちゃんがうまいジュース作ってやっからな」
そう言って昨日成功したのと同じ要領でジンジャーエールを作ると、持ってきたカップに分け入れて配る。
「さぁ、飲んでみろよ」
得意満面で勧めたけれど、こちらには炭酸飲料など存在せず、初めて見る気泡が浮く色つきの水に、子供達は皆恐る恐る口をつける。すると。
「おいしー!」
「なに、これ!」
「うわぁ、このしゅあしゅあ、なにー?」
「すっごい、こんなの初めて!」
みんな大騒ぎをしてあっという間に「おかわり!」とカップを差し出した。俺は笑って二回目を作ってやり、四回目には「もうこれで終わりだからな」と言って差し出すと、最後に自分とマドリガーレの分を作って皆で一緒に喉ごしを楽しんだ。
「ソラ兄ちゃん、魔法ってスゴイんだねぇ」
「うん、ぼくも家族も、それから周りの人も、みんなそんなに魔法を使わないから、こんなに魔法が面白いって知らなかったよ」
子供達の言葉を聞いて隣に座るマドリガーレに質問すると、一般市民は皆それ程魔力量が多くなく、生活に必要なことに優先して使用してしまうため、楽しみのために魔法を使うことなどそうそうないとのことだった。
「でもね、みんな。私も小さい頃はもっと魔力量は少なかったけど、一生懸命練習したら、少しずつ多くなっていったわよ。みんなも毎日練習してみたらどうかしら」
マドリガーレの言葉に、アルトは大きくうなずいたが、他の三人は「ええー……」としょんぼりする。
「学校の宿題で、毎日魔力訓練があるんだけど、難しいし、できないんだもん」
「ぼくは一回ならできるんだけど、一日三回やるように、って言われるとムリなんだよ」
「ぼくは魔法の授業キライだから、宿題も全然してなーい」
それを聞いてマドリガーレは苦笑した。
「ソプラは宿題が難しいと思っているのね。それなら、できるところまでやれば良いわ。大事なのは、昨日より上手にやろうと頑張ること。昨日よりも下手だったらもう一回やってみる、という気持ちを持っていれば、そのうち難しいと思っていた課題も上手になっていくわよ」
マドリガーレのアドバイスにソプラは大きくうなずく。彼女がにっこりと微笑めば、ソプラも嬉しそうに笑った。
「テナーは総魔力量が少ないのかもね。だとしたら、三回やるという宿題を、時間を分けて練習すれば良いと思うわ。たとえば、学校から帰ってきてすぐに一回、夕ご飯を食べる前に一回、夜寝る前に一回、ほら、三回できるでしょう?」
マドリガーレの言葉にテナーは目を丸くして「そっか! そうすればいいんだ!」と大声を出した。そして「お姉ちゃん、ありがとう!」と大声でお礼を言うので、彼女も大きくうなずいて一緒に笑った。
「バリトは魔法がキライなの……とても残念だわ」
マドリガーレが急に悲しそうな声を出すと、バリトは慌てて「あ、でも、今日からがんばろっかな……」と言いだした。皆が笑うのでばつが悪そうにバリトは頭をかく。
すると、マドリガーレが突然ひとつ手を叩いて言い出した。
「そうだ、良いこと思いついたわ。ねぇ、あなた達のおうち、ここから近い? 誰かの家に行ってみたいんだけど」
平和な公園での風景を書いてみました。
炭酸ジュース、初めて飲んだ子は、顔をしかめたり、うえぇってなったりするかも知れませんが、ここはひとつ「美味しかった」ということで(笑)
次は子供達のうち、ひとりのお宅訪問になります。
次回更新は4月18日(水)です。




