13.両親に憧れて
己の力が及ばないことを認めるのはとてもつらかった。
どうにもできない状態で、なおかつ選択肢がとても少ない状況で、それでも最善を尽くさなければならない時があると、マドリガーレは母から繰り返し聞いた話で知っている。
――マドリガーレの母であるアンティフォナは、最初は魔法副長官になる予定では全くなかったらしい。そうなるだけの能力も足りなかったという。
事の起こりは、ある日突然、コントラルト国のある場所が、異界とつながってしまったことによる。調査団が組まれ、二年かけて異界である日本と少しずつ交流を持ち、今後もお互いに良好な関係を続けていこうと合意できたことは、両国にとって幸いなことであった。
コントラルト国は好戦的ではないが、こちらには領土を増やし、得をしたいという気持ちが大きい国も存在している。そんな国が異界とつながれば、喜々として攻め込んでいたに違いないと父は言う。
日本も穏やかで平和的な人間性を持つ人種であるらしく、外交官の責任者を務めたパストラーレの大叔父は、先代の王の意向をよく汲み、日本と友好関係を結ぶことに成功したとのこと。
そこで互いに行き来がしやすいよう、ゲートの建設が計画された。
そしてそのゲート建設のメンバーとして配属されたのが、少壮気鋭のレチタティーヴォ、二十二歳だった。
その当時、父親のアルマンドは十九歳。二十歳で成人となり学校卒業後の春、魔法長官の見習いに就く予定であり、弟のアルマンドを補佐するためにレチタティーヴォは二年前、既に魔法副長官見習いとなっていた。
通常、魔法長官と副長官は近しい関係でなる。兄弟、姉妹、が六割を占め、次に夫婦、従兄弟や従姉妹、などがその後に続き、親族以外で任命されることはまずない。親族でも兄妹や姉弟、従兄妹や従姉弟という異性間ではできないと言われている……お互いが一生独身でいる覚悟でならば可能だが。魔法長官と副長官は、その役目をもって大きな魔術を使用する時には魔力合わせをしなければならず、ごく近い関係でなければ務まらない。そして連携を取り合い、心をひとつにして向き合っていかなければならない職種なのだ。
そして、魔法長官と副長官は後続に役目を引き継いだ後、元老院で議長と副議長へとなっていく。通常何事もなければ長官が議長になり、副長官が副議長になるのだが、これは割と交代しても良いらしく、副長官が議長になった例はいくらでもあった。
ともかく、アルマンドが二十歳になったら魔法長官見習いになり、レチタティーヴォは副長官見習い、そしてアルマンドと同い年のアンティフォナは、アルマンドが長官見習いの仕事に慣れてきた頃にアルマンドと結婚をする、ということになっていた。
ところが。
ゲート建設のメンバーとして向かった日本で、レチタティーヴォは運命の出会いを果たしてしまう。
当時、ゲートについて調べていた大学研究室の教授に師事していた蘭々と出会い、互いに惹かれ合ってしまったのだ。
その頃、蘭々の母は病気で入退院を繰り返していて、仕事と看護を両立させる父は心身ともにかなりまいっていた。その為、学業の合間に母の看護と家事をしていた蘭々は、卒業後できるだけ時間を作れる仕事を選ぼうとしていたところだったのに、レチタティーヴォと一緒にコントラルト国へ行くことは到底考えられなかった。
そこでレチタティーヴォは日本へ移住することを決めた。
苦渋の選択だったという。
レチタティーヴォが副長官にならなければ、長官になるアルマンドを支えて妻になる予定のアンティフォナが副長官へと任命されることになる。
コン・センティメント家の本家は、子供は男子ばかり三人。一番下の弟はアンティフォナよりも魔力が低く、補佐官を務めるのが精一杯な実力しか持っていなかった。その上、領地経営をしなければならないので副長官を務めることが難しかった。
更に言えば、コン・センティメント家はコントラルト国において、第三家という地位にあり、魔法庁やその他の部局でも責任者を何人も出さねばならず、従兄弟達や一族の者の中から魔力と能力の高い人がそれぞれ任じられることになっていたのだ。彼らは皆優秀でそれぞれの部署できちんと役目を果たすことは可能であったが、アルマンドと年齢が近く、能力的にも魔法副長官を任せられる適任者が一族の中にはいなかったというのが現状だった。
そういった訳でアンティフォナが副長官の座を務めることとなったが、彼女はレチタティーヴォほど才能に恵まれず、到底国で二番目になれるほどの実力は持っていなかった。
それなのに、結婚相手が長官になるというだけで、魔法副長官、やがては元老院副議長となるのだ。
アルマンドと交際を始めた頃から、彼とレチタティーヴォ兄弟がやがては魔法長官と副長官になることは分かっていたが、まさかそこに代理で己の名が上がるとは思ってもみなかったアンティフォナは戸惑い、パニックを起こしてしまった。
魔法副長官にならずに済む方法はふたつ。
なんとしてもレチタティーヴォの移住を阻止するか、アルマンドに自分よりも能力の高い女性との結婚を勧めるか。
究極の選択だった。
魔法長官と魔法副長官の関係の説明が出てきましたが、ちょっと複雑でしょうか?
難しいようなら、今後もちょくちょく説明が出てくるので、おいおい理解して覚えていっていただければ良いと思います。
次は、両親の恋物語に思いを馳せつつ、自分の境遇に葛藤するマーレのお話です。
次回更新は3月30日(金)です。




