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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第一章 ソラと異国と綺麗な魔術
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12.互いを知らない

「そう……なんですか」


 マドリガーレの名前が出たことで、高まっていた気分が一気に落ちてしまった。


 彼女とは、初日にふたりだけで話して以来、ほとんど会話をしていない。食事の時に同席するのがせいぜいで、お互いに気まずく、視線を合わせないようにしているのだ。

 嫌っているわけではない。ただ、ほんの少し苦手意識があるだけだ。

 しかも、あの平手打ちされたことは俺にとってかなりショックな出来事で……再び彼女と上手く話ができるかどうか、試してみるのはとても怖かった。もちろん叩かれたことがなかったとしても、かつての自分がマドリガーレと上手く交流できていたとは、とてもじゃないが言えなかったが。


「そう。マーレの魔法に対する意識はとても高い……もちろんだがね。彼女にとって生きがいと言っても良いだろう。目標があると人はここまで努力できるのかと、僕は常々感心して見ているのだよ、ソラ」


「……はい」


「きみ達が、お互いに距離を取りあぐねているのは知っている。この家で暮らす誰もが、きみ達を気遣っているのを気付いているかい?」


「それは……まぁ」


 自分の両親も、マドリガーレの両親も、もちろんアリアも、スピリトーゾや麗美でさえ、俺達が気まずくならないように会話や態度で気遣いをしてくれている。


「僕は今までのきみ達の仲違いの経緯を知らないから好きなことを言っているのかも知れないけれど、嫌って避け合うほど、きみ達は互いのことを知らないのではと感じている。今回ソラの訓練を引き受けて教えてみると、きみが事前に聞かされていたよりもよほど魔法に対して真摯(しんし)に向き合っていると思った。きっと彼女もそれを知らないだろう」


「…………」


「一方ソラも、マーレが今までどれ程の思いで魔法と向き合ってきたのかを知らないはずだ。互いの無知で避け合うなんて馬鹿らしいと思わないかい? きみ達は従姉弟同士だし、何より、もしかしたら将来、共に助け合って生きていくことになるのかも知れない。まず……知るところから始めてみないか?」


 そう言われて、自分は確かにマドリガーレのことを何も知らないことに気づいた。


 いつも機嫌を損ねているような顔。

 正面から見つめてくることはあまりなく、ちらりと視線を投げかけてくることが多い彼女。

 いつもいやみや小言の応酬ばかりで、まともに会話をしたのだって、ここに来た初日の時が初めてだった。


「パストさん、俺、パストさんの言うこと、分かるよ。分かるけど……いきなり突撃して話をするのはちょっとためらわれるって言うか、気まずいって言うか……」


 そう言うと、パストラーレは椅子に座って話を始めた。


「それじゃ、僕が知っていることをまず話そうか。それを聞いて、感じたことがあればそれを話題やきっかけにして、彼女に話しかけてみても良いんじゃないかな」


「はい、お願いします」


 パストラーレの正面に腰をかけ、大人しく彼の話に耳を傾けた。


「まずは、きみのご両親と、マドリガーレの両親の恋物語から始めようか。あれは二十四年前のこと。僕はまだ生まれる一年前だったから、直接の話は知らない。だからこれはアリアから聞いた話になるんだけど……」




** ** **




 夕陽の射し始めた自室で、マドリガーレは独り、机に向かい座っていた。目の前に広げている魔導書は、さっきから同じ行を何度も視線がすべっていて、一ページも読み進められてはいない。


 気になるのは、この館の魔力遮断室の中で訓練をしているであろう奏楽のこと。


 教師役は姉であるアリアの婚約者のパストラーレ。彼は魔力研究部に所属する、とても優秀な人物だ。以前、魔力の調整が上手くいかなかった時にコツを教えてもらったことがあるが、その時の彼はとても分かりやすく丁寧に説明をしてくれて、彼女はそれですぐに理解できたのだ。コツをつかめばすぐにできるようなこと、けれどもそのコツをつかむのが難しかったのだが、それをパストラーレは簡単に分かりやすく伝えてくれたのだ。


 その彼が食事のたびに奏楽の訓練の様子を話してくれ、手放しで褒めている様子をうかがえば、奏楽はとても頑張っているらしい。順調に訓練が進んでいるのは、パストラーレが指導しているからなのだろう。

 しかもパストラーレは気持ちが優しく、それが彼の魔法にも表れている。彼から魔法を教わるならば、きっと奏楽も、傲慢(ごうまん)や強引ではなく、優しく、温かな魔法を使う人になるだろう。


 そろそろ認めた方が良いのではないか。


 そうマドリガーレは思い始めている。

 気になって、奏楽の魔法を訓練室までそっと(のぞ)き見しに行ったのだが、この短期間に習得できるレベルをとうに越していることだけは理解できる。


 ――奏楽には、天賦(てんぷ)の才がある。


 もちろん自分にだって才能はある。でなければ副長官の地位を勧められたりはしないであろうし、奏楽がいなければ文句なく魔法長官に就いたことは間違いない。

 それでも。

 そんなマドリガーレをも圧倒するほどの魔力量が、奏楽には備わっている。


 しかも十年以上かけて磨き上げてきた魔法使用能力も、この分ではあっという間に奏楽に追い抜かされてしまいそうだ。


「……頑張ってきたのになぁ」


 マドリガーレは少しだけ苦く、静かに微笑んだ。

ソラもマーレも戸惑いと悩みの真っ最中です。

次話はマーレの回想の中で、親世代の恋物語がざっと紹介されます。


次回更新は3月28日(水)です。

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