学舎という名の小学校
生まれてからもう六年。毎日闘気を鍛え続け、最近は技も安全なものからやらせてくれる様になった。だから道場に入り浸っていたが、今日は休館らしく、家でゴロゴロしていた。そんなとき、ふと政行が聞いてきた。
「なぁ楽、ちょっと大事な話があるんだがな」
少し真剣そうな政行に、俺も聞く姿勢を整える。
「お前は賢い。幼い頃から本を読んで勝手に勉強してたから、手は掛からなかった。それにお前は無闇やたらに人や物に当たり、害することもない。しっかり我慢できる子だ」
「おう。で、政行は何が言いたいんだ」
「……そういうとこな。まぁあれだ、学舎に行かないか?」
(学舎……? 名前的に、学校みたいなとこかね。どうしよっかなぁ)
今の生活に不満があるかと言われたら全くない。もう六歳だから身体は鍛えられるし、闘気もある。知識も別に計算ぐらいなら出来るし、本もある……今更学校行っても、六歳に合わせんのきちぃしなぁ。
「えぇ〜」「親としては行って欲しい気持ちがある」
(……まぁそりゃそうか。親的には、いくら賢いとは言え学校に入っといて欲しいか。日本とは色々違うと言っても、親心ってのは変わんねぇよな)
そんな感じで俺は学舎に通うことになった、ちょっとした親孝行みたいなもんだ。
数日後、向かった学舎は思っていたより古い建物だった。木造の平屋建てで、障子や襖で仕切られた和室がいくつかある。まさに昔の寺子屋といった趣だ、中に入り辺りを見回すと肩をポンポンと叩かれた。
「どうも楽君、一昨日ぶりですね」
「……どうして泉先生がいるんすか」
居たのは、道場の師範の泉先生だった。なぜここに?
「私は柔担当で、その日以外は教職をしてるんです。教えるのが好きですからねぇ」
「言ってくれれば良かったのに」
「それじゃあ貴方が驚かないでしょう。楽しいですね、人を驚かせるのは」
(いい性格してるわ、ほんま)
「では早速ですが、楽君には他の子に自己紹介をしてもらいましょう。貴方は一ヶ月ほど遅れての編入ですが、大丈夫でしょう?緊張しますか?」
「いいや、全く」「そうでしょうね」
泉先生に案内されて入った教室は、低い机が並んでいる畳敷きの部屋だった。同じ六歳くらいの子供たちが十五人ほど座っている。みんな興味深そうに俺を見つめていた。
「楽です、六歳です。よろしくお願いします」
「もうちょっと言うことあるでしょう。ユーモアがないですねぇ」
簡潔な挨拶すぎて、泉先生に小突かれた。まぁいいやろ。
泉先生は少し考えた素振りを見せた後、教室の奥の空いている席を指差した。
「楽君、あちらの席にどうぞ」
俺は奥の席に向かって歩いていく。途中、何人かの子が小声で話しているのが聞こえた。
「なんかかっこいいね」「ちょっと怖そう」「多分バカだよ」
怖そうで悪かったな、あと最後のガキは喧嘩売ってる認識でいいんか?
席に着いて隣を見ると、黙りこくった、まるで人形みたいな子供がいた。髪はエメラルドグリーンで、まさしく宝石のような髪色。
「よぉ、よろしくな」
隣の席とは仲良くしたほうがいいかと思って、声を掛けた。そいつはコクンと頷いたかと思ったら、また停止した。
(シャイな子なんかね。まぁ、時間掛けて仲良くなっていけばいいだろ)
そんな感じで一限目、書道の授業が始まった。筆で半紙に文字を書いていく。基本的な字から始まったが、俺にとっては簡単すぎる内容だった。周りの子たちが苦戦している間に、俺はさらさらと書き上げる。
(懐かしい〜、中学生以来か? めちゃくちゃ苦手だったわ)
「おお、楽君、とても上手ですね。面白みがないぐらい」
泉先生が俺の字を見て感心する……してるのか、これ? クラスの奴らも振り返って、俺の字を覗き込んだ。
「うわぁ、すげー綺麗」「どうやって書くの〜?」
「ん〜、筆の上に金貨乗せたみたいに思うんだよ……多分」
こんな調子で授業は終わり、次は算術の時間。そろばんを使った計算問題が出されるが、俺はそろばんを使ったことがないので暗算で解く。それでも一番早かった。
「正解です。素晴らしいですねぇ」
泉先生が褒めると、周りの子たちがざわめいた。
「楽、めっちゃ早いじゃん」「教えて教えて!」
昼休みになると、みんなで外に出て遊ぶ時間になった。鬼ごっこみたいなやつが始まると、俺は誰にも捕まることなく、軽やかに走り回る。
(別にこの子らの足が遅いんじゃない。やっぱ闘気ってすげぇな)
「楽、速っ!」「どこでそんなに鍛えたの?」
逆に鬼になった時は、次々と他の子たちを捕まえていく。子供にも容赦しない平等スタイルだ。休み時間が終わり、午後の授業が始まった。だがここで、俺の無双タイムは終わりを告げる。そう、地理の問題にぶつかった。
この世界に来て初の敗北感を味わった。終始泉先生がニコニコだったのが気に食わない。そんな感じで授業が終わると、俺の周りに子供たちが集まってきた。
「楽、今度一緒に遊ぼうよ」「算術のやり方教えて」「どこの道場に通ってるの?」
茶色い髪の少年が前に出てきた。
「俺、太郎っていうんだ。楽と友達になりたい」「おお、よろしく」
俺が答えると、他の子たちからも次々と声がかかった。
「俺も俺も!」「楽と一緒の班がいい」
(こうまで人気になるとはなぁ。でもまぁ、こんぐらいの歳なんて結局足速いが正義な時だし、こんなもんか)
子供に揉みくちゃにされていると、迎えに来た政行と泉先生が話をしているのが見えた。
「楽君は本当に優秀なお子さんですね。運動も勉強もできて、もうクラスの人気者ですよ」
「いや〜、良かったです。泉先生が担当してくださるなら、こちらも安心ですし……」
政行が俺の方を見て微笑む。
帰り道、俺は今日一日を振り返っていた。
(まぁ授業に関しては余裕だな。別に地理も勉強すりゃいいだけだし)
「楽、学舎はどうだった? みんなと仲良くなれそうか?」「ああ、問題ない。みんないい子だよ」
「はは、お前も子供だろ〜」
頭をワシワシ撫でられる。
「そうか、でもよかったよ。明日からも頑張れよ」
そんなこと言われるまでもないが……一つ、心残りがあった。
(隣の席の奴、結局一言も話さなかったな。明日こそ話してみるか)
「えぇ〜」「親としては行って欲しい気持ちがある」
(……まぁそりゃそうか。親的には、いくら賢いとは言え学校に入っといて欲しいか。日本とは色々違うと言っても、親心ってのは変わんねぇよな)
そんな感じで俺は学舎に通うことになった、ちょっとした親孝行みたいなもんだ。
数日後、向かった学舎は思っていたより古い建物だった。木造の平屋建てで、障子や襖で仕切られた和室がいくつかある。まさに昔の寺子屋といった趣だ、中に入り辺りを見回すと肩をポンポンと叩かれた。
「どうも楽君、一昨日ぶりですね」
「……どうして泉先生がいるんすか」
居たのは、道場の師範の泉先生だった。なぜここに?
「私は柔担当で、その日以外は教職をしてるんです。教えるのが好きですからねぇ」
「言ってくれれば良かったのに」
「それじゃあ貴方が驚かないでしょう。楽しいですね、人を驚かせるのは」
(いい性格してるわ、ほんま)
「では早速ですが、楽君には他の子に自己紹介をしてもらいましょう。貴方は一ヶ月ほど遅れての編入ですが、大丈夫でしょう?緊張しますか?」
「いいや、全く」「そうでしょうね」
泉先生に案内されて入った教室は、低い机が並んでいる畳敷きの部屋だった。同じ六歳くらいの子供たちが十五人ほど座っている。みんな興味深そうに俺を見つめていた。
「楽です、六歳です。よろしくお願いします」
「もうちょっと言うことあるでしょう。ユーモアがないですねぇ」
簡潔な挨拶すぎて、泉先生に小突かれた。まぁいいやろ。
泉先生は少し考えた素振りを見せた後、教室の奥の空いている席を指差した。
「楽君、あちらの席にどうぞ」
俺は奥の席に向かって歩いていく。途中、何人かの子が小声で話しているのが聞こえた。
「なんかかっこいいね」「ちょっと怖そう」「多分バカだよ」
怖そうで悪かったな、あと最後のガキは喧嘩売ってる認識でいいんか?
席に着いて隣を見ると、黙りこくった、まるで人形みたいな子供がいた。髪はエメラルドグリーンで、まさしく宝石のような髪色。
「よぉ、よろしくな」
隣の席とは仲良くしたほうがいいかと思って、声を掛けた。そいつはコクンと頷いたかと思ったら、また停止した。
(シャイな子なんかね。まぁ、時間掛けて仲良くなっていけばいいだろ)
そんな感じで一限目、書道の授業が始まった。筆で半紙に文字を書いていく。基本的な字から始まったが、俺にとっては簡単すぎる内容だった。周りの子たちが苦戦している間に、俺はさらさらと書き上げる。
(懐かしい〜、中学生以来か? めちゃくちゃ苦手だったわ)
「おお、楽君、とても上手ですね。面白みがないぐらい」
泉先生が俺の字を見て感心する……してるのか、これ? クラスの奴らも振り返って、俺の字を覗き込んだ。
「うわぁ、すげー綺麗」「どうやって書くの〜?」
「ん〜、筆の上に金貨乗せたみたいに思うんだよ……多分」
こんな調子で授業は終わり、次は算術の時間。そろばんを使った計算問題が出されるが、俺はそろばんを使ったことがないので暗算で解く。それでも一番早かった。
「正解です。素晴らしいですねぇ」
泉先生が褒めると、周りの子たちがざわめいた。
「楽、めっちゃ早いじゃん」「教えて教えて!」
昼休みになると、みんなで外に出て遊ぶ時間になった。鬼ごっこみたいなやつが始まると、俺は誰にも捕まることなく、軽やかに走り回る。
(別にこの子らの足が遅いんじゃない。やっぱ闘気ってすげぇな)
「楽、速っ!」「どこでそんなに鍛えたの?」
逆に鬼になった時は、次々と他の子たちを捕まえていく。子供にも容赦しない平等スタイルだ。休み時間が終わり、午後の授業が始まった。だがここで、俺の無双タイムは終わりを告げる。そう、地理の問題にぶつかった。
この世界に来て初の敗北感を味わった。終始泉先生がニコニコだったのが気に食わない。そんな感じで授業が終わると、俺の周りに子供たちが集まってきた。
「楽、今度一緒に遊ぼうよ」「算術のやり方教えて」「どこの道場に通ってるの?」
茶色い髪の少年が前に出てきた。
「俺、太郎っていうんだ。楽と友達になりたい」「おお、よろしく」
俺が答えると、他の子たちからも次々と声がかかった。
「俺も俺も!」「楽と一緒の班がいい」
(こうまで人気になるとはなぁ。でもまぁ、こんぐらいの歳なんて結局足速いが正義な時だし、こんなもんか)
子供に揉みくちゃにされていると、迎えに来た政行と泉先生が話をしているのが見えた。
「楽君は本当に優秀なお子さんですね。運動も勉強もできて、もうクラスの人気者ですよ」
「いや〜、良かったです。泉先生が担当してくださるなら、こちらも安心ですし……」
政行が俺の方を見て微笑む。
帰り道、俺は今日一日を振り返っていた。
(まぁ授業に関しては余裕だな。別に地理も勉強すりゃいいだけだし)
「楽、学舎はどうだった? みんなと仲良くなれそうか?」「ああ、問題ない。みんないい子だよ」
「はは、お前も子供だろ〜」
頭をワシワシ撫でられる。
「そうか、でもよかったよ。明日からも頑張れよ」
そんなこと言われるまでもないが……一つ、心残りがあった。
(隣の席の奴、結局一言も話さなかったな。明日こそ話してみるか)




