第4話 家庭教師、参上!
「婆上、爺上、勉強を教えてください」
突然そんなことを言われ、お婆さんとお爺さんは呆気にとられてしまいました。
今まで筋トレや走り込みといった体を動かすことに情熱を燃やしていた桃介が、今度は勉強をしたいと。
お婆さんとお爺さんは顔を見合わせ、
「急にどうしたんじゃ?」
とお爺さんが聞きました。
すると、桃介はかくかくしかじかと、隣山の村長の御令嬢に言われたことを説明しました。
ほんと、かくかくしかじかって便利ですね。
筋トレによる肉体を否定してきたと思ったら、走りが速い方がカッコイイと言ったり、今度は勉強できないと社会に出て苦労すると言ったり。
折角のかくかくしかじかだったのに説明してしまいましたが、見事に御令嬢に振り回されている桃介でした。
「5歳児が社会について語るとは……」
お爺さんがそう言うと、お婆さんは、うんうん、と頷きました。
お婆さんとお爺さんが疑問に思ったのはそこでした。
桃介が振り回されていることには全然着目していません。
話の論点大丈夫そうですか?
とまぁ、お婆さんとお爺さんは悩みました。
それはもう、悩みに悩みました。
とりあえず桃介が勉強をしたいというのは把握しました。
しかし、しかしです。
2人にはこれほどまでに悩む理由があったのです。
お婆さんは筋トレといった肉体を鍛えることに関する知識はズバ抜けていました。
しかし、勉強の方はからっきしでした。
脳も筋肉と化している人類でした。
いやでも吉備団子屋を営んでいるじゃないか、というご指摘もあるかもしれません。
お婆さんが吉備団子屋を営む理由はもちろん収入の為ですが、一番の理由はその肉体で餅を作ること。
言ってしまえば、吉備団子作りが一種のトレーニングだったのです。
なので経営学とかそういうのは全くもって分かっていないのでした。
お爺さんもまた、勉強はからっきしでした。
桃から生まれた桃太郎は当時暴れていた鬼を退治する為に剣術一筋でした。
そして旅に出ていたので勉強する機会等ありません。
まさに力と技術で生きてきた夫婦。
勉強に関しては全くと言っていいほど役には立たないのでした。
けれどもなんとか桃介の意欲に応えてあげたいお婆さんとお爺さん。
そこで、ふとお爺さんは思いつきます。
自分達で教えられないなら、頭が良い知り合いに教えてもらえばいいじゃないか、と。
お爺さんはお婆さんをチラッと見ると、お婆さんは頷きました。
さすが長年連れ添った夫婦。
お互いの考えはクラウドシステムのように共有しています……と見せかけて、お婆さんはただ頷いただけでした。
お爺さんは納屋から火薬付きの矢と弓を持ってくると、空高く打ち上げました。
火薬しけってないかな? なんて思いながら、お爺さん、お婆さん、桃介は矢が打ち上げられた空を見上げます。
ドーン!
火薬は見事に炸裂し、SOSの文字を描いた花火が空に咲いたのでした。
3分ほど待つと、道と山と空から3つの影が同時に現れ、桃介達の前に横一列に並びました。
「犬!」
「猿!」
「雉!」
「「「鬼退治の頼れる3匹! ここに見参!」」」
昔お爺さんのお供として活躍した3匹でした。
各々がポーズを決め、背景では爆発。
見事な登場でしたが、名前が無いのでモブ扱いでした。
それはさておき、
「どうされました、桃太郎さん」
犬が代表して聞きました。
猿と雉は「次はどんな敵が現れたんだ?」と話していました。
「うむ、実はな、おぬし達に桃介の家庭教師をしてもらいたいのじゃ」
「ふむふむ、家庭教師」
「まぁ、我々はそんじょそこいらの動物よりかは頭いいですけどね」
「なんてったって人語喋れるからね」
犬、猿、雉はそれぞれ言いました。
そして、
「「「え、家庭教師ー!? というか、桃介って誰!?」」」
見事にハモりました。
「桃介は儂と婆さんの子供じゃ」
お爺さんの言葉を聞いて、3匹は桃介を見ました。
え、待って、この歳になって夜にハッスルしたってこと?
3匹は集まってコソコソと話し始めます。
そんな3匹にお爺さんは説明をしようと思いましたが、その前に、お婆さんが片足を少し浮かせたと思ったら、勢いよく地面に下ろしてめり込ませました。
3匹は、ひっ、と声を上げ、すぐさま桃介に「どんな勉強をしたいのかな?」と聞き始めました。
お婆さんの無言、かつ鍛えられた身体故の圧でした。
□ □ □
犬、猿、雉の3匹による家庭教師はおよそ半年間行われました。
他者に寄り添う犬は文系科目、効率を求める猿は理系科目、鳥故にいろんな地域を飛び回る雉は外国語やその他科目を担当しました。
今まで体を鍛えることしかしてこなかった桃介でしたが、まだお婆さんのように脳は筋肉化していなかったようで、新しい学びをスポンジのように吸収していきました。
「よくぞ我々の授業を乗り越えました」
「桃介くん、君はとても教え甲斐があった」
「これからの成長に期待しているよ」
桃介の成長を間近で感じていた3匹による卒業ムーブ。
しかし実際のところ、桃介は新しい学びがとても楽しくて、3匹が予定していた以上の知識を習得していました。
3匹曰く、「有名高校の入学試験くらいなら余裕で受かるレベル」とのことです。
お婆さんとお爺さんにコメントを貰おうと思いましたが、頭から煙を出しながら倒れていました。
桃介と一緒に勉強に参加していた2人でしたが、脳が学問を拒否した上に、桃介の吸収速度があまりにも早くて追いつけず、力尽きてしまっていたのでした。
まぁ、歳ですからね。
そんな感じで勉強をした桃介も、第1話からいつの間にか6歳になりました。
御令嬢の言葉に心揺さぶられ不安になっていた他人軸な生き方が、今では自分で必要なものを取捨選択できる自分軸を確立しました。
いやまぁ、6歳児なんですけどね。
なお、作者の学力は不明です。




