第5話 楽しかった学校生活
お爺さんのお供達──犬、猿、雉の家庭教師を終えてからも桃介は独学で勉強を続け、さらに義務教育の小学校に通うことになりました。
御令嬢以外の同年代と接してこなかった桃介にとって、小学校はまさに未知の場所。
同年代の子供達が、いったいどんな筋トレをし、走り込みをし、勉強をしているのか。
果たして自分は同年代の子供達に付いていけるのか、桃介は心配でなりませんでした。
──ピンポンパンポーン。
ここからは所々、桃介の学校生活をダイジェストでお送りします。
小学校に入学した桃介でしたが、ぶっちゃけ心配していたことはなにもありませんでした。
同年代の子供達はボディービル大会に出るような筋トレはしないし、走るのが得意な子はいますが、世界記録を塗り替えるほどの猛者はいませんし、有名高校入学確実レベルにも関わらず独学での勉強を怠らない桃介は、下手したら教師のレベルに届く学力でした。
桃介が付いていけるか不安に思うどころか、周囲に対し圧倒的な差を見せつけることになっていました。
そりゃ、6歳児なんて、これから学び始めて、やんちゃしてなんぼの年齢です。
もちろん桃介は周囲から浮きまくっていました。
友達なんて出来るはずもありません。
教師もどうしようか悩むレベルです。
そんな中、桃介を奇異な目で見ない1人のクラスメイトがいました。
ゴリラのゴリ雄でした。
ゴリ雄は桃介に匹敵するほどの怪力の持ち主で、握力は400kgもありました。
脚力は100m10秒台前半。
知能も桃介まではいかずとも、周囲とは圧倒的な差を持つゴリラでした。
そして桃介と違うところは、とても気さくで、友人が多いことでした。
それはある初夏の夕暮れ。
川沿いの土手で人付き合いについて1人悩んでいた桃介のところに、ゴリ雄は現れました。
「どうした、話聞くよ」
そう言ってゴリ雄は桃介の隣に座りながら、どこからともなくバナナを出し、桃介に差し出しました。
「……ありがとうございます」
桃介は差し出されたバナナを躊躇なく受け取り、2人揃って皮を剥いて頬張りました。
そして、桃介はゴリ雄に、自分がクラスどころか学校で浮いていることについて悩みを打ち明け、ゴリ雄は真摯に受け止めました。
そして後日、ゴリ雄の計らいで桃介はクラスメイト達と打ち解けることに成功し、桃介とゴリ雄は親友となったのでした。
人間とゴリラの、なんて美しい友情。
こうして種族が違っても、わかり合い、共生していけるんですね。
早送り>>
「桃介さん、お久しぶりですわ」
6年生になり、卒業間近になった、とある日のこと。
桃介の前に、隣山の村長の娘、御令嬢が小さい胸の前で腕を組み、後ろに何人もの取り巻きを引き連れて現れました。
御令嬢は村長の娘という地位を上手く使い、スクールカーストのトップに君臨していたのでした。
なんて恐ろしい金持ちの強欲さ。
「お久しぶりです、隣山の御令嬢さん」
桃介は言いました。
ちなみに、御令嬢さんと呼んでいますが、嫌味で言っているわけではなく、単に名前を知らないだけでした。
一方的に知られていて、名前を名乗ってももらえていません。
お前はいったい何話出てると思っているんだ。
御令嬢は桃介の足元から頭までをじーっと見ると、
「桃介さん。あなた、6年間学力だけでなく、運動もなにもかもトップ。そして、容姿も昔と比べてかなり整いましたわね」
桃介を評価しました。
基礎能力は教えた人達が狂っていたので置いといて、6年生になったことで身長は伸び、体は以前よりも引き締まっていました。
隠れ桃介ファンが学年問わずいるのですが、桃介はそのことを知りません。
桃介は、ありがとうございます、ととりあえずお礼を言いました。
「さて、桃介さん。あなた、私のものになりなさい」
圧倒的上からの言葉でした。
取り巻き達も、おぉー! と声を上げています。
しかし桃介は、
「お断りします」
「な!? なんでですの!? この私が貰ってあげると言ってるんですのよ!?」
御令嬢も、周囲の人々も、まさか桃介が断るとは思っておらず、動揺しました。
「御令嬢さん。あなたには感謝しています。あなたが視野を広くしてくれたから、筋トレだけでなく、走ることも、勉強することも学びました。きっとあなたと出会わなければ、僕はこうはなれていなかったと思います」
「ではどうして!?」
「僕は僕の人生を自分で決めたい。たしかに以前は他人軸で生きていましたが、こうして視野を広く持ち、いろんなことを学ぶ中で僕は自分軸という──」
桃介は急に語り出しました。
しかし、残念ながら誰も桃介の話は聞いておらず、形的に振られてしまった御令嬢の落ち込んだ姿に視線は向けられていました。
欲しいものは必ず手に入れる、そんな御令嬢が敗北したのです。
卒業を前にして、校内のビッグニュースでした。
「──というわけで、僕はこうして自分の意志をしっかり持つことで……」
まだまだ語っている桃介でしたが、ゴリ雄に肩を叩かれます。
「桃介、桃介」
「え?」
「もう、誰もいない」
「あれ、本当だ」
語っているうちに、皆解散していました。
そして卒業式を迎えました。
皆で頑張った運動会。
皆で歌った合唱祭。
楽しかった修学旅行。
取り組み続けた部活動。
卒業生が声を合わせて言いますが、ダイジェスト版なので桃介にそんな記憶はありませんでした。
ただただ早い6年間だった。
卒業証書を受け取りながら、桃介はそう思っていました。
□ □ □
おまけ。
「何故! 何故ですの!」
桃介に振られた御令嬢は、自室のベッドに寝転がりながら言いました。
何故私が振られなければいけないのか。
今まで欲しいものは何だって手に入れてきた。
だから今回も、自分好みに成長した桃介を手に入れるはずだった。
しかし、振られてしまった。
『お断りします』
『僕は僕の人生を自分で決めたい』
桃介の言葉が思い出されます。
何度も何度も頭の中でリピート再生されました。
ただ、御令嬢はリピート再生される度に、胸の高鳴りが止まらなかったのです。
振られたはずなのに、この高揚感はいったい何なのか。
もっともっとこの高鳴りを感じたい。
御令嬢はそう思うと、呼吸が荒くなり、涎が止まらなくなりました。
なんだか新たな扉を開いてしまったようです。
存在しない記憶を卒業式で言うっていう。




