第1話 目標を持ち突き進め
いつの時代かは分からないけれど、ある山にお婆さんとお爺さんと男の子が住んでいました。
お婆さんはとても筋骨隆々で都会のボディービルダーの大会で何度も優勝する逸材でありながら、山里の村で吉備団子のお店を営んでいました。
お爺さんは昔、悪い鬼を退治して伝説となった桃太郎でしたが、今ではお婆さんの尻に敷かれる専業主夫で、山に芝刈りに行きつつ川で洗濯をしていました。
残りの男の子はというと、現在5歳でありながら、お婆さんから出された筋力トレーニングの課題を、お婆さんが帰宅するまでの間に終わらせないといけないというスパルタ訓練を日々こなしていました。
実際問題幼いうちに筋トレをやり過ぎると成長によろしくないという話もありますが、お婆さんからしたらそんなの知ったこっちゃありません。
大切な我が子がどんな困難にぶつかっても乗り越えていけるように、ただただ強く育てるのみ。
男の子も、トレーニングは辛いけれども、お婆さんとお爺さんの愛情をフルに受け取っている為、途中で放り出すことなく継続しているのでした。
なんて良い子。
それはある日のことでした。
お爺さんが作った夕食を食べながら、お婆さんは箸で桃介を指しながら言いました。
「桃介。お前は5歳児にしては良い具合に筋肉が育ってきているが、まだまだ私には遠く及ばない」
それはそう、とお爺さんは思いましたが、決して口にはしませんでした。
そして箸で人を指してはいけません。
お行儀が悪いです。
「婆上、どうすればいいですか?」
桃介はお婆さんに問いました。
どうすればより良い筋肉をつけられるのか。
どうすればお婆さんのような筋骨隆々になれるのか。
桃介の目は真剣そのもの。
良い子過ぎてお爺さんは桃介の将来どころか今が心配でした。
「そうさね。お前には目標がない。今は私が与えたトレーニングをこなしているだけ。何か目標を持って、そこに集中し、突き進むことが必要じゃ」
お婆さんは実にまともなことを言いました。
桃介は、なるほど、と頷きます。
「しかし婆さん。目標を持てと言っても、桃介はまだ5歳。今回はこちらから目標を与えてもいいんじゃなかろうか」
「たしかに。爺さんの言う通りじゃ」
お婆さんはこの日5回目のご飯のお代りをしながら、うーん、と考え、カッ! と目を見開きました。
何か思いついたようです。
「桃介、お前に目標を与える」
「はい、婆上!」
「3ヶ月後に隣の山で開かれる新人限定のボディービル大会に、お前も出るのじゃ」
えぇえええええ!? とお爺さんはおったまげ。
5歳児にボディービルの大会に出ろとは、いったい何を考えているのか。
そもそも5歳児が出れる大会なんてあるわきゃないでしょ。
お爺さんは内心ツッコミまくりでしたが、我が身可愛さに口にはしませんでした。
「わかりました、婆上! 3ヶ月後の大会を目指します!」
「よし! そうと決まればしっかり喰らい、しっかりトレーニングをするのじゃ!」
「はい!」
ご飯をもりもり食べる2人を見ながら、お爺さんは2人の勢いに着いていけない自分がおかしいのだろうかと悩まずにはいられないのでした。
翌日から桃介のボディービル大会への猛特訓が始まりました。
まだ幼いうえに脂肪も付いておらず、明らかに摂取カロリーよりも消費カロリーの方が高い桃介には、減量というステップは必要ありませんでした。
大胸筋、大円筋、広背筋、大腿四頭筋、上腕三頭筋、上腕二頭筋、前腕、腓腹筋、斜腹筋。
おいおい5歳児でそんな細かく鍛えなくてもいいんじゃないかと思うレベルでトレーニングを行いました。
「8、9、10! 桃介、ここからさらに3回上げるのじゃ!」
「は、はい! 婆上!」
お爺さんはもうハラハラして心配で仕方ありませんでした。
そんなこんなで3ヶ月。
隣の山で初心者限定のボディービル大会当日を迎えました。
教育方針は家庭によって異なります。




