第0話 流れてきた赤ん坊
いつの時代かは分からないけれど、ある山にお婆さんとお爺さんが住んでいました。
何故お婆さんを先に言ったかというと、家計を支えているのがお婆さんだからです。
お婆さんは山里の村で吉備団子のお店を営んでおり、お爺さんは専業主夫でした。
ある日、お婆さんは早くからお店に立ち、お爺さんは山に芝刈りをしつつ川に洗濯に行きました。
お爺さんが川で洗濯をしていると、川上の方から、どんぶらこどんぶらこ、という音声と共に、大きなタライが流れてきました。
お爺さんはタライが気になり、川にざぶざぶ入りながらタライをキャッチ。
中には、どんぶらこどんぶらこ、とエンドレスリピートしている音声録音機器と、赤ん坊が1人入っていました。
「こりゃ大変じゃ!」
お爺さんは優しい人でした。
瞬時に赤ん坊を保護しなければと判断しました。
しかし、お爺さんの脳裏に浮かぶお婆さんの顔。
急に謎の赤ん坊を連れ帰ったら、何と言われるか分かりません。
その様子だけで、お爺さんとお婆さんの力関係が分かりました。
「……さすがに赤ん坊を放っておいた方が人としてどうかしちょる」
お婆さんの反応が怖かったお爺さんですが、何か言われても人として判断するか、自分可愛さに負け犬になるか、お爺さんは人として決断することを決めました。
とりあえず赤ん坊が入ったタライを回収しましたが、よくよく考えると芝刈りで集めた材木と、さっきまで洗っていた洗濯物の存在に気付きました。
どうしたものか、と悩むお爺さんでしたが、ふと妙案が浮かびました。
赤ん坊は自分で抱いて、空いたタライに材木と洗濯物をぶち込み、都合よく偶然持っていた長い紐をくくり付けて引っ張っていくことにしました。
ほんと都合がよいですね。
□ □ □
拾ってきた赤ん坊をあやしながら家事をしていたお爺さんでしたが、数多くのカラスが急に鳴き始めて飛び立っていった音に気付き、お婆さんがお店から戻ってきたことを察知しました。
お爺さんは居間に移動し、赤ん坊を傍らに寝かせ、正座して待機しました。
それとほぼ同時に、
「爺さん、帰ったよ!」
バンッ!
と玄関の引き戸が勢いよく開き、お婆さんが帰宅しました。
お婆さんは、増量期にも関わらず無駄な脂肪を付けずにリーンバルクアップを見事に成し遂げたボディービルダーのような、筋骨隆々な姿でした。
これは誰が見てもお婆さんの方が力関係を上だと思うことでしょう。
「爺さんも今日はお疲れ──なんだい、その赤ん坊は?」
意外とお婆さん優しそうと思わせといて、お婆さんの視線がお爺さんの隣に寝かされている赤ん坊を捉えます。
お爺さんはかくかくしかじかと必死に説明し、自分は人命救助を優先しました、みたいな感じのアピールをしました。
お婆さんは少し考えてから、
「いいだろう、私達で育てようじゃないか!」
お婆さんはニカッと笑い、漢を見せました。
女性でも漢は漢なのです。
お爺さんは内心、ホッ、と息をつきながら、お婆さんに言いました。
「婆さんや、この子の名前はどうする?」
「そうだねぇ……」
お婆さんは顎に手を当てながら考えます。
この家の大黒柱たるお婆さんに命名権がありました。
お婆さんはお爺さんを見て、ニヤリと笑みを浮かべます。
お爺さんは背筋が冷えました。
え、儂どうなるの!? といった感じでした。
「爺さんが言うには、この子との出会いはまさに爺さんがお義母さんと出会ったのと酷似しておる。よって、この子の名前は桃介というのはどうだい?」
そう、お爺さんは大昔、どんぶらこどんぶらこと川を流れてきた桃から産まれていたのでした。
一体どんな原理で産まれたのか、今でも分かっていません。
「どうだい? 桃太郎爺さんや」
お爺さんは、そういえば自分の出自はそんな奇抜なもんだったっけ? と思いながら、特に拒否権がある訳でもなく、頷いたのでした。
こうして音声録音機器と一緒にタライに乗って流れてきた赤ん坊は、桃介と名付けられたのでした。
原作に忠実です。嘘です。




