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第46話 四本、届けました

 宿営地の門を通ると、ミナは袋を下ろした。


 ラグが管理の人へ、戻ったことを伝える。

 石羽鳥がいた場所と、これから町へ帰る予定を話した。

 ミナはその間に、小屋へ残していた荷物を確かめた。


 寝るための布。

 雨を避ける覆い。

 昨夜洗って、乾かしておいた小鍋。


 朝には、戻ってきてもう一度使うと思っていた。

 今は、使い終えたら持って帰る。


「少し、火を使わせてください」


 管理の人へ頼み、必要な薪を受け取った。

 時刻を確かめる。

 帰り道を急がなくて済むように、料理と休憩の時間を先に決めた。


「夕飯のつもりでしたけど、今、食べてしまおうと思います」


 ミナが包みを出すと、ラグはうなずいた。


「町まで運ぶより、その方がよさそうですね」


「はい。夕飯には、残った干し肉を使えますし」


 食べられる分を採った。

 けれど、それをいつ食べるかは、持ち帰る道も見て決める必要があった。


     *


 砂肝を取り出し、内側をきれいにした。

 付いた汚れを落とし、硬い膜を外す。

 処理に使った場所を片づけてから、包丁と手を洗い直した。


 ラグは薪を炉の脇へ置き、ミナの手元を見ていた。


「先ほどより、小さくなりましたね」


「硬いところを残すと、噛みにくいんです。切ってあるものだと、ここまでは見えませんけど」


 食堂では、下ごしらえを終えたものを店主へ渡していた。

 鍋へ入るところだけを見た客には、最初の形はわからない。


 ミナは、残ったところを薄く切った。

 厚さを揃え、切り終えたものから椀へ移す。


 槍を持っていたときより、指先が落ち着いていた。

 それでも、肩を上げたままになっているのに気づいた。

 包丁を置き、一度腕を下ろす。


「ここまでできたので、少し報告しますね」


 水晶を台へ固定した。

 ほかの人が映らない向きにして、ラグにも確かめてもらう。


「こんにちは。宿営地へ戻りました。さっき採った砂肝を、お昼にします」


 小鍋を火へ掛ける。

 薄切りにした砂肝と少しの水を入れ、蓋をした。

 持ってきたパンも、二人の分を出しておく。


 視聴者の数字が、一になった。


〈帰り道:こんにちは。今日は、外で料理なんですね〉


「はい。昨夜は、ここで泊まりました。今日はこれを食べてから、町へ帰ります」


 ミナは蓋を少し持ち上げた。

 湯気が出る。

 中を返してから、もう一度閉じた。


〈帰り道:砂肝って、何の鳥ですか〉


「石羽鳥です。今日は尾羽を採る依頼だったんですけど、これも食べられるので」


 文字が、少し止まった。


〈帰り道:石羽鳥って、魔物ですよね……?〉


「はい」


 返事をしてから、ミナは鍋を見た。

 ギルドで岩背ガマを見せたときにも、似たことを聞かれた。


「食堂で扱っていたものなんです。何でも食べられるわけではないので、知らないものなら、私も採りません」


〈帰り道:なるほど。食べるところまで、知っているんですね〉


「ここは、好きでした。焼くと、少し歯応えがあって」


 火が通ったのを確かめ、蓋を外す。

 残った水分を飛ばし、鍋底へ広げた。

 塩と、荷物へ入れてあった乾いた香草を少し振る。


 湯気の匂いが変わった。

 端に焼き色がつくまで待ち、匙で返す。

 次は、ラグが鍋へ顔を向けた。


     *


「できました」


 椀へ分けると、ラグは匙を取った。

 焼いた一切れを見てから、口へ運ぶ。


 ミナは、自分の椀を持ったまま待った。


 ラグがもう一度噛む。

 それから、椀の中へ目を戻した。


「……これは、羽だけ持ち帰るには惜しいですね」


 ミナの肩が下がった。


「おいしいですか」


「ええ。硬いというより、噛むと戻ってくる感じがします。香草も、よく合いますね」


 ラグは、次の一切れを取った。

 先ほどより、迷いがなかった。


〈帰り道:食べているところを見ると、おいしそうです〉


「薄く切ると、食べやすいんです。パンと一緒でもいいですよ」


 ミナも口へ入れた。

 塩の味と、焼けた匂いがある。

 噛んでからパンを食べると、少ない肉でも一口ずつ楽しめた。


 食堂で食べたものより、少し香草が多かった。

 でも、これはこれでおいしい。


〈帰り道:普通の鶏の砂肝でも、できそうですね〉


「はい。そちらも食堂で使っていました。残すところの大きさが違うので、切るときに揃えていました」


 文字板を見てから、ミナは鍋を映した。

 中は、もう空だった。


「今日はここまでにします。帰ってから、羽を届けてきますね」


〈帰り道:お気をつけて。無事に届きますように〉


 ミナは礼を言い、配信を閉じた。

 残りのパンを食べ、水を飲む。

 ラグも椀を空けていた。


「次に石羽鳥を見ても、すぐ食事のことは考えないようにします」


 真面目な顔で言われ、ミナは少し笑った。


「私も、生きているときは、まだ無理です」


     *


 道具を洗い、炉の後始末をした。


 ミナは、薪の代金を帳面へ書いた。

 残った食料も確かめる。

 昼に使うつもりだった干し肉が、そのまま残っていた。


 旅の袋へ寝具と鍋を戻す。

 朝の採取用の袋より、また重くなった。

 ラグは羽の箱を確かめ、紐を締め直した。


「箱は、帰りもラグさんで大丈夫ですか」


 ミナは、ラグの袋の横へ留められた箱を見た。

 箱を背負ったラグの荷も、行きより増えているように見えた。


「今は大丈夫です。ですが、歩いてから、もう一度確かめましょう」


 ラグは二人の袋を見た。


「疲れた後の重さは、出発のときとは違いますから」


 管理の人へ挨拶をし、門を出た。

 朝、鳥の声を聞いて向かった道とは、反対へ歩く。

 町まで戻って、羽を渡す。

 今度は、寄り道を増やさない予定だった。


     *


 下り坂では、足を出すたびに袋が動いた。


 ミナは歩幅を小さくした。

 弱く力を回すと足は置きやすくなるが、肩の紐は食い込んでくる。

 平らなところへ着いたとき、ラグが休憩を提案した。


 袋を下ろす。

 背中から離れた途端、思っていたより重かったとわかった。


「少し、鍋が当たります」


 包みを出すと、寝る布が下へずれていた。

 行きにも、同じところを直した。

 今度は布の端を挟み、鍋が動く隙間を減らす。


 ラグは、その間に自分の袋へ余裕を作った。


「こちらへ移せる分は、移しましょう」


「でも、羽もありますし」


「箱を持っていることと、まだ持てることは、別です。私も、無理なら申し上げます」


 ミナは、少し迷ってから小鍋を渡した。

 ラグが収め、立って歩いてみる。

 箱へ当たらないことも確かめた。


「お願いします」


「はい。帰り着くための分け方にしましょう」


 ミナは水を飲んだ。

 袋が少し軽くなったので、足の疲れも確かめやすくなった。


     *


 再び歩き始めると、ラグが朝の鳥の話をした。


「次も二人で受けるなら、相手の数がわからない依頼は、慎重に選びましょう」


 ミナは顔を向けた。


「今日、跡が重なっていたところですか」


「ええ。あそこで、ほかの鳥も近くにいたかもしれません」


 倒れた鳥の周りで、ラグが道を見ていたことを思い出す。

 自分は、羽の根元を見ていた。


「二羽、同時に来たら……」


「一方へ向いた間に、もう一方が近づきます。今日できたことが、そのまま二羽にもできるとは限りません」


 ミナは槍を持つ手を動かした。

 鳥が柄へ触れたときの音が、まだ残っている。

 あのとき、後ろからも来ていたら、どちらへ下がればよかっただろう。


「受ける前に、何羽くらいいるかも聞きたいです」


「そうですね。確かめられないなら、別の仕事を選ぶこともできます」


「……はい」


 新しくできた仕事を、続けたい。

 だからこそ、同じように帰れる条件を探す必要があった。


 ミナは標識の番号を見た。

 来るときに、帰り側の景色も見ておいた場所だった。

 ラグと向きを確かめ、町へ続く道を選んだ。


     *


 ギルドへ着いたときには、窓の光が斜めに差していた。


 ミナは袋を下ろし、ラグと納品口へ進んだ。

 依頼の紙と登録札を出す。

 職員が受け付けを確かめ、箱を開けた。


 尾羽が一本ずつ、机の上へ並べられる。


 ミナは、何も持っていない手を揃えた。

 切るときよりも、今の方が落ち着かなかった。


「四本ですね。長さを見ます」


 職員が尺を当て、軸を確かめた。

 根元を光へ向ける。

 ミナも同じところを見た。


 先の欠けた一本が、持ち上げられた。


「こちらは、先端に欠けがありますね」


「はい。必要な長さは残っていたので、入れました。根元は、ほかのものと同じように確かめています」


 職員が依頼の紙を見て、もう一度羽へ尺を当てた。


「条件に収まっています。根元も、裂けずに残っていますね。四本とも受領します」


 ミナは息を吐いた。

 箱に入ったときは、まだ自分が選んだ四本だった。

 今、依頼先へ渡せる四本になった。


「これなら、工房で長さを取れます。きれいに外してくださったんですね」


「ラグさんが、尾の方を傷めずに倒してくださいました」


「取り分けたのは、ミナさんです」


 ラグが隣から言った。

 職員は二人を見て、完了の印を押した。


     *


 素材の確認が終わると、鳥を見つけた場所と、討伐した位置を報告した。

 記録を添え、ほかの跡があったことも伝える。

 倒した一羽の報告だけで、周辺に鳥がいないと決まるわけではなかった。


 借りた箱を返し、宿営地の利用も終えたことを届ける。

 それから、報酬を受け取った。


 ラグと机を借り、支出の紙を並べた。

 宿泊と薪。

 持っていった食料。

 ほかに払ったものがないか、帳面と照らす。


 ミナは、料理のときに使った薪も書き足してあった。


「こちらは、二人のお昼に使いましたね」


「はい。余分に掛かったので、入れていいのかと思って」


「必要な食事でした。干し肉も残りましたし」


 ラグは金額を確かめ、二人の分を分けた。

 ミナも数え、財布へ収める。


 前の依頼より、報酬の数字は大きかった。

 けれど、二人で出掛け、泊まり、素材を守って帰ってくるための支出もあった。

 残った分を見ると、受ける前に聞いておいてよかったと思った。


「また、受けてみたいです」


 ミナが言うと、ラグはうなずいた。


「今日の疲れが取れてから、候補を見ましょう」


「明日は、休みます」


「それなら、安心です」


     *


 下宿へ戻ると、管理人がミナの顔を見てくれた。


「お帰り。予定どおりだったね」


「はい。羽も、届けられました」


 階段を上る足は重かった。

 袋を下ろし、靴を脱ぐ。

 今夜は、自分の寝台で眠れる。


 片づけを始める前に、帳面へ完了の印をつけた。

 尾羽四本。

 先が欠けたものも、条件に合っていれば使える。

 帰り道では、鍋をラグに持ってもらった。


 その下へ、砂肝のことも書いた。

 薄く切る。

 香草は、食堂のときより少し多めだった。

 ラグさんも、おいしいと言ってくれた。


 筆を置き、干し肉の包みを棚へ戻す。

 今日使わずに済んだ分が、明日の食事になった。


     *


 ミナと別れた後、ラグは武器屋の前で足を止めた。


 窓の向こうに、斧と剣が並んでいる。

 斧を見ると、重さを想像できた。

 どこを握り、どのくらい振れば届くかも。


 剣へ目を移す。

 長い刃。その手元にある柄。

 今の腕で振ったとき、どこに重さが掛かるだろう。


 ミナの槍が届くところを、思い出した。

 彼女が一歩下がったとき、自分は横へ動いていた。

 その間に、もう一方から来る相手がいたら。


 窓に映った自分の、左の袖が見えた。


 昔、持てたものを探すだけでは、決まらない。

 今、どこへ動き、誰と並んで使うのか。

 そのためのものを、確かめてみたかった。


 今日は荷を下ろし、休む。

 次に来るときは、店の中で聞こう。


 ラグは窓から離れ、宿へ向かった。



※近況ノートに挿し絵・キャラクター紹介イラストを掲載中です

読んでいただきありがとうございます。評価、レビュー、応援いただけると幸いです。

カクヨムでも掲載しておりそちらでは各エピソードの挿し絵等も掲載しています。

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