↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/14

「新たな出会い」

 少女に連れられて庭の門を通り、蔓でできた長いトンネルのようなものを抜けると、開けた場所に出た。そして、周りを木々に囲まれたその場所には、巨大な建物があった。

 

   「着いたよ、ここがわたしのお家」

 

 その建物は横にとても広いレンガ造りの二階建てで、何故か昔幼い頃に紙芝居で見た貴族の豪邸を思い起こさせた。一階、二階と等間隔に並ぶたくさんの窓に大きなバルコニー、そして建物を取り囲むように綺麗に整えられた花々。木々であふれるこの空間に、不思議とこの巨大な建造物は違和感なく溶け込んでいる。なんだか、ここだけが島の中で別の世界のように思えた。こんな大きくて派手な建物がこの島にあったなんて、ルミナは全く知らなかった。

 

 「こんな大きな建物がこの島にあったなんて…」

 「この家さ、横にでかい割に縦にはそんなに大きくないから、たしかに外からは見えにくいかもね」

 「なんだか、窓がたくさんありますね…」

 「ふふ、変かな?」

 「いや、すごく大きくて、その、綺麗なお家だと思います…」

 

 会話をしていると、建物の裏からたくさんの道具を抱えた二人と同い年くらいのつなぎを来た黒髪の男の子が出てきた。

 「あ!こんにちは!」

 少女が真っ先に声をかけると、少年は頬を赤らめ目も合わせずに、そのままそそくさと家の裏に消えていってしまった。

 「あの子はね、家の庭師見習いの"リン"ていうんだけど、いつもあんな調子でまともに目も合わせてくれないんだよね。もしかしてわたしのこと苦手なのかなぁ?」

 本気でそう思っていそうな少女に対し「多分、逆じゃないかな?」と言いそうになったが、おそらく少年にとって余計なお世話だと思い、やめておいた。ルミナが予想するに、この美少女はかなりの鈍感さんのようだった。


 少女が大きな扉を開くと、まず二階へと続く巨大な階段が目に入った。階段は木製だったが、なんだかツルツルピカピカしていて、役場や教会で見る普通の階段とは大きさも質感も違っていた。そして踊り場まであった。階段の左右には広く長い通路が続いていて、そこから見えるドアの数から、この家の膨大な部屋数が伺えた。そしてまさに豪邸という感じで、天井からは精巧なシャンデリアが吊るされ、窓枠から階段の手すりにもあらゆるところに華美な彫刻が施されていた。全体的に少しやり過ぎ、と感じるくらいの豪華さがあった。ルミナは今までに感じたことのない類の緊張をしていた。


 少女に連れられ、二階に上がって右の通路を進んだ。二階の窓から外を見ると、周りの背の高い木々に阻まれて、街の方は全然見えなかった。たしかに、これなら家の存在を知られにくいな、と思うと同時に、なんだか人々の目から隠れているように見えるとも思った。

 そんなことを考えていると、さっきまでルミナ達がいた場所、家の前の開けたスペースに、背の高い男が立っていることに気づいた。その長身の男は大きな真っ黒いローブを身に纏っていて表情こそ分からなかったが、その場所から確実にルミナのことを見ていた。思わず、通路の途中で立ち止まる。刹那の間、窓を挟んで睨み合う両者。男からただならぬ殺気を感じて、ルミナの頭は森で狩りをしているときのような臨戦態勢になる。

 

 「そんなとこで何してるのー?こっちだってばー!」

 

 少女の声に一瞬目を離した――再び窓の外を見ると、男はその場から姿を消していた。

 

 「いや…今、家の前に人がいたから…」

 「ん?今日は家の人たちは大体出払ってるし、残りの人たちは執事室か庭師の離れにいるはずだよ?見間違いじゃないのー?」

 

 見間違いなどではなかった。男は確実にあそこにいて、こちらを見ていた。さっきルミナを追っていた大人の一人か?とも思ったが、それだとあの凄まじい殺気の説明がつかない。確実なのは、あの男がルミナを敵視しているということだけだった。なんだか釈然としないまま、ルミナは少女が手招く方に向かった。


 「ここがわたしの部屋だよ、さあ入って――」

 

 少女の部屋はとても広く、ルミナの家全体がすっぽり収まってしまいそうなサイズだったが、さっきまでの豪華絢爛な装飾たちとは対照的に、内装も家具もとても素朴だった。

 「やっぱり、違和感感じる?実を言うとね、私ああいう"ごてごてした装飾"かなり苦手なんだ。自分の部屋の中まであんなだったら、多分毎日落ち着かないと思う…。だからね、お母さんに頼んでこうしてもらってるの」

 ルミナも少女に同意見だった。現在成り行きでお邪魔させて頂いている立場ではあるが、この家全体の行き過ぎた豪華さがなんだか肌に合わない気がしていた。

 

 「そういえばさ、お互いまだ名乗ってなかったね」


 少女に言われて、ルミナもそのことに今更気がついた。

 

 「わたし、ルミナっていいます」

 「わたしフォアラ、フォアラ・セイルっていうの」


 ルミナはそこで初めて、目の前の少女が島の鉄鋼業を採掘から加工まで担うセイル家の一人娘であることを知った。

 

 「わたしのことは気軽にフォアラって呼んでね、あなたのことはルミナって呼ぶから。わたしたち、今日からお友達ね」フォアラは腕を組んで、じっとルミナの顔を見つめながらそう言った。彼女は話すときに腕んで相手の顔をのぞき込むのが癖みたいだ。

 初めての友達、今まで他の子達から疎まれ、避けられてばかりだった自分に友達ができた。その事実に、ルミナは深い安心と喜びを感じた。フォアラはそんなルミナの気持ちを表情から感じ取ったらしく、優しく微笑んでくれた。その美しい一対の翡翠色の瞳が、彼女の優しさと包容力を言わずとも表していた。ルミナは、ここ最近の嫌な出来事による疲れが、みるみる癒えていくのを感じた。


 そこから二人は、フォアラが淹れた茶を一緒に飲み、他愛のない話をした。フォアラはルミナの狩りを蔑むどころか関心を示し、学校へ行っていないことも、「私も同じだから」と言って笑って流してくれた。屈託のないフォアラはルミナの様々なコンプレックスを哀れみも同情もせず、ただそうであるということをそのまま受け入れてくれた。こんな大金持ちの家の人はリリィ達と同様にルミナのことを嘲笑すると思っていたから、フォアラのような人間がいることはとても意外だった。そして、嬉しかった。ただ、フォアラがふとした瞬間に見せる、影のあるどこか遠くを見つめるような表情に、ルミナはとても切ない気持ちにさせられた。その表情が、彼女の心の何を表しているのか、それをいつか知りたいと思った。

 

 「家はね、家庭教師が来て全部教えてくれるから、親が学校には行かないでいいって言うんだよね、私自身は行きたいと思ってるんだけれど。まあそのおかげで、わたしのことすごく嫌いな子達もいるみたいだけど。それにね、前から私ともう一人学校行ってない子がいるって噂聞いてたから、ずっと会ってみたいって思ってたの、そしたら、向こうから家の庭に来てくれた――」


 お喋りは、夕暮れになりフォアラの親が帰ってくる時間帯まで続いた。

 「家の親はね、知らない人家にあげるとすごく怒るから、申し訳ないけど、そろそろ帰ったほうがいいかも。あなたとのお喋り、とても楽しかった。わたし、あの時間帯はいつも庭にいるから、気が向いたらまた来てね。」

 

 踊り場まで来ると、フォアラはルミナのことを優しく抱きしめた。あまりに自然に抱きつくものだから、反応することもできなかった。花の香りと彼女の体温に包まれて、ルミナは母親に抱かれるように深くリラックスした。

 「もう一回言うけど、次会うときはフォアラって呼んでね――」

 ルミナは教えてもらった通りに一階裏口から急いで外に出た。木々であふれる敷地を抜けて街の方に出ると、日は既に沈みかけていた。それは二人がとても長い間話し込んでいたことを表していた。初対面の人とあんなに仲良くできたのは、これが初めてだった。それに、今日の時間だけでルミナはフォアラという人間のことをとても好きになってしまっていた。

 ルミナは今日の二つの嫌な出来事を完全に忘れ、明るい気持ちで帰路についた。

 


 



 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。