↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/14

「秘密の花園」

 広場に近づくと、なにやら賑わっている声が聞こえてきた。ルミナは騒ぎの原因が気になって、小走りで広場に向かった。

 広場の賑わい、どうやらその正体は月に一度、他所の島から金属細工を持ち込んで売っている露天商のようだった。ルミナはぎっしりと集まった見物客達の間を上手く通り抜け、一番前の列にしれっと並んだ。

 客が賑わうのも当然だった。金や鉄でできた指輪に、細かな細工がなされた銀の腕輪、見たことのない美しい宝石をあしらったネックレスなど、今回の品は今までの品とは一味違っていた。他の客達も、いつもよりもあからさまに目を輝かせている。これまで何度かこの露天商を覗いてきたルミナだったが、この美しい品を前に、年頃の娘らしくときめいてしまった。しかし、品はどれもかなりの高価で、ルミナの今の所持金では一つも買うことはできそうになかった。とても残念だったが、お金を貯めてまた来ようと思った。

 

 「あら?不登校のケモノ女じゃない?」

 

 背後から声を掛けられて振り返った瞬間、ルミナの気分はまた最悪に戻った。声の主は島の女子児童のリーダー的存在、いわゆるガキ大将のリリィ・アンだった。彼女は取り巻き達と一緒に、この月に一度の露天商を見に来たようだった。リリィも取り巻き達も皆一様に、長いウェーブした茶髪にそばかす、襟付きの赤い服、という見た目だったため、ルミナには全く見分けがつかなかった。

 「こんなところで、一体何をしてるのかしら?前も行ったけれど、ここはあんたみたいなのが来る場所じゃなくってよ?」

 リリィは学校へ行かずに狩りをしているルミナのことを、サボりだと決めつけて一方的に敵視していた。

 「良いわよねぇ…学校へも行かず、そこら辺の森をほっつき歩いてればいいんだから、身なりにも気を使わなくて済んで。あんたのそのみすぼらしい服も、髪型も、見てるだけでイライラしてくんのよ!」

 悪いことは重なる、というのは本当かもしれないと思った。ルミナはただ拳を握りしめ、下を向いてぐっと堪えた。手のひらに爪が食い込んで、痛みを感じるくらい強く握っていた。

 「あたしたちはさぁ、大変な勉学のたまの休みを使ってここに来たっていうのに、あんたみたいなのに会ったら気分台無しだわ、まったく。だいたい、なんであんたと鉄工所の馬鹿娘だけ学校が免除なのよ?親がおかしいんじゃ――あぁそうだったわね、あんたには親すらいなかったか笑」

 ルミナは段々頭に血が昇ってくるのを感じた。

 「あんたは、自分の母親がいなくなったのは事故が原因だって言ってるみたいだけど、私はどうせ、他所の島の男とどっかに――」

 頭の中で、何かがぷつんと切れる音がした。ルミナはリリィの襟首を勢いよく鷲掴みにすると、脚を崩す形で噴水に思い切り投げ飛ばした。水の中に叩きつけられるリリィの体。そして広場に飛び散る水しぶき。ざわざわとし始める衆人達とこちらに集まる視線。

 リリィと取り巻き達は、突然のことに何が起きたか理解できず、ただ呆然としている様子だった。

 「い、いきなり…なにすんのよ…!?」

 リリィが泣き出したのを見て、ルミナはすぐに間違ったことをしてしまったと思った。相手に暴力を振るわれたわけではない、穏便にやり過ごすため、口で応戦すべきだった。でも、母親のことを揶揄されると、いつも頭に血が昇って自分を抑えられなくなってしまう。ルミナは激しい胸の動悸を感じていた。

 「いじめです!いじめです!」

 広場の静寂を切り裂く取り巻き達の甲高い声、大人たちがぞろぞろと集まってきた。

 「この子が、無抵抗の彼女をいきなり噴水に投げ飛ばしたんです!」

 その瞬間、大人達からルミナに向けられる容赦の無い侮蔑の眼差し。

 「いじめですって!?」

 「いじめはいかん!」

 「その子を捕らえろ!」

 ルミナに対する疑いと怒りの声、この状況はまずいと思った。

 ルミナは振り返ると、すぐに全速力で走り出した。振り返ると、すぐ後から取り巻き達と数人の大人が追ってくるのが見えた。普段から獲物を街に届けるため、あちこち走り回っているルミナなので、彼らを撒くのは余裕に思えた、しかし、昨晩の寝不足に加えて狩人組合本部での精神的消耗、思ったように走ることができなかった。どれくらいの距離を走ったか最早分からなかった。走っている間、何度も服の裾を掴まれそうになりながら、小回りを利かせてなんとか彼らを一時的に撒くことができた。

 走りに走って、たどり着いたのは街の中でもどこだか全く知らない場所だった。辺りを見回すと、柵で囲われた広い庭が目に入った。家主には申し訳ないが、ルミナは仕方なくここに隠れることにした。


 かなりの時間が経過し、どうやら彼らは完全にルミナを見失ったようだった。ルミナは深く安堵し、その場に力無く寝転んだ。

 柵の外を気にするあまり、今まで気づかなかったが、ルミナが隠れたのはものすごい金持ちの庭だったようだ。庭中の豪華な装飾がなされた花壇には色とりどりの上品な花々が咲き乱れ、中央にある巨大な格子状の棚には、紫色の見たことがない美しい花が垂れるように咲いていた。こんな気合の入った庭は、この島ではそうそうお目にかかれるものではなかった。


 「あなただぁれ?そこで何してるの?」


 背後から突然声を掛けられるのは本日二回目だった。ルミナが恐る恐る振り返ると、そこにはルミナと同じ年くらいの一人の少女が立っていた。同じ少女でも、今回はとんでもない美少女だった。先端が緩やかにウェーブしたボリュームのある金髪のロングヘアーで前髪は均等に中分けされている。そして、この島ではほとんど見ない真っ白い肌に、二つの翡翠色の瞳がきらきらと美しく輝いていた。さっき露天商で見たどの宝石よりも、彼女の瞳の方が美しいと感じた。彼女が着ている服も襟や袖に豪華な刺繍が施されており、普通の女の子のそれとは全く違っていた。おとぎ話に出てくるお姫様を連想させる見た目。庭の花々に囲まれ、日差しに照らされる彼女の姿は、さながら一枚の絵画のようにも見えた。

 ルミナは立ち上がると、なんだか胸がドキドキするのを感じながら、この少女に対して広場での出来事と、何故ここに忍び込んでいたかを詳しく説明した。

 

 「話は大体分かったけれど…大丈夫?あなた顔色がとても悪いわ」

 「あ、はい…それは全然、大丈夫ですので…」

 彼女は腕を組んで、ルミナのことをじーっと観察しているようだった。そして、何か一人で納得した様子でこう言った。

 「うーん、やっぱりあなたすごく疲れてるわね、私の家で休んで行きなさい」

 少女は半ば強引にルミナのことを捕まえると、そのまま家の中に連れ込もうとした。彼女に腕を掴まれ引っ張られている間、その髪から漂う花の香りと、予想外の力強さにルミナはさらにドキドキさせられた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。