第四章 第四十六話 火山に集まる者たち
遺体を覆う布が風に揺れるたび、アレンは目を向けずにはいられなかった。昼前にあの家から運び出した男は、荷車から離れた日陰に安置されている。腰の小袋も外されず、ガレスの手帳には傷と持ち物、それに左手の下から見つかった灰の形が描き留められていた。途切れた円と三本の線。その意味が分からないままでも、誰かの死の傍らに残されていたことは忘れられなかった。
バルドは六台の荷車を村の外に留め、御者たちに車輪と馬具を点検させていた。西への旅を続けるには、この先の道が安全かどうかを見極める必要があった。ローデンとミックは荷車の後方を守り、ニアは村の入口を見張っていた。鈴葉はテオに水を渡していたが、少年がまぶたを伏せると、起こさないよう静かに毛布を掛け直した。
最初に人影を見つけたのはニアだった。村の南側にある細い道から四人が現れ、家並みを横切って街道へ出てきた。先頭は杖をついた年配の男で、後ろに若い女と二人の男が続いていた。背負った荷は小さく、長旅にしては食料も少なそうだった。それでも足取りは迷いなく、四人とも東の火山地帯へ続く方角を向いていた。
「止まって。荷車には近づかないで」
ニアが声を掛けると、先頭の男は杖を地面につき、残る三人も足を止めた。ガレスとアレンが見張りの位置へ移る間、バルドは御者たちを荷車のそばに留めた。男は集まった護衛の数を確かめるように見渡したが、武器へ手を伸ばす様子はなかった。
「通りたいだけだ。山へ戻る道を探している」
「山へ? あちらは灰がひどかった。道が崩れた場所もあるぞ」
ガレスの返事に、男は小さくうなずいた。杖を握る手には古い傷があり、靴の革も擦り減っていた。無謀な物見遊山の旅人には見えない。それでも、火山地帯から戻ったばかりのアレンには、崩れた道のことを承知で進もうとする理由が理解できなかった。
「知っている。だから、通れる道を確かめながら進む。ここで留まるつもりはない」
アレンは男の背後にいる三人へ目を移した。若い女は砂埃の付いた靴を履き、右腕に細い灰色の布を巻いていた。男たちの袖にも似た布が結ばれている。女は何度か振り向いて村の閉ざされた窓を見ていたが、何を気にしているのかは読み取れなかった。ただの目印かもしれないが、四人とも似た布を身につけていることは気にかかった。
「火山の近くで、何かあるのか?」
アレンが尋ねると、年配の男はすぐには答えなかった。代わりに若い女が顔を上げ、言葉を選ぶように口を開いた。
「人が集まると聞きました。山のふもとの、昔の道が残る辺りに」
「誰から聞いた?」
「……旅の途中で。知らない人からです」
女はそこまで言って口を閉じた。年配の男は彼女を責めるでもなく、杖を持ち直した。バルドは一歩前へ出たが、村の中へ案内することも、商隊の荷を分け与えることも申し出なかった。
「古い北の道は崩れている。俺たちが知っているのはそこまでだ。荷車の間は通さないが、街道の端なら塞がん。無理をして他人を巻き込むなよ」
「世話になった」
四人は礼を言い、荷車から十分に距離を取って東へ歩き始めた。最後尾の若い男は遺体を覆った布の方角に目をやり、すぐに顔をそむけた。覆いの下に何があると考えたのかは分からないが、その表情には疲労だけでない緊張がうかがえた。若い男がもう一度振り返ると、先頭の年配の男が声を掛けた。若い男はそれを聞いて足を速めた。誰も追わなかった。バルドの許可がない以上、見知らぬ旅人を尾行するわけにはいかなかった。
ガレスは彼らが見えなくなってから、四人の服装と進んだ方角を手帳に記した。灰色の腕布の巻き方は似ていたが、何かの合図なのか、互いを見分けるためなのかは不明だった。アレンはその記録を見ながら、遺体の下に残されていた灰の印を思い出し、口を開いた。
「……あの灰の印と、何か関係があるのかな」
鈴葉はガレスの手帳に目を落とし、書き留められた旅人たちの特徴と、別の頁に描かれた灰の印をしばらく見比べてから、慎重に答えた。
「まだ分からないわ。あの人たちの目的も、灰色の布の意味も確かめられていないもの。印と結びつけるのは早いと思う」
「そうだな。山へ向かう人がいた。それは確かだ」
その後しばらく、街道から村へ入る者は現れなかった。だが、午後の陽が少し傾いたころ、南西の畑の間を通る別の道に三人の旅人が見つかった。最初の一団とは違う道から現れたため、いつから近くを歩いていたのかは分からない。二人は歩き慣れた様子で先へ進み、残る一人は何度も肩越しに振り返っていた。彼らも東を目指していたが、村へ近づこうとせず畑の縁を迂回していった。
「また山の方角だわ」
ニアがつぶやくと、ガレスは眉をひそめた。偶然同じ方角へ向かっただけかもしれない。けれど、住民の姿が見えない村の周囲で、別々の道から来た旅人が続けて火山方面へ進むのは気にかかった。
その三人のうち一人が、畑の分かれ目で立ち止まった。先を行く二人は振り返らず、若者だけが荷車のほうを遠巻きに見ていた。アレンが道を隔てて声を掛けると、若者はびくりと肩を上げた。
「火山の方へ行くのか?」
「……そうです」
「北の道は崩れている。知らずに進むと危ないぞ」
「聞いています。でも、集まる場所は別だって……山の下で待てばいいと」
若者はそこまで答え、はっとしたように口を閉ざした。先へ行った二人の片方が何かを叫び、彼はそちらへ顔を向けた。その声は遠く、アレンには言葉を聞き取れなかった。若者の指が肩に掛けた袋の紐を何度も握り直しているのに気づいたが、怯えているのか、ただ道を急いでいるだけなのかまでは分からなかった。
「誰が待っているんだ?」
返事はなかった。若者は一歩退き、肩に掛けた袋を抱え直した。右腕には、先ほど見たものとよく似た灰色の布が巻かれていた。細い布の端を袖の内側へ押し込むと、彼は頭を下げ、畑の道へ戻っていった。二人に追いつくまで、一度も振り返らなかった。
ガレスは手帳を開き、南の道と南西の畑道を別々の線で記した。二組が先で合流したかどうかは見ていない。しかし、異なる場所から現れた七人が同じ火山の方角へ進み、うち二人が山の近くで人が集まると話した。両方の一団に似た腕布をつけた者がいた。誰かが呼び集めているとすれば、何のためなのか。偶然として片づけるには、確かめるべき点が増えていた。
「山が静かになったと聞いて、様子を見に行く者もいるだろう。だが、別々の道から来た者たちが、続けてあの方角へ向かう理由までは分からん」
バルドは報告を受けても、護衛を追跡に出すことは認めなかった。男の遺体を預かり、行方の分からない村人のことも抱えたまま、これ以上商隊を危険にさらせない。ガレスもそれには異を唱えず、見聞きしたことを次の人里で伝えられるよう記録を整えた。
アレンは荷車の陰へ戻り、眠っているテオを見た。母親を待つ子供のすぐそばを、見知らぬ人々が山へ向かって通り過ぎていった。男の左手の下に残されていた灰の印も、死んだ男の言いかけた言葉も、今なお意味を持たない断片のままだ。そこへ、火山の近くで人が集まるという話が加わった。黒い狐が姿を消した西の尾根とは逆の方角へ、七人は歩いていった。アレンの目には、先ほどの若者が灰色の布の端を袖に押し込んだ仕草が、妙にはっきり残っていた。
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