第9話 「誰も助けてくれないなら」
その日の夜。
病室は、静かだった。
時計の針の音だけが、やけに響く。
サクヤは、ベッドの上で目を開けたまま、天井を見ていた。
眠れない。
頭の中に、何度も同じ言葉が浮かぶ。
「……なんで俺だけ……」
ぽつりと、漏れる。
次の瞬間——
涙が、頬を伝った。
止めようとしても、止まらない。
悔しさが、溢れてくる。
レンとリン。
ルミナ。
“特別”なやつら。
(なんで俺だけ、あっちに行けないんだよ……)
強く歯を食いしばる。
胸が痛い。
呼吸が浅くなる。
(俺だって——)
拳を握る。
残った左手で、シーツを掴む。
(俺だって、外に出たい)
頭の中に浮かぶのは、戦っている二人の姿。
自分がそこにいない現実。
(……一緒に戦いたい)
その思いが、胸を締めつける。
けれど同時に——
現実が突きつけられる。
右腕はない。
力もない。
適合者でもない。
(……それすらできないのかよ、俺は)
苛立ちが、こみ上げる。
自分に対して。
何もできない自分に。
「……くそっ」
小さく吐き捨てる。
そのとき——
ふと、頭をよぎる。
(……誰も、助けてくれないなら)
ゆっくりと、体を起こす。
点滴の管が揺れる。
心臓が、強く脈打つ。
(俺が、動くしかない)
ベッドから足を下ろす。
冷たい床の感触。
一瞬、迷う。
だが——
サクヤは、立ち上がった。
そのまま、静かに病室のドアへ向かう。
誰にも気づかれないように。
息を殺しながら。
ドアを、開ける。
廊下は暗く、静まり返っていた。
振り返らない。
そのまま、歩き出す。
——外へ。
数分後。
巡回に来たナースが、病室の扉を開けた。
「失礼します——」
そして、固まる。
ベッドは、空だった。
「……え?」
一瞬の沈黙。
次の瞬間——
「患者がいません!!」
緊急コールが、病棟に響き渡る。
ざわめきが広がる。
足音が駆ける。
夜の病院が、一気に騒がしくなる。
だが——
その中心にいるはずの少年は、もうそこにはいなかった。
夜の外。
冷たい風が、サクヤの頬を打つ。
それでも、止まらない。
止まれない。
「……行く」
誰に言うでもなく、呟く。
その目には、涙の跡と——
消えない、熱が残っていた。




