第10話 「追う者たち」
夜の病院は、騒然としていた。
廊下を走る足音。
飛び交う怒声と指示。
「まだ見つからないのか!?」
「全フロア確認中です!」
——サクヤが、いない。
その事実だけが、場を支配していた。
すぐに両親へ連絡が入る。
「え……?サクヤが……いない……?」
母親の声が震える。
父親も、言葉を失う。
そして——
院長室。
「……こちら中央病院、院長だ」
別回線が繋がる。
相手は、ルミナの隊。
「はーい、ルミナでーす」
いつもの軽い声。
だが——
「……は?」
一瞬、空気が止まる。
「え、なにそれ」
そして次の瞬間——
「サクヤ、脱走したの!?」
驚いた声。
けれど——
その頬が、わずかに緩む。
「……ふふっ」
笑った。
「万全でもないし、片腕もないのに——どこ行く気なんだよ」
頬をほんのり赤くしながら、楽しそうに呟く。
「やるじゃん」
その声音には、どこか興味すら混ざっていた。
隣で聞いていたレンとリンが固まる。
「……は?」
レンの顔が険しくなる。
「脱走って……どういうことだよ」
リンも動揺を隠せない。
「なんで……あいつが……」
焦りが滲む。
だが、ルミナはあっさりと返す。
「いいよ」
軽く。
「僕の隊で見つける」
まるで遊びのように。
「責任持って回収するからさ」
その言葉に、一切の迷いはなかった。
通話を切る。
静寂。
「……行くよ」
ルミナが振り返る。
その目は、明らかに楽しんでいた。
「逃げたなら、追いかけないとね」
レンが拳を握る。
「……あいつ、何考えてんだ」
リンも唇を噛む。
「無茶すぎるよ……」
ルミナは、そんな二人を見て笑う。
「大丈夫だって」
軽く言う。
「すぐ見つかるよ」
——確信だった。
夜の街。
サクヤは、まだ知らない。
自分が、追われていることを。




