第7話 「裏切りのかたち」
サクヤは、しばらく二人を見つめたまま、動かなかった。
違和感が、確信に変わる。
胸の奥がざわつく。
そして、耐えきれずに口を開いた。
「……なんで、喋らないんだよ?」
その声は、少しだけ震えていた。
問いは、レンとリンへ向けられている。
だが——
返事はない。
二人は顔を伏せたまま、何も言えなかった。
沈黙が、答えの代わりにそこにあった。
その空気を、軽く壊すように——
「そりゃ、言いづらいでしょ」
ルミナの声が、割り込む。
どこか楽しそうに、少し笑いながら。
サクヤの視線が、ゆっくりとルミナへ向いた。
ルミナは肩をすくめる。
「だってさ」
一歩、前に出る。
「その二人——適合者だし」
空気が、凍る。
「しかも、僕の下についてもらうことになってる」
あまりにも軽い口調で、決定的なことを言った。
サクヤの思考が、一瞬止まる。
「……は?」
声にならない声が漏れた。
理解が、追いつかない。
ゆっくりと、レンとリンを見上げる。
「……嘘、だろ?」
信じたくない、という感情がそのまま表情に出る。
だが——
二人は、何も言わない。
言えない。
視線を逸らし、口を開こうとして、閉じる。
その繰り返し。
肯定も否定もない沈黙が、すべてを物語っていた。
サクヤの胸の奥で、何かが音を立てて崩れる。
(……ああ)
理解してしまう。
さっきの沈黙の意味を。
慰めなかった理由を。
言葉がなかったんじゃない。
——言えなかったんだ。
自分が、“向こう側”に行くから。
「……そうかよ」
サクヤは、小さく呟いた。
笑おうとして、失敗する。
顔が、歪む。
「……そういうことかよ」
誰に向けたわけでもない言葉が、零れ落ちた。
ルミナは、その様子を満足げに見ていた。
「理解早くて助かるよ」
軽く拍手するような仕草。
「これから忙しくなるからさ」
その言葉が、妙に現実的で——
残酷だった。
サクヤは、もう二人を見れなかった。
視線を落とし、ただ、握りしめる。
残っている左手を。
失った右腕の感覚が、なぜか痛んだ気がした。




