第4話:失った現実
――知らない天井だった。
白い。
ただ、白いだけの無機質な天井。
サクヤはゆっくりと目を開ける。
視界がぼやけている。
頭も、うまく回らない。
(……ここは……?)
ぼんやりとした意識のまま、体を起こそうとする。
その瞬間。
「サクヤ……!?」
「目覚めたの!?」
聞き慣れた声が、すぐ近くで重なった。
視線を向ける。
そこには、リンとレン――そして、両親の姿があった。
「サクヤ、大丈夫か!?」
レンが身を乗り出す。
リンは涙を浮かべながら、必死にこちらを見ていた。
「……ここ……どこ……」
掠れた声で問いかける。
喉がひどく乾いていた。
「病院だよ……」
リンが震える声で答える。
「あなた、運ばれて……それで……」
母親も涙を流しながら言葉を詰まらせる。
サクヤはその言葉を聞きながら、ゆっくりと体を起こした。
重い。
全身が、異様に重い。
そして――
違和感。
右側。
妙な軽さ。
「……?」
視線を落とす。
そこにあるはずのものが――
なかった。
白い包帯。
その先は、空白。
「…………は?」
理解が、追いつかない。
瞬間。
記憶が、弾けた。
――魔物
――血
――リン
――庇った瞬間
――切断される感覚
「――ぁ、あ……」
呼吸が乱れる。
視界が歪む。
「サクヤ……?」
リンの声が遠い。
「う、ぁ……あ……あああああああああああああああああああああああああ!!!」
叫びが、部屋に響き渡った。
止まらない。
体が震える。
心臓が壊れそうなほど打ちつける。
「なんでだよ!!なんでだよこれ!!なんで俺が!!」
ベッドの上で暴れる。
シーツを掴み、叩き、叫ぶ。
「ふざけんなよ!!返せよ!!俺の腕返せよ!!」
涙も、声も、ぐちゃぐちゃだった。
「サクヤ!落ち着け!」
レンが必死に押さえようとする。
リンは泣きながら名前を呼び続ける。
「やだ……やだ……こんなのやだ……!」
現実が、受け入れられない。
壊れる。
その時――
「何事ですか!?」
ナースが慌てて部屋に飛び込んできた。
状況を見て、すぐに表情が変わる。
「すぐに医院長を!」
別のスタッフへ指示が飛ぶ。
数分も経たないうちに、白衣の男が現れた。
「……強いストレス反応だ。鎮静剤を」
淡々とした声。
サクヤはまだ叫んでいる。
暴れている。
現実を拒絶している。
「離してくれ!!やめろ!!」
だが、押さえつけられる。
そして――
腕に、冷たい感触。
「――っ」
薬が、体に入ってくる。
徐々に。
力が抜けていく。
視界が、沈んでいく。
「……ぁ……」
声が出ない。
意識が遠のく。
最後に見えたのは――
泣き続けるリンの顔と、
歯を食いしばるレンの姿だった。
(……なんで……)
その疑問を残したまま。
サクヤは再び、深い闇の中へと沈んでいった。




