第2話:崩れた日常の中で
静寂だった教室に、異音が響いた。
――ガリッ。
扉の向こう側から、何かが引っかくような音がする。
「……っ」
サクヤは息を止めた。
隣ではリンが肩を震わせ、レンはドアを睨みつけている。
次の瞬間。
――バンッ!!
教室の扉が、内側へと吹き飛んだ。
現れたのは、人の形をしていながらも明らかに“それではない”存在。
濁った目、歪んだ四肢、裂けた口。
「……魔物……」
誰かが、かすれた声で呟いた。
魔物はゆっくりと首を傾け、教室の中を見渡す。
見つかれば終わりだ。
サクヤは小さく手で合図を送り、静かに後方の窓へと足を動かす。
一歩。
また一歩。
床がきしむ音すら、やけに大きく感じる。
その時だった。
――カタン。
小さな音。
ほんの些細な、それでも致命的な音。
「……っ」
リンの足元で、椅子がわずかに揺れていた。
やってしまった、という顔でリンが固まる。
その瞬間、魔物の頭がゆっくりとこちらを向いた。
目が合った。
「逃げろ!!」
レンの叫びと同時に、魔物が床を蹴った。
ありえない速度で距離が詰まる。
リンは動けない。
恐怖で足がすくんでいる。
「リン!!」
サクヤは反射的に飛び出した。
間に割って入る。
次の瞬間――
視界が、赤く染まった。
「――ぁ……?」
何が起きたのか、理解が追いつかない。
ただ、妙に軽い。
自分の体の一部が、そこにない感覚。
遅れて、激痛が襲ってくる。
「サクヤァァァ!!」
レンの叫びが遠くで響いた。
サクヤの右腕は、肩から先が消えていた。
血が噴き出し、床を赤く染めていく。
それでも。
「……リン、下がれ……」
震える声で、そう言った。
足が崩れそうになるのを必死にこらえる。
だが、魔物は止まらない。
再び、ゆっくりと腕を振り上げた。
終わる。
そう思った。
――その瞬間。
「遅い」
低い声が、教室に響いた。
次の瞬間、魔物の体が横に吹き飛んだ。
壁に叩きつけられ、鈍い音を立てる。
何が起きたのか分からないまま、サクヤは視線を向けた。
そこにいたのは――
見知らぬ少年だった。
片手には血に濡れた刃のようなもの。
その目は、あまりにも冷たく、そして静かだった。
「こんなのにやられるとか、運が悪いな」
少年はそう言い放つと、倒れた魔物へとゆっくり歩み寄る。
そして――
迷いなく、その頭を踏み砕いた。
教室に、再び静寂が訪れる。
サクヤはその光景を見つめながら、かすれる意識の中で思った。
――なんなんだ、こいつは。




