第18話 繰り返す日常
サクヤは、見つけた魔物を叩き潰していた。
――右手で。
人のものではない、異形の義手。
ヴァルカから与えられた、魔物で作られた腕。
それが振るわれるたびに、鈍い音が森に響く。
骨が砕ける音。
肉が潰れる音。
原形を留めないほどに、叩き壊す。
逃げる暇も、叫ぶ間も与えない。
ただ一方的に、壊す。
その動きに迷いはない。
躊躇もない。
そこに乗っているのは。
四年間、積み重なり続けた感情だった。
悲しみ。
怒り。
どうしようもない喪失。
それらすべてを、魔物にぶつける。
叩きつけるたびに、少しだけ軽くなる気がした。
だが――
消えることは、なかった。
それでもサクヤは、右手を振るう。
それが、日課になっていた。
アジトに戻る頃には。
その感情は、綺麗に押し殺されていた。
「お兄ちゃん、おかえり!」
「ああ、ただいま」
子供たちに囲まれ、自然に笑う。
さっきまでの気配は、どこにもない。
「今日はどうだったの?」
「まあまあかな」
軽く答えながら、頭を撫でる。
穏やかに。優しく。
何も問題がないかのように。
サクヤは、ヴァルカの元へ戻る。
「ただいま」
短く告げる。
ヴァルカは何も言わない。
ただ、肉を差し出す。
それを右手で受け取り、黙って座る。
その異形の腕も、ここではもう当たり前だった。
――その頃。
ルミナは、森の奥で足を止めていた。
「……なにこれ」
転がる魔物の死体。
切り裂かれた跡はない。
ただ、潰れている。
骨ごと、力で押し潰されたような痕。
一瞬の沈黙。
そして――
ルミナの口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「はは……」
声が漏れる。
抑えきれないように。
「……はははっ」
肩が揺れる。
明らかに――嬉しそうに。
「やっとだ」
目が細まる。
笑っているのに、温度はない。
「こんな殺し方するやつ」
一歩、踏み出す。
「僕、知ってるよ」
楽しそうに。
本当に楽しそうに。
「ねえ――サクヤ」
名前を呼ぶ。
確信したように。
四年間、探し続けた存在。
その痕跡を、ようやく掴んだ。




