第16話「誰のもの」
その頃――リンとレンは、サクヤを探していた。
「……確かに、あの場から連れていかれたよね」
リンの声は硬い。目は周囲を警戒しながらも、焦りが滲む。
「ああ。見間違いじゃない」
レンも短く答える。
ただ消えたわけじゃない。
“連れていかれた”。
それが何より厄介だった。
「はぁ……なんで俺らが、あんなガキ一人のために……」
「ほんとそれな。もっと他にやることあんだろ」
隊の人間たちが不満をこぼす。
――次の瞬間。
「……は?」
空気が変わった。
ルミナが、ゆっくり振り向く。
にや、と笑っていた。
「今、なんて言った?」
柔らかい声。
なのに、逃げ場がない。
「いや……別に……」
言い淀む隊員。
「ふーん」
ルミナは一歩、近づく。
「ガキ、ね」
くすっと笑う。
楽しそうに。
――なのに、誰も笑えない。
「お前らさ。“なんで”って言ったよな?」
さらに一歩。
「じゃあさ」
にこっと笑って、
「なんで、探さなくていいと思ったの?」
沈黙が落ちる。
誰も答えられない。
ルミナはその様子を見て――
「……ああ、そっか」
小さく笑った。
「分かってないんだ」
そして、
少しだけ目を細める。
「サクヤはさ」
一拍。
「俺のサクヤなんだけど」
――静まり返る。
軽い口調。
冗談みたいな言い方。
なのに――
「……は?」
先に声を上げたのはレンだった。
「なんだよそれ」
低く、明確な拒絶。
「サクヤとは、そんな関わりないだろ」
その横でリンも言葉を重ねる。
「そうだよ。急に何言ってんの……」
戸惑いと警戒が混ざった声。
幼なじみでもない。
特別な関係でもない。
――なのに、その言い方はおかしい。
ルミナは、二人を見た。
そして、
「……あは」
小さく笑う。
楽しそうに。
「関係?」
くすっと喉を鳴らす。
「あるけど?」
さらっと言う。
まるで当然みたいに。
「勝手に決めないでよ」
にこり、と笑って、
「俺が一番、ちゃんと見てるんだからさ」
ぞくり、と背筋が冷える。
何を言っているのか分からない。
でも、
――理解したくない類のものだと分かる。
「勝手にいなくなられると困るんだよね」
軽く続ける。
「どっか行っちゃうでしょ?」
その言い方は、
まるで“管理してるもの”みたいで。
「……使えないなあ」
ぽつりと呟く。
「いらないなら、消えてもいいけど」
軽い口調。
冗談に聞こえない。
「ルミナ」
レンが静かに呼ぶ。
それで、わずかに空気が戻る。
ルミナは視線だけ向けた。
「なに?」
「今はそっちじゃない。サクヤを見失う方が問題だ」
数秒の沈黙。
やがて――
「……それもそっか」
あっさり引く。
くるりと背を向ける。
「じゃあさ、さっさと見つけよ」
歩きながら言う。
「見つからなかったら――」
一瞬だけ振り返る。
笑顔のまま。
「困るの、俺だから」
その言葉に、
リンとレンはわずかに目を見開いた。
異常だ。
ただの執着じゃない。
もっと歪んだ何かだ。
(……なに、それ)
リンは言葉にできず、ただ唇を噛んだ。
レンもまた、何も言わない。
ただ一つだけ確かなのは――
ルミナにとってサクヤは、
“普通じゃない存在”だということだった。




