第15話「侵食と覚醒」
――決めた。
サクヤは、ゆっくりと息を吐いた。
視線の先にあるのは、異形の右腕。
脈打つ黒。
まるで、生きているかのように。
「……やるのか」
ヴァルカが愉しげに笑う。
サクヤは答えない。
ただ――迷いなく、その義手に左手を伸ばした。
触れた瞬間。
ゾワッ、と嫌悪感が全身を走る。
冷たいのに、内側は妙に熱い。
生物のような感触。
「……っ」
それでも、手を離さない。
そのまま――自分の右腕へと、押し当てた。
――次の瞬間。
「――ッッ!!?」
激痛。
理解を超えた痛みが、脳を焼く。
肉が裂けるような、骨が砕けるような、そんな生易しいものじゃない。
“繋がれる”。
無理やり。
拒絶も、抵抗も、全て無視して。
「ぐぁ……ッ!!」
膝が崩れそうになるのを、必死に耐える。
だが――
それだけじゃ終わらない。
――頭の奥に、“何か”が流れ込んでくる。
『――――――』
声。
言葉にならない、濁った音。
粘つくような、不快な“意志”。
「……っ、なんだ……これ……!」
視界が歪む。
思考が削られる。
頭が、割れそうになる。
『――喰え』
『――奪え』
『――壊せ』
断片的な衝動。
理性を削り取るように流れ込んでくる。
「やめろ……ッ!」
意識が、引きずられる。
このままじゃ――
自分が消える。
――その時。
脳裏に浮かんだのは。
リンの顔。
そして――
レンの背中。
あの日の悔しさ。
届かなかった距離。
「……ふざけるなよ」
低く、絞り出す。
「まだ……終われるかよ……!」
歯を食いしばる。
押し寄せる衝動を――
叩き潰す。
『――――!?』
声が、乱れる。
サクヤは踏み込む。
飲まれる側じゃない。
――使う側だ。
「俺は……俺だ……!!」
ドクン――ッ!!
黒い義手が、大きく脈打つ。
暴れていた力が、収束していく。
侵食される側から――
制御する側へ。
「……はぁ……ッ……」
荒い呼吸。
だが確かに、繋がった。
その様子を見ていたヴァルカが、口元を歪める。
「……クク」
愉快そうに笑い――
「やはりな」
静かに呟く。
視界が揺れる。
限界だった。
「……ッ……」
最後に見えたのは、自分の右腕。
黒く、禍々しく。
――確かに掴んだ力。
そして――
そのまま、意識は闇へと沈んだ。




