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裏切者

「クックック! 久々の実戦だ。腕が鳴るわ!」


 コンスタンティウス大統領がほくそ笑む。

 それを冷めたまなざしで眺めている男がいた。

 彼の名はジャン・ベルナドット。

 コンスタンティウスの参謀を務める男である。

 フフフ、この男は実に愚かだ。

 最高司令官ともあろう者が、前線に出るなど愚かにもほどがある。

 ベルナドットにはまったく理解できない感性だった。

 ベルナドットにとってこの日は格別の日だった。

 これまで情報をレジスタンスにリークしてきたのはすべては自分の野心のためだ。

 自分がコンスタンティウスに代わって独裁者の地位に就く。

 これまでのすべてはこのためにあったと言っていい。

 自分のこれまでのはかりごとから、レジスタンスの勝利に戦いが終わるだろう。

 そうなってもらわねば困る。

 隙を見て、クーデターを画策し、実権を握る。

 そうすれば、レジスタンスももう用済みだ。

 不要になったコマは排除するのみ。

 帝国は東方にも大きな領土がある。

 いったん東方に退き、反抗攻勢の機会を作る。

 そうすれば、忌々しい共和国など簡単にひねる潰せる。

 ふふふ、ははははは、はーっはっはっはっはっはっはっは!

 私は大統領になる!

 そのためにも、コンスタンティウスにはここで死んでもらわねばならない。

 レジスタンスにはせいぜい、いきがってもらおう。

 

「閣下、しかし、ティターネンだけで、出撃なさるのですか? ほかの護衛が必要では?」


 ベルナドットはわざとそう聞いた。

 ベルナドットはこう言えば、コンスタンティウスは否定することを知っていた。


「必要ない。私は純粋に戦いを楽しみたいのだ。私は戦士だ。後方でぬくぬくするなど肌に合わぬ」


 ほら、そうなった。

 ベルナドットは内心、軽蔑を抑えつつ、必死に取り繕った。


「それではティターネンだけを率いて出撃なさるのですね?」


「くどいぞ。敵と対等に戦うのが戦士の流儀だ。レジスタンスにはあの剣聖(ソードマスター)もいるという。その息子も今回の戦争で頭角を現しているというではないか? 確か……」


「テンマ・イカズチです」


「そうだ。その小僧だ。ふふっふふふふ! 戦場で対峙するのが楽しみよ!」


「閣下ほどの方なら必ずや勝利するでしょう」


「当然だ。そもそも、今まで帝国軍はなぜやられてきたのか? それはわかりかね、ベルナドット?」


「それは戦略上のミスがあったからではありませんか?」


 ベルナドットはしれっと答える。

 本当はおまえが無能だからだと言いたかった。

 

「フッ、理解できないかね? それは戦場に私がいなかったからだ!」


「ほう……」


「パンツァー『デスポート』がやられたのも、パンツァー『シレーナ』がやられたのも、私がいなかったからだ! ゆえに今回の戦いでは必ず勝てる! 勝って当たり前なのだ! この私が自ら戦場に赴くのだからな! はーっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 コンスタンティウス大統領の哄笑が執務室に響き渡る。

 ベルナドットはいつもの無表情でコンスタンティウスを眺めていた。

 ベルナドットはあまり感情を表に出さない。

 彼は冷静で論理的なタイプだった。理性的と言ってもいい。

 コンスタンティウスのような蛮勇とは違う。

 まあいい。この不愉快な男と過ごすのもこれで最後だ。

 自分は戦艦レア(Rhea)で後方支援を任されている。

 コンスタンティウスを討たせるために、適度に兵力を分散させておけばいい。

 すべてはこの手に権力が転がり込んでくるだろう。



 次の日。夜明けに、コンスタンティウス大統領の部隊は展開を終えていた。

 朝日を背に東から戦艦『ラ・リベラッツィオーネ』と戦艦『アンジェラ』が飛行してくる。

 コンスタンティウスの準備はできている。

 親衛部隊ティターネンはパンツァー『ティターン(Titan)』で構成される部隊だ。

 パンツァー『ティターン』は重武装、重装甲のパンツァーだ。

 そしてコンスタンティウス大統領も自身の専用パンツァーで出撃した。

 コンスタンティウス専用パンツァー『クロノス(Kronos)』。

 重武装のパンツァーで近接戦、遠距離戦どちらもこなせる。

 その分、機動力が劣る。

 帝国軍のパンツァーは基本的に装甲を重視している。

 そのため、どうしても機動性が犠牲になるのだ。

 コンスタンティウスは高揚していた。

 久しぶりの実戦だ。

 トレーニングは積んでいるとはいえ、実戦の勘はすぐには戻らない。

 まずは戦場を楽しむとしよう。

 戦場はいい。

 レジスタンスとラ・ステッラ・ドーロの連合軍はパンツァーを展開させた。

 レジスタンスの主力パンツァー『グラーヴォ』とラ・ステッラ・ドーロの主力パンツァー『ニュンフェ』だ。

 それに対して、帝国軍はパンツァー『ヴィーキング』、パンツァー『ヴィント』で迎え撃つ。

 戦力比は二対一だ。

 コンスタンティウスは自らのパンツァーをまとって、上空に待機した。

 情報はベルナドットに任せている。

 コンスタンティウスは熱い男が好みだった。

 ベルナドットのような冷静なタイプはあまり好きではない。

 とはいえ、彼が優秀なのも確かだ。

 後方を任せるにはちょうどいい。

 さて、レジスタンスどもよ。

 ぶざまな戦いを見せてくれるなよ?


 

 俺は艦内のカタパルトにいた。

 いつでも出撃準備はいい。

 朝日が昇っている。

 早朝の朝は空気が冷たい。

 だが、さわやかだ。この戦いで、コンスタンティウスを討ち取る。

 それが俺の目標だった。

 

「テンマ……行くのね?」


「ああ、俺は戦士だからな。この戦いで決着をつける! 目標はコンスタンティウスの首だ!」


 アスカは白いブラウスに、赤いタイトスカート、白衣と言った服装だ。

 昨晩はアスカと激しく求め合い、愛し合った。


「生きて帰ってきて!」


「ああ、もちろんだ!」


 俺はアスカにキスをする。

 何度も止めても終わりがない。

 アスカの茶色の長い髪が揺らめく。


『テンマ・イカズチさん、発進してください!』


 オペレーターがキスの邪魔をする。

 続きは帰ってきてからだ。


「じゃあ、アスカ、言ってくる!」


「テンマ、愛してるわ!」


「俺もだ! パンツァー『パルジファル』、出撃する!」


 俺はカタパルトから発進した。

 全身に冷たい空気が触れる。

 俺は最高の解放感と共に空中に躍り出た。

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