帝国の反撃
パンツァー『モンゴーロ』は撃破された。
それによって、帝国軍は敗退した。
俺たちはマカイロス要塞を占領した。
帝国は俺たちがモンゴーロを撃破できるとは信じられなかったようだ。
俺たちは帝国軍と比べて、数が少ない。
当然、捕虜など養えるわけがない。
だからといって、捕虜を殺害するとこなどできるわけがない。
そのため、捕虜には帝国へ去ることができるように自由にした。
多くの者たちが帝国領へと戻っていった。
こうしてマカイロス要塞沿岸の戦いは終わった。
「なんだと? もう一度言ってみろ?」
コンスタンティウス大統領が不機嫌に言う。
話の相手はベルナドットだ。
「ですから、マカイロス要塞の守備隊は敗退しました」
「……」
コンスタンティウスは無言だった。さらに無表情だった。
だが、すぐに烈火のごとく怒り、ワインが入ったグラスを床にたたきつけた。
「ゾルゲの無能者め! いったい何をしていた!? あそこにはパンツァー『モンゴーロ』があったはずだ! なぜ負けた!?」
コンスタンティウスの怒りは静まらない。
それはまるで火山の噴火だった。
彼にはあれだけの配備で帝国軍が負けることが理解できなかった。
「パンツァー『エンデュミオン』がモンゴーロを倒したようです」
「パンツァー『エンデュミオン』?」
「テンマ・イカズチがまとうパンツァーです」
「その男がモンゴーロを倒したのか……いったい、何者かね?」
「クウマ・イカズチの息子です」
「何?」
コンスタンティウスはその名を知っていた。
クウマ・イカズチ。その名は……。
「まさか、あの『剣聖』か。そんな大物がレジスタンスにいたとはな。なるほど、その男の息子なら、やりかねんか」
コンスタンティウスは大きな肉汁のステーキにかぶりつく。
うまい。食事をこの男に邪魔されなかったらもっとうまかったものを。
彼は基本的に、見たいことしか見ないタイプの男だった。
軍人としては優秀だったが、政治家としては落第点だ。
「ベルナドットよ、おまえならどうするかね?」
「私には決定権がありませんが?」
「仮定でよい」
「私ならパンツァー『デスポート(Despoto)』を使いますね」
「ほう……」
コンスタンティウスは珍しく、ベルナドットに興味深そうな目を向けた。
いつもはこの男は叱責しかしない。部下をほめるなどまったくなかった。
「実はいい報告が入った」
「それは?」
「パンツァー『デスポート』が九割がた完成しつつあるとな」
「確かにいい報告ですな」
ベルナドットが冷たい目を細めた。
「ですが、パイロットの選定は完了しているのですか?」
「タチヤーナを使う」
「彼女をですか?」
タチヤーナとはまだ十代の少女だった。
彼女は強化兵だった。
戦闘のためだけに育成された兵士だ。
コンスタンティウスが手を組んだ。
それから野獣のような笑みを浮かべる。
「パンツァー『デスポート』を使って、レジスタンスを壊滅させる計画があるのだよ」
「それはそれは……」
さすがのベルナドットも驚かざるを得まい。
もっと驚け。
「シミュレーターでは十分でレジスタンスを壊滅させた。これからが帝国軍の反撃だ。くっくっくっくっく!」
コンスタンティウスはほくそ笑む。
彼は計画の成功を今から描いていた。
兵器開発部、その秘密基地にて。
とある兵器の実験が行われていた。
コクピットには十代の女の子が乗っていた。
あるパンツァーのコクピットを模したものである。
ここで彼女は教育と訓練を受けていた。
彼女の目には光がない。
ただ、淡々と敵を撃破していく。
「敵、全滅しました」
「……」
「ふふふ、すばらしいわ」
それはメガネをかけた妙齢の美女。髪は黒く、東洋系の顔立ちだ。
彼女は白衣をつけていた。
彼女はドクター・アナスタシーヤ。
パンツァーの開発計画責任者である。
彼女はうっとりと、パンツァーに乗る少女を眺める。
見ている人間が正常ならおぞけを持っただろう。
「ターニャは良く調整されているわね?」
「は! 強化兵の精神状態は良好です」
「結構よ。ふふふ、楽しみねえ……この子がレジスタンスをめちゃくちゃにするなんて……今からでも震えが止まらないわ!」
アナスタシーヤはサドの気があった。
鞭でも持たせたら、女王様を気取るだろう。
アナスタシーヤからすれば、ターニャもパンツァーも子供みたいなものなのだろう。
「ただ……」
「ただ、何?」
アナスタシーヤが冷徹な目を向ける。
部下は今ごろナイフを突きつけられたような気持ちだろう。
「あ、いえ……今のところ、強化兵に問題はありませんが、大丈夫ですかね?」
「あなた、何が言いたいの?」
「いや、ですね、戦場では混乱はつきものです。もし、この子が暴走したらだれも止められませんよ? 調整は万能ではありませんからね」
部下の言い分ももっともだった。
アナスタシーヤはターニャに目を向ける。
ターニャはまったくの無表情だった。
およそ、感情らしいものが見えない。
当然だ。
感情は冷徹な兵器には無用だ。
だから、排除した。排除してある。
だが、人間は不完全だ。
どんなに完全を志向しても、どこかに必ず、穴があるものだ。
「いいじゃない。その時は、その時よ。そういう運命だったってことでしょ?」
「はあ……」
部下は納得はしていないようだ。
もしかしたら、この部下はターニャをおもんぱかる気持ちがあるのかもしれない。
そんなものは必要ない。
必要なのはただ、命令に忠実で、冷徹な兵器だ。
強化兵は兵器と同じだ。
人間的な在り方など必要ない。
「ふっふふふふ、この子はどんな殺戮を見せてくれるかしらあ! それが待ち遠しいわ!」
アナスタシーヤはただ笑う。
もう、部下も何も言わない。
もうあきらめたのであろう。
黒い陰謀が渦巻いていた。




